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紅蘭(くらん)燃ゆ  作者: ももんがー
3/14

第三話 白蓮の『先見』

「『王家の森』に?」

「ああ! (たけ)も一緒に行こうぜ!」

「気分転換にはいいと思うわよ」


 オレと(うめ)の誘いに、竹はきょとんとしていたけど、すぐに困ったように笑った。


「私はいいです」

「なんで!?」


 反射的に怒るオレに、竹はさらに困った顔で笑った。


「私では皆様の足手まといになってしまいます。

 ご迷惑をおかけするわけにはまいりません」


 確かに竹は歩みが遅い。体力もない。

 出歩けるようになったのは最近のことなのだ。当然といえば当然だ。


黒陽(こくよう)が抱いていけばいいじゃないか」

 だから用意していた案を提案したら、黒陽はちょっと驚いた顔をした。


「黒陽なら竹ひとりくらい抱いても平気だろ?」

「それは、まあ、そうですが」


 黒陽や白露(はくろ)など、他国の守り役とはたまに手合わせをする。

 他国の人間と戦うことなど滅多にないから時間があればすぐに「手合わせ願う!」って相手してもらう。


 実際手合わせしたオレから見て、黒陽も白露も緋炎(ひえん)と同じくらいに強い。

 体力も技術もまだまだオレでは敵わない。

 だから竹を抱えて移動するくらい平気だと思う。


「他国の、様子もわからない初めて立ち入る森に、姫をお連れするのは、ちょっと……」


 護衛の面から許可できないと黒陽が渋る。


「そこはオレも緋炎もいるし!」

「そういう問題ではありません」


 黒陽はつれない。

 黒枝(くろえ)も反対のようだ。何も言わず控えている。


 オレが不機嫌になっていくのがわかったのだろう。

 竹が取り成すように微笑んだ。


(らん)様、誘っていただいてありがとうございます」


「じゃあ!」と喜んだオレに、竹はまた困った顔で笑った。


「私、皆様のお話を聞かせていただくだけで十分です。

 蘭様、森から帰ったら、どんな様子だったか教えてくださいね」


「これでこの話はおしまい」という雰囲気にムッとした。


「いいじゃないか! 行こうよ! (きく)も行くんだぞ!」

「菊様も?」


 驚いて自分を見る竹に、菊はちょっと肩をすくめた。


「ちょっと気になることがあるのよ」

「私も同行します」

 後ろに控える白露も口添えした。


「ならばなおさら私が行くわけには参りません。

 皆様、お役目で向かわれるのですよね。

 私が同行してはお邪魔になります」


「そうですね」「姫はこの館で待っておきましょうね」と竹の守り役達も同意する。

 緋炎も、他の守り役達も「竹がそういうのなら」って納得しかけている。


 なんだよ!

 連れて行ったら竹は絶対喜ぶのに!

 みんな一緒のほうが絶対楽しいのに!


 その時のオレはそう信じてて、だからなおも強引に誘った。


「ヤだよ!

 梅も菊も行くんだ。

 竹だけ留守番なんて、除け者にしてるみたいじゃないか!」


 オレの剣幕に竹は「そんな…」ってびっくりしていたけれど、構わず叫ぶ。


「出かけるなら、友達みんなで行きたいじゃないか!」


「……ともだち……?」


 なんできょとんとしてるんだよ。


「友達だろ?」


「……友達!?」


 なんでびっくりしてるんだよ。


「竹はオレの友達! 梅も菊も、オレ達四人は友達!」


 そうはっきりと言ってやると、竹はわかりやすく息を飲んだ。

 そのまま窒息するんじゃないかと心配するくらい息を止めていたけれど、みるみる顔が赤くなっていった。


「友達……」

「なんだよ。文句あるか?」


 ムッとして竹をにらむと、竹はあわてて首をぶんぶん振った。

 首もげるぞ? 竹。


「――その、あの――うれしい、です」


 うつむいた竹は、恥ずかしそうに、うれしそうに、そう、ポソポソと言った。


「――私、友達なんて――」

 はじめてです。


 消え入りそうな声で、竹はそう言った。


 そんな様子が微笑ましくて、梅も菊もニコニコして竹を見つめていた。

 守り役達も「よかったね」って顔で竹を見つめている。

 黒枝は涙ぐんでいた。


「な!? 行こうぜ! みんなで!!」


 もう一度誘った。

 竹は赤い顔を上げてうれしそうに笑った。

 けれどすぐにまた顔を曇らせ「――でも……」と言った。


「ホントに、無理だと思います。

 私は歩くのも遅いですし、すぐに疲れてしまいますし……」


「だから黒陽が抱いていけばいいだろ!?」


 そう言ったのに、当の黒陽は「護衛が手がふさがった状態でいるわけには参りません」とつれない。


「他の近衛連れていけばいいだろうが! 何人もいただろう!?」

「森への立ち入りは何人許可されているのですか?

 そんなに何人も連れて行っていいのですか?」


 ああ言えばこう言う!

 あああ、もおお!


「絶対楽しいって!」

「気分転換になるよ!」

「体力づくりになるだろ!?」


 森へ行く利点をいくつも並べて、駄々をこねて。

 押し問答の末、最終的には「もう少し相談して決める」となり、その日はお開きになった。





 北の国の館からの帰り際、西の国の館に寄るよう菊に誘われた。

 めずらしい誘いに驚いたけれど、入ったことのない西の国の館に興味が湧いてノコノコついていった。


 菊の側仕えが茶を用意して下がる。

 部屋に残ったのは、オレと梅と菊、それぞれの()り役の六人だけになった。


 さらに周囲に結界を張り、そうしてやっと菊が口を開いた。


 今、白蓮(はくれん)ではひとつの『先見(さきみ)』が問題になっているという。

 誰が占っても、何度『先見』をしても、結果は同じ。



『世界が崩壊する』



 白蓮は占術の国だ。

 名高い占術師が何人もいる。

 菊も、現王も占術師のひとり。


 どの『先見』も最近は『世界の崩壊』ばかりだという。

 その『鍵』が『黃珀(おうはく)にある』というのも同じ。


 表向きは次期女王がほぼ確定になった菊が『黃』の王族に挨拶に来たとなっているが、実は『世界の崩壊』を防ぐため、さらに詳しい『先見』をするためにこの黄珀(おうはく)に来た、と菊が話す。



「――大事じゃないの」

 震える声で梅が言った。


「『()』の王族へは――」

「進言済みよ」


 緋炎の問いかけに冷静に菊が答える。


「この黄珀(おうはく)についてからも毎日『先見』をしているけれど、結果は変わらない。ただ、ここに来て()えはじめたものもある」


 菊は机に置いた鏡に目を落とした。

 いつも菊が持っている鏡。

 両手で持たないといけないくらいの、丸い鏡。

 銀の小菊で縁取られた見事な細工の鏡は、菊が占術をするときに欠かせないものだという。


 オレ達には見えないものが菊には()えているのだろう。

 鏡面を見つめたまま、ぽそりと言った。


「どうも『森』と『竹』が『鍵』みたいなのよね」


「『鍵』……」


 それは。


「……それは、いい方に? 悪い方に?」

「わからない」


 梅の問いに、菊はゆるく首を振った。


「それが『読めない』。

 竹が森に行くことが、いいことなのか、悪いことなのか。

 だから今回、私は口を出さなかった。

 成るように任せようと思って」


 ふう、とひとつ息をついて、菊はオレ達をぐるりと見回した。


「ナニカが妨害して『読めない』のか。

 単に『未来』が不確定で『読めない』のか。

 それすらも『読めない』。

 こんなことは、私も初めてで、戸惑っているのよ」


 何が起こっているのか、何が起こるのか。

 この間の緋炎の警告がアタマをよぎる。


「…菊は『災禍(さいか)』って、知ってるか?」

 聞いてみたら、菊も白露も顔をゆがめた。


「知らない」

「なんですか?」


 梅も蒼真(そうま)もきょとんとしている。

 改めて緋炎が説明する。


「――『災禍(さいか)』――」


 話を聞き終えた菊が机の上の鏡に手をかざす。

 霊力を込めているのがわかる。

 が、すぐにバチッとナニカに弾かれた!


「姫!」

「大丈夫」


 あわてて白露がその手をとる。

 菊の真っ白な掌は、火傷でもしたかのように焼けただれていた。


「大丈夫じゃないじゃない!」

 すぐさま梅が首からかけていた霊玉を外して菊の手に当てる。


 ぽ、と紅く光った霊玉は、瞬時に菊の掌を元に戻した。


「え!? なにしたんだ今!?」

「治癒術よ。赤香(あこう)でも使ってるでしょ?」

「使ってるけど、そんな効果ないよ!」

 そう叫ぶと、梅はニヤリと笑った。


「私を誰だと思ってんのよ。上級薬師様よ」

「もうすぐ特級ですよ」

 蒼真も自慢げに言葉を足す。

「さいですか」としか言えない。


 とにかく梅がすごいことはわかった。

 すごいすごいとは思っていたけれど、ここまでとは。


「で? どしたのよ?」

 梅にそう聞かれて、菊はその美しい眉をひそめた。


「弾かれた」

「は?」

「この私の『先見』が、弾かれた」

「姫――!」


 オレ達はイマイチよくわからなかったけれど、白露のうろたえる様子からただ事ではないことはわかった。


「おそらく、その『災禍(さいか)』が関わっているわね。

 ――もう少し情報があればなにか『()える』かもしれないけれど……」


 あごに手をあてて考え始めた菊に、緋炎が「情報が得られ次第報告する」と約束した。


「――竹を連れて行くのは、やめる?」


 梅の問いかけに、菊は迷っていた。


「――連れて行くほうがいいのか、連れて行かないほうがいいのかもわからない。

 とりあえずは、流れのまま様子をみるわ。

 ただ、なにが起こるかわからない。

 そういう状況だということは、承知しておいて」


 菊の警告に、ただうなずいた。




 そこまで言われても、緋炎や菊が警戒していても、そのときのオレは『初めての場所』に『友達みんなで行ける』ことが楽しみで浮かれていた。


 だから、まさか、あんなことが起こるなんて、考えることすらなかった。

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