第41話 救世主
アストレイア王国の皇太子エリックは、眼下の軍勢を見て、浅慮な自分を呪った。
正体不明の集団が、街や村を襲っているとの報告が入り、第二師団の一大隊を巡回に派遣した。
それまでは良かった。
第二師団長が、巡回に出た大隊長が戻らないことに、不安を募らせていたが、エリックは、巡回範囲を広げたのだろうと、取り合わなかった。
眼下の軍勢は、王国第一師団の鎧を着ている。
しかし、軍旗も掲げていない。
行軍の姿勢も、素人と言わざるを得ない。
軍部の人間が見れば、明らかに異質なことは分かる。
しかし、王国軍の鎧を着た軍勢が、帝国軍に奇襲攻撃を行えば、開戦の口実に成り得る。
また、軍事演習のため、多くの帝国兵が集まっている。
すぐにでも、王都近郊まで、侵攻されるだろう。
エリックは、帝国軍大佐の言葉を重く受け止めた。
『国境沿いの砦、全てを帝国に差し出せ』
これは、事実上、帝国の属国化だ。
それと、捕虜になるのは構わないが、身代金が王国の負担になる。
王国民に、負担を強いるのならば、自ら幕を引こう。
しかし、簡単には諦められない。
奴らを止めるしかない。
自分は、人質だ。
動く訳にはいかない。
「アウタース」
頼れる大人の名を呼んだ。
すぐに全てを理解し、山を走り降りる。
何度も転び、何度も起き上がり走る。
無様だが、頼もしい男が側に居たことは、幸運と呼べる。
アウタースの姿が見えた。
謎の軍勢に止まるようにと、両手を広げる。
軍勢から何か投げられた。
放物線を描き、アウタースの方へ飛んでいく。
次の瞬間、投擲物は、わずかに白く光り弾けた。
アウタースが倒れる。
遅れて、“パンッ”と、いう音が微かに聞こえた。
魔法か?
何の魔法だ?
帝国軍の大佐が、
「あれは、王国の新しい魔法ですか?」
と聞いてきた。
エリックは答えに窮する。
「あれは、わたしにも……」
その時、地響きと共に、咆哮が聞こえた。
倒れたアウタースから、目線を上げると、巨人が走ってきている。
あっという間に、謎の軍勢に迫る。
謎の軍勢は、散り散りに逃げ出した。
エリックは、逃げられたことに歯噛みしたが、第二師団の兵士たちが、包囲していたようだ。
次々と捕縛していく。
エリックは、自分の未熟さを恥じながら、第二師団長の推察力に感服した。
巨人は、首謀者とみられる男を掴み上げていた。
帝国軍の大佐が、驚愕の表情で問う
「あれは、あの巨人は何なんだ?」
エリックは、微笑み、
「アストレイア王国の、“わが国の”勇者です」
そう答えた。
■■■
哲治は、思わず馬上の人間を掴み上げてしまった。
「お前か⁉」
と、格好良く言ってみたものの、「何が?」って返されたら、困ることに気付き、“何も言うな”と念を込めて睨んでおいた。
その人を掴んだまま、ライナーの元へ向かう。
倒れた人に、シータが必死の形相で、治癒魔法をかけている。
ライナーが、哲治に言う、
「軍務大臣だ。こいつらを止めようとしたのか……」
哲治は掴んでいる人物を、ライナーに見せる。
「この人、知ってる人?」
ライナーは驚いた顔を見せ、
「第一師団長の鎧だ。そこら辺のやつとは違う、本物の鎧だ」
「これ、どうすれば良い?」
「ひとまず、東第一砦へ連行しよう」
哲治は、シータの方を見る。
シータは悲しい顔をしていた。
そして、シータは首を横に振った。
隷属の首輪が揺れた。
ライナーは、シータの肩を叩き、立ち上がらせる。
ライナーは、倒れた軍務大臣の両手を胸で組ませ、敬礼をした。
他の兵士へ、言葉を掛け、クラケン号へ戻った。
東第一砦へ着くと、掴んだ人間を引き渡す。
東第一砦の人たちとライナーとの話し合いが終わるのを待っていた。
哲治は、砦から少し離れた場所で座り、沢山の人が連行されるのを見ていた。
あの中に、“破裂の魔法陣”の犯人が居るのだろうか?
多分、実行犯の中には、いないだろう。
元の世界で、ニュースになっていた“闇バイト”。
それと同じで、実行犯とは別の指示役がいて、本当に悪い奴らは、バレないようにしているのだろう。
ボケッとしていると、馬車がやって来た。
哲治の側で止まり、扉が開く。
イケメンが降りてきた。
年は哲治と同じくらい。
サイズは1/15。
イケメンは、哲治に向かいお辞儀をし、
「私は、アストレイア王国、皇太子エリックと申します。勇者殿、この度は王国をお救いくださり、誠にありがとうございます。父、国王に代わり、僭越ながら御礼申し上げます」
社長の息子が来た!
しかも、次期社長!
哲治は頷いた後、
「すみません。軍務大臣のこと。もう少し早く来れば……」
そう言って、頭を下げた。
「はい。聞きました……。死地に送ったのは私です。……彼もまた、王国を救った英雄です。ご配慮ありがとうございます」
エリックは、少しだけ涙声で答えた。
その後、少し話をして、「では、また」と言って、砦へ向かって行った。
◆◆◆
異世界生活21日目です。
まだ、東第一砦の近くに居ます。
ライナーから、2日間だけ、ここに待機していてくれと頼まれました。
洗濯と、行水がしたいです。
靴下が、もう限界です。
今度、ライナーに嗅がせる予定です。
王女たちは、砦に居ます。
野宿は、ひとりぼっちです。
待機理由を聞くと、王都への報告を優先し、報告が終わったタイミングで、何人かを護送するとのこと。
護送係は、哲治&クラケン号です。
王女が乗りますが、大丈夫でしょうか?
それと、もう一つ。
帝国兵が、この前見た山に居るそうで、牽制をしてほしいとの依頼です。
山の近くまで走って行くと、「わー」「ぎゃー」という声が聞こえてきました。
スーパースターになった気分で、楽しくて、何度も行ってしまいました。
でも、次の日には、歓声がなくなってしまいました。
誰も居なくなっていました。
……気を引き締めましょう。
帰るまでが遠足です。




