第10話 初めての恐怖
また、主人公と別視点です。
前話の補完になります。セリフの重複はご容赦ください。
朝日が、砦に光を降り注ぎだした頃、ライナー・バルツは、鎧をまとい、砦の会議室へ向かう。
寝付けの一杯のおかげか、意外とぐっすりと眠れた。
今日の昼までに、召喚の巨人のところへ、食料と水を運ばなければならない。
もう一度、近衛兵のピピンに話を聞き、今後の体制を練る予定だ。
昨日に比べ、幾分か落ち着いたピピンに話を聞くと、巨人の条件は、食糧と水だけではなかった。
自身を“元の世界”へ戻すこと。
これは、難しい判断になりそうだ。
あの有名なルヴァン最上位魔術師が、返還魔法を開発すると約束をしたという。
巨人は、それを国がバックアップしろと、条件を付けてきている。
また、巨人は魔物領の開拓、魔物の駆逐を手伝っても良いと言っていたという。
第一師団の一中隊が、全滅したことを考えれば、とてつもない戦力だ。
知性も、力も併せ持っている。
コントロール出来れば良いが、敵対すれば、この砦は、かなりの痛手を食らうだろう。
巨人を刺激しないように、最少人数で行くことに決めた。
馬車3台に、騎馬10騎で向かう。
出発してほどなくすると、朝日を受け、銀色に光る建造物が微かに見える。
近づいていくほど、銀色の建造物の大きさに息を飲む。
ついに巨人と対面した。
ライナーは、馬から降り歩いて巨人に向かう。
敵対意識が無いことを見せるため、兜はかぶらず、槍と盾も持たない丸腰だ。
巨人は、奇妙な鎧を着ている。
金属製ではなく、布のような防具。
右手には細長い棒を持っている。――ピピンから、黒色のメイスのような武器で、召喚の館を破壊したと聞いた――
左手に持つのは、長方形の金属の盾だ。
特に異質だったのは、目の部分が虹色に光っている。やはり化物か。
一通り観察した後、ライナーは自己紹介をし、テツジであることを確認する。
こんな巨人が、複数居たら堪ったものではない。
ライナーの一番の目的は、テツジの考えを探ること。
その次は、あの建物の中を、少しでも確認することだ。
ピピンには悪いが、王女の安否は、優先順位が低い。
ピピンは今朝、貴族でありながら、庶民の俺たちに、「殿下をよろしく頼む」と頭を下げた。
王女はここに居ない。
考えられるのはあの建物の中だ。
そう推測し、テツジに聞く。
「リリアーナ王女陛下は、御無事か?」
「ああ。今のところは、生きている」
想定内の答えである。
「元気なお姿を確認したい!」
さあ、建物の扉を開けろ。
後ろには目の良い兵士を連れてきている。
「確認してどうする?助け出すか?」
「いや。テツジ殿が信に値すると、この目で見て、王国へ報告したい」
しかし、次の言葉は想定していなかった。
「ライナー隊長さん。俺は、この国に信用とか要らないよ。俺の要求が飲めないなら、自分で、食糧も水も手に入れるだけだから。ピピン君に聞いてないかな~。それに、この周りの状況、昨日の朝まではどんなんだったか、知らないのかな~」
ライナーは、周りを見る。
召喚の館が潰されたことは聞いていた。古い建物だから、脆くなっていたのかもしれないと考えていた。
ところが、兵舎、魔術師詰所、王族用の宿舎まで、一日で瓦礫に変わっていた。
背中に汗が流れる。
西にある防壁は、サイクロプスの攻撃にも耐えた。
それ以上の強度で作られた、王族用宿舎が跡形もない。
言葉を失う。
“大きいは脅威”、“殺戮兵器”、“隣の(帝)国”、その言葉がライナーに重く圧し掛かる。
自分自身の特性も、国の事情も理解している。
そして、手札は見せない狡猾さを持っている。
思った以上にヤバイ存在だ。
出来ることは、ただ要求を飲むだけだ。
ライナーは恐ろしかった。
頷くことさえできなかった。
膝が震え、立っているのがやっとだった。
“去れ”と手を振られた。
御者に声を掛けるのが精一杯だった。
走って、逃げたかったが、震える膝が言うことを聞かない。
何とか、一団の元へ行き、馬に跨る。
一度も振り返ることなく、砦を目指した。
砦に着くと、すぐにベッドと寝具、湯浴み一式を用意して、召喚の館跡地へ持っていくよう指示を出す。
また、明日の朝までに食糧と水、羊皮紙などを用意するよう重ねて指示を出す。
ライナーは、駆けるように会議室へ向かう。
会議室には、第4大隊長のジョン・ルーコリルが待っていた。
ジョンは、何も言わず、席を勧める。
ライナーは、部下に水を一杯貰い、一気に飲み干してから話し出す。
「あれは駄目だ。敵対しては、駄目な相手だ。サイクロプスが、赤ん坊に見えるぜ。王国を潰すって、過大な表現じゃない。誰から聞き出したか分からんが、帝国のことも知っている。暴れたら、隣の国がどう動くかな、なんて呑気に言いやがった。対等な交渉は無理だ。何て言うか…多分、政治屋の貴族が交渉したら、裏を見抜いて、最悪の結末しか見えね…」
捲し立てるように言い放つ。
ジョンは、ライナーがこれほど弱気になるところを初めて見た。
酒場で殴られてからの付き合いだ。短くはない。
「王都に、新たに伝令を出すか?それとも、お前が第八師団長のところへ報告に行くか?」
ジョンは、務めて冷静に言葉を発する。
「いや、俺はここに残る。初めて、心の底から恐怖ってやつを感じたよ。あの巨人…テツジには、感謝しないとな」
自嘲気味に笑う。
「明日からも、食料と水の配達は俺がやる。交渉とか、情報を引き出そうとか、考えていない。単なる配達屋だ」
「そうだな。何度か顔を合わせれば、向こうも気を許すかもしれん。頼んだぞ」
そう言って、ジョンはライナーの肩を軽く叩いた。
次回は明日、お昼ごろ投稿予定です。
宜しくお願いします。




