第4話 それぞれの思惑① ~魔術師第一位 ヴァレル~
主人公と別視点のお話です。
王城の最上階にある魔術省大臣室。
この世界では珍しいクリアな窓ガラスから、暖かな日の光が差し込んでいた。
部屋にあるコートスタンドには、赤ラインが一本入った真っ白いローブが、掛かっている。
その部屋で、序列第一位魔術師-ヴァレル・ワイトは、机上の書類を見つめながら、不安を隠そうともせず、深く眉を寄せていた。
今頃、召喚の館で異世界人の召喚が、行われているはずだ。
王国史上初の“多人数召喚”。
確かに、今までの召喚の儀では、3~7人しか召喚することができなかった。
過去の文献を見ても、それは偽らざる事実だ。
20人以上の召喚。
ルヴァンの提案と魔法陣は、魅力的であった。
国王が、周囲の反対を押し切り、王命を出したことは、仕方がない。
◆◆◆
この王国では、魔術師が約2万人居る。
他国には、魔術師はほぼ居ない。
その理由は、王国領のすぐ西隣に魔物領があり、濃い魔素が流れ込んできているためと、推測されている。
実は、もう一つ理由があるが、国の最重要機密であるため、知る者は極めて少ない。
魔術師の存在が、東隣にある強国アリーシア帝国の侵略を抑制している。と、国民は信じているが、単に、魔物領との緩衝地域に利用されているだけというのが、事実である。
魔術・魔法は、魔術師自身が発動するのではなく、魔法陣に魔力を通して発動する。
魔術師とは、魔力を練り、魔法陣へ放出する能力がある者のことだ。
一般の国民には、知られていないが、国民の殆どの人が魔力自体は持っている。
ただし、魔力を練り、放出できるのは、一種の才能であり、希少な能力となる。
また、魔力にも特性があり、攻撃魔法の魔法陣に相性が良い者、治癒魔法の魔法陣に相性が良い者と様々である。
それによって、戦闘魔術師と治癒魔術師に分けられるのだ。
召喚魔術師は、魔法陣に対し造詣の深い者が、上位職に選ばれる。
魔法陣がなければ、魔法が発動しないのだから、当たり前のことである。
黒ローブ以下の召喚魔術師は、将来の有望株か、戦闘にも治癒にも特化していない、半端者のどちらかである。
最上位魔術師の序列第一位から第三位までは、召喚魔術師であり、第四位に戦闘魔術師、第五位に治癒魔術師がなるのが、暗黙の了解である。
◆◆◆
ヴァレル・ワイトは、若い頃を思い出していた。
貴族家の出であるヴァレルは、魔術師学校に通っていた。
この国では、6~7歳の子供に対し、魔力検査を行う。
そこで能力が有ると判断されると、8歳から貴族は魔術師学校へ入学し、魔法陣の基本から叩き込まれる。
庶民は、適正に合った魔術師部門の下働きとして、働くことになる。
授業の一環で、魔法陣の機能や成果を学ぶため、戦闘魔術師、治癒魔術師への体験入隊があった。
その時、ルヴァンに初めって会ったのだ。
庶民の出でありながら、魔法陣の研究を独自で行い、拙いながらも、かなり優れた見解を持っていた。
周りの貴族たちは、「庶民のくせに無理するな」と、言って、蔑み嘲笑っていたが、ヴァレルは感心しつつ驚愕した。
もっと自分も精進しなくてはと、強く思ったのだ。
学校を卒業した後、すぐに召喚魔術師の黒ローブを羽織った。
エリートとしての入省になる。
周囲から、羨望の眼差しと嫉妬の眼差しを受けた。
同じようにもう一人、注目されていた者がいる。
それがルヴァンだった。
彼への眼差しは、蔑みから妬みに変わり、最後は羨望となっていった。
半端者として、召喚魔術師に配属されたが、魔法陣の作成において、安定性、安全性が群を抜いていたのだ。
ヴァレルが、灰色のローブを羽織ってから、遅れて3年後、ルヴァンも灰色のローブを羽織った。
3年で何があったのか、彼の魔法陣は“安定”から“革新”に変わっていた。
妬みや嫉みではなく、彼に対し、言い表せない危険性を感じた。
しかし、彼の魔法陣は、国に大きく貢献していった。
彼の編み出した『強靭化』『狂暴化』などは、体や心が弱い被召喚者に対し、驚くほどの効果を発揮した。
成果を上げ続けたが、彼が序列一位になることはない。貴族ではないからだ。
◆◆◆
350年ほど前に、突然現れた異世界人。
魔法がある世界から現れた。
その異世界人が作ったのが、この王国なのだ。
彼は、召喚魔法陣により、自分の世界から仲間を呼ぼうとした。
何度か、失敗を繰り返しながらも続け、ついに、似たような魔力を持った人類の召喚に成功した。
残念ながら、彼らもまた、自分の世界の人間ではなかった。
彼の魔力量は、今現在の魔術師と比べ、“無尽蔵”と呼べるほどだったらしい。
それからも、何度か召喚を試み、失敗と成功を繰り返したと、記録されている。
召喚で呼び出した魔力を持つ者たちに、魔法陣を教え、魔法が使えるようにしたのだ。
その子孫達が、現在の貴族家である。
また、魔物領ができたのは、召喚の失敗が原因である。
これは、国王と宰相。魔法省大臣、軍務省大臣、内務省大臣しか知りえない、墓場まで持っていく事実だ。
◆◆◆
ヴァレルは、大きく息を吐き、窓際へ移動する。
自身もたゆまぬ努力を続け、ルヴァンよりも深い知識を持つよう努力してきた。
彼のような、革新的な発想はできないが、魔法陣を読み解く力は、それなりにあると自負している。
国王の王命が下った後、軍務大臣にも相談をした。
今回は、精鋭の第一軍団から、警護を派遣する約束をしてくれた。
“多人数召喚”の魔法陣も、極秘で確認をしに行った。
彼の目では、不備は見付けられないほど、完璧と思えた。
しかし、不安が付いて回る。
過去の文献に、失敗例は“人語を解す大トカゲを召喚”と、いう事例しか、記載されていないが、国家機密の文献には、何例か失敗の記録があるのだ。
国王も知ってはいるが、“多人数”の魅力に、負けてしまった。
召喚された異世界人は、平均して5年で消耗してしまう。
魔物にやられてしまう者がほとんどだが、突然死した例もある。
次の召喚までの数年は、国の軍部が、魔物領の対応をせざるを得ず、大きな損害を被っていた。
ヴァレルは、眼下に見える城下の街並みを見渡した後、目を閉じて、手を組み、神に祈るように呟く。
「この国の平穏が、続きますように…。ルヴァンに、神の御加護がありますように……」




