第17話 ファンタジー定番の
異世界生活6日目。
さすがに、自分の臭いが気になる。
今日こそは、川を見つけなければ。
トッププライオリティータスクだ。
髭剃りは、良いものを見つけた。
ライナーたちの持つ剣だ。
半ば強制的に献上させた。剣だけに…。
5センチほどしかないが、指で摘まんで剃る。
切れ味が悪いし、肌も痛い。
鏡がないので、手で確認しながら剃っていく。
外に出て、物置の裏へ回る。
今日は、曇り空だ。
雨が降れば、水が溜められるかもしれない。
ライナーたちが、朝飯を食っていることを確認し、着替えを始める。
昨日、野球用バッグの荷物を出した時に、スラパンを見つけた。
スライディングパンツ。
スライディングの際に衝撃緩和や怪我防止のために、ユニフォームの下に履くパンツだ。
本来は下着代わりに直接履くのだが、哲治は少し抵抗感があり、下着の上にスラパンを履いていた。
しかし、ごわつくし、夏は蒸れるし、最近は履いていなかった。
そのため存在を忘れていたが、バッグの奥下に死蔵されていた。
見付けた時は、心の中で“リリアーナダンス”を踊ったよ。
上は、長袖のアンダーシャツ、少し体にフィットするタイプ。
靴下も野球のソックスに変える。
ユニフォームの下を履き、ベルトを通す。
安全のためレガースを付ける。
上はパーカーだ。
ユニフォームの上着にポケットが無いので、実用性を考えパーカーにした。
着ていたシャツ、下着、カーゴパンツを野球用バッグに入れようとしたが、バッグが匂う。
そうだ、昨日、虎とか熊とか猿とかの剥いだ皮と、イノシシの肉を入れて帰ってきた。…バッグも洗いたい!
使える袋は、スパイクケースしかない。
ゴルフスパイ用のシューズケースもあるが、下着を入れるのに抵抗がある。
バッグを持って、悩んでいると、緑色のネットが目に入った。
広げるとかなり大きい。
確か、鳥よけのネットだ。
鋏で、適当な大きさに切り、風呂敷の要領で衣服を入れる。
PPテープを使い、持ち手を作る。
今日は、川を見つける。
哲治は、そう堅く心に誓った。
朝から、一悶着があった。
人質用のトイレの砂を入れ替えると言ったら、クルーガは「お願いします」と言ってくれたが、女性陣がワーワー騒ぎ出す。
「じゃあ、そのままで」って言うと、「目を瞑って、鼻を摘まんでやってください」と言ってきた。…出来るか~!
強制的に、砂を交換させていただきました。
そういう趣味は無いから。
猫のトイレ砂変えるようなものだから…ね。
物置の扉の鍵を閉め、カギを尻ポケットへ入れ、落とさないようボタンをする。
右手に金属バット、左手に防鳥ネットの風呂敷を持ち、適当な大きさに切った、防鳥ネットを畳んで脇に挟む。
ライナーたち5人とともに、昨日と同じ場所へ出発する。
塀に辿り着き、カバンが無いので手で持ち上げようとしたら、「階段があるからそこから超える」と言い張られた。
時間もったいないよ。
昨日、置いておいた道具類を持って、一人で塀を超える。
すぐに、作業に取り掛かっていく。
進路が曲がっていないか、時折振り返りながら、先へ先へと、木を切り倒していく。
切り株の除去や、整地は後回しだ。
魔物も討伐はせず、撃退に終始した。
音が聞こえたら、その方向に、掴んだ砂を投げ込む。
掴める大きさの石があれば、しゃがんだままで投石する。
肩を作っていないので、全力ではないが、強靭化のせいか、自分が巨大だからか、それなりの速度と勢いで、石や砂が飛んでいく。
そうすると、音がなくなるか、遠ざかっていく。
魔石の回収⁉…撃退だから。
まあ一応、ライナーたちが付いて来ているので、確認はしてもらっている。
素材の剥ぎ取りは、遠慮してもらった。
昨日のビッグボアの肉が、まだ残っているので、快く承諾してくれた。
ちなみに、人質たちも肉を食べていたよ。
お昼休憩を挟んで、作業を続ける。
自分で見ても、かなりの距離を伐採してきた。
魔物の気配を探るため、周囲の音を注意深く聞いていると、水の流れる音が、聞こえてきた。
勢いが付いた。
伐採した木は、並べることなく、左右に放り投げていく。
とにかく、進む。
2m幅で伐採していたのが、1m幅になったのは、仕方がないことである。
木を投げ飛ばす際、立ち上がってみると、川が見えた。
洗濯も、出来そうな川幅がある。
前方には、自分の視界を遮る高さの木は、もう、なかった。
残り、3~4mだ。
中腰になり、とにかく切り倒していく。
残り一本倒せば、川だ。
テンションが、上がる。
立ち上がり、最後の木をスパイクの裏で、前蹴りのように蹴り倒す。
その勢いで、倒した木の幹に立ち、川へ出る。
ドンッという音と、グチャって音がした。
下を見ると、緑色の肌をした魔物がつぶれていた。
こちらの世界では、かなり大きな魔物だ。6、70㎝はありそうだ。
ライナーたちが、息を切らし、走ってきた。
肩で息をしながら言う
「テツジ殿…早すぎる。…無茶苦茶です…」
哲治は、立っていたので、距離がありすぎて、良く聞こえなかった。
ライナーに、笑顔を向け、
「川、あったね。ミッションコンプリートだね」
木の幹から、河原に降りると、しゃがんで、木の下にいる魔物を指さし
「これ、何?」
と、ライナーたちに聞く。
ライナーたちは、それを二度見した。
誰かが、呟くように言う
「…サイクロプス…」
声が小さくて良く聞こえなかった
「サイコロブ?」
その時、木が揺れ、葉がガサガサと大きな音を立てて、何かが近付いてくる。
それは、悠然と森を抜け、河原に現れた。
5mほどの距離。
体長70㎝ほどの、緑色をした単眼の人型の魔物。
手には、棍棒を持っている。
哲治は、友人の話を思い出した。
高校の時、背が低くて、緑色のジャージを着ている、嫌味な先生に、影で「ゴブリン」って、渾名が付いていた。
その理由を聞いたら、友人が、
「ゴブリンってさ、ファンタジーの初期に出てくる、雑魚なんだけど、緑色の肌で、醜悪な顔をしていて、身長も腰くらいまでしかないのよ。あの先生に、似てるっしょ。それでさ、棍棒持ってたりするんだけど、弱くて、主人公のレベル上げの定番。人型魔物を初めて殺めた~。みたいな」
“ゴブリン”だ!
異世界ファンタジー、よく分からなかったが、お前は分かるぞ。ゴブリン!
尋常に勝負だ。
あ…金属バットが、無い。
ノコギリ壊れたら、詰む。
どうしよう…。
哲治は、武器に出来そうなものがないか、周囲を見回す。
ゴブリンが、少しずつ近付いてくる。
ライナーたちは、槍を構え後退る。
「サイクロプス…つがいか⁉」
兵士の一人が、少し大きな石に躓き、転ぶのを横目で見た。
武器、沢山あるじゃん。
おもむろに足元の石を掴み、しゃがんだまま投げる。
セカンドスローのように、低く強く。
石礫は、散弾のように広がり、緑色の肌に無数の穴を開ける。
魔物は1、2歩進んだところで倒れた。
息を吐き、ライナーたちに魔石の回収をお願いする。
ライナーたちは、警戒しながら、ゆっくりとゴブリンに近づいていく。
それを横目で見て、潰れたゴブリンの上から木をどける。
黒い液体が、河原に広がっていた。
川をついに見付けたが、洗濯物を塀のところへ置いてきてしまった。…無念。
ライナーたちの足を考えると、戻った頃に日も暮れるだろう。
曇天の空を見上げ。哲治は、ため息を吐いた。
今回は2話連続投稿です。
第18話は、ライナー視点です。




