表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

ひとつめの未来

 歌い終わると、ミルカはその場にうずくまって小さくなった。


 寒くはない。


 だがもうこの場から動きたくはなかった。

 このまま眠ってしまおう。

 そうしたらもう目覚めることはなく全てが終わりに向かうだろう。


 目を閉じた瞬間、まぶたの裏まで届く金色の光が自分を包んだ事に気がついた。

 驚いて目を開けて顔を上げると、湖の上に空から黄金の眩しい光が差している。

 そしてその光の中に美しい数人の女性があらわれた。


 大きく口を開けて彼女たちを見つめるミルカに、女性たちの中心にいる、誰よりも美しく圧倒的な存在感のある女性が声をかけた。


「ミルカ。先ほどの歌、聴かせてもらった。妾も、妾の精霊たちも非常に満足している。褒美を取らそうと思うが、何を望む?」


 呆然として口もきけないミルカに、女神は小さく笑みを浮かべた。


「何もないのか?」


「いえ、いえ、あの……。思いつきません……」


「ふむ」


 突然あらわれた女神とその眷属たちの美しさに、ミルカは圧倒されるばかりでうまくものが考えられない。

 人の子どもには無理からぬ事よ、と女神はしばし目を伏せた。


「スズ森の魔女ツヴァイは、そなたの行く末をいつも案じておった。幸せであるように、家族に恵まれるように、とな」


 ミルカはそれを聞いて胸が熱くなった。


「お主に未来を見せてやろう。いまだ定まらぬ未来、そなたの行動ひとつで変わる未来。いくつかの未来の中から、そなたの願いに最も近い幸福を選ぶが良い」


 そう言うと女神は片手を振った。

 光が溢れる。

 次の瞬間、ミルカはデニシャール家の屋根裏にいた。


 そして女神の声が響いた。


『思うまま自由に生きてみよ。お前は何をしたい?』


 何をしたい?

 問われてもどうして良いか分からなかった。

 ずっと、お屋敷の下働きとして言われるままに生きてきた。

 何をしたいかなど考える暇もなく、ただ与えられた仕事をして、ただ生きて、そして疲れて泥のように眠った。


 何をしたいかなど、訊かれてもわからない。


 だから今までと同じように生活した。


 掃除をして、洗濯をして、皿洗いをして、そしていくつかの季節が過ぎた頃、特別寒い冬、燃料になる薪が足りない中、彼女は朝を迎えられないまま死んだ。

 まだ成人すらしないままだった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ