第34話 王国、そしてエルフ
アストレイア王国、王城。
窓のない、国王の執務室に、アストレイア国王と宰相がいた。
魔道具で、明るく照らされた部屋は、重い空気を纏っていた。
執務机の椅子に座った国王に、立ったままの宰相が話しかける
「そろそろ、アリーシア帝国の、東第一砦近くの山での軍事演習が行われます。」
国王は、無言で頷く。
「東第一砦には、周知されているな」
宰相は、頷き、
「はい。二か月前の通達でしたので、問題はありません。どうも。皇太子殿下が見学を考えているようです」
国王は、
「なるほど。いい勉強にはなるが、帝国が許可するとは思えんな」
「ところで、西はどうだ?“気のいい巨人勇者様”の動きは?」
国王が、話を変える。
「魔物領の開拓に、勤しんでいただけているようです。大きな問題は無いようです」
国王は微かに笑い
「まあそうだな。あの第八が、逐次報告をしてくれる。さすが、ブルーの配下だな。それに、“気のいい巨人勇者”、中々良い表現だ。王都に、いや、王国中に宣伝しよう」
「かしこまりました。しかし、陛下は、ブルー殿を本当に信頼されていますな。羨ましい限りです」
宰相が、軽口を言う。
「まあ、彼は、軍務の師匠だ。大臣に出来なかった自分の力の無さが悔やまれる。君も、内務の師匠だ。信頼しているよ」
「ありがとうございます。しかし、ブルー殿が第八にいたことで、西は安全なのかもしれません」
国王は、頷きながら、
「カリスと、一度話がしたいが、可能か?」
宰相は頷き、
「現在の状況は分かりませんが、リリアーナ王女殿下が、第八の兵士に、こっそりと要望書を出しているようです。時間はかかりますが、その手法を使えば、可能かと」
国王は、それを聞いて笑い出す。
「ハハハ、お転婆娘め。いい仕事をしている」
■■■
第八師団長のブルーは、王都の屋敷で、手紙をしたためていた。
手紙の前文には、『ごぶさたしております』と、書かれていた。
手紙を書き終わると、ブルーは眉間を指で揉む
「慣れんことをすると、疲れる」
軍務大臣と話をした後は、彼とは会っていない。
東の砦に向かったそうだ。
何でも、数日後に、帝国の軍事演習があるらしい。
そのタイミングで、帝国の総帥か、大将と会談をするのだろう。
腹の探り合いは、性に合わない。
良くやるよ。と、思いながら、気弱な旧友に、心の中でエールを送る。
■■■
前第一師団長のルーファスは、シギリード公爵が用意してくれた兵士たちに、合流した。
全員、第一師団の鎧に、似た鎧を着ている。
軍部の人間、いや第一師団の人間が見ない限り、区別がつかないほど、似ている。
ルーファスは不審に思ったが、公爵の名代である貴族が、
『第一師団を率いて』
と、言っていたことを思い出す。
ルーファスは、第一師団を追われる身でありながら、付いてくる部下が多いと見せるため、公爵が手配したのだろうと考えた。
もし、第一師団に声を掛ける機会があれば、多くの兵士が付いてきたであろう。
機会がなく、本来の求心力が発揮できなかった。
それを慮って、いただけたのか。
王都へ向け、頭を下げる。
王国でも、国王でもなく、公爵に向けて。
■■■
いや~、怒ったね。
柄にもなく、怒ったね。
気を取り直しました。
哲治です。
あの後、魔法陣が、どう改竄されたか知りたかったけど、見事、魔法陣は物置の下。
物置、動かないね。
重機テツジも、お手上げだね。
と、言うことで、夜、シータとお話ししました。
物置に居ると、何だか気まずくて。
……逃げ出しました。
シータとは、直接お喋り出来ないので、不本意ながら、ムサイおっさんが間に入ります。
ムサイおっさんこと、ライナー隊長、砦に戻らなくて、いいのかい?
以下、ムサイ通訳の言葉は省きます。
哲治は、何から話そうか迷っていたが、シータの元の世界の話を聞いた。
無神経だったかなと思ったが、シータは無表情で答えてくれた。
森に住み、森を育み、森と共に生きていく。
そんな世界だった。
魔法のことも聞くと、元の世界でも使っていたらしい。
風の魔法や、水の魔法、あと土の魔法。
火の魔法は使えないって。
森に住んいでるからかな。
森林火災怖いよね。
こちらの世界に来たことを聞いた。
辛いなら答えなくていいと言ったけど、表情を変えることなく話してくれた。
エルフの同じ村の仲間、7人が呼ばれたとのこと。
男性3人に、女性4人。
元の世界には居なかった、魔物と戦わされた。
元々魔法が使えたが、どれも殺傷能力がなく、魔物には使えないものだった。
こちらの世界の魔法陣を使うことで、魔法の威力が上がり、魔物を倒せるようになったそうだ。
でも、本来臆病で、戦うことに慣れていなかった。
何日かした後、仲間の一人が魔物に倒された。
その時から、魔物に近付かず、倒す方法を考えていたらしい。
こちらの世界の魔法陣を、エルフ皆で、解読し描けるようになった。
でも、その間に、仲間を3人失った。
男性エルフが、魔物寄せの魔法陣を開発した。
そして、女性エルフが、破裂の魔法陣を作り上げた。
シータは、ケガを直す魔法陣を研究していた。
皆が、無事なように…。
その内、男性エルフが、魔力暴走を起こし亡くなったと聞いた。
そして、女性エルフも亡くなったと聞いた。
それから、シータは一人で、魔物と戦っていた。
それから、シータは一人で、孤独と戦っていた。
元の世界へ、返してあげたい。
でも、畜魔石の制限がある。
そして、他力本願の願い。
哲治は、空を見上げた。
満天の星空。
いつもより霞んで見えた。




