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第39話 東の山にて

 軍務大臣のアウタースは、東第一砦に入っていた。


 皇太子殿下と共に、アリーシア帝国の大佐との会談に臨む予定だ。

 こちらは、皇太子殿下と、軍務大臣が出席するのに対し、帝国側は将官ではなく、大佐が応対するとのことだ。

 国の規模、立場が現れた会談である。


 

 アウタースと、皇太子は同じ馬車に乗り、東第一砦近くの山へ向かう。

 皇太子殿下と同じ馬車に乗ることにアウタースは恐縮したが、皇太子殿下は、王族という面子を気にしない方だ。

 非常に合理的で、父親である国王によく似た性格の持ち主である。


 馬車の中で、軽い打ち合わせを行い、後は雑談に花を咲かせた。

 こちらにもすでに、巨人勇者の話が広まっており、皇太子殿下は、その話題に興味を示していた。



 ほどなくして、山の麓へ着き、馬車が停止する。


 この山で、帝国が軍事演習を行う。

 それほど高い山ではない。

 山城、山砦の攻防の訓練とのことだ。


 この山は、非情に微妙な場所にある。

 王国は、この山のさらに奥にある山脈の南北の尾根が、国境と唱えており、帝国は山脈全てと、この山の麓までが帝国領と主張している。


 王国側から見れば、今回の演習は、領土侵攻されている状態である。

 帝国側も、無駄な軋轢を生まないため、軍事演習の通知をし、見学の許可を出した。



 アウタースは、皇太子と護衛の兵士数人と、徒歩で山を登る。

 山の中腹に、石と木で作られた、建物があった。

 たったの二か月で建築されたとは、思えない建物だった。


 帝国軍の大佐が、多くの帝国兵と共に出迎えた。


 「短期間で作られたにしては、立派な建物ですね」

 アウタースは、嫌味ではなく、感嘆の言葉を吐いた。


 「まあ、ここは仮の指令部ですから、粗末なものです。頂上付近には、もう少し、()()()な砦がありますよ」

 そう帝国軍の大佐が答える。


 謙遜しているが、本格的な砦であろう。

 それを二か月で建築し、演習が終われば撤去するという。

 帝国の資金、技術に、今更ながら脅威を覚えた。



 「本日は、演習見学の件、ご了承いただきありがとうございます」

 そう言って、皇太子殿下が頭を下げる。


 「殿下の一助になれば、幸いです。どうぞ」

 帝国の大佐は、建物へ誘導する。



 建物の中に入り、出入口近くの会議室へ移動する。


 長方形の“ロの字型”に机が置かれ、木の椅子が並んでいる。

 奥の席を勧められ、皇太子殿下と並んで、アウタースは椅子に腰かけた。


 帝国軍の大佐は、扉側の椅子に腰かけた。

 出入口に一人、兵士が立っている。



 時候の挨拶が終わり、本格的な話に入ろうとした矢先、会議室の扉が叩かれる。

 大佐は、振り返り、扉の近くに居た兵士に合図を送る。

 兵士は扉を開け、扉を叩いた者と話をした後、大佐に近付き耳打ちをした。


 大佐の顔が、笑顔から無表情に変わる。

 そのまま、こちらを見て、

 「貴殿たちは、戦争をお望みですか?」

 大佐が、冷たい声で言う。


 「滅相もない。何かあったのですか?」

 皇太子殿下が、慌てて答える。


 「何も知らないと、おっしゃるのですね。まあ、良いでしょう。貴国の兵士が、二千人ほど、こちらに進軍しているようです」


 「馬鹿な!」

 今度は、アウタースが叫ぶ。

 「それは、何かの間違いでは?」


 大佐は、落ち着いた口調で、

 「貴国の鎧を着ているそうです。まあ、確かに、皇太子殿下と軍務大臣が、こちらに居る状態での軍事行動は、いささかおかしいですな。捨て鉢になったかと思いましたよ」

 そのように言った後、

 「見に行きましょう」



 三人は、建物を出て、見晴らしのいい場所へ移動した。


 眼下に見えたのは、第一師団の鎧を着た軍勢だった。

 アウタースの背中に汗が流れる。


 大佐が、それを見て、

 「もしも、攻撃姿勢に入りましたら、こちらも防衛戦を行います。皇太子殿下は、捕虜として扱わせていただく。あと、気が早いですが、戦後賠償は、国境沿いの砦、全ていただきましょう」

 そう言われた後、皇太子殿下が、一言、

 「アウタース」

 と、名前を呼んだ。


 アウタースは、大佐に、

 「すみません。確認してまいります」


 大佐が頷くと、大急ぎで山の斜面を駆け降りる。

 途中、足がもつれ、何度も転倒するが、何度もすぐに立ち上がり、駆け降りる。


 まだ、戦闘魔術師の射程範囲ではない、弓兵も、高低差があるため、まだ大丈夫だ。

 騎馬も少なかった。


 しかし、“攻撃姿勢”は、帝国側が判断すること、焦る気持ちが先行し、心と体が置いて行かれる。



 体力は限界を超えていたが、アウタースは走った。



 戦闘魔術師の射程に入るより先に、軍勢の前へ辿り着いた。

 アウタースは、息が切れ、声が出ない。

 大きく手を広げ、止まるように合図を送る。


 第一師団の鎧を着た軍勢は、止まることなく進軍してくる。


 ひとりの騎馬の兵士と目が合った。

 兜を被っており、顔ははっきりと見えない。

 しかし、その人物が誰なのかは、はっきりと分かった。


 「ルーファス⁉」

 走って来たことによって、早くなった鼓動が、不規則になっていく。

 視界が、徐々に狭まっていく。


 「…なぜ?」



 誰にも聞こえない、その言葉を発した時。


 三つの皮袋が、アウタースの頭上に投げ込まれた。

お読みいただき、本当にありがとうございます。


毎日2話ずつ投稿していましたが、ストックがなくなってきました。

明日より、1話ずつ18時に投稿させていただきます。


なるべく、毎日投稿できるように頑張ります。

今後とも、よろしくお願いいたします。

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