第52話 少しだけ
新年が明けました。
こちらの世界の話です。
本日は、“初の日”。
日本で言うところの“元日”です。
この国でも、“終の日”と“初の日”は、お休みらしいのですが、物置前シティーはワーカーホリックだらけです。
夏休み以降、休日の無い哲治です。
寒の季節の話ですか?
大丈夫です。
話数、飛ばしていません。
寒の季節は、寒かったです。
辺境伯の防寒グッズが間に合って良かった。
でも、雪が降るほどではありませんでした。
2、3日雪は降りましたが、積もるほどではありません。
ガンツたちとの雪合戦も出来ませんでした。
代わりに、泥団子合戦しようと提案したら、なぜか皆、仕事が忙しいと言い出して、今現在の状況です。
魔物領の川から水を引く、水道施設事業も順調です。
辺境伯領から、多くの職人が来てくれました。
度量衡の均一化により、分担作業でサクサク進んでいます。
また、第八師団の第二大隊が、護衛など全面的に協力してくれています。
寒の季節は、魔物も活発ではないようです。
大工たちの活躍話は、気が乗らないので、割愛させていただきます。
二代目クラケン号ですが、乗り心地が格段に上がりました。
座席、シートベルト(紐)、転落防止柵(二重)、昇降口、屋根が付いています。
更に、何と言う名称か分かりませんが、二本の足が付いています。
板バネの要領で、サスペンションも出来ています。
ジェットコー……安全な人運搬仕様です。
荷物運搬用は、三代目Jクラケン号です。
三代目の後のJは必須です。
ジャパーン!
これにより、テツジひとりコンボイが無双しています。
アクア号ですか?
あれ、二輪でも重いんですよ。
上に石材乗せたら……ねぇ。
馬車職人の皆様、ごめんなさい。
返還の館も、壁が1mくらいまで積み上がっています。
1年での完成を予定していましたが、まだ半分以下の高さです。
魔物領の水道設備が完成すれば、こちらに哲治重機有限会社が派遣される予定です。
塀のこちら側は、魔物が居ないので、テツジ警備サービスはお役御免です。
ルヴァンたちの通信魔道具も、有線にして順調なようです。
電報のようなことが出来ます。
ただ、配線に使われる“ミスリル”というものが、希少とのことで、距離が伸ばせないみたいです。
あと、被覆はどうするのでしょう?
電気ではないので、感電はしませんが、剥き出しで良いのでしょうか?
まあ、ルヴァンの隠れ家に生えていた、竹っぽいの使えば良いんじゃないかな。
それでも、砦までは伸ばしたそうです。
寒の季節の終盤に、ルイーゼ辺境伯が、物置前シティーに来ました。
ルイーゼ辺境伯は、物置がすごく気に入ったようです。
大口スポンサー様なので、特別に物置内での会談になりました。
ルイーゼ辺境伯は、唐突に
「テツジ殿から聞いた、学校なる物を来年の暖の季節に開校するでの。先日は、教師候補への講習ありがとうじゃ」
哲治は、弾丸ツアーの後、何人かの教師候補がこちらに来たため、アラビア数字や四則演算の講師をしていた。
哲治は、
「大人たちは、子供を学校に行かせるのは反対では、ないのですか?」
「フォフォフォ。鋭いの。実は、教師候補が青空教室を開いて、子供たちや父兄に学校を宣伝したのじゃ」
辺境伯が続ける
「それにの、テツジ殿が言っておった、“給食制度”、“学費・給食費無料”を謳ったところ、大人たちも『それなら』ということじゃ」
「それは、貴族も庶民も同じように?」
哲治が聞く
「わしの領地に貴族はおらんでの。わしも王国では貴族扱いじゃが、貴族と思うておらん。単なる旗振りじゃ。フォフォフォ」
愉快そうに笑う辺境伯。
「実はの、跡取り候補も血筋ではないのじゃ」
哲治は驚いた。
哲治のイメージでは、貴族は血筋を大切にすると思ったからだ。
「あの、ブルー…ブラッドさんは?」
哲治がそう聞くと
「ああ。ブラッドは真っ直ぐだでの。政治は無理じゃ。次男は、逆に生粋の商人じゃ。政治はやらせられんの。フォフォフォ」
「優秀な方を後継に?」
「そこが、迷いどころなのじゃ。何人か居るのじゃが、決め手がないのじゃ」
辺境伯が少し俯き話す。
「テツジ殿。妙案はないじゃろか?」
哲治は日本のことを話す
「俺の世界。いや、国では、国民が投票……入れ札で代表者を決める仕組みだった。選挙と言って、国民に何をやるか宣言して、それを聞いて国民が選ぶ」
「素晴らしい制度じゃの」
「いや、これはきちんとルールを作らないと、駄目な制度です。票のために国民を取り込んだり、ある組織が組織のために働く代表を出したり、色々問題もあります」
「確かにの。領民を騙す者も出るかもしれんの。商人が結託すれば、商人に都合のいい政治になるの」
哲治は頷く。
ルイーゼ辺境伯と哲治は、その後も話に花を咲かせた。
ルイーゼ辺境伯が聞き上手で、ついつい元の世界の話を哲治はしてしまっていた。
「テツジ殿は博識じゃの。本当に参考なる話ばかりじゃ。感謝申し上げる」
ルイーゼ辺境伯が、深く頭を下げた。
ルイーゼ辺境伯は、「またじゃのー」と言って、元気に領地へ帰って行った。
その日の夜、哲治は先輩の言葉を思い出す。
「いい営業って、話し上手じゃなくて、聞き上手なんだよー。相手に話しさせれば、相手の要望も分かるでしょ。話し上手は“口が上手い”だけど、聞き上手は“信頼できる”なんだよー。まあ、あくまで主観だけどねー」
本当に、聞き上手の人って居るんだ。
先輩に、少しだけ近付けた気がした。




