第16話 この国のこと
異世界生活5日目。
いつも通りの、朝のルーティーンを終える。
今日の“大きい用事”は、ライナーたちがいるため、遠出を強いられた。
今日から、魔物領の開拓を始める。
まずは、川を見付けたい。
さすがに、服も下着も靴下も履きっぱなしだから、洗濯したい。
体も、洗いたい。
タオルを濡らして拭いてはいるが、体の一部だけだ。
髭も濃い方ではないが、気になる程度に伸びてきている。
と言っても、まずは情報収集だ。
どんな魔物が居るのか、特徴、気を付けることをライナーたち5人に聞いていく。
魔物を駆逐していかないと、増えて人の住むエリアに、甚大な被害が出るという。
でも、開拓したら、逆効果だと思うんだけど、開拓は、王国の命令らしい。
話の中で、軍に関することも聞いた。
この王国では、第一師団から第八師団があり、第一は、王都とその周辺の警備。
第二、第三は、東にある「何とか帝国」の警戒。
第四、第五は、北エリアの警戒。
第六から第八が、西の魔物領を担当しているとのこと。
南は?そう、南は海で、辺境伯って人が、私軍で警備しているらしい。
塩や海産物で、大儲けしているから、王様から「自分で守れ」って言われたらしい。
世知辛いね。
西側には、砦が何か所かあって、持ち回りで勤務しているって言っていた。転勤族だね。
家族のこと聞いたら、砦の近くに街や村があって、そこに住んでいるらしい。
村って、閉鎖的なイメージがあるけど、こちらでは、兵士が、休日に家族の元へ来るから、盗賊など、不届き者の抑止力になるため、無料で家を提供してくれるほど、大歓迎らしい。
家族連れは村へ、単身者は街へ行くって。
それと、異世界人は、ほぼ第八の所属になると聞いた。
魔物と前線で戦うのが、第八であり、隷属の首輪のことも分かっているから。
前回の爬虫類型異世界人は、強かったらしい。
おかげで、第八軍団の質が下がり、いなくなってからが地獄だったと、ライナーがボヤいていた。
それから、エルフのことも聞いた。
ライナーは、直接関与したわけではないが、魔法に優れ、魔法陣が無くても、魔法が放てたという。
魔法陣で、更に魔法がブーストされたらしい。
ただ、非情に気が弱く、いちいち強く指示をしないといけないと、当時の指揮官から、愚痴を聞かされたと懐かしんでいた。
昨日の、治癒魔術師のエルフの女性は、爬虫類型異世界人の登場でお役御免になり、治癒魔術師になったということだ。
今は、馬車の中で寝ているらしい。
無下に扱っていないようで、少し安堵した。
そうそう、一番大事なことを聞きました。
この世界の暦です。
この世界の一日は25時間、一年は362日と言う、四季があり、季節で日を表すとのこと。暖の季節、暑の季節、涼の季節、寒の季節と言って、それぞれ90日あるそうだ。今日は暖の29日とのことだ。
暖の季節の初日が、新年になるとのこと。
そして、寒の季節90日の次の日が“終の日”、暖の季節1日の前の日が、“初の日”と言うらしい。大みそかと元日だね。
話し込んでいたら、太陽は大分高くなっていた。
ライナーたちは、昼ご飯の準備を始めた。
その間に、物置に戻り、開拓に必要な物を選んでいく。
ノコギリ、鍬、鉈に鎌を野球のバッグに入れ込み、肩に掛ける。
忘れていた畜魔石ひとつを、カーゴパンツの腿にある左のポケットへ入れる。
プロテクター、レガースを付け、相棒とも呼べる金属バットを持つ。
鎌や鉈は刃物なので、武器に成りうるが、リーチが短いため心許ない。
ライナーたちの昼飯を待って、西南へ向かうことにした。
ライナーたちは、馬での移動だが、自分の歩く速度より遅い。
何か考えなければ。
塀まで着くと、塀を跨ぎ、バッグの中身を出していく。
空になったバッグを持って、塀を再び超える。
馬から降りたライナーたちを、無造作にバッグに押し込み、持ち上げて塀を超える。
何か、罵倒が聞こえたが、気にしたら負けだ。
昨日、幅2m、奥行き3mほど、木を切り倒していた。
木の株が、まだ残っているので、鍬を振るい、取り除いていく。
ライナーたちには、近付かないように言い、周囲の警戒を頼む。
森の奥から、また音が聞こえる。
ドドドと、言う音が近付いてくる。
猿たちではなさそうだ。
気にせず鍬を振り上げると、音の主が現れた。
体高15センチほどの、トラだった。
鍬をそのまま下す。
運良く、運悪く⁉鍬の歯がトラの首を捉えた。
子猫を惨殺した。そんな気持ちしか湧かない。
事故だと、言い聞かせ、ライナーを呼ぶ。
ライナーは、首がもげた小トラを見て、
「これ、俊敏で凶悪なアーリータイガーですよ。罠とかで動きを封じないと…、これを一撃かよ」
と言って、難しい顔をしていた。
“アーリータイガー”、午前中のレクで聞いたかも。
早く複雑な動きをするため、なんたらかんたら…。
うん、一直線に来たぞ。
でもまだ、音が遠いと思っていたら、目の前にいたから、早いのか。
アーリータイガーの亡骸に、畜魔石をかざす。
これで、魔素が溜まるのか?
何の変化もないように感じるけど。
ある程度の時間、畜魔石をかざし、アーリータイガーの亡骸を、塀の方へ持っていく。
解体班に、後は任せる。
肉は食えないが、皮と牙が、高く売れるらしい。
切り株を片付け、奥へ奥へと木を切っていく。
魔物が、サイドや後ろから来ることを防ぐため、切った木は両サイドに積んでいく。
切っては、切り株を掘り起こし、整地していく。
中腰での作業も、キャッチャー仕込みのため、苦にはならない。
その後も、キングボアの小さい版(ビックボアと言っていた)や、20センチほどの熊っぽい魔物(ブラウンベアと言うらしい)を倒した。
何気に思う。
鍬、最強じゃね。
森の奥から、又、音が聞こえてくる。
カサカサと、一昨日聞いた音だ。
注意深く聞いてみると、複数の音が聞こえる。
猿だ。
確か、イービルモンキーと言っていた。
哲治は、身を起こし、反転して塀の方へ走る。
ライナーたちに、イービルモンキーの可能性を伝える。
ライナーたちに緊張が走る。
槍を置き、腰に佩いた剣を抜く。
すぐに現れた。
一昨日と同じような毛色。イービルモンキーだ。
哲治は、鍬をバットに持ち替え、正眼の構えのように立つ。
先頭の猿が、跳びかかってきた。
彼らの戦術なのか、一昨日と同じだ。
右足を引き、スクエアに構えると同時に、テイクバックし、ダウンスイング。
ジャストミート!
イービルモンキーは、他の猿を巻き添いに飛んでいく。
他の猿たちは、何が起こったか分からない様子で、固まっている。
哲治は、一番近い猿に走り込み、ゴルフスイングの要領で、走り打ちする。
ナイスショット!
猿たちは、一斉に逃げ出した。
ライナーたちは、唖然としている。
哲治は、「魔石の回収お願いします」と言って、伐採に戻った。
サクサク、木が倒せると言っても、切り倒した木を運んだり、積み上げたり、切り株を除去したりと、なかなか先へ進まない。
それでも、幅2mくらいで50mくらいは進んだと思う。
ライナーからは、
「あまり奥に行かず、手前の部分を広げた方が良いのでは」
と言われたが、
「これでいい」
と一言、言っておいた。
俺は、川を見つけたいのだ。
最優先任務。トッププライオリティーミッションなのだ。
日が傾きかけた頃、物置へ戻って行った。
今日は、残念ながら川の発見には、至らなかった。
持って行った畜魔石と、置いておいた畜魔石を比べてみたが、違いが分からない。
この透明な石に、魔素が溜まると乳白色になるらしい。
ルヴァンが、覗き込んでくる。
二つを並べて見せると、
「やはり、少し魔素が溜まっている」
と言った。…信じていいのか?
魔物を殺すことは、まだ慣れないが、イービルモンキーに対しては、何の抵抗もなかった。
それが良いことなのか、悪いことなのか判断できなかった。
ただ、あのスイング“芯食ったなー”と思っていた。




