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夫が離婚を叫ぶが三ヶ月前に離婚は受理されていると言うとウソをつくなと暴れて掴みかかってくる。元夫は普段から離婚されたくないんだろうと脅して来たのでわざわざ先手を打ったのに喜ぶどころか怒るなんて予想内

作者: リーシャ

「お前とは離婚する!」


 婚約破棄が主流なのに離婚を叫ばれたリテール。


 婚約破棄が流行っているからと離婚でも同じことができるのではないかと、バカな男達がシガールームで話してから離婚を叫ぶ人が増えた。リテールも叫ばれたが、冷えた眼差しを浮かべて冷静にゆるりと答えた。


「離婚なら三ヶ月前にしてますよ」


 その時の男の顔と来たら。事実確認くらい、叫ぶ前にすればよかったのに。呆れたら周りも囁く。


「嘘でしょ離婚したことも気付かないで離婚を宣言したの?」


 ヒソヒソと。恥をかいたのは男の方だった。周りに言い訳や理由を述べるのもののどれこれも理由になんてならない。執務もこなしてないことが逆に明らかになっただけ。


 手紙を読んでない、届いてない。届いているのは確認ができるのですぐわかる嘘を言うのはやめていただきたいと元妻が反論する。完璧なる敗北だ。


「り、離婚したのか?本当に?」


「あなたが常々離婚してやる。離婚されたくないのか。離婚されたくなかったらと脅されるのが苦痛でたまらなかった。もうくだらない理由で脅されなくなるのなら、脅しを本当にして解放されたいと思うのは当然じゃないですか」


 そもそもと元妻が語る内容に夜会に集まった人たちがだんだん元夫に冷えた視線をやる。

 婚約者時代から「婚約破棄されたくないだろ」と精神的な苦痛を与えて女の婚約者を自分の意のままに操ろうとしていた。

 なにか不満があったり、こちらが意見を言うと嫌だったのか不快げに婚約破棄されたいのかと反論できない言葉を繰り返す。


 何度かじゃあしますかと聞くとバカにした顔で本気にするのか?

 本気にしたのか?バカじゃないのか、頭が足りないのか?と女を頭のおかしなことを言う風にすり替えることをする、卑怯者。言い出したのは男の方なのに、だ。


 こっちも言い返したかったが、冗談を本気にするなとニヤニヤ笑う。こっちが本気に取った途端に嘘を言いましたとすり替える、後出しジャンケン。


「本当に離婚したのか……あ、ありえない」


 あり得ないのは男の方である。離婚すると言ったくせに先回りして離婚しておいたと言ったら嘘だ嘘だと言い始める。くだらない性格をしている。

 どうせ、あの男はこちらが縋り付いたり悲しんだりするのを待っていたのだろう。最低過ぎる。


「よかったではないですか。もっと喜んでください」


 喜んで然るべき。そうでしょ?男に笑みを向けて首を傾げた。しかし、彼はこちらを見ているようで見ておらず、ぶつぶつと呟く


「そんなっ。わ、私から言うことだったのにっ。なんてことをしてくれた!勝手に!」


 逆ギレし始めた男に、周りが哀れさにクスクス笑い始める。


「奥様が夫ぎみのために先んじてやってくれたのに怒るなんて。甲斐のない人ですわ」


「本当に本当に。おまけに常々離婚すると脅して押さえつけようとは紳士の風上にもおけない」


 元夫を完全にバカにする対象と見定めた社交界に参加している面々。バカにされた男の顔が真っ赤に染まるのはなんの感情か。


「リテール!!貴様!」


 耐えきれなかったのか、こちらへ来ようとした男の行く手を遮るように背中が見えた。


「な、なんだ?お前は誰だ。邪魔するなっ」


 しかし、遮ってきた男は関係ないと、相手をキツく問いただした。


「もうなんの関係もない男が少しでも彼女に触れたら、そのときはお前の手をへし折る」


「なっ!ぶぶぶ無礼だぞ!?退け!」


 とにかく、元妻に接触したくて近寄ろうとする。もう関係は切れているのにまだ自分の物だと思っているのが見て取れた。相変わらず頭が悪い。


「さっきの言葉が聞こえていなかったのか?書類上の夫婦関係は三ヶ月前に終わってると。三分も経ってないのに頭の中から消えたのか?聞いているが、聞こえないふりをしているのか?頭の悪いフリは得意だからと、やり過ぎだ」


「は、ば、バカにするな!当事者でもない男が!あ、まさかその女と浮気をしていたな!」


 さらに掴み掛かろうとして男に腕を捻りあげられる。


「私は隣国の辺境伯だが、これは正当防衛であり重大な国際問題になる。私に怪我をさせようと今確認した。それとも私を殺そうと?ああ!暗殺か!それは大変だ!今すぐ捕まえろ!」


 芝居ががかっているのに、迫真過ぎて周りは把握する前にことが進むので、この国の兵たちが元夫を現行犯で捕まえる。


「離せー!」


 周りは何が起こったのかわからないので、本当に暗殺事件が起こったのかと囁きあう。


「暗殺?」


 実質元夫はもうレッテルを貼られたも同然。そんな真実はどこにもないが先に言ったもの勝ち。


「ああ、暗殺だって!うちの国の貴族が!賠償金を払わないといけなくなるのでは?」


「なんたることだ!やってくれたなっ」


 皆は加害者の発言を全面的に流し始めて、事実は暗殺未遂に変化した。暗殺なんて何一つないと言うのに。可哀想な元旦那だ。他国の要人を襲ってしまった物語が出来上がってしまった。


 カルギュミーがこちらを向いてリテールへ心配そうな顔をしてくる。とても優しい人だから、今回の事件もハラハラして見ていたのだろう。申し訳ないことをさせてしまった。


「すみませんカルギュミー」


「いや、無事ならいい」


 ホッとした緩んだ空気。


「ありがとうございます。あなたがいてくれたから同じ空間に居られました」


 彼とは元夫と結婚する前に図書館で出会った友人だった。すでに婚約者がいたので、恋心は封印していたのだが離婚する前から相談に乗ってもらっていた彼が次の仕事先を手配してくれた。


 彼の国、彼の屋敷のメイド。実家には戻れないのでありがたく身を寄せた。けれど、驚いたことにメイドはメイドでも仕事が全くなかったのだ。殆ど客人扱いで。やることと言えばお茶を出す係程度。

 そんなの話が違うと言ったのだが、あとでちゃんと紹介するが。まずはこの国のことを知ることから始めてみては、と提案されて口を閉じるしかない。彼の言葉は的を得ていた。


 確かに国のことを知らずに、いきなり本格的に働くのは難しいのだろう。


「まだお茶汲みから卒業させてくれないのですか?」


「そうだな……そろそろ、変更しようか」


 今回の夜会は彼のメイドとしてついて来たのに、到着したら身体のラインにぴったりのドレスを用意されておりエスコートの同伴者として手を握られていた。

 雇い主からのオーダーとなれば、断れるわけがない。渋々出た先でまさか、離婚のことを知らない夫に出会うとは思わなかったけど。本当に知らなかったことに驚いた。


「そろそろ、メイドから花嫁修行に業務変更しよう」


「え、はな、よめ?」


 一度結婚したので、もうしたくないのだけれど。顔をしかめて首を振る。


「嫌です。私はもうウンザリなので花嫁なんてなりません」


「そうなのか?」


「ええ!」


 顔を見て目を合わせるとカルギュミーはニッと、イタズラする子供のような顔をして懐から箱を取り出した。箱を開けるとこちらに向けて見せる。


「これを渡そうと思ってたのだがな?」


 純粋な光を纏う指輪が一つ、収められていた。輝きに声を失わせていると彼はさらに声を出して笑う。


「婚約者になってほしかった。メイドの仕事も一緒に同棲したいという私のエゴ。こんなバカな男の哀れな求婚をどうか……受けてもらえないか?」


 唐突な指輪と求婚の言葉に口を開けて彼の顔を凝視。すぐに目からポロッと涙が溢れる。


「ダメ、だったか?怖いだろう。友人ぶってた男からのアピールは。すまない」


 そう言って指輪の箱を閉じようとした手首を掴む。ブンブンと首を必死に振る。やめてほしくない。


「わ、私も!私も、あなたがずっと好きでした。今も、好きで……必死に気持ちを隠してました」


 言葉で今までの想いを告げる。彼はパッと顔を上げて笑みを浮かべると頷き、指輪を手に取りリテールの指にはめてくれた。


「嬉しい」


 あまりの嬉しさに気絶したくなる。


「受けてくれてありがと。大切にする」


 抱きしめてくれた体温は、今までの渇ききった心をたくさん潤す。彼のおかげで温かいものが流れ込む。抱きしめ返すと指輪の感触を強く感じられた。


 その後は、元夫は他国の招待された貴族を害したとして自国の国王から有罪を言い渡された。誠意を見せるための見せしめ。

 たいしたことのない爵位だったので、爵位は取り上げられて平民に落ちた。元妻と離婚していたのに離婚を告げる、という精神的な疑いも兼ねられているとか。確かに知能を疑う叫びだった。


「あの男は平民に落とされたあと、強制労働に課せられている」


 カルギュミーに報告書を見せられた。説明を受けて、こくりと頷いた。この罪と罰が確定するのが早かった。国王自ら言い渡したのでスピード感があったと祖国でもセンセーショナルな事件となっている。

 やはり、他国に自分たちの国は安全ですといった周知を急いだと思われた。その生贄にされたのだろう。哀れ、元夫。全く可哀想とは思わないけど。


「もう二度と会わない。でも、会いに行きたいか?」


「とんでもない。二度と声も聞きたくなんてありません」


 気遣いの角度が少しズレている男に苦笑する。説明とか事情を言っていたが、彼が思っているよりも愛のない冷めた生活だったのだ。情なんて生まれる余地は一ミリもない。


「そうか。あちらはどうも未練があるらしく、リテールの名を繰り返して呼んでいるらしい」


「あれだけ私に言っておいて未練?よくわかりません」


「好きだったのかもしれない」


「え?好き?え?は?」


 目をぱちぱちさせた。


「男は好きな女にしばしば、暴言を吐いて好きな気持ちを表現するものがいる」


「小さな子どもの頃の話ですよね?」


 あっけに取られて聞くと彼は首を振る。それは違うと言う意味?


「残念ながら大人にもそういう体質がなくならず残ってしまう者はいるとか」


「え?なんて迷惑な……」


 ということは、好きな女に暴言を吐きためし行為で愛や恋を見出そうとしていたといったことになる。ゾッとした。大人が子ども以下な心を持って夫婦生活を送っていたなんて。

 ましてや、それが元夫なんて最悪だ。そんなの最初から破綻するに決まっている。


「気にするなとは言えないが、もう忘れて次の生活を楽しめばいい」


 慰められたけど暫く忘れられそうにない。今も元妻の名を呼ぶ男が悪夢に出てこないように、しっかり抱きしめてもらわないと。


「カルギュミー、抱きしめてください」


 見つめると彼は足早に距離を詰めて、ぐっと背中に手を回してくれた。肩に顔を乗せると幸せに目を伏せる。

 再婚できるとも、恋をした相手と結婚できるなんて夢見たい。


 こっちが夢ではないと、微笑みながら彼の囁く言葉を受け止める。

 彼のためなら社交だってお茶を入れる役目だって苦じゃない。なんだってできる気になれた。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。他の作品もたくさんありますのでよければ

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