第23話 返還の館
異世界生活10日目
異世界生活9日目だろって⁉
9日目、何も事件は有りませんでした。
算数できないわけではない。
森に行き、切り株掘り起こして、地面ならして、固めて。
魔物を、散弾石で追い払って…事件、有りました。
小さいシベリアンハスキーみたいな魔物に出会って、いつも通り石投げようと思ったら、パーカーポケットの石が弾切れになっていた。
焦って、その辺に落ちていた、切り株の根っこ持って投げたら、カーブしやがるの。
来るよね、小さいシベリアン。
レガース付けた足で蹴ったら、首がもげた。スプラッター。
帰ってきて、泣きながらレガース洗ったよ。血は落ちねーぞ。
それと、開放型シャワートイレ最高でした。
川上方向を向いて使用する。そこが難点。
なぜかって?
川下向いていて、万が一、流木が流れてきて、それが刺さったら…。
ということで、異世界生活9日目
今日、大工さんが来る予定。
伐採した木材は沢山あるけど、木材は乾燥させないと使えないはず。
でも、知識がないので、聞くしかない。
達治は、午前中、筏型ソリ(空)を引いて、森へ出かける。
伐採した木や、殺してしまった魔物の亡骸を、ソリに乗せて帰る。
ライナーたちに、同行を頼んだが、昨日から、「解体は“ここで”やるので、そのまま持ってきてほしい」と、言われた。
前は血抜きが云々って、言っていたけど、良いのか?
まあ、アトラクション苦手な人は居るから。
お昼ごろ、今日は沢山の馬車が来た。
大工さんが、総勢30名乗って来た。
よく聞くと、石大工らしい。
こちらの建物は、石造りが主流とのこと。
木を運んだ労力を返しなさい。
足場で使うから、と慰められたが、丸太では使えないでしょう。
採石場から、石を持ってくるが、事前にどこで、どんな建物を建てるか、打ち合わせに来てくれたとのこと。
また、哲治が壊した瓦礫の中から、使えるものを選ぶと言っていた。
瓦礫の撤去をサボっていたのが、良かったのか悪かったのか。
木工職人も、何人か来てくれた。
哲治が、木材の乾燥のこと聞くと、
「魔物領の木は、魔素が含まれていて、乾燥や湿気で伸縮することは無いから、乾燥の必要はない」
と、言われた。
友人の言っていた、“ご都合主義”ですね。…ありがとうございます。
哲治は、自慢の筏型ソリを、木工職人に見せる。
引きつった笑いが起きた。
でも、結束バンドに食らいついていた。石大工も。
あなたたち、使う場面ないでしょう。
石大工と、打ち合わせに入る。
哲治は、石大工たちに、正直に話をしていく。
「作ってもらいたいのは、この…潰れてるけど、召喚の館以上の建物です」
ライナーたちは、驚いていた。
魔物領の開拓のための、ベース基地を作ると思っていたからだ。
ただ、“元の世界へ帰す”という条件は知っていたので、ここにきて納得をした。
つまり、“召喚の館”ではなく、“返還の館”の建築だ。
哲治は、続ける
「出来ますか?」
棟梁と思われる人物が、代表して問う。
「すまない。召喚の館とやらを見たことがねー。どんな建物だ?」
哲治は、物置を指さし、
「まあ、この建物が、入る大きさの建物です」
「いやー。こんなデカい建物が、入る建物を作るとなると、何十年とかかるぞ」
「石積は、手伝います。一年で仕上げてほしい」
哲治は、自分の力なら石は軽々と運べるし、脚立もあるので、ある程度高く積めるだろう。
重機のように働くぞ。と、思っている。
「この建物を覆うように作るのか?」
石大工の棟梁らしき人が、質問する。
「いえ、この横に作ってください。コの字型…こういう感じで」
哲治は、“コの字”が伝わらないと判断し、地面に図を描く。
「ここの一面を空けていただきたい」
石大工たちは難しい顔をしていた。
「こんなデカい建物は、作ったことがねえが、まあ、お前さんが手伝ってくれるなら出来るかもしれんな。お前ら、いいな。一世一代の大仕事だぞ!」
棟梁らしき人が振り返り、石大工たちに、声を掛ける。
石大工たちとの打ち合わせが終わると、哲治は、一旦物置に戻り、スタッドレスタイヤを一本持ち出す。
コロコロと転がしていくと、やっぱり皆、唖然としていた。
哲治は、木工職人たちの近くへ行き、話しかける
「このタイヤ…車輪が、4本あります。これで荷車を作りたい。車軸のこととか、全く分からないので、教えてほしい」
すると、木工職人の一人が、驚きから立ち直り言う。
「馬車造りの職人を呼ばんと、いかん。わしらは、扉や内装、家具などの職人だで」
哲治は、ライナーに向き直り、
「ライナー隊長、申し訳ないが、馬車職人も呼んでほしい」
と頼む。
「分かった。明日、伝えよう。早い方がいいか?」
と、ライナーが聞く。
「うん。早いに越したことはないけど、明日でいいや」
そう言って、哲治は笑顔を見せる。
ライナーと、第4大隊長のジョンは、情報統制に逡巡していたが、軍団長から「好きにやれ」と言われ、近隣の街にまで、情報を開示した。
ただし、“召喚失敗”とは言わず、吹聴した内容は、
『気の良い巨人勇者が、召喚された。大きすぎて召喚の館は潰れてしまったが、それを気に病んでいる。魔物の討伐も積極的に行い、まさに、巨大な英雄だ』と。
ライナーたちは、『嘘から出た実』になってほしいと願い、実になるように、しなくてはいけないと、強い使命感を感じた。
ちなみに、石大工の棟梁は、「ガンツ」、木工職人のリーダーは「バンス」だった。
覚えやすいね。「岩ツ」と「板ス」。
ご都合主義だね。




