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序曲の日没

「落ち着きましたか?」


「はい…えっと…。」


ビンの中に入れられた優真は一気に色々と詰め込まれたことでへたり込んでおり、落ち着いたところで休憩を挟んでくれた先輩にお礼を言おうとするが名前を知らなかった。


「高校三年の妃澪(きさきみお)ですよ。よろしくお願いしますね。」


「はい、では妃先輩…僕を襲ったのがその夢魔界から来た夢魔って存在なんですか?」


「ええ、それで間違ってませんよ。」


優真は確認するように聞き返すが澪はこっくりと頷く。自分を襲ったのが夢魔界と呼ばれる別世界から来た夢魔と呼ばれる存在…それがまず優真に突きつけられた内容だった。


「そして僕がそのインキュバス…?」


「そうよ。だからあたしがあんたを捕獲したのよ。エクソシスターは元々そう言う組織なんだから。」


一番重要なのが優真が人間ではなく、その夢魔のインキュバスだと言うことだった。だからこそ夢魔に対抗する組織エクソシスターに確保されたのだと孫一が追い討ちをかける。


「孫一ちゃん!もっとオブラートにしないと。優真くんがショックを受けてるでしょ。」


そんな孫一を咎め、優真のことを擁護してくれたのはセミロングの女子生徒だった。


「でも…僕はそんなとこ知らないよ!?子供の頃捨てられて養護施設で育てられたけど…そんなとこ知らないよ!」


しかしながら仮に自分が夢魔界の夢魔だとするのなら、人間として生きてきたこれまでの人生は何だったのかと言うことになる。それが優真に取っては一番聞きたい疑問点だった。


「そこが問題なんだよね〜。多分パラサキュバスかベビキュバスの時に人間界に流れ着いたんだろうね〜。」


「ベビ…なんですか?」


また新しい人物がビンの中の優真に話しかけてくる。あざとい感じの中性的な男子生徒は、聞き慣れない単語を羅列するがちっとも理解出来なかった。


「要するに夢魔の卵の状態か、幼い状態の時に人間界に迷い込んで夢魔界での記憶は皆無だったのだろう。」


「卵って…夢魔って卵から生まれるの?」


「その通りだ。」


夢魔と呼ばれる存在は卵から生まれると聞いて思わず訊ねてしまうが、確かにその出生と自分の生い立ちを考えれば自分が夢魔ではないとは完全に否定しきれない。


「…じゃあ、夢魔は何で僕を狙ってるんですか?」


「それはよく分かっていませんが…繁殖かインキュバスとしてのイマナジーを欲しがったかですね。」


「イマナジー…?」


質問を変えて自分を付け狙う理由を聞くと、断言は出来ないが繁殖か或いはそれと別にイマナジーと言う物を欲しがっていると話す。


「イマナジーって…そんなの持ってませんよ。」


「目に見える物ではありませんよ。人間の持つ想像力や願望と言った精神的な原動力をエネルギーとして変換した物をそう呼ぶんですよ。」


澪の説明によるとイマナジーとは人間の精神的な概念である意思やイメージなどを原動力として扱うことをイマナジーと呼称していた。


「誰だって夢や希望へのイメージや意思などがあれば前へと進めますよね?あれみたいなものですよ。」


「気合とか将来の夢とかってことですか?」


「それも的を得ていますね!」


話が分かると澪はニコニコしながらビンの中にいる優真を褒める。イマナジーとは人間の気力やイメージはもちろん突き詰めれば願望や夢からなるエネルギーだった。


「夢魔達はその精神エネルギー…イマナジーを糧として生きているのです。」


「でも僕はそんなこと一度も…どうやるかも知らないのに…。」


夢魔はイマナジーを糧にしていると聞くも、これまでイマナジーの摂取法どころかそんなエネルギーの概念すら知らないのにどうやって今日まで成長したのかが謎だった。


「微量、或いは最低限のイマナジーであれば例え摂取の方法を知らなくても成長は可能なはずです。優真くんは夢魔の特性を持っているため、知らず知らずの内に周りの人のイマナジーを吸収して体内に取り込んでいたようですね。」


「僕が…そんなことを…?」


摂取方法を知らなくとも一応は周りの人からイマナジーを吸収して成長できると聞くがやはり到底信じられなかった。それでは本当に自分が夢魔かどうかなんて証拠にはならないからだ。


「それと最低限の成長なら人間と同じ食事でも大丈夫ですよ。ただ、夢魔は乳製品を好む傾向がありますから、ひょっとして小さい頃からかなりの乳製品を摂取していませんでした?」


「あ…言われてみれば…昔からよく牛乳とか飲んでて、目を離すといつも牛乳を飲んでたって…。」


「確かに俺と話してる時もよく牛乳を飲んでたもんな。」


指摘されて思い出すが確かに大門と話してる時にも牛乳はたくさん飲んでおり、気が付くと六個の牛乳パックを飲み干していた。


「それなら僕はどうして人間の世界に…捨て子にしても夢魔だと言うなら夢魔界にいないとおかしいんじゃ…。」


「んー、そうなるけど、そうすると色々なことを話さないといけないんだよねー。」


サイドテールのギャルっぽい女子生徒は口元に人差し指をやりながら考え込む。捨てられたのなら何故夢魔の世界ではなく人間の世界なのか?その答えにはおいそれと話して良い内容ではないようだ。


「どうせ今話しても理解が追いつかないわよ。」


「だったらこうしましょう。明日また自己紹介を兼ねて私達が何をしているか話してみましょうか!」


「その方が早いかもしれん。」


孫一がこれ以上話しても優真が混乱するだけだと諭し、それなら日を改めて自分達のことを紹介しようと言う澪と大門の結論で締めくくられる。


「あの…僕は人間として暮らすのでこのまま解放しても…。」


「あんたがそれで良くても、あの夢魔は諦めないわよ。特に夜になればもっと危険よ。」


これまで普通の人間として過ごして来たから、これからも目立ったことはしないからここら出して欲しいと懇願するが危険だと止められてしまう。


「孫一さんも今日は彼と共に休んでてください。」


「は?何を言ってるんですか!あたしだって戦力の一人なのに何故…!?」


この後も何か活動をするつもりだったのか、澪から休むように言われて孫一は反発していた。


「だからこそです。アライズ化した夢魔に直接襲われたのですから、あなたみたいな戦力が彼を護衛しないと危険なんです。」


「…分かりました。」


多少不服にしていたが、何かのっぴきならない事…優真が夢魔に襲われたことを話題にされたため孫一は反発出来なくなる。


「と言う訳で彼はあなたが責任を持って預かってください!」


「はあ!?休むってそう言う意味ですか!?」


ところが次の台詞で意味合いが変わり、そのことに唖然となる孫一。


「えっ…どう言うこと…?」


「あなたは他のサキュバスから狙われているので今日から孫一さんと同じ部屋で暮らすんですよ。」


狙われている以上は孫一に守って貰うために同棲…つまり一緒に暮らせと言っているのだ。


「何であたしと暮らさせるんですか!それなら大門とかに預ければ…。」


孫一は断固反対しており、大門などの男子生徒達に預けさせようとする。確かにその方が軋轢(あつれき)が生じずに済むが…。


「残念だけどそうなんだよね〜、僕らは男だから夢魔に精神を脅かされて、すぐに魅了されて従属しちゃうかもしれないし〜。」


あざとい中性的な男子生徒が言うには夢魔は精神を蝕みそのまま手先にすると言う。


「夢魔は人を惑わす力があるんですよ?大門くん達が弱い訳ではありませんが、夢魔に対抗する術がない男子生徒では守りきれないんですよ。」


「これだから男子は…。」


精神的な蝕みに対する免疫や夢魔に対する対抗手段は男子生徒は持ち合わせておらず、男子生徒では守るには心許ないと澪から聞かされ、孫一は呆れるように頭を抱える。


「分かったわ…あたしが確保したし、このままゴネて夢魔に奪われでもしたら目覚めが悪いしね。」


優真を捕らえた責任もあるし、もしも連れ帰らなかったら夢魔に再び襲われて連れ去られてしまう。だから孫一も渋々と了承するのだった。


「偉いですね、よしよし。」 


「…子供扱いしないでください。」


澪は微笑みながら孫一の頭を優しく撫でるのだが、肝心の彼女は照れて嫌がってしまう。


「さて…あんたを連れ帰る訳だけど。その前にやることがあるわ。」


「そうね。皆、用意してちょうだい。」


だが、連れ帰る前にあることをするために孫一と澪の二人はもちろん彼女らの仲間達も準備を始める。


「それじゃあ…えい!」


「わっ!?」


孫一はビンを逆さまに持ったかと思えば、底を叩いて中にいる優真を外に出す。


「ううっ…あれ、外に出てる…?」


外に出たことは直感的に分かったが、周りの物がヤケに大きく見えていた。


「あれ…これってもしかして、僕はまだ小さいまま…?」


「そうですよ〜、一応このままでも処置出来ますしねぇ〜。」


おっとりと微笑んでいる澪だが、何か含みのある影が彼女の顔を覆い本当の恐ろしさを醸し出しているかのようだった。


「それと…夢魔である証も少しお見せしますね。」


「それは…。」


澪は孫一がビンに閉じ込められるキッカケとなった小さな網のような道具を出す。


「『ドリームキャッチャー』って知ってますか?」


「宗教的な何かですか…?」


「ふふっ、違いますよ〜。」


名前だけ聞けば怪しい宗教的なグッズを思わせるが、自分をビンに閉じ込めた辺りそうではないと優真の生存本能の警鐘が鳴っていた。


「外国に実際にあるお守りで、悪夢から捕まえて眠る人を守ってくれる物なんですよ。こんな風に。」


「はう!?」


ドリームキャッチャーなる網を優真に近付けると、彼の身体は磁力に吸い寄せられる金属のようにドリームキャッチャーに貼り付いてしまう。


「動けない…ひゃあ!?」


何とか離れようとするがお腹を弄られる感触に驚き何かと見てみると澪が小さくなった優真のシャツを器用に捲っていたのだ。


「やっぱり…ほら、見てくだい。」


「え…?」


確信を得た澪は鏡を優真に見せて、お腹が見えるようにするのだが彼のお腹には見たことがない青いハートマークのような模様があったのだ。


「え…え…?これ何!?僕こんなタトゥーなんか入れてないよ!?」


いつも自分のお腹は見ているがこんなマークがあるとは信じられないため辛うじて首を動かして、自分の目で確認する限りマークは何処にもなかった。


「これは夢魔だけに存在するシンボルマークです。一般の人には見えませんし、夢魔もその気になれば隠蔽することは出来ますが…鏡を通して見ればしっかり浮き彫りになるんですよ。」


このタトゥーのような模様は夢魔のマークであり、通常は見えないらしいが鏡を介せば一般の人にも見れると言う。


「それでは処置を始めましょうか。リーナさん。」


「は〜い!出来てるよ〜!」


優真が驚くのを他所に何かしらの処置をすると言う澪はセミロングの女子生徒リーナを呼ぶ。彼女の手にはいつの間に作ったのか小さくなった優真を模したぬいぐるみが握られていた。


「すぐに済みますからね〜、はい、ギュッと。」


「わっ!?」


ぬいぐるみを受け取った澪は優真にぬいぐるみを抱かせ合わせるように押し込み、そしてすぐに離したのだった。


「これで終わりですからね〜。」


「え…何なの?」


特に苦しいことや痛いことはなかったが、何をしたか分からなかったが、一つ変化があったのは優真のぬいぐるみのちょうど模様のある部分に優真と同じ青いハートマークが浮き上がったことだ。


「んじゃ試すわよ。えい!」


「いたっ!?」


孫一はぬいぐるみの右頬をつねると、優真の右頬に痛みが生じる。


「次はこうよ!」


「ひあっ!?」


今度はぬいぐるみの左耳に指を突っ込むと、優真の左耳に違和感が走り変な声を出させてしまう。


「ほれほれ〜♪」


「ひっ!?あははは!?ひひひっ!?」


今度はぬいぐるみを指先で身体をなぞるようにくすぐると優真は笑いが止まらなくなる。


「どうやら無事に処置が完了したようね。」


「はあ、はあ、これは一体…?」


さっきから何かされているのはぬいぐるみの方で、優真本人には誰も手を出していない。それなのにぬいぐるみが受けたことが自分に返ってくるようだった。


「あんたのマークをこのぬいぐるみに写し取ったことでこのぬいぐるみと感覚を共有してるのよ。つまりこのはぬいぐるみはあんたの分身って訳。」


やはりぬいぐるみと感覚を共有しているらしく、先程の痛みやくすぐられる感覚はぬいぐるみを介して受けていたのだ。


「ごめんね、こうしないと何かあった時はこれでどうにかしないと…。」


「どうにか…?」


「あんたが万が一逃げたり悪さしてもこれでお仕置き出来るって訳よ。」


つまり優真が何かしらの悪さをした場合はぬいぐるみを使ってお仕置きをすると言うのだ。


「じゃあ…まさかそれを火炙りにしたり、バラバラにして僕を殺すんじゃ…!?」


「…あんたナヨナヨした見た目の割に恐ろしいこと考えるわね。」


ぬいぐるみと感覚を共有しているのなら、何かしらの方法で破壊して本人を殺すのではと中々恐ろしいことを言う優真に、得意気になっていた孫一をドン引かせる。


「それは大丈夫ですよ。そのぬいぐるみは基本的には生死に関わったり、骨折などの大怪我を伴うようなダメージは与えられませんので。」


だが、このぬいぐるみでは行動不能にさせるようなダメージは与えられないらしく、少なくとも命の期限はないと澪が説明する。


「そうなんだ…でもこれって…やっぱり僕は夢魔のインキュバスなの…?」


ホッとするも夢魔のシンボルマークに通常の人間ではあり得ない身体の状態を目の当たりにしてさすがの優真も自身が夢魔であることを認めざるを得なかった。


「ヘコんでる所、悪いけどそろそろ夕暮れになるわ。夢魔に見つかる前にあたしの部屋に戻らないと面倒なのよね。」


「もう!孫一ちゃんも優真くんのことをもう少し考えなきゃダメだよ!」


「…善処するわ。」


ヘコんでる優真をさっさとビンの中に戻した孫一だが、少しは気遣って欲しいとリーナが注意するが彼女は煮え切らないような生返事をするだけだった。


「それじゃあ…お疲れ様です。」


「優真くんと仲良くね。」


優真を入れたビンを再び鞄に入れて先に帰宅する孫一。


「んじゃ、俺らもやるか。」


「照山先輩がまだ来てないですけど…。」


「ワタルちんにはウチから連絡しとくから、とりまあたしらはお仕事お仕事〜!」


ここにはいないが他にも仲間がいるようだが、取り敢えず自分達だけで仕事を始めることにする。


「「「アバスタム・オンライン!」」」


一同は『ドリームエンパイア』にアクセスするチョーカー型の機器『スレームギア』を装着し、更にガントレットを手首に装備してとある掛け声を掛けると姿が大きく変わっていく。


「あんた…絶対に声を出したり外を見たりするんじゃないわよ?いいわね?」


「は…はい…。」


鞄の中にいる優真に釘を刺すように話しかける孫一。と言うのも孫一も寮生であるため自室は寮であるため、連れ帰るとなった以上は()()()に男の優真を連れ込むことになるのだ。


下手をすれば問題沙汰になるため孫一は優真に対して厳重に注意すると同時に先程の優真のぬいぐるみを手にする。


「さもないと息が出来なくなるまで笑わすからね。」


「はい…。」


死ぬと言う訳ではないが、その手に優真の肉体を手にされているため優真はビンの中で更に縮こまる。


「あら、孫一さん今日は早いですわね。」


「ああ、明菜先輩。今日は疲れたから早めに休もうと思ってて。先輩は逆に何か用ですか?」


「少し暇を持て余した物ですから少々散歩にですわ。」


ロビーで鉄扇を持った明菜とすれ違い、ちょっとした世間話をする孫一。


「ここが孫一先輩の部屋…。」


「ちょっと…せめてもの情けで鞄から出してあげんだからジロジロ見るんじゃないわよ。」


さすがに鞄の中ではかわいそうだと机の上にビンが置かれるが、部屋を見られるために少し後悔する孫一。


「でも、部屋を見てもそんな…。」


「男と女とじゃ部屋を見られることに抵抗があるものなのよ。」


確かに自分の部屋とは安心して安らげるプライベートの塊であり、気安く見られることに抵抗を覚える者は多いだろう。ましてや見られるのが異性ともなれば尚更だ。


「けど、思ったよりもエアガンとかモデルガンとかいっぱいで少し意外だなって。」


「それ以上言ったら絞めるわよ。」


部屋は壁にモデルガンやエアガン、更には戦争映画やミリタリーグッズが多くて優真の予想を越えていたが、ぬいぐるみの身体を強く握り締める孫一に無理やり止められる。


「…やっぱり変でしょ?女の子がこんな…。」


「…ううん。変だって言うつもりじゃなくて、カッコいいなって思って…。」


「カッコいい…?」


何か触れられたくないことに触れてしまったのか孫一は落ち込んでしまう。しかし優真は孫一の趣味を賞賛していた。


「うん。僕を助けてくれた時の孫一先輩は武器を構えて敵をやっつける…カッコいいヒーローみたいでしたよ!」


「っ……ふん。」


性格的に嘘を言うようなタイプではないため、その裏表のない純真な思いに孫一は頬を掻きながらそっぽ向く。


「ったく…ガキのくせに生意気な…あ。」


「?」


彼女は思わず顔を赤くして部屋着に着替えようとしたが、優真がまだこちらを見ていることに気が付く。


「見るんじゃないわよ。」


その辺にあったタオルをビンに被せてこちらが見えないようにしてから着替え始める。


「まったく…今日は色々あり過ぎたわ。」


『ガウ。』


「あ、忘れてたわ。良いわよ出てきて。」


思い出したように優真とは別のビンを取り出し、底を叩くとデフォルメされた手乗りサイズのチーターが出てきたのだ。


『…ガウ!』


「うわっ!?何これ…猛獣!?」


するとチーターは机の上にある優真の入ったビンをタオルの下から転がす。対する優真は小さいとは言え…いや、ビンの中の優真からすればほぼ同じサイズであるチーターの登場に驚いてしまう。


『ガウガウ♪』


「うわわわ…!?」


チーターはビンを転がして上機嫌だが、転がされる優真は目が回り酷い目に遭う。


「うあっ!?……え?」


「え…え…!?」


しかし転がっていたビンは何かに当たって止まるのだが、上を見た瞬間に緑色の下着姿の孫一と目が合ってしまう。


「あ…ああ…何見てんのよ変態ー!?」


「ひゃああああ!?」


恥ずかしさの余り孫一はビンを強く蹴り飛ばす。予想に反してビンは壁や家具に当たっても割れずにバウンドし、チーターの時よりも激しく転がるだけでなくスーパーボールのように跳ね回る。


「孫一さん、どうしたの?」


「男子の声が聞こえたんだけど…。」


「え…あ、気の所為よ気の所為!ほら、動画見てたらうっかり音を大きくしちゃって!?」


騒ぎを聞きつけて他の女子生徒がドアの前に殺到し、孫一は目を回す優真を隠し慌てて誤魔化すのだった。


「はあ…はあ…ライミィ様ぁ…。」


「良い子ね。私のためにインキュバスを取り返す手助けをしてちょうだい。」


〈グール!〉


すっかり日暮れとなった路地裏では一人の男性が虚ろな目で優真を襲ったサキュバスの手の甲にキスをし、その途端に影のような物に包まれて姿が変異していく。


「もちろんあなたもね。ルシファー。」


『フフフ…アハハ!』


ライミィの背後にはカラスのような黒い翼と黒いワンピーススカート、更にバタフライマスクのような物を身に着けた女天使のようなモンスターが不敵な笑みを浮かべていた。

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