表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

DRゲーム【ドリームエンパイア】

『ようこそ、あなたは何を望みますか?』


ひたすら真っ白な空間に光の玉が浮かんでいて、そんな問いかけをしてくる。まるで転生する前に神様と謁見する空間のようだった。


「俺は…カッコいい姿で異世界転生してハーレムを築きたい!」


光の玉の前にはこれまた転生ラノベの典型的なことを言う男がいた。そして願むままの姿とチート能力を手に入れて、自分の望んだ世界へと足を踏み入れる。


『ようこそ、あなたは何を望みますか?』


「私は…自分の知識で世界を救いたい!」


白い空間に次に現れたのは女性であり、自分の知識を活用出来る世界へと歩んでいく。


『ようこそ、あなたは何を望みますか?』


「ボクはね、お菓子の家が食べたい!」


今度は幼い男の子が白い空間に現れて、子供ならではの願望を口にする。


『ようこそ、あなたは何を望みますか?』


「ワシは…死んだ婆さんに会いたいんじゃ…。」


更に現れたのは年寄りのお爺さんで、死に別れたお婆さんと再会したいと望む。


『ようこそ、あなたは何を望みますか?』


白い空間に人が次々と現れるのだが、目の前にいる神らしき光の玉は機械のように淡々と人を迎えては同じことを連呼し、望みの世界へと送り出すサイクルを繰り返し行う。


『ようこそ!DR(ドリームリアリティ)ゲーム【ドリームエンパイア】へ!ここではあなたの願望や望み…夢を叶えることが出来る夢のオンラインゲームです!』


白い空間から何処か別の世界へとワープしたかと思えば、そこには空間を訪れた人々が望んだだけの様々な世界が広がっていた。


「なあ、昨日のドリームエンパイアで何の夢をプレイした?」


「レーサーになってガンガンにゴボウ抜きする夢だ!」


「俺はモンスターを狩って狩って狩りまくった夢だ!」


登校中の学生達がドリームエンパイアでどんな夢をプレイしたか話していた。オンラインゲームではあるが夢をプレイしたとはどう言うことなのか?


『ドリームエンパイア。それは正しく夢のオンラインゲーム。稼働してから僅か三年の月日で社会現象になるほどになりました。』


彼らの側にそびえ立つ高いビルには、巨大な液晶画面が設置されておりドリームエンパイアの話題が挙げられていた。


『このドリームエンパイアは従来のVRゲームのようにゲームの中にフルダイブする物ですがこのゲームはDR(ドリームリアリティ)…人間の夢の中へとフルダイブする全く新しいゲームなのです。』


このゲームはVRゲームのようにフルダイブすることでプレイ出来るゲームなのだが、一番の特徴は従来のデータ上の仮想空間ではなく眠って見ることが出来る夢の中へとフルダイブすることだった。


『例えばお菓子の家が食べたいのならお菓子の家を食べれるゲームを、或いは勇者となって世界を救いたいなら自分の思い描くRPGゲームをプレイ出来るのです。』


更に夢の中へとフルダイブすることで、自分の思い描いた世界を好きなようにプレイ出来るのだ。


『それだけに限らずこのゲームは眠ることでプレイするため、快眠効果も期待されています。小さな子供なら夜泣きがなくなり、ご年配の方々は快眠出来るようになるなど医療機関でも取り入れられる程です。』


ドリームエンパイアは眠ることでプレイするのだが、そのために快適に眠れる装置が仕込まれている。お陰でゲームに限らず快眠グッズとしても人気を博していた。


『更に夢の中でもスキルアップのシミュレーションも可能となり、就職率も右肩上がりなど社会貢献にも服しています。』


このドリームエンパイアではエンジニアなどのスキルや資格を必要とする人や、ニートや引きこもりの人達にスキルアップの機会をゲーム感覚で楽しめるようにしてあるため就職率を上げる効果を担っている。


『もはや知る人ぞ知るドリームエンパイア。周辺機器もこの『スレームギア』一つでエントリー可能です!』


逆さ台形のバックルのような物を取り出したニュースキャスターは、それを首にやると側面からベルトが出てきてチョーカーのように巻き付くのだった。


『このスレームギアがあれば正しく夢の没入体験が出来るのです!今夜眠るのが待ち遠しくなる画期的なゲームですね!』


「ドリームエンパイア…。」


ニュースキャスターも眠れるのを楽しみにしている様子を見せる中で、何処かつまらなさそうな顔を浮かべる少年がいた。


その少年は小学生ほどの小柄な体格に、アホ毛と前髪で目が隠れるほどのボサボサの髪をしており目立たない・冴えない・頼りないの三拍子が揃っていた。


そんな彼はドリームエンパイアの話題をしていた男子生徒達の後を追うように学校へと赴く。


その学校には大きく分けて二つの制服を着用した生徒が登校して来る。紺色が際立つ中学生の制服と、チェック柄にカーディガンなどの高校生の制服だ。


ここは中高一貫の学校で少し離れた位置に寮も存在するマンモス校だ。


「そこ!もうすぐ予鈴が鳴りますよ!あ、あなたはピアスなんかして!」


「あ…風紀委員の…。」


その学校の校門前では外側に跳ねた後ろ髪が特徴的な女学生が風紀委員として身だしなみの取り締まりを行っていた。


(あんまり関わりたくないな…。)


「って、優真くん!危うく見逃すところだったわ!その前髪は何とかしなさい!」


「見つかった!?」


優真と呼ばれる少年は風紀委員をしている彼女に見つからないようにしていたがあえなく見つかってしまう。


「あなたは存在自体が薄いから見逃すところだったわ。その髪!目に掛かって鬱陶しく見えるわよ!すぐにでも髪を切りなさい!」


「でも僕はこれくらい平気だよ…。」


「良くないわ、あなたはイメージを少しでも変えないとまたイジメられたりするんだから、せめて髪を切ってシャキッとイメチェンしたらどうなのよ。」


多少強引ではあるものの彼女は優真がイジメられないように、ちょっとしたイメチェンを推してきたのだ。


「何を騒いでるんですの?」


明菜(あきな)生徒会長!おはようございます!」


雪のような長い銀髪に凛とした顔立ちの女子生徒が何を騒いでいるのか訊ねてきた。風紀委員の彼女は生徒会長である明菜を見て、軍隊の敬礼顔負けのお辞儀をする。


「校則ではある程度の髪型や髪の色は自由でしょ?見たところ彼はそこまで問い詰める必要がなくてよ。」


この学校ではある程度派手だったり、迷惑でなければ髪型も髪色も問題ないとされている。だから優真の髪型を変えることにそこまでしなくても良いと明菜は話してくる。


「ですけど優真くんはこう言う気弱な見た目なためにイジメに遭いやすいんですよ!少しでも変えて貰わないと幾ら風紀委員でもどうにもならないんですよ。」


しかし風紀委員でも度々、暴力沙汰ではないにせよ優真がパシリなどのターゲットにされているのが問題であり、イメチェンして貰えばそう言う被害も少なくなると考えていたのだ。


「でも自慢の逃げ足があれば問題なくてよ。」


「逃げ足?あ!いなくなってる!?いつの間に〜!?」


優真はとっくにその場から忽然と姿を消しており、明菜は面白可笑しいのかクスクスと笑っており、風紀委員の彼女は地団駄を踏んでいた。


「はあ…パシリがない訳じゃないけど、そんな困るほどじゃ…。」


なんとか撒いた優真は教室に行き一息つく形で着席していた。そして鞄からスケッチブックのような物を取り出した。


「う〜ん…ここのデザインがちょっとイマイチかな…ここは…。」


スケッチブックにはテンガロンハットにスカーフをしたヒーローの絵が描かれていた。鉛筆を手にヒーローの腕のデザインを考えていた。


「ねぇ、あんたまた何か漫画のヒーロー描いてんの?」


「あ…山河さん…。」


一心不乱に絵を描いているとピッグテールに八重歯の女子生徒が取り巻きの女子生徒達と共に机を取り囲んでいた。


「そんな子供っぽい絵を描く暇があるなら、ウチらのパン買ってきてよ?」


「じゃなきゃこれ没収な?」


取り巻きの女子生徒は有無を言わせずスケッチブックを取り上げ、描かれている物を一枚一枚捲っていく。


「ぷっ、何これ〜?いい歳してこんなヒーロー物に憧れてんの〜?」


「チビだから頭も心もチビのままなんでちゅね〜?」


「…っ!」


酷い言われようだが言い返せず涙を目に溜めながら堪える優真。


「いたっ!何!?」


「ちょっと邪魔。」


「っ!?」


そんな時誰かが教室に入ってきて、山河達を押し退け優真の前に立つと同時に机を強く叩いた。


「あんた…インキュバスでしょ?」


「…はい?」


目の前に現れ机を叩いたのはサイドだけ伸ばしたショートヘアとジト目が特徴的な女子生徒だった。彼女は机を叩いたと同時に優真を『インキュバス』だと問い詰めてきた。


「おい、あれって高校二年の神崎孫一先輩じゃないか?」


「あのクールビューティーで有名な神崎先輩がどうして…ってか、インキュバス?」


優真の前に現れた神崎孫一は教室を騒然とさせ、瞬く間にどよめかせるのだった。


「…とにかくあんたと話がしたいのよ。名前は何て言うのよ?」


亜都優真(あとゆうま)です…。」


「んじゃ、昼休みに後で迎えに行くわね。」


ここでは騒ぎが大きくなると判断した孫一は要件だけ話し、優真のフルネームを聞いて教室を後にしたのだった。


「優真くん、さっきの神崎先輩と何があったの?」


「僕にも分からないんだ…あの人とは今日初めて話したのに…。」


「知らず知らずの内に何か因縁でも買ったんじゃないのか?」


午前の授業が終わった優真は牛乳を飲みながら先輩らしき生徒二人と話をしていた。一人は腰まで届く長い長髪を先端辺りで結んだ女子生徒と、逆立った髪に体格の良いスポーツマンのような男子生徒だった。


「因縁って…大門先輩、僕はそんなこと出来ませんよ…。」


「しかしそれ以外に神崎があんな喧嘩腰で話しかけたりはしないだろ?」


大門と呼ばれる男子生徒は神崎とは知り合いらしく、滅多なことでは自分から喧嘩を吹っ掛けるような人物ではないと疑問に思っていたが三杯目の牛乳を飲みながら優真は否定する。


「ですけどこのまま放置してたらただでさえイジメられている優真くんの肩身はどんどん狭くなるばかりですよ!」


「あ、そろそろ山河さん達のお昼を買って来ないと!?」


六杯目の牛乳を飲み干したところで、山河達の昼食を買いに行くために慌てて走り出す優真。


「優真くん!?もう…。」


女子生徒は優真を止めようとするが、彼は突き動かされるように去ってしまったため見送ることしか出来なかった。


「夕崎…あいつは感覚が麻痺してこれくらいが普通だって思ってるんだ。友達がいなくて孤独であるってこともな…。」


「それでもこんなのって可哀想です!」


夕崎と呼ばれる女子生徒はこのままでは良くないと思っているが、大門は優真の境遇に同情するように寂しそうな様子をしていたのだった。


「そのストレスのせいですかね…こんなにたくさんの牛乳を飲むのは…。」


「さあな。」


話は変わり優真が去った後には六個の空になった牛乳パックが置かれており、これを全部飲み干すのもイジメられているのが原因なのかと心配になる。


「ふう…これで全部…。」


売店で山河達が所望した品物を購入した優真は急いで持っていかないとと思うとため息が出てしまう。しかしそうも言ってられないような音が廊下の先から聞こえてくる。


「あんたああああぁぁ!!待ち合わせとっくに過ぎてるわよおおおぉぉぉ!?」


「いっ!?神崎先輩!?」


クールビューティーなんて誰かが言ってたが、そんなのかなぐり捨てたかのような形相でこっちに向かって走ってくる孫一の姿が見えて思わず廊下の反対側へと彼も走り出してしまう。


「逃げてんじゃ…ないわよおおぉぉぉ!!」


「いたっ!?」


上履きを脱いで怒号を挙げながら振りかぶり、勢いよく優真の後頭部に命中させる。それを見た周りの生徒達は野球部顔負けのピッチングだったと言う。


「教室に行ったら何処にもいないじゃないの!こんな所で何油を売ってんのよ!」


「ぼ…僕はこれを山河さん達に届けるつもりで…。」


「はあ?あんたパシリにされてんの?」


上履きが当たって倒れた優真に孫一は馬乗りになり、教室にいなかった事情を問い詰めその内容に呆れてしまう。


「でもこれを届けないと僕のスケッチブックが…。」


「そんなのいいから付いて来なさい!」


パシリを追えないとスケッチブックは返して貰えない。しかし孫一はなりふり構わず何処かへと連行しようと襟を鷲掴みにする。


「イ…イヤだ!?」


「ぶあっ!?」


「あ…。」


すると購入した物の中にはパック牛乳も入っていたらしく、思わず力いっぱい握ったことで中身が孫一の顔に掛かってしまう。


「ちょっと…何よこれ〜!?」


牛乳を浴びせられたことで思わず飛び退き尻餅をつく孫一。


「「「おおっ〜…!」」」


「え?……はっ!?」


顔の牛乳を拭いていると男子生徒の歓声が聞こえてくる。そして自分の体勢を見てみると、彼女はスカートなのにM字開脚をしてしまい、スカートの内側にある緑色の魅惑的な布が丸見えになっていた。


「…!あ…あんたねぇ…!?」


「え…!?」


慌ててペタン座りになってスカートの裾を抑えるがもはや手遅れだった。こんなことになった優真を睨むも彼は起き上がっている最中で後ろで何があったかは分からなかった。


「絶対に許さああぁぁん!!」


「ひえええっ!?」


事故とは言え辱めた相手である優真は絶対に許さないし、元から連行するつもりだったが半殺しにして強制連行する気構えが見え隠れしていた。


「うわっ?!」


「こんのぉ!」


数ある教室や長い廊下を走り抜け、窓から飛び出し中庭を駆け抜ける。


「何処に行った!?」


「……!」


しかし孫一は暫くして優真を見失ってしまった。彼は近くの自動販売機のゴミ箱の中に隠れていた。


「ちっ…逃したか…。」


バレないようにと祈った甲斐があったか、孫一は舌打ちをしてその場を後にする。


「はあ…良かった…あれ?」


ホッとしてゴミ箱から出ようとするが蓋が開かないことに気が付いた。幾ら頼りない身体つきとは言え、ゴミ箱の蓋を開けられないほどではないはずだ。


「ど…どうなって…。」


「甘いわねぇ〜、優真く〜ん?」


「いっ!?」


ゴミ箱の蓋の上から一番聞きたくない孫一の声が聞こえパニックになる。去ったと思ってたが、見透かされて蓋の上に乗られていたのだ。


「自分から墓穴を掘るなんて間抜けねぇ〜、そんなの今時誰も引っ掛からないわよ?」


「ぐっ…ぬっ…!?」


「あたしは体重はそこまでじゃないけど、あんたの力じゃ退かせないわよ〜?」


完全に捕縛し優位に立った孫一は意地悪そうに優真に話し掛ける。対する彼も何とか外に出ようとするがやはり出られそうにない。


「んぬぬ〜!?えい!?」


「きゃっ!?」


無駄な抵抗だと言おうとしたが優真が中で暴れたためにゴミ箱が倒れ、孫一も一緒に横倒しになってしまった。


「いたた…!?」


「はあ…はあ…ごめんなさい!?」


何とか脱出した優真は転んで痛がる孫一に一応は謝った後に、大慌てで山河達のいる場所へと急ぐのだった。


「「「うおおおっ〜!」」」


「え…きゃあ!?」


痛がっているとさっきよりも甲高い歓声が聞こえてくる。今度は頭を地面に着け、お尻を突き上げる形でスカートの中の魅惑の布を見せびらかしてしまっていた。


「ぐぬぬ…亜都優真!?あんたは絶対に捕まえてやるんだからぁ〜!!」


一度ならず二度も、それも先程よりも屈辱的な辱めを受けた孫一は復讐の鬼のような形相を浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ