第30話 動き出す
第八師団の師団長ブルーは、第二砦から、第三砦へ単独で移動した後、王都へ向かい馬を駆けた。
ライナーと、ジョンから、随行者を連れていけと言われ、仕方なく現在は、5騎で駆けている。
単騎の方が速いが、あいつらの気持ちも汲んでやらんとな。
ブルーは、ヤンチャ坊主どもも、大人になったと、ほくそ笑んだ。
第三砦を出て、7日後、ブルーたちは、王都へ到着する。
ブルーたちは、馬を曳き、王都にある自身の拠点に向かう。
庶民が暮らす一角にある、その屋敷は、周囲の建物に比べ、庭が広かった。
しかし、他の師団長の王都の屋敷と、比べれば、遥かに小さく、みすぼらしい館であった。
ブルーは、屋敷を管理する使用人に、馬を預け、ライナーの部下を一人、王城へ馬で向かわせる。
他の3人に、屋敷で休むよう命令し、自身は、屋敷へ入ることなく、王城へ徒歩で向かう。
途中、先触れに行かせ屋敷へ戻るライナーの部下に会い、屋敷での待機を命じた。
王城の門番をしている近衛兵に、名を名乗り、軍務大臣への面会を申請すると、すんなりと王城内に入ることが出来た。
いつもであれば、先触れを出していても、第一師団長でない限り、本人確認や、大臣へのお伺いで、時間を取られていた。
これは、近衛兵のピピン殿の報告が、国王に上がった証左であろう。
そして、軍務大臣の耳にも入っている。
ブルーは、王都へ来る途中、第八師団の騎馬に会っている。
ピピン殿に同行した者たちだ。
話を聞けば、ピピン殿は、実家の力を借り、近衛兵長官と宰相に謁見し、報告が出来たそうだ。
テツジは、ピピン殿が、有力貴族の出であることを知って、使者としたのだろうか。
そうならば、あの短期間で、王国の組織を把握したことになる。
もうすでに、この王国の歪みを、見透かしているのかもしれない。
……単なる、偶然だったと思いたい。
ブルーは、近衛兵に付いて、王城内に入り、軍務大臣室の近くにある、控室へ通される。
入り口側の、ソファーの横へ立ち、入口へ体を向けて待つ。
近衛兵が去った後、時を置かず、扉が叩かれる。
「はい、どうぞ」
と、ブルーが答える途中で、扉が開き、軍務大臣のアウタースが入ってきた。
ブルーは、アウタースとは旧知の仲だが、礼をとり、頭を下げる。
アウタースは、ブルーに
「貴殿と私の仲だ、挨拶はいい。それに、畏まらないでくれ」
そう言って、着席を促し、アウタースもブルーの対面に座る。
「して、例の巨人の件か?」
アウタースは、座るや否や、ブルーに聞く。
「ああ。報告は国王に上がったみたいだな」
ブルーは、上官に対する口調ではなく、旧友に対する口調で答えた。
二時間ほど、話をした。
駆け引き無しに、腹を割って話した。
食糧と水の提供は、引き続き第八師団が行う、第六と第七へ援助の要請をしてもらう。
サイクロプスを雑魚扱いしたことを伝え、“敵対してはいけない”ことを共有する。
ただ、問題は、“返還”の件だ。
軍務大臣のアウタースが言うには、魔術大臣が“不可能”と、断言したそうだ。
国王も、カリス魔術師のブラフと判断しているらしい。
ブルーは、軍務大臣に国を挙げて、カリス魔術師に協力するよう告げ、席を立った。
国王からは、軍備増強の話も出ていると、言っていた。
選択を間違えれば、3年か4年後、この王国は、地図から消えるのだろう。
■■■
元第一師団長のルーファスは、軍務大臣に謹慎を告げられた翌日、シギリード公爵へ、面会の申し込みをしていた。
昨日、公爵から返事が届いた。
耳が早い公爵のことだ、謹慎の件はもう知っているだろう。
逡巡のため、5日という日を要したのだろう。
公爵からの要請で、鎧を着ていく。
今までは、私服で来るよう言われていた。
何か、引っかかるが、機嫌を損ねないよう、言う通りに鎧を着込んだ。
迎えの馬車が、到着した。
いつもの豪華な馬車ではなく、装飾が無く、窓も無い馬車であった。
ルーファスが、馬車に乗り込むと、使用人らしき人物が乗っていた。
出迎えに降りることもなく、乗ったままというのは、非情に無礼である。
しかし、ここで声を荒げるわけにもいかない。
後で、公爵へ伝えておこう。と、ルーファスは怒りを抑えた。
馬車が動き出し、王都の石畳を、軽い振動と共に進んでいく。
ルーファスは、薄暗い車内の中で、腕を組んで目を瞑っていた。
ルーファスは怪訝に思った。
公爵家への道のりは、把握している。
もう、到着しても良いころだ。
しかし、馬車は走り続けている。
いつの間にか、石畳の振動も感じられない。
ルーファスは目を開け、対面に座る、使用人らしき人物へ言葉を掛ける
「おい、どこに向かっている。公爵家ではないのか?」
使用人らしき人物は、ルーファスの目を見て
「ルーファス“前”師団長。とある場所で、シギリード閣下の名代が、待っております。その者から、今後の、あなたの使命をお聞きください」
そう言って、静かに目を閉じる。
これ以上、“何も言うな”という意味であろう。
ルーファスの背中に、汗が流れる。
処分されるのではないか。
しかし、今までに、公爵との間に築いてきた関係は、決して浅いものではない。
戦闘魔術師の起用などで、便宜を図ってきた。
不安を、希望で塗り替える。
馬車は、どこを走っているのか、分からない。
行先は、地獄なのか、復活への道のりなのか。
■■■
小さな森の中に建つ、古びた小屋の地下室。
白いローブを着た男は、女から手渡された箱を、魔法陣の上に置く。
“カチッ”という音が鳴る。
男は、箱を開き、中に入った紙を広げ、内容を確認する。
「防壁の崩壊は、2mほどか。少し威力が小さかったか。まあ、破壊出来ただけで成功だ。魔物寄せの魔法陣も、効果はあったようだな」
クククと含み笑いをしながら、独り言を呟く。
「あの魔法陣は、三か月は機能する。気付かれることは無いだろう。まあ、気付かれたとしても、エルフが開発した魔法陣だ。誰も読み解けまい」
独り言を続ける。
「そろそろ、王都に戻らねばならんな。今度は、兄からどんな指示が来るか」




