第27話 防壁の攻防
治癒魔術師のシータが、初アトラクションを楽しんだ3日前。
第二砦は、大騒ぎになっていた。
見回りの兵士から、もたらされた情報。
防壁の一部崩壊。
第二砦には、第5大隊と、第1大隊が詰めていた。
砦長は第5大隊長のロックスだった。
第1大隊長は、師団長のブルーが兼任している。
しかし、召喚の儀の問題で、第三砦へ行ってしまってここには居ない。
第5大隊長のロックスは、両隣の第一砦と、第三砦へ応援要請の早馬を出すよう、指示をする。
第三砦に軍団長がいるはずなので、戻って来てくれれば心強い。
第1大隊の中隊長の一人へ、砦の指揮権を委譲し、第5大隊に召集をかける。
第5大隊1千人。休日の兵士もいるため、全員ではない。
中隊ごとに班分けをし、2中隊と、兵站役に1中隊を充てる、3班体制を作り、残りの1中隊を連絡役にする。
すぐに、報告のあった防壁の崩壊場所へ、2中隊と共に急行する。
幅2mほどの空間が出来ていた。
この、サイズの崩落であれば、応援要請は必要なかったと、ロックスは苦笑いした。
まあ、すぐに応援の取り消しをすれば、各砦からの援軍出発を止められるだろう。
馬を降り、槍を両手で構え、大隊長であるロックス自ら崩壊場所へ近づく。
何人かの兵士が、槍を構え、盾を持ち付き従う。
近くの階段を上がって行った兵士から、魔物領側に“異変無し”のサインが送られてくる。
槍を構えたまま、更に近付き、空間から頭を出して、左右を確認する。
“何も居ない”
ふーと息を吐く。
キングボアや、防壁を破壊できるような魔物が、領内で発見された報告は上がっていない。
急ぎ出立したので、今のところと言うことになるが。
しかし、崩れた防壁に、何か違和感がある。
防壁の崩壊は、5年に一度くらい起こる。
発見が遅れたり、運が悪かったりすると、その隙間から魔物が王国領へ侵入し、街や村へ甚大な被害をもたらすこともあった。
崩壊した場所から少し離れたところで、拠点を作っていく。
兵站が届けば、応急修理の作業を行う。
応急処置を行い、後は、石大工たちが、補強する石壁を作る。
王国側の階段は、ほとんどがその名残である。
防壁は、かなり昔に作られたそうだ。
昔は優秀な魔術師が多く、魔法と土木技術で防壁を作ったらしい。
しかし、今の魔術師に、同じものを作れというのは酷なことだ。
階段で魔物領を警戒していた兵士が笛を吹いた。
魔物だ。
急ぎ、崩壊場所へ向かう。
空間から確認する。
“イービルモンキー”だ。
数は3匹。
階段上の監視役から、報告が入る。
いつも森から出てこないくせに、こういう時は鼻が利く。
偵察要員なのか、個体数が少ない。
崩壊場所に半円を描くように、兵士たちを配置する。
イービルモンキーは、跳躍するため、五重の半円包囲だ。
最初のイービルモンキーが飛ぶ、
「第二陣、中央反転、第三陣中央、共に突けー!」
指示を飛ばす。
兵士たちは素早く動き、イービルモンキーが、着地する前に槍を突き立てる。
3匹のイービルモンキーを排除した。
こちらは、数人が負傷した程度だ。完勝であった。
兵站部隊が、到着し、簡易的な修繕を行う準備を始める。
板や、木杭を運び出していく。
また、テントを張り、対策本部を設置していく。
そんな折、後から、のこのことやって来た戦闘魔術師が、魔物駆除に参加すると、言ってくる。
邪魔なだけだが、せっかくの申し出を断るわけにもいかない。
防壁に、長い梯子を数本立てかけ、戦闘魔術師に上がらせる。
抑えるのは、兵士だ。
戦力外を支えるため、貴重な戦力を使う。
また、魔物が現れた。
今度は、オオカミ型だ。
案の定、魔術師の放つ魔法は、地面だけを焦がす。
崩落場所から出てきた魔物を、半円包囲で屠っていく。
魔物対応で、時間がかかり、日が沈んでいく。
3班を交代させながら、疲労が残らないように、注意をする。
翌日も同じように、魔物対応に追われる。
簡易的な修理を進めようとすると、魔物が現れる。
何か、おかしい。
防壁の崩壊で、確かに魔物は出てくるが、これほど、魔物領の境目に魔物が、押し寄せることはなかった。
3日が経った。
兵士たちは、疲労困憊である。
ケガ人も多数出ていた。
昨日、改めて応援要請を出した。
ロックスは、現場を甘く見ていたことを、後悔した。
監視役の兵士から、笛が鳴らされる。
そして、大声で、
「サイクロプスです。サイクロプス発現!」
兵士たちの疲労の中に、恐怖が押し寄せる。
戦闘魔術師に代わり、梯子の上にいる弓兵が矢を放つ。
崩落のサイズから考えれば、すぐにサイクロプスが、こちら側に入って来られるわけではない。
しかし、崩れた場所を壊され、こちら側へ入って来たら。
そう、考えるだけで、身の毛がよだった。
弓兵に、矢が尽きるまで、打ち続けるよう、指示を出す。
弓兵の交代要員を、梯子下へ集めていく。
弓兵の一人が叫ぶ
「矢が通じません。跳ね返されます」
「それでも撃ち続けろ!」
ロックスが叫ぶ。
監視役が叫ぶ
「サイクロプス接近。防壁まで、10メー…」
ドォンと、地面が揺れるような音と衝撃。
立てかけた梯子が、一斉に倒れる。
階段上の監視役が、転がり落ちる。
槍兵の何人かが、尻もちをついた。
災害が、目の前にあった。
ロックスは、昨年のサイクロプスを追い払った戦いに参加していない。
死傷者が多数出たのは知っていたが、話を聞いた時、“どうせ、尾ひれ付きだ”と、思っていた。
そして、「俺なら、後ろに回って、足の健を切ってやるよ」と、大口をたたいた。
しかし、それが無謀なことと、知った。
静寂の中に、“ヒューン”と、風を切る音が聞こえた。
崩落の隙間から、見えていたはずの巨体が、衝撃音と共に、血を吹き、視界から消えた。
階段を上った兵士が、叫ぶ
「サイクロプス、血を出して倒れています。微動だにせず!」
…何が、起こった…。
階段上の兵士から、また叫びが聞こえる
「大隊長。き、来てください」
また、何か現れたのか。
ロックスは走って。階段を上る。
防壁の上、顔が出る辺りまで上ると、兵士が左を指さし、
「あそこ、巨大な何かが居ます」
首を左へ向ける。
遠くに、何かが見える。
まるで、頭を両腕で隠し、小さく丸まった人間のように。
距離感がおかしい。
「おーい」
左側から、声がかかる。
王国領側だ。
見知った男が、手を振って走ってくる。
第2大隊長のライナーだ。
驚きのあまり、階段から落ちそうになる。
急いで、階段を降り、ライナーの方へ走り出した。
援軍にしては、早すぎる。
何か、別の問題が起きたのか、不安になりながらも、安堵の気持ちもあった。
◆
肩で息をしているライナーに、ロックスが話しかける
「何かあったか?援軍にしては早すぎるだろ?」
ライナーは、息を切らしながら
「ああ…、例の巨人に…運ばれ…て、来た。…一応、…援軍だ」
「…召喚の巨人か!」
ロックスは、先ほどの丸まっていた、人のようなものを思い描いた。
「ああ、…そうだ」
「多分、この防壁の向こうで、丸まっているぞ…」
ライナーは、あんぐり口を開けて、ロックスを見た。
テツジ殿、バレていますよ…。




