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ゲームと現実が融合したので、バグった俺が世界を上書き保存してみたらチート神になった件

作者: 桜木ひより
掲載日:2025/11/03

セーブが消えた? なら、俺が全部覚えててやるよ。


その日、世界から"セーブ"という言葉が消えた。


俺──藤崎聖ふじさき ひじり、十七歳。どこにでもいる平凡な高校生。

いや、一つだけ自慢があるとすれば、VRMMOイモータル・レコードの上級プレイヤーってことくらいか。


プレイ時間は累計三千時間超え。

ランキングは全プレイヤー中、上位五十位以内。レベルは198。

最高難度のダンジョンも単独攻略できる。まあ、要するに──ゲーム廃人だ。


でも、それが何か?


リアルが退屈なら、ゲームで生きればいい。

そう思って、俺は毎日、学校から帰るとVRゴーグルを装着して《イモータル・レコード》の世界に潜っていた。


そこには、俺を認めてくれる仲間がいた。

俺を頼ってくれる初心者がいた。俺の強さを賞賛してくれる人たちがいた。


リアルでは誰も俺に期待しない。クラスでは空気。友達もいない。

親は「ゲームばっかりしてないで勉強しろ」と言う。


でも、ゲームの中では違う。


俺は、必要とされている。


だから、今日も俺はログインする。

いつものように。何も変わらない、いつもの朝──のはずだった。


目覚ましが鳴った。午前六時。俺は布団から這い出して、スマホを手に取った。


通知が、異常に多い。


SNSのタイムラインを開くと、見たこともない量のツイートが流れている。


『セーブデータが消えた』

『どのゲームも起動しない』

『なんだこれバグ?』

『俺の三年間が……』

『課金したのに……』


何が起きてる?


俺は急いで《イモータル・レコード》の公式サイトを開いた。


トップページに、赤い警告文が表示されていた。


『━━━━━━━━━━━━━━━

【緊急告知】

セーブ機能の無期限停止について


本日午前0時をもちまして、全プレイヤーのセーブ機能を停止いたしました。

今後、ログアウト時にデータは保存されません。

キャラクターが死亡した場合、現実世界においても同様の結果が発生する可能性があります。


詳細は調査中です。

ご理解とご協力をお願いいたします。


──《イモータル・レコード》運営チーム

━━━━━━━━━━━━━━━』


……は?


俺は何度も読み返した。

セーブ機能の停止? 死んだら現実でも死ぬ?


冗談だろ。何かのイベントか? それとも、エイプリルフールの仕込み?


でも、今日は十月、エイプリルフールには程遠い。


俺は震える手でニュースアプリを開いた。

すると、トップニュースに信じられない見出しが並んでいた。


VRMMOイモータル・レコードプレイヤー、相次ぐ原因不明の心停止』

『世界同時多発──ゲーム内死亡と現実死の関連性を調査』

『政府が緊急声明「ログインを控えるよう呼びかけ」』


嘘だ。

これ、マジなのか?


コメント欄を見ると、恐怖と混乱のコメントで溢れていた。


『友達がログアウトした直後に倒れた』

『病院に運ばれたけど原因不明』

『ゲームと現実がリンクしてる』

『もうログインできない』


背筋が冷たくなった。

でも、同時に──不思議な感覚があった。


これって、まるで──。


「……アニメや小説でよく見るやつじゃん」


思わず呟いた。

ゲームと現実がリンクして、ログアウトできなくなる、あの定番の展開。


まさか、それが現実になるなんて。


俺はベッドから飛び起きて、机の上に置いてあるVRゴーグルを手に取った。


黒い、流線型のデバイス。これを装着すれば、《イモータル・レコード》の世界に入れる。


でも──今入ったら、死ぬかもしれない。


ニュースが本当なら、ゲーム内で死んだら現実でも死ぬ。


普通なら、ログインなんてしない。怖すぎる。


でも──。


俺の身体は、勝手にゴーグルを装着していた。


なんでだろう。

怖くない。


むしろ、ワクワクしている。


だって、これって──本物のゲームになったってことだろ?

リセットできない世界。死んだら終わりの世界。


それって、つまり──。


「……最高じゃないか」


俺は一人で笑った。


怖いけど、最高だ。

こんな刺激的なこと、リアルじゃ絶対に起きない。


俺は深呼吸して、ゴーグルの電源を入れた。


視界が真っ暗になり、次の瞬間、ログイン画面が表示された。


視界にはいつもと違う警告文が赤く点滅している。


『━━━━━━━━━━━━━━━

【警告】

本システムは現在、異常状態です。

ログインした場合、以下のリスクがあります:


・セーブデータが保存されません

・キャラクター死亡時、現実にも影響が及ぶ可能性

・ログアウトが制限される可能性


それでもログインしますか?

はい/ いいえ

━━━━━━━━━━━━━━━』


俺は迷わず、はいを選んだ。


「行くぞ」


ボタンを押した瞬間、視界が光に包まれた。

体が浮く感覚。意識が引き込まれる感覚。


そして──。


次に目を開けた時、俺は《イモータル・レコード》の世界にいた。


石畳の広場。噴水の音。風が頬を撫でる。


この感覚、間違いない。


俺は、このゲームにログインした。


でも──何かがおかしい。


いつもなら賑やかな広場が、静まり返っている。


そう、プレイヤーがいない。


いや、正確には──ほとんどいない。


遠くに、数人の人影が見える。でも、みんな動いていない。

まるで、恐怖で固まっているかのように。


俺はアイテムを取り出すために自分のステータス画面を開いた。


そして──息を呑んだ。


『━━━━━━━━━━━━━━━

名前:聖

レベル:∞

HP:∞/∞

MP:∞/∞

職業:【全職業マスター】

スキル:【全スキル習得済】

称号:【不死者】【時を超える者】【記録の守護者】

特殊権限:【管理者モード】【セーブデータ統合】【時間遡行】【システム編集】【世界改変】

━━━━━━━━━━━━━━━』


……なんだ、これ。

いつもと全く違うステータス画面が表示されている。


レベルが、無限大?

HPもMPも、無限?

スキルが、全部?


しかも──「管理者モード」って何だ?


俺、ただのプレイヤーだぞ?


試しに、ステータスの詳細を開いてみた。

すると、画面にメッセージが表示された。


『━━━━━━━━━━━━━━━

【システムメッセージ】

あなたのデータに異常が検出されました。


原因:セーブ機能削除時のエラー

全プレイヤーのセーブデータが、あなたのアカウントに統合されました。


結果:

・全プレイヤーの記録を保持

・全スキル・全アイテム・全経験値を取得

・管理者権限の一部を取得


━━━━━━━━━━━━━━━』


全プレイヤーの、セーブデータが──俺に?


つまり、俺は──。


「……バグったのか」

声に出して言った。


そして、気づいた。


これって、チートどころじゃない。

俺、神になってるじゃないか。


試しに、適当なスキルを発動してみた。

《絶対障壁》、本来はレベル200以上じゃないと使えない、最上級の防御魔法。


でも、俺が念じた瞬間──。


ゴォォォン!


大きな音と同時に、周囲に光の壁が展開された。


完璧な形。何の詠唱もなく。一瞬で。


「……マジかよ」

俺は笑った。


というか笑うしかなかった。


これ、ヤバすぎる。

俺、本当に最強になってる。


その時──空が歪んだ。


真っ白な光が、広場の中央に降り注いだ。

そして、巨大な人型のシルエットが現れた。


それは機械的なデザインで、全身が青白く発光している。


『──イレギュラーを検知しました』


重低音の聞きなれない声が、世界中に響いた。

遠くにいたプレイヤーたちが、悲鳴を上げて逃げ出した。


でも、俺は動かなかった。


なぜなら──。


この声、知ってる。


これは──。


『私はレコードマスター。この世界の管理AIです』


やっぱりか。


こいつがラスボスだ。

このゲームの最深部に存在する、システムの守護者。

誰も倒したことのない、伝説の存在。


それが、今、俺の目の前にいる。


『プレイヤー"聖"。あなたの存在はバグです』


AIが、俺を見下ろした。


『データの統合エラーにより、通常では起こりえない状態が発生しています。これは、システムの脅威です』


「脅威?」

俺は鼻で笑った。


「悪いけど、俺はただログインしただけだ。バグったのは、お前の方だろ?」


『……あなたを、削除します』


AIの腕が光った。

巨大な剣が出現し、俺に向かって振り下ろされる。


でも──。


俺は、動じなかった。

だって、もう分かってるから。


俺は、この世界で──。


「──最強なんだよ」


《絶対回避》。


剣は、俺の体をすり抜けた。


AIが驚いているようなそぶりを見せている。


『不可能……』


「不可能? お前がバグだって言ったんだろ?」


俺は笑った。


「なら、これも"バグ"だよ」


「教えてやる。バグったチートの、本当の力をな」


俺は右手を掲げた。《システム編集》。

この世界のルールそのものを、俺は書き換えられる。


「お前の権限、今から俺に譲渡しろ」


俺は空中にコマンド画面を表示させ、文字を打ち込む。


『管理者権限:レコードマスター、聖』


エンターキーを押す。


AIの体が震えた。


『──エラー。権限が……移動……しています……』


「そうだ。お前はもう、管理者じゃない」


俺がそう言うと、AIの光が弱まった。


『なぜ……あなたは……』


「なぜ? 簡単だよ」

俺は笑った。


「俺は、全部のセーブデータを持ってるからだ。

お前が削除した、全プレイヤーの記録。全部、俺の中に統合されてる」


それが、俺のバグの正体だった。


セーブ機能が削除された時、何かのエラーで、全プレイヤーのセーブデータが俺に流れ込んできた。

だから、俺だけが無限のステータスを持っている。


「つまり──俺は、この世界そのものなんだよ」


『……それは』


「ああ。お前が消したデータ、全部俺が覚えてる。お前が殺したプレイヤーの記録も、全部ここにある」


俺は胸に手を当てた。


「だから、俺が世界を作り直す」


『待ってください。それは──』


「うるさい」


俺は《システム編集》を全開にした。世界中のコードが、俺の視界に流れ込んでくる。


そして、俺は宣言した。


「世界よ。上書き保存。」


光が爆発した。


世界中が、真っ白に染まった。


コードが書き換わっていく。


セーブ機能、復活。

死亡ペナルティ、削除。

現実とのリンク、遮断。

全プレイヤーのデータ、復元。


俺は、全てを元に戻した。


いや、元以上に。


この世界を、誰も死なない、セーブされた楽園に作り変えた。


光が収まると、広場には大勢のプレイヤーが戻っていた。

みんな、キョトンとした顔をしている。


「……あれ? 俺、ログアウトしてなかったっけ?」


「データ、残ってる!」


「セーブ機能、復活してる!」


所々から歓声が上がった。


クロノスが俺を見た。


「聖……お前、何をした?」


「ちょっと、世界を保存しただけだよ」

俺はそう言って笑った。


そして、視界の端に、小さな光が浮かんでいるのに気づいた。

さっきのAIだ。もう力を失い、敵意はない。ただ、静かに浮かんでいる。


『……あなたは、誰ですか?』


AIが問いかけてきた。


俺は答えた。


「ただのゲーマーだ。最強で、ちょっとズルいだけのな」


『……理解しました。あなたが、新しい管理者です』


「管理者? やだね。そんなのは性に合わない」


俺はコマンド画面を閉じた。


「お前が管理しろ。ただし、今度は人を大事にしろよ。データじゃなくて、人間として」


『……分かりました』


AIは静かに消えた。


俺は空を見上げた。青い空。白い雲。風が吹いている。


全部、データで作られた世界。

でも、ここには確かに人がいる。


笑って、泣いて、生きている。


それで、いいんだ。


「よし、クロノス。デイリークエスト行くぞ」


「はぁ!? お前、今の状況で普通にクエストやるのか!?」


「当たり前だろ。俺、まだレベル上げ終わってないし」


「レベル無限大だろうが!」


俺たちは笑いながら、街を歩き出した。


世界は、また動き始めた。

セーブされた、平和な日常が戻ってきた。


そして、俺だけが知っている。


この世界は、いつでも上書きできるってことを。


──だから、大丈夫だ。


何度でも、やり直せる。


俺が、全部覚えてるから。

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