第42話 黒幕の心臓
異世界生活23日目
哲治は、王都へ向け出発の準備を整えた。
王都に連行するのは、5名。
鎧を脱がされた前第一師団長と、魔術師4名。
他の兵士は、金で雇われた、単なるゴロツキだったらしい。
前第一師団長が、私兵長という者が居たと話したが、捕縛した中には居なかったと。
その人物は、帝国領方面へ逃げた可能性が高いとのことだ。
王国からすれば、帝国の手先とも考えられる。
後は、政治の話になるのだろう。
しっかりと手枷と足枷が、はめられているが、哲治は念のため道具箱に収納した。
王都へ向け、ジョギング開始。
哲治たちは、3時間ほどで無事に王都近郊へ到着。
ライナーが、馬に乗って王都へ走って行った。
ライナーが、本物の第一師団と馬車を連れて戻ってくる。
哲治は、囚人たちを道具箱から物理的に摘まみ出し、第一師団へ預けた。
ライナーは、そのまま王都へ残ると言う。
え⁉道案内は?
まあ、来た道帰れば良いか。
ライナーと別れ、いざ、ルヴァンの隠れ家へ。
ルヴァンに案内させ、無事に到着。
ルヴァンは、扉の鍵を開け、中の様子を確認する。
誰かが、侵入した形跡はないそうで、一安心だ。
ルヴァンから、家ごと持って行きたいと言われたので、哲治は、隠れ家の屋根を持ち、力を入れる。
なんということでしょう。
暗く閉ざした空間が、太陽の光を浴びてキラキラしています。
匠の力技により、屋根がもげました。
依頼者も、口を大きく開けて、喜んでいるようです。
シータは、ニマニマしています。
何事もなかったように、屋根を乗せ、家の周りをスコップで掘っていきます。
掘ったところから、手を入れ、慎重に持ち上げ、クラケン号へ運んだ。
ルヴァンは、プルプルして喜び、シータは拍手してくれた。
王女は寝ているよ。白目で。
屋根がズレないように、紐でクラケン号に縛り付け、出発進行。
数時間走ったところで、周囲を見たら、見慣れない景色だった。
……迷った⁉
いやいや、来た道、帰ってきましたよ!
……迷った!
哲治は、ルヴァンの隠れ家を、軽くノックし、ルヴァンを呼ぶ。
移動中も、色々、確認したいからと家の中に居たルヴァンが出てくる。
哲治は、ルヴァンに
「帰り道、合ってるとは思うけど、一応、確認。ここどこ?」
ルヴァンは、呆れ顔で、
「何か近くに、目印になるようなものはあるか?山でも、建物でも」
そう言った。
哲治は、改めて周囲を伺う。
山はあるが、特徴がある山はない。
街や村も見当たらない。
少し先に、小さな森があり、真ん中に小屋が建っている場所を見付けた。
「少し先に、ルヴァンの隠れ家みたいな状況の小屋がある」
そう哲治が言うと、
「ハハハ、他の魔術師の隠れ家かもな。人が居ればいいが、そこで、道を尋ねたらどうだ?」
ルヴァンが言った。
それが早いと思い、哲治はクラケン号を曳き歩き出す。
王女をお使いに使う訳にはいかないので、シータにお願いした。
シータは無表情で頷き、クラケン号を降りて、小屋へ向かった。
哲治が、上から覗いて見ていると、シータが扉をノックし、会話をした後、哲治の方を見上げ、両手を大きく振る。
身振りで、“持ち上げろ”と言っている。
シータさん、さっきのが面白かったとはいえ、よそ様のお家は、持ち上げたらダメですよ。
シータが珍しく、大声を出す。
「Θ、ΛЖ、Пщ!」
慌てて、ルヴァンを呼びに行く。
ルヴァンに通訳をしてもらった。
「テツジ殿!ここにエルフの女性が居るそうだ!名を、ラムダと言うらしい」
シータがルヴァンに話し、通訳してもらう
「鍵が掛かっていて出られないそうだ」
シータ以外のエルフの生き残り⁉
なぜ、こんな場所に?
閉じ込められているのか?
「これは誰の家なの?」
哲治は、ルヴァンを通じ、シータに聞く。
「“ご主人様”の研究室だそうだ」
ルヴァン、シータ、ラムダとリレーして聞いてもらい、答えが返ってきた。
名前は分からないようだ。
シータが、ルヴァンに耳打ちをするように話す。
その後、ルヴァンの顔が険しくなった。
「テツジ殿。ラムダが、“破裂の魔法陣”を開発したエルフだ」
ルヴァンが、押し殺した声で言う。
“死んだはずのエルフ”
“ご主人様の研究所”
“破裂の魔法陣”
繋がりそうで、繋がらない。
黒幕の尻尾、掴めるか。
塀を壊した“破裂の魔法陣”と同じように、見えない塗料で改竄された“召喚魔法陣”。
“破裂の魔法陣”を開発した女性エルフ。
閉じ込められている。
……死んだものとして、個人が隷属し、利用した。
哲治は、確信する。
ここに、黒幕の”心臓”が眠っている。
哲治は、シータとルヴァンに小屋から離れるように言う。
シータに言い、ラムダにも小屋の中で、何かに掴まっててもらう。
力任せに、小屋を持ち上げると、地面が割れ出した。
……地下⁉
一旦小屋を降ろし、クラケン号へシャベルを取りに行く。
慌ただしい姿に、王女が心配そうな顔を見せるが、サムズアップで答え、小屋に戻る。
周囲を一心不乱に掘り、地下室を暴き出す。
持ち上げて運び、クラケン号に乗せた。
若干、飛び出てしまうが、紐でしっかりと固定し、落ちないようにする。
後は、西に向け走るだけだ。
最悪、塀まで行けば、見覚えのある場所に辿り着けるはずだ。
ルヴァンとシータをクラケン号に乗せ、哲治は走り出した。
ルヴァンの隠れ家と、黒幕の心臓を落とさないよう慎重に。
でも、目一杯、急ぎで。
沈みゆく太陽を逃さないように。




