表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おれのハロウィン

作者: 雉白書屋

 毎年毎年、なにやら盛り上がっていると耳し、自分も……いや、もうそんなに若くないしそもそも仕事で疲れてるし……でも、いつか一度くらいはと思っており、そして勇気を出してこの日、ついに来たわけだが……なぜ……


「はい! 10月31日、ハロウィンの夜! 私は今、渋谷に来ているのですが、ご覧ください! ずらりと並ぶ警官隊! ですが……あ! ちょっとあのコスプレした方にお話を伺ってみましょう……こんばんは!」


「あ、こ、こんばんは……」


「それはぁ……あっ、河童ですね! 河童のコスプレ!」


「あ、そう、ですね、はい、すみませんなんか……」


「すごいクオリティですねぇ! ねえスタジオの皆さん、ご覧ください! こちらの男性の見事な河童のコスプレ!」


「いや、あの、そんな、すみませんほんと、全然なんですけど……」


「緑の全身タイツに顔も緑に塗られ、あ! 口周りは黄色く塗っているんですね!」


「え、あ、はい……。あ、本当は嘴を作ろうかなって思ったんですけど、あの、時間がなかったというか、す、すみません……」


「でぇ、頭のこれはシャンプーハットですね! ねー! すごい工夫!」


「あ、あの、全然、とんでもないですというか、ははっありがとうございます……でもホント、大したことないというか……」


「いやいやいやご謙遜を! さらにさらに背中にもほら、甲羅がありますよ! ほら、カメラに向けてスタジオの皆さんに見せてあげてくださいよ! ねー! すごい! これは段ボールに色を塗ったんですねぇ! 模様は黒のマジックですかね!」


「あ、はい、そうです……ははあ、まあ、時間がなかったにしては結構いい感じにできたかなとは思ってましたけど、ふふふ」


「因みにこの背中の甲羅の中には何か……」


「あ、いや、別に空ですよ。ほら、軽いでしょ? はははっ、そんなにクオリティいいですかね、へへっ」


「んー、確かに中には何も隠していないようですね。それで、どうして河童のコスプレをしてきたんですか?」


「あっと、作りやすそうというか、まあ、わかりやすい見た目かなと。みんな知っている妖怪ですし」


「なるほど……今日はどちらから来られたんですか?」


「はい、えっと、職場から直で、あ、トイレで着替えて、ははは」


「どちらから?」


「え、ですから、いや、職場のことはちょっと、ははは、その、すみません……」


「川からでしょー? もぉー!」


「あ、ははは、そうっすね……」


「お仕事は何を?」


「えっと、あ、河童なんでまあ相撲をね、子供に教えたりとかあと、泳ぎをね」


「は?」


「あ、すみません……普通に会社員です……」


「どちらの会社にお勤めなんですか?」


「ええと、え、いや、だからそれは別にいいでしょ」


「ご年齢は?」


「それは、まあ三十代と言いますか……」


「これ、全国に放送されていますけど、今のお気持ちは」


「え、その、すみません……」


「ご結婚は? ご家族に伝えたいことなどは?」


「結婚はまだ……です。家族にはその、うっ、なんかごめんなさいとしか……あの、そろそろ」


「今度はキチンとお伺いしたいのですがどうして今日、この夜の渋谷に河童のコスプレをして来たんですか? その真意をお聞かせください」


「いや、真意とかはその、あの、もう帰りますんで」


「あ、どこに行くんですか! 待ってください! 今、その顔のメイクを落とすことはできますか!? そしてカメラの前できちんと言えますか!? 自分は――」


「いや、無理、無理です! はなせ、はなせよ! この!」


「あ、逃げた! 逃げました! 挙動不審だったあの河童男は私たちの制止を振り切り、突き飛ばし! そして、あ! ジリジリと彼に近づいていた警官隊が今! 彼を取り押さようと! あ! 抵抗しています! 相撲! 相撲です! あ、あー取り押さえられました。はーい、一旦、スタジオにお返しします」



 なぜなんだ……なぜ、あの渋谷のハロウィンで……なぜ……おれしか……



『いやー、中々衝撃的な映像でしたね。しかし、彼はなぜ、と我々疑念を抱かずにはいられないんですけども、先生方』


『んー、模倣犯というよりかは、ただの世間知らずでしょう。たまにいるんですよね。ニュースを見ない人というか流行が過ぎ去ってから乗っちゃう人って』

『確かに。去年の大惨事を知っていたら今日この日、渋谷にコスプレで来ようとは思わないでしょうからねぇ』

『わかった上でのほら、愉快犯なんじゃないんですかー? 炎上上等。売名行為ですよあの馬鹿河童』


『ふふっ、そう言えばあなたも前にネットで炎上してましたね』

『はははははっ! 若者代表らしいといえばらしいですねぇ』

『ちょっと勘弁してくださいよせんせーたち! はははは!』


『ふふふっ、えー、事件現場となった主な通りには献花台が設置され、今も手を合わせる人の姿があります。コスプレ。顔、体型を隠し卑劣な犯行に及んだ通り魔の行方は未だわかっておらず、事件解明と再発防止策が望まれます中、今回の河童騒動。警察の迅速な動きには感謝をしたいところですね』


『犯人は死神の扮装してたんですよね。ネット上では実際に死神の犯行だったなんて話も』

『ふふっ。じゃあ、世間知らずの彼はあるいは本当に河童なのかもしれないねぇ』

『はははははっ! 陸に上がった河童はどうしようもないっすねぇ』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ