第28話 名探偵
“サイコロ…”を投石で倒してしまった後、哲治は身を屈めていた。
出発前にライナーから、
「ここ(物置)に来る人は、事情を知っているからいいけど、事情を知らない人が見たら、驚くから、“良い”って言うまでは、見られないように」
そう、釘を刺されていた。
でも、塀の上で頭を出していた兵士と、目が合った。
これ、怒られるやつ。
丸まって、隠れてみた。
一応、「私は、森です。森の一部です」と、唱えていたよ。
ライナーが、近くの塀から頭を出して、
「テツジ殿、もう良いです」
と、言ってくれた。
怒ってない?
立ち上がって、“サイコロブリン”が、死んでいるか確かめに行く。
遅いかもしれないけど、畜魔石を翳さなきゃ。
塀の崩れたところへ行くと、ライナーが顔を出した。
ライナーが怪訝な顔をしている。
「どうしたの?」
そう聞くと、
「ああ、瓦礫がおかしい。魔物がぶつかって崩れたなら、瓦礫はこちら側に有るはず」
そう言って、王国側を指さす。
確かに瓦礫は森側、魔物領側に沢山あった。
それが、何を示しているのか、哲治には分からなかった。
“分かっていますよ”の顔で、顎に手を当て、瓦礫を見る。
すると、近くの地面に、何か描いてあることに気付いた。
ナスカの地上絵?
何か、図形っぽいように見える。
結構、大きな図形。
哲治の見た目で、1mくらいある。
とりあえず、ライナーを両手で掴んで、持ち上げる。
“高い高い”する感じで。……したことないけど。
持ち上げる時、ライナーが「ウオオォー」て、叫んでいた。
喜んでいただけて、幸いです。
ライナーに、地面の図形を見てもらう。
ライナーが、
「ま、魔法陣?ま、魔法陣のことは、わ、分からん!お、降ろせー!」
怒られた。……パワハラですよ。
ライナーを降ろし、“魔法陣”と言われたので、魔術師を探す。
丁度いいところに、灰色のローブを着た人を発見。
持ち上げて、見てもらう。
「どうですか?見えます?魔法陣ですか?」
魔術師に問いかけても、返事が返ってこない。
仕方がないので降ろすと、白目をむいて倒れた。
黒目で見ないと、見えませんよ。
「好き勝手するんじゃない!」
ライナーに、また怒られた。……モラハラも付けますよ。
ライナーに言われ、“クラケン号”と、乗筏客を回収しに行った。
忘れていたわけではない。
クラケン号を引き摺って戻ると、第二砦の兵士たちが、“化け物”を見る目で見てきた。
その目、さっきも見た。
ライナーたちが集まって、何か話している。
いくら耳が良くなっていても、立っている自分には、聞こえない声量だ。
ライナーが、こちらを指さして、周りに何か言うと、一斉に、皆、笑い出した。
陰口?日の光の下で、陰口?
すると、テトテトと歩いてシータが、足元に来る。
両手を上げて、何かアピールしている。
あっ、“高い高い”の要求ですね。
アトラクション係、了解いたしました。
シータを両手で持ち上げて、“高い高い”をする。
シータは、“違う違う”と顔の前で手を振り、地面を指さす。
……魔法陣を見たかったのですね。
「〇Ж、▽$#、〇%Σ」
何?言葉が分からない。
今度は、ライナーを指さす。
多分、ライナーの近くへ降ろせと、言いたいのだろう。
シータをライナーの側へ降し、そのまま、しゃがんだ体勢でいる。
シータと、何か話をしたライナーがこちらを向き、
「あれは、シータが言うには、“魔物寄せ”の魔法陣らしい。」
また、二人で話している。
シータの言葉も、耳には届くが、全く知らない外国語を聞いている感じだ。
ライナーが、顔を上げ話す
「以前、シータの仲間が、“罠”に出来ないかと、開発した魔法陣だと」
エルフは、臆病だったと聞いた。
なるほど、罠に誘い込む魔法陣。理に適っている。
でも、こんなに大きく描くものなのか?
それに、近くに罠っぽいものは見当たらない。
塀の隙間が有るだけだ。
……⁉、閃いた!
“見た目は巨人、頭脳はそこそこ、その名は名探偵テツジ”
「この魔法陣で、防壁の崩落場所へ、魔物をおびき寄せた。……意図的なものか⁉」
と、ライナーが叫ぶ。
いや、それ、今、言おうと思ったやつ。
少し不貞腐れていると、後ろの森から、魔物が出てくる音が聞こえた。
音に集中し、タイミングを計り、立ち上がりざま振り向いて、右足をサッカーのシュートのように振り抜く。
魔物は、森の木を薙ぎ倒して飛んでいく。
“ナイスシュート!”、決まった。
元中学野球部員、寒い冬は、手がかじかみ、ケガに繋がる恐れがあるので、サッカーで、遊んで…体力づくりをしていた。
シュートの時、地面を蹴って、骨折した奴がいたっけ。……ケガ、してんじゃん。
「テツジ殿、その魔法陣を消せないか?」
少し機嫌が良くなったところに、ライナーの声が飛ぶ。
哲治は、立ち上がり、スパイクの歯で、地面を抉るように魔法陣を消していく。
何か、王国も色々問題がありそうだ。
ガンツたち石大工が、立ち直ったところで、塀の修復に取り掛かる。
資材は、第二砦が用意していた。
第二砦の兵士たちも、手伝って、塀が修復されていく。
今日は、仮修復で済ませ、明日から本格的な補強修理に取り掛かるらしい。
第二砦の人たちは、それが終わるまでは、ここに待機だそうだ。
大変だね。
哲治は、安全に作業できるよう、ライナーに言われ、森の監視だ。
魔物が出たら、金属バットを振って、森へお帰り頂く。
簡単なお仕事です。
でも、ライナーに上司風、吹かれている点が、少し気になる。
初めは、変な侍言葉だったのに、最近は、課長と同じような口調だ……解せん。
後から、ライナーに聞いたのだが、崩壊した塀の瓦礫にも、“魔法陣”の痕跡があったらしい。
やはり、意図的なものだったようだ。
塀の見回りを増やしたり、不審人物がいなかったか、街や村で聞き取り調査したりしないといけないと、ボヤいていた。
この国の、軍部は警察も兼ねているのか。
第八師団の師団長は、王都へ向かったらしい。
何でも、俺の出した要求を王国に飲ませるためと、言われ、胸が熱くなった。
でも、ライナーはボヤく、
「このタイミングで、おっさん不在。俺が代理で第八の指揮取らないかん」
上司風、たぁ~ぷり吹かしなさい!




