すずなるえいち
栄華の絶頂期、色とりどりの華が咲く街にそれは在った。
徹底的に艶を落とし黒く黒く塗り潰された箱、通称棺桶。
この街の中心にそれは在る。
一般の者でも触れる事が可能でこの街イチの観光スポットとなっている。
陽の沈むまでこの箱の周囲からヒトが居なくなる事は無い。
月が昇る頃には鎖や看板、警備員が広場への侵入を固く禁じている。
そこまでされるとヒトと言うのは何があるのか見たくなるものだ。
警備担当が侵入を許した事はほぼ毎日ある。
と言うよりも警備はゆるゆるなので怖いもの見たさで侵入を試みる者は後を絶たない。
この街は栄華の絶頂期である。
広場への侵入者は絶頂を維持する為のイケニエなのだ。
闇で見えないはずの箱へ吸い込まれるように足が動きいつの間にか侵入者は棺桶の中だ。
きっと彼らは自分の行為を後悔するだろう。
彼らは見るだろう巨大な樹に鈴生った首たちを。
身体が虚へ吸い込まれ新たな首が生る瞬間を見る事となるかもしれない。
首たちは考え続ける事だけが許されている。
叫ぶ事も泣く事も笑う事も許されずただ考え続けている。
これが栄華の絶頂期を支える英知の樹の真実である。
と、これがぼくが適当に考えたこの樹のストーリーである。
ああごめん、思考がそれちゃったね。
え? 余計な事考えてていいの? ??? 熟し過ぎた?
樹からの信号が伝わりぼくは枝から落ちて地面で弾けた。
弾けたぼくは地面に吸われ再び樹に生った。
もちろん、新しいぼくとして。