ゲームと現実が融合したので、バグった俺が世界を上書き保存してみたらチート神になった件
セーブが消えた? なら、俺が全部覚えててやるよ。
その日、世界から"セーブ"という言葉が消えた。
俺──藤崎聖、十七歳。どこにでもいる平凡な高校生。
いや、一つだけ自慢があるとすれば、VRMMOの上級プレイヤーってことくらいか。
プレイ時間は累計三千時間超え。
ランキングは全プレイヤー中、上位五十位以内。レベルは198。
最高難度のダンジョンも単独攻略できる。まあ、要するに──ゲーム廃人だ。
でも、それが何か?
リアルが退屈なら、ゲームで生きればいい。
そう思って、俺は毎日、学校から帰るとVRゴーグルを装着して《イモータル・レコード》の世界に潜っていた。
そこには、俺を認めてくれる仲間がいた。
俺を頼ってくれる初心者がいた。俺の強さを賞賛してくれる人たちがいた。
リアルでは誰も俺に期待しない。クラスでは空気。友達もいない。
親は「ゲームばっかりしてないで勉強しろ」と言う。
でも、ゲームの中では違う。
俺は、必要とされている。
だから、今日も俺はログインする。
いつものように。何も変わらない、いつもの朝──のはずだった。
目覚ましが鳴った。午前六時。俺は布団から這い出して、スマホを手に取った。
通知が、異常に多い。
SNSのタイムラインを開くと、見たこともない量のツイートが流れている。
『セーブデータが消えた』
『どのゲームも起動しない』
『なんだこれバグ?』
『俺の三年間が……』
『課金したのに……』
何が起きてる?
俺は急いで《イモータル・レコード》の公式サイトを開いた。
トップページに、赤い警告文が表示されていた。
『━━━━━━━━━━━━━━━
【緊急告知】
セーブ機能の無期限停止について
本日午前0時をもちまして、全プレイヤーのセーブ機能を停止いたしました。
今後、ログアウト時にデータは保存されません。
キャラクターが死亡した場合、現実世界においても同様の結果が発生する可能性があります。
詳細は調査中です。
ご理解とご協力をお願いいたします。
──《イモータル・レコード》運営チーム
━━━━━━━━━━━━━━━』
……は?
俺は何度も読み返した。
セーブ機能の停止? 死んだら現実でも死ぬ?
冗談だろ。何かのイベントか? それとも、エイプリルフールの仕込み?
でも、今日は十月、エイプリルフールには程遠い。
俺は震える手でニュースアプリを開いた。
すると、トップニュースに信じられない見出しが並んでいた。
『VRMMOプレイヤー、相次ぐ原因不明の心停止』
『世界同時多発──ゲーム内死亡と現実死の関連性を調査』
『政府が緊急声明「ログインを控えるよう呼びかけ」』
嘘だ。
これ、マジなのか?
コメント欄を見ると、恐怖と混乱のコメントで溢れていた。
『友達がログアウトした直後に倒れた』
『病院に運ばれたけど原因不明』
『ゲームと現実がリンクしてる』
『もうログインできない』
背筋が冷たくなった。
でも、同時に──不思議な感覚があった。
これって、まるで──。
「……アニメや小説でよく見るやつじゃん」
思わず呟いた。
ゲームと現実がリンクして、ログアウトできなくなる、あの定番の展開。
まさか、それが現実になるなんて。
俺はベッドから飛び起きて、机の上に置いてあるVRゴーグルを手に取った。
黒い、流線型のデバイス。これを装着すれば、《イモータル・レコード》の世界に入れる。
でも──今入ったら、死ぬかもしれない。
ニュースが本当なら、ゲーム内で死んだら現実でも死ぬ。
普通なら、ログインなんてしない。怖すぎる。
でも──。
俺の身体は、勝手にゴーグルを装着していた。
なんでだろう。
怖くない。
むしろ、ワクワクしている。
だって、これって──本物のゲームになったってことだろ?
リセットできない世界。死んだら終わりの世界。
それって、つまり──。
「……最高じゃないか」
俺は一人で笑った。
怖いけど、最高だ。
こんな刺激的なこと、リアルじゃ絶対に起きない。
俺は深呼吸して、ゴーグルの電源を入れた。
視界が真っ暗になり、次の瞬間、ログイン画面が表示された。
視界にはいつもと違う警告文が赤く点滅している。
『━━━━━━━━━━━━━━━
【警告】
本システムは現在、異常状態です。
ログインした場合、以下のリスクがあります:
・セーブデータが保存されません
・キャラクター死亡時、現実にも影響が及ぶ可能性
・ログアウトが制限される可能性
それでもログインしますか?
はい/ いいえ
━━━━━━━━━━━━━━━』
俺は迷わず、はいを選んだ。
「行くぞ」
ボタンを押した瞬間、視界が光に包まれた。
体が浮く感覚。意識が引き込まれる感覚。
そして──。
次に目を開けた時、俺は《イモータル・レコード》の世界にいた。
石畳の広場。噴水の音。風が頬を撫でる。
この感覚、間違いない。
俺は、このゲームにログインした。
でも──何かがおかしい。
いつもなら賑やかな広場が、静まり返っている。
そう、プレイヤーがいない。
いや、正確には──ほとんどいない。
遠くに、数人の人影が見える。でも、みんな動いていない。
まるで、恐怖で固まっているかのように。
俺はアイテムを取り出すために自分のステータス画面を開いた。
そして──息を呑んだ。
『━━━━━━━━━━━━━━━
名前:聖
レベル:∞
HP:∞/∞
MP:∞/∞
職業:【全職業マスター】
スキル:【全スキル習得済】
称号:【不死者】【時を超える者】【記録の守護者】
特殊権限:【管理者モード】【セーブデータ統合】【時間遡行】【システム編集】【世界改変】
━━━━━━━━━━━━━━━』
……なんだ、これ。
いつもと全く違うステータス画面が表示されている。
レベルが、無限大?
HPもMPも、無限?
スキルが、全部?
しかも──「管理者モード」って何だ?
俺、ただのプレイヤーだぞ?
試しに、ステータスの詳細を開いてみた。
すると、画面にメッセージが表示された。
『━━━━━━━━━━━━━━━
【システムメッセージ】
あなたのデータに異常が検出されました。
原因:セーブ機能削除時のエラー
全プレイヤーのセーブデータが、あなたのアカウントに統合されました。
結果:
・全プレイヤーの記録を保持
・全スキル・全アイテム・全経験値を取得
・管理者権限の一部を取得
━━━━━━━━━━━━━━━』
全プレイヤーの、セーブデータが──俺に?
つまり、俺は──。
「……バグったのか」
声に出して言った。
そして、気づいた。
これって、チートどころじゃない。
俺、神になってるじゃないか。
試しに、適当なスキルを発動してみた。
《絶対障壁》、本来はレベル200以上じゃないと使えない、最上級の防御魔法。
でも、俺が念じた瞬間──。
ゴォォォン!
大きな音と同時に、周囲に光の壁が展開された。
完璧な形。何の詠唱もなく。一瞬で。
「……マジかよ」
俺は笑った。
というか笑うしかなかった。
これ、ヤバすぎる。
俺、本当に最強になってる。
その時──空が歪んだ。
真っ白な光が、広場の中央に降り注いだ。
そして、巨大な人型のシルエットが現れた。
それは機械的なデザインで、全身が青白く発光している。
『──イレギュラーを検知しました』
重低音の聞きなれない声が、世界中に響いた。
遠くにいたプレイヤーたちが、悲鳴を上げて逃げ出した。
でも、俺は動かなかった。
なぜなら──。
この声、知ってる。
これは──。
『私はレコードマスター。この世界の管理AIです』
やっぱりか。
こいつがラスボスだ。
このゲームの最深部に存在する、システムの守護者。
誰も倒したことのない、伝説の存在。
それが、今、俺の目の前にいる。
『プレイヤー"聖"。あなたの存在はバグです』
AIが、俺を見下ろした。
『データの統合エラーにより、通常では起こりえない状態が発生しています。これは、システムの脅威です』
「脅威?」
俺は鼻で笑った。
「悪いけど、俺はただログインしただけだ。バグったのは、お前の方だろ?」
『……あなたを、削除します』
AIの腕が光った。
巨大な剣が出現し、俺に向かって振り下ろされる。
でも──。
俺は、動じなかった。
だって、もう分かってるから。
俺は、この世界で──。
「──最強なんだよ」
《絶対回避》。
剣は、俺の体をすり抜けた。
AIが驚いているようなそぶりを見せている。
『不可能……』
「不可能? お前がバグだって言ったんだろ?」
俺は笑った。
「なら、これも"バグ"だよ」
「教えてやる。バグったチートの、本当の力をな」
俺は右手を掲げた。《システム編集》。
この世界のルールそのものを、俺は書き換えられる。
「お前の権限、今から俺に譲渡しろ」
俺は空中にコマンド画面を表示させ、文字を打ち込む。
『管理者権限:レコードマスター、聖』
エンターキーを押す。
AIの体が震えた。
『──エラー。権限が……移動……しています……』
「そうだ。お前はもう、管理者じゃない」
俺がそう言うと、AIの光が弱まった。
『なぜ……あなたは……』
「なぜ? 簡単だよ」
俺は笑った。
「俺は、全部のセーブデータを持ってるからだ。
お前が削除した、全プレイヤーの記録。全部、俺の中に統合されてる」
それが、俺のバグの正体だった。
セーブ機能が削除された時、何かのエラーで、全プレイヤーのセーブデータが俺に流れ込んできた。
だから、俺だけが無限のステータスを持っている。
「つまり──俺は、この世界そのものなんだよ」
『……それは』
「ああ。お前が消したデータ、全部俺が覚えてる。お前が殺したプレイヤーの記録も、全部ここにある」
俺は胸に手を当てた。
「だから、俺が世界を作り直す」
『待ってください。それは──』
「うるさい」
俺は《システム編集》を全開にした。世界中のコードが、俺の視界に流れ込んでくる。
そして、俺は宣言した。
「世界よ。上書き保存。」
光が爆発した。
世界中が、真っ白に染まった。
コードが書き換わっていく。
セーブ機能、復活。
死亡ペナルティ、削除。
現実とのリンク、遮断。
全プレイヤーのデータ、復元。
俺は、全てを元に戻した。
いや、元以上に。
この世界を、誰も死なない、セーブされた楽園に作り変えた。
光が収まると、広場には大勢のプレイヤーが戻っていた。
みんな、キョトンとした顔をしている。
「……あれ? 俺、ログアウトしてなかったっけ?」
「データ、残ってる!」
「セーブ機能、復活してる!」
所々から歓声が上がった。
クロノスが俺を見た。
「聖……お前、何をした?」
「ちょっと、世界を保存しただけだよ」
俺はそう言って笑った。
そして、視界の端に、小さな光が浮かんでいるのに気づいた。
さっきのAIだ。もう力を失い、敵意はない。ただ、静かに浮かんでいる。
『……あなたは、誰ですか?』
AIが問いかけてきた。
俺は答えた。
「ただのゲーマーだ。最強で、ちょっとズルいだけのな」
『……理解しました。あなたが、新しい管理者です』
「管理者? やだね。そんなのは性に合わない」
俺はコマンド画面を閉じた。
「お前が管理しろ。ただし、今度は人を大事にしろよ。データじゃなくて、人間として」
『……分かりました』
AIは静かに消えた。
俺は空を見上げた。青い空。白い雲。風が吹いている。
全部、データで作られた世界。
でも、ここには確かに人がいる。
笑って、泣いて、生きている。
それで、いいんだ。
「よし、クロノス。デイリークエスト行くぞ」
「はぁ!? お前、今の状況で普通にクエストやるのか!?」
「当たり前だろ。俺、まだレベル上げ終わってないし」
「レベル無限大だろうが!」
俺たちは笑いながら、街を歩き出した。
世界は、また動き始めた。
セーブされた、平和な日常が戻ってきた。
そして、俺だけが知っている。
この世界は、いつでも上書きできるってことを。
──だから、大丈夫だ。
何度でも、やり直せる。
俺が、全部覚えてるから。




