第13話 運び屋 ライナー便
今回は、ライナー視点です。
ライナー・バルツは、砦内を駆けずり回っていた。
近隣の村や街へ、樽や食糧の提供を要請するよう部下たちに指示を出し、魔術師たちに、魔石入インクを分けてもらうよう頼みに行ったりしていた。
ジョンと話し合った結果。
砦全体、つまり第八師団の第2大隊と第4大隊全員で、巨人テツジ対策をすることになった。
召喚の失敗、30mほどの巨人の出現、人質の件、要求内容などを末端の兵士、魔術師にまで通達した。
事情が分かっていながら、魔術師たちがインクを出し渋ったのには腹が立った。
戦場、魔物の駆逐では、ほとんど役に立たない、名ばかりの“戦闘魔術師”。
火の玉や火炎を放つが、速度は遅いし、射程距離も短い。
すぐに魔力切れを起こし、役立たずどころか、お荷物になる。
軍部としては、異世界人召喚と、治癒魔法で助けられているので、無下にもできない。
ライナーは、苛立ちを抑えられないまま、第二陣の帰りを待っていた。
夜も更けたころ、ベッドを持って行った第二陣が戻ってきた。
テツジから渡されたという、キングボアのお土産付きだ。
キングボアの体高は人の倍はあり、本気で突進されれば、西の防壁も危ない。
人なんかは軽く吹き飛ばされてしまう。
テツジから見れば、ウサギを倒す程度のことかもしれない。
キングボアの肉は、高級品だ。
テツジの意図が分からないが、王都へ献上する必要はないだろう。
砦で、消費することに決めた。
早速、肉を一切れ貰い、焼いて食う。
血生臭い…血抜き失敗しているな。
まあ、でも旨いのは間違いない。
第八にグルメは、居ないだろう。
翌朝、日の出とともに西に向け、砦を発つ。
昨日と同じく、馬車3台だ。
また、何を要求されるかも分からないし、少しでも心象を良くするため、急いで召喚の館跡地、いや、“銀色の巨大建造物”へ向かう。
丘を登れば、目印ははっきり見えてくる。
ライナーは、昨日と同じ場所に、馬車を待機させ、馬から降りようとすると、昨日と同じ姿で椅子に座るテツジが、手招きをしていることに気付いた。
姿勢を直し、一団で向かう。
10mほど離れた場所で止まり、テツジに話しかける。
「ライナーです。昨日は失礼した。それと、キングボアの肉と皮素材有難く受け取った。かたじけない。食糧と水と、頼まれていたものをお持ちいたした」
テツジは頷くと、おもむろに立ち上がる。
やはりデカい。
恐怖心が、ライナーを襲う。
自分の気持ちが伝わったのか、馬が嘶く。
棹立ちになりそうなのを必死で抑える。
テツジは気にすることもなく、後ろを振り返り、空の荷車を運んできた。
こちらの馬車の近くに置き、今度は、樽が積んである荷車を慎重に運んできた。
御者が必死の形相で馬を抑える姿を見て、訓練され、サイクロプスにでさえ突進していく軍馬たちでも恐れ慄くのは、巨大だからという理由だけではないのかと、考えていた。
過去の異世界人。
自分は、爬虫類型の異世界人しか知らないが、勇猛であり、無謀であった。
自分も似たようなものだが、次元が違って見えていた。
異世界人とは、そういうものなのか、だから国は、異世界人に頼るのかもしれない。
御者たちが、馬を宥め馬車から外し、空の荷車へ繋ぎ直す。
それを横目で見ながら、ライナーは、テツジに向かい問う
「テツジ殿、他に必要なものはあるか?」
テツジは、椅子に座り直し、顎の手を当て、少し考えてから
「昨日、夕方に来た君たちの仲間が、帰る時に明かりを灯していたよね。あれ、提灯なのか、明かりの道具かわかんないけど、それがいくつか欲しい」
続けて、
「それと、火を熾す道具と、彼らの食器とカトr…スプーンとフォークだ。あと…そうそう、彼女たちの着替えだな」
「着替えは、今、近隣の街から取り寄せているので、明日までお待ちいただきたい。食器とカトラリーは失念していた申し訳ない。明かりの魔道具、火の魔道具と一緒に夕方に配達させよう」
ライナーは、頭を下げる。お詫びと、出立の合図だ。
テツジが、「ちょっと待って」と引き留める。
「この周辺に川とか、池は無いか?」
ライナーは、水が足りないなら、用意しようという言葉を飲み込んで、
「魔物の領域になるが、南西方向に行けば川があるはずだ。実際にこの目で見たわけではないので、断言はできない」
と、テツジに伝える。
テツジは、「ありがとう。南西だね」と言って、何度か頷いている。
「それと、出来たらでいいんだけど、魔物の解体ができる人を数人連れてきてくれないか?こちらに常駐できる人」
テツジが魔物を倒したら、解体してほしいということか
「ああ、それなら俺が残ろう。あと4人ほど残すので、それで良いか?」
チャンスだ。
テツジの情報を少しでも引き出せるかもしれない。それに、銀の建物の中を見られる可能性がある。
「う~ん。準備があるから、明日からでいいや。それとライナー隊長は却下で」
…読まれたか。焦りが顔に出ていることが、自分でもわかる。
「ハハハ、冗談冗談。そんな悲しい顔しなくても、ハハハ」
そう言って、テツジは笑って続ける
「準備があるから、明日ね」
テツジは立ち去れと言わんばかりに手を振る。
ライナーたちは砦へ向かい、少し早目の歩調で馬を進めた。
「顔に出ていたか」
ライナーは、誰にも聞こえない声量で独り言ちる。
建前をいくら思い描いても、本音は単純にテツジを知りたかった。
残虐、狂暴なのに、人質を交渉材料にもせず大切にする。
核心をつく発言があったり、調子外れな言動があったり、腹の中が全く見えない。不思議な人物だ。
ライナーの中で、得体の知れぬ恐怖心と、沸き起こる好奇心がマーブル模様を描いていた。




