第2話 主人公登場
主人公視点のスタートです。
ここは、日本のとある地方都市。
都会とは言えないが、住民たちは「田舎じゃない」と主張する、ごくありふれた街である。
3月下旬のよく晴れた、日曜の朝。
この物語の、一応の主人公――永嶋哲治、25歳・サラリーマンは、自室でいそいそと出かける準備をしていた。
今日は、待ちに待った草野球チームの、開幕試合の日である。
「えーっと、ユニフォーム、ソックス、帽子、ベルト、アンダー…うーん、2枚持っていくか」
独り言を言いながら、それらをバッグに詰め込んでいく。
「後は、そうそう、バッティンググローブ、新調したんだよねー。しかも両手」
嬉しそうに包装から取り出し、丁寧にバッグへ入れる。
哲治は、小学校高学年から中学まで軟式野球を続けていた。
飛び抜けて上手いという選手ではなかったが、内野手としてはまあまやれた方だと自己評価している。
高校進学後、強豪というわけではない野球部から、お誘いはあったが、甲子園に憧れを持っていなかったし、何より“硬式球が当たったら痛い”という理由を隠しながら、適当な理由をつけて入部を断った。
高2の夏、中学時の同級生に誘われて、初めて草野球に参加した。
それ以来、時々呼ばれるようになった。
実家から通える大学に進学したこともあり、大学生になって正式に草野球チームへ加入した。
気が付けば、8年目の草野球開幕日である。
「よし。準備OK」
そう言うと、哲治は、携帯と財布、車のカギを無造作に、カーゴパンツのポケットに入れ、部屋を出た。
玄関で、哲治が靴を履いていると、奥から母親の声が聞こえてきた。
「てつ~、朝ごはんは~?食べていかないの~?」
呑気な口調で聞いてくる。
「あー、コンビニで、何か買って行くわ」
大声でそう返すと、キッチンのドアが開き、母親が袋を手に出てきた。
「はい。おにぎり。それとお茶も入れてあるからね。おしぼりも入れたから、ちゃんと食べる前に“おてて”拭いてね」
“おてて”って…いつまでも子供扱いされ、哲治は苦笑いする。
「上着持った~?寒いよ~」
と、母親に言われ、そうだなと、哲治は思い、母親にお願いをする。
「ごめん。部屋にグラコンあるから持ってきて」
「グラコン?」
と、母親は首をかしげる。
「グラウンドコート!クローゼット開けたら一番左にあるから」
そう哲治が言うと、
「はいはい。急いで持ってくるね~」
と言って母親は、階段をゆっくり昇って行った。
昨日、スポーツドリンクを買っておいたことを思い出し、結局靴を脱いで、冷蔵庫へ取りに行った。
母親に見送られて外へ出ると、駐車場の端に置かれた、大型物置へ向かう。
バットとキャッチャー用具がそこに置いてあるのだ。
草野球でも、初めは内野をやっていたが、“肩が強い”という理由だけで、4年前キャッチャーにコンバートされた。
最初は、打球が飛んでこなくてつまらないし、目の前でバットを振られ投球が見えないし、ファールが体に当たって痛いしと、嫌々やっていたが、数試合やると、キャッチャーの面白さが分かってきた。
自分のリード通りにピッチャーが投球し、三振や内野ゴロなど、自分が意図した結果になることが楽しかった。
それに、肩の強さを生かした盗塁の補殺も快感だった。
また、自分のリードで負けた時は、いつも以上に悔しかった。
キャッチャー道具はチームの備品なので、親父自慢の“断熱材入り物置”に保管している。
決して、部屋に上げると汚れるし、邪魔だからと、いう理由からではない...ということだ。
親父が多趣味?のため、いろんな道具が、この物置には入っている。
やれ、DIYだ、家庭菜園だ、釣りだと、言って親父が買ってきた道具類が、ほぼ新品の状態で、保管されている。
最近気が付いたが、親父の趣味は、理由を付けて物を買い、死蔵することなんだろう。
使われている形跡があるのは、スペースを取っているスタッドレスタイヤくらいだ。
身長175㎝の自分が、余裕で寝転べる広さの物置。
自宅の駐車場は、本来車3台駐車出来るはずだが、この物置のおかげで、哲治の車は、少し離れた月極駐車場に、停めざるを得なかった。
物置のドアの鍵を開け、物置の中に入る。
奥の一角に、ゴルフバッグとゴルフ用品が置いてある。
これは、親父の物ではなく、哲治の物だ。
1年程前に会社の先輩に誘われゴルフを始めた。
その、ゴルフバックの近くの棚に、キャッチャー道具が入ったバッグが置いてある。
手に持っていた荷物を、物置の入り口付近に一旦置き、奥へ向かうと、物置が急に揺れ出した。
「地震!」
そう叫んで、哲治は、外へ出ようと出入口の方へ振り返った。
出入口の外から、目を開けていられないほどの眩しい光が、物置の中へ飛び込んできた。
両腕で目を隠し、とにかく出入口を目指す。
もう揺れは感じなかったが、焦っていた哲治には、分からなかった。
2メートルもない距離。3歩あれば外に出られるはずだ。
だが、3歩目で何か固いものにぶつかった。
勢いがあったため、哲治はその場で尻もちをついた。
哲治は、恐る恐る腕を下げて目を開けると、眩しい光は既に無かった。
開けっ放しにしていたはずのドアが、閉まっている。
哲治は立ち上がり、ドアを開けようとしたが、ドアノブが回らない。
アルミ製のドアを、押しても引いても、全く動かない。
「おーい!誰かー!母さーん!閉じ込められたー!助けてー!」
扉を叩き、大声で叫ぶが外からの音は、一切聞こえない。
また、扉を叩いても、硬い物を叩いている感触はあるが、音が一切出ない。
“音”そのものが消えているようだった。
スマホを取り出し、母親へコールする。
コールが鳴らない。
他にも、何人かにかけてみる。
つながらない。
スマホを見ると、Wi-fiどころか、“圏外”と表示されている。
駄目だ、スマホが使えない。
大地震が起こり、生き埋め状態になったのかもと、思ったが、よく考えると、物置の周囲に建物はなく、上から押しつぶされる可能性は低い。
次に、地割れが起こり、そこに嵌まったのかもと、考えたが、そんな大きな地割れはないだろうと、言い聞かせる。
あれこれ考えていると、急に浮遊感に襲われる。
何だか、取引先の古いエレベーターに乗って、降下した時のような感覚だった。
しばらくすると、今度は、横に動き出したような感覚になる。
哲治は、こういう時は、パニックになるのが一番マズイ、と自分に言い聞かせ、落ち着いて考えようと、思い床に座る。
出入口付近に置いた、バッグの中を確認する。
まずは飲み水、スポーツドリンク1ℓと水筒のお茶、食い物はおにぎり3つ。
「母さんマジ感謝!」
とりあえず、一日二日は持ち堪えられると、落ち着きを取り戻したところで、先ほどの光を思い出す。
青い模様のようなものが、見えた気がした。
前に、誰かが話していた…似たような模様を、画像で見せられたことを思い出す。
確か、“魔法陣?”って、言っていたような。
哲治の頭に?マークが並ぶ。
「あっ、そうだ!異世界転属…転職…転籍…違うな。とにかく違う世界に行って、ヒーローになるとか何とか…」
思わず声が出しまう。
スライムになるだの、蜘蛛になるだの、友人の話が脳裏をよぎる。
「いやいや、無理無理!」
哲治は、そんなことを考えていると、なんだか面白くなってきた。
次々に友人の話を思い出す。
大体、行先は中世ヨーロッパ風とか、特別な力を貰って無双するとか、魔法が使えるとか…現実逃避を始めた。
哲治は、短時間に面白がったり、落ち込んだり、感情が落ち着かなかった。
胡坐をかいて、考えていると、今度は上昇する感覚になった。
その時、体をスキャンしているような光の筋が、上下左右に動き出した。
『何だ?』
次の瞬間、屋根部分からガラガラと、大きな音が鳴り響く。
「救助か!ちょっと待って、重機で掘ってる?」
焦る哲治は思わず天井に向かい
「入ってますよー」
と、叫ぶのであった。
次回から、小人の世界で大暴れ?
とりあえず、第3話まで投稿します。




