第3話 覚醒?
天井から響いていた音が、ふと止んだ。
だが、物置の外からざわめきのような音が続いている。
哲治は、救助どころか、重機で潰されてしまうのではないかと、少し焦ってしまった。ちょっと足腰に力が入らない。
腰が抜けたわけではない…と言い張りたいが、膝は正直だ。
四つん這いの姿勢で、ドアノブに手を掛けると、さっきまで、ピクリとも動かなかったノブが、軽く回る。
恐る恐るドアノブを回し、ゆっくりと扉を開けていく。
「開く…?」
ゆっくりと、扉を押し出すと、外気が流れ込み、視界に細かな瓦礫と石造りの床が現れた。
太陽光が、石片を反射している。
どこか地下に落ちたのでは、という想像が消え、胸を撫で下ろす。
外へ出るため、更に扉を開こうとすると、扉の上の方で、何かがつかえているのか、抵抗があり、すんなりと開かない。
力まかせに押し込むと、重い石がずれて落ちる音が鳴り、石礫がパラパラと落ちてくる。
もう一度扉を閉めて、勢いよく開くと再び破壊音。
その時、哲治の視界に小さな動くものが入り込んだ。
「…あ?」
一瞬、思考が止まる。人形?フィギア?でも、動いていた。
見間違いかとも考えたが、確かに人の形で動いていた。
小学生の頃、流行った“緑の小人おじさん”や“こびとづ〇ん”を思い出す。
哲治の中で、恐怖心を好奇心が上回った。
肩を扉に付け、力一杯押し開けた。大きな破壊音の後、扉が大きく開いた。
よろめくような状態で、物置から飛び出した。
眼下に綺麗なドレスを着た、体長10㎝ほどの美少女フィギアのような少女が居た。
反射的に、その小人の少女を掴み上げてしまう。
「捕まえたー」
昔、緑の小人おじさんは捕まえられないと聞いていた。
少し興奮してしまった。
力を入れ過ぎて、潰さないように注意し、物置に戻る。
途中、手元から「キャー」と言う悲鳴が聞こえた。
やはり、人形ではなく生きた小人だと確信した。
親父が「カブトムシ育成する」とか言って、昆虫飼育ケースを買っていたのを瞬時に思い出す。
物置の出入口近くに二つのケースがあった。
素早く蓋を開け、小人少女を静かに置く。
小人少女は、動かなくなっていた。
握り潰してしまったのかと焦ったが、よく見ると、呼吸はしているようで、安堵した。
物置に戻る際、白い服を着た小人おじさんと、その周りに、複数の灰色服を着た小人が居たのが目に入った。
もう一度、物置を出て、小人を探す。
さっき見た場所に複数人固まっていた。
とりあえず、白服の小人はレア感があるので最優先。
灰色も2人くらい捕まえよう。
白服の小人は座った状態で動かなかったので、そのまま右手で掴み、逃げていく灰色服の小人の一人を左手で捕まえる。
灰色服の小人が、俺の手に両手を触れ何かブツブツ言っているが、よく分からない。
そそくさと物置に戻り、小人少女を入れたケースとは別のケースに、二人の小人を入れた。
また物置を出て、周囲を見渡すと、甲冑を着た小人が沢山居ることに気が付いた。
他にも女性らしき小人や、黒服の小人、藍色服の小人。
哲治は、これまで何かを収集したいという感情は感じたことがなかった。
友達は、何とかカードを集めていたし、ゲームなどでSSRがどうのとか自慢をしていたが、自身は何とも思っていなかった。
しかし、なぜか今、小人を集めたいという思いが、頭の中を埋めていた。
次はどれにしようかと、小人たちを見まわす。
甲冑小人は、槍のような物を構えて、こちらを見ている者と、奥の方で固まっている者たちがいた。
黒服小人、藍色服小人は走り回っている。
女性の小人は、小人少女を捕まえた辺り(少し高く、ステージのような場所)で、泣き叫んでいる。
その近くに、他と違う色の甲冑小人が数人居た。
小人少女を、捕まえた場所には、1mちょっとの位置に屋根があり、身長175㎝の哲治は、屈まなければいけなかった。
中腰状態で、ステージ上の女性の小人と、甲冑を着た小人を捕まえる。
甲冑小人に槍で、手を刺されたようだが、痛みを感じなかった。
すぐに物置に戻り、女性の小人は、小人少女のケースへ入れ、甲冑小人は、白服と灰色服のケースへ入れた。
左手に違和感があったため、見ると、親指の付け根あたりに小さな槍が刺さっていた。
応急セットは、物置で見た覚えがないなと、考えながら、右手の指で摘まんで、槍を抜く。
血がドクドクと出るが、痛みを感じない。
どうしようと、傷跡を見ていると、頭の中が黒い靄に覆われていく。
そして、哲治の中で、何かスイッチが入った。
おもむろにバッグを漁り、テーピングを出すと、消毒もしないまま傷口を覆うように巻く。
奥に置いてあったバットケースから、金属バットを取り出すと、物置の出入口に向かい、自分の胸辺りにある屋根らしきものを、金属バットで叩き壊す。
天井の石が落下し、悲鳴が聞こえてくるが、お構いなしに、何度もバットを振り下ろし、破壊していく。
建物は、瓦礫と化した。
哲治は、バットを右手に持ったまま、瓦礫の上をまるで踏み固めるように歩き出す。
皆殺しにするまで許さないといったように。
時には、瓦礫を蹴り、生き残りを探すような行動を取りながら、物置の周囲を回っていった。
近くにあった建物も、全て破壊した。
何周か回ると、頭の靄が晴れてきた。
上空を見上げると、太陽はかなり高い位置にある。
もう、お昼ごろなのかもしれない。
哲治は、物置に戻ると、お茶を一口飲み、おにぎりを一口食べ一息入れる。
先ほどの自身の行為を思い返してみるが、罪悪感がまったく浮かばない。
痛みを感じないことから、あの地震で意識を失って、夢を見ているのかもしれないと、考えるが、金属バットを振って、建物を壊した感覚は、現実感しかなかった。
もしかしたら、本当に友人が話していた“異世界”なのか。
彼が話していた『痛覚減少』。
俺が「それ良いな」って言ったら。
痛みは体のSOSだから鈍くなったらヤバイ、なんて、ワイワイ騒いでいたのを思い出す。
飼育ケースに入れた小人が、何か騒いでいる。
甲冑を着た小人だ。
白服の小人は、魂が抜けた感じになっている。
灰色服の小人は、白服の小人に話しかけているようだ。
横のケースを見ると、小人少女は、まだ寝たままで、女性の小人が、心配そうに手を取り、何か話しかけている。
哲治は、食べかけのおにぎりを完食し、お茶を一口飲んでから、ケースの小人に話しかける。
「おい。ここはどこだ?お前たち何をした?」
甲冑小人が叫ぶ。
「貴様は魔王か?悪魔か?我々を解放しろ!せめてリリアーナ王女殿下だけでも解放しなさい!」
『王女⁉』
「解放ねー。考えてもいいぞ。ただし、俺の質問に正確に答えたらな」
哲治は顎を触りながら、甲冑小人に答える。
「よし。質問はなんだ?」
「まず、さっきも聞いたがここはどこだ?」
「叡智勇猛の国アストレイア王国である」
『H You moreの国?』と、おバカなことを思いながらも、王国と聞き、やはり異世界かもと考えていた。
地球でも王国はまだあるが、こんな小人の国があったら、ニュースになっているはずである。
「この星は、地球か?」
「星?…星とは、夜空に光るものだろう。何を、言っておる」
哲治は驚いたが、甲冑や王女のドレスを見て、中世ヨーロッパ風と感じていたので、文明が、現在地球と違うのかもしれないと納得をする。
「まあいい。それでお前ら、何をした?」
「それは…」
甲冑小人は言葉に詰まり、白服の小人や小人王女の方を見た。
リリアーナ王女は起き上がっていた。
側にいる女性の小人と何か話している。
そして
「よい。全て答えよ。」
リリアーナ王女が、良く通る声で言い切る。
甲冑小人は、王女に敬礼をすると、哲治の方に向き直り答える。
「勇者召喚の儀を行った。貴殿は異世界より召喚されし勇者だ」
はいっ。勇者召喚きました。
「違う!勇者の召喚ではない!」
おもむろに白服小人が叫ぶ。
「魔物領を拓き、魔物を倒すための奴隷召喚だ!」
はいっ。奴隷召喚来ました。ど、奴隷‼おーレイ‼。
白服小人は、灰色服小人と甲冑小人に押さえつけられるが、かまわず叫んでいる。
「わしは、2~30人を召喚するつもりだったのだ。こんな大巨人が来るはずがない。誰かが、わしを貶めたのだ。わしの能力を妬んで…そうだ第一位だ。そうだそうだ。あいつめ」
後半はよく分からなかったが、この世界は、この人たちが標準サイズということは、分かった。
哲治は、体が巨大化すると、自重で体が支えられないと、聞いたことがあった。
疑問に思い、白服に聞いてみた。
「何か、付与?みたいなものをしたのか?」
「ああ、付与は色々つけてある、『意思疎通』『環境対応』『強靭化』、それに、『狂暴化』『従属催眠』『痛覚遮断催眠』。他にも、少しの食糧で効率よく動ける体に…モゴモゴ」
甲冑小人に口を塞がれてしまった。
甲冑小人が、こちらを見て叫ぶ。
「質問に答えた。我々を解放しろ!」
「最後の質問だ。俺を元の世界へ帰せるか?」
甲冑小人は、焦った顔で白服小人を見る。
白服小人は、頷きながら言った。
「ああ。理論上は可能だ。しかし一度もやったことがない。5年、否3年あれば、送還の魔法陣を完成させる」
元の世界への帰還が、可能と聞いた哲治は、今後のことを考え出した。
寝るところ、安全地帯はこの物置がある。
大事なのは、食糧と飲料水。
食糧は、少しでも効率よく動けるといっていたが、自身が巨大になっているので、少しの量が違うだろう。
王国の国王に交渉するしかない。
王女が、どの程度カードになるか。
着替えは、無理だな。
野球のユニフォームは有るけど、下着が無い。
大きい葉っぱあるかな。
「よし。お前だけ解放」
そう言って、甲冑小人を指さした。
こんな感じで書いていきます。
よろしくお願いします。




