第29話 夢と希望と
異世界生活13日目。
曇天の空模様。
遠くで雷が鳴っているが、雨は降っていません。
昨日の、塀の修復が、少し時間がかかり、夜の帰還となりました。
皆、ギャーギャー言って、クラケン号を楽しんでいました。
ガンツなんか
「今日は、酒も飲めねぇ、ウップ」
って、謎の禁酒宣言をしていた。
ライナーは、シータを連れ、昨日の夜、そのまま第二砦に行っている。
今後の指揮を執ることと、塀の瓦礫を調べるらしい。
シータは、それほど魔法陣に、詳しいわけではないらしいが、戦闘魔術師よりかは、“役に立つ”と言うことで、連れていかれた。
ライナーは、なぜか活き活きしていたが、シータは、残念そうな顔をしていた。
また今度、クラケン号に乗せてあげるよ。
午前中は、魔物領の開拓です。
石大工たちに、本日休業日と言われた。
昨日、頑張っていたので、一日ゆっくりと休むのだろう。
決して、クラケン号の後遺症ではない…はず。
昨日、色々話を聞いたら、魔物は基本、森にいて、拓かれたところに、あまり出てこないらしい。
なるべく、塀の近くの木を切り倒していく。
お昼には、森で伐採した、沢山の木を持って戻る。
枝を払い、丸太のようにしていく。
結構な量の、木材が溜まっている。
少し暇だったので、木をジェンガのように重ねて、積んで、遊んで……閃いた。
ログハウス作れないかなー。
昨日の遠征で、塀の崩落現場へ行く途中、木造の建物を何軒か見た。
兵士たちに聞いたら、塀の見廻り担当の兵舎と言われた。
何でも、何かあった場合、兵舎を放棄し、火を点け合図にするらしい。
“狼煙”みたいなものか。
木造の建物があるなら、ログハウスいけんじゃね。
木工職人たちに、話にいくと、
「製材職人が、明日には来るから、そこで相談してくれ」
と無下に言われてしまった。
製材職人が来るのか~。
この物置野営地も、人が随分増えてきた。
皆、テントで寝泊まりしているが、まともな建物を建ててあげたい。
周囲の建物を、全壊させた張本人が、言うのも何だが。
この日は、木材集めに…魔物領の開拓に勤しんだ。
翌日、異世界生活14日目。
今日は、快晴であります。
昨日、夜から雨が、降り出した。
結構な、大雨だった。
職人たちの協力で立て直した支柱に、ブルーシートをかけ、大屋根を作っておいた。
皆、テントだから、雨は不安だったようが、大屋根のおかげで助かったと、感謝された。
朝から、とても気分がいい。
“ありがとう”って、言葉は、大切だよね。
人質4人にも教えてあげよう。
特に、リリアーナ王女殿下様に。
お昼前に、製材職人と、馬車職人が来た。
こんなに、ここに集まってきて、他の街とか大丈夫なのだろうか?
職人たちと一緒に来た、ライナーの部下の兵士に聞くと、結構な応募があったらしい。
更に、職人たちに聞いたら、
「巨人勇者の役に立てるのは誇りだ」
と言われた。
“勇者”ね~。むず痒い。
製材職人に、木材の山を見せ、ログハウスの話をした。
知識があるわけではないので、イメージだけで話をしていく。
木工職人と、打ち合わせをして、考えてくれるそうだ。
重機役は、引き受けた。
今度は、スタッドレスタイヤを馬車職人に見せて、これで、荷車を作りたいと伝える。
馬車職人たちは、タイヤのゴムに興味津々だ。
「何だ、この素材は?何の魔物の皮だ?」
「この凹凸は、何のために?」
「中は、何が詰まっている?」
質問攻めにあった。
素材は、“ゴム”。ゴムの木の樹液から…知らん!
凹凸は、水捌けのため…多分。
中は、夢と希望が詰まっているのさ…フン!
不敵に笑って、色々ごまかした。
生活の基盤が、徐々に出来ていく。
王国からの返事も、まだ来ない。
良い返事が来れば、いや、良くも悪くも返事が来た時点で、王女とマーリンを解放する予定だ。
リリアーナ王女に、罪は無い。
それに、一昨日の“意図された、魔物の侵攻未遂”、不穏な感じがする。
下手をすると、リリアーナ王女は、カードではなく、足枷になるかもしれない。
ルヴァンとクルーガには、申し訳ないが残ってもらう。
召喚魔法を行った、贖罪だと思ってほしい。
本当に贖罪すべきは、違う人たちなのかもしれないが。
■■■
同じ頃。
西第二砦より、馬で3日かかる場所に、小さな森がある。
その森の真ん中に、一軒の古びた小屋が、建っていた。
その小屋に向かい、深緑色のローブを着た者が、森の中を走っていた。
その者の表情は、ローブと同じ深緑色の仮面で確認することは出来ない。
小屋の扉に近付くと、
「報告」
と、短く小さな声で言う。
扉の向こうから、
「西、魔人」
と、女性の声が聞こえ、
「東に天使」
と、深緑色のローブを着た男が答える。
扉に付いた小窓が開く。
男が、手を差し入れ、小さな箱を扉の中にいる女性に渡す。
男は、代わりに封筒を手渡され、フードの中へ隠すと、来た道とは違う方向へ走り出し、森へ消えた。
■■■
扉の内側にいた女性は、手渡された箱を持ち、地下へと続く階段を降りていく。
地下の廊下を歩き、突き当りの部屋の扉を、二度ノックし、一拍置いて、三度ノックをした。
中から、入るよう指示が来る。
扉を開けると、その隙間から、“魔法陣”の明かりが漏れる。
漏れた明かりを惜しむように、女は細身の体を滑り込ませる。
揺れた髪から、尖った耳が見えた。




