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惟任日向果心居士に出会ふこと

作者: 小城

 今は昔、惟任日向信長を討たむとて亀山より京へ向かふその途次老ノ坂といふところに差し掛かり候折、草陰より人現れ出でたるなり。「かよふな夜更けに何者ぞ。」と日向問ひしにその者「我果心居士といふ者に候。汝は惟任日向に候はむ。汝に申したきことあり。」と申す。「怪しき者なり。切り捨てにせよ。」と日向申すに果心「切られてはかなわじ。しばし相手候へ。」とて怪しき香の煙焚き候。日向その香を嗅ぐや一時眠られ候。その日向の夢にて日向本能寺に信長を襲い奉りしより小栗栖にて討たれ候までのことを見侍る。それ一瞬のことなり。日向目を覚まし驚きて「主は何をし候や。」と問ふに「それは汝の行末なるや。今老ノ坂を下り侍りなば汝の行末や斯くの如し。而して帰り候へば汝助かりなむ。我汝がこと惜しく候。げによりて命助けに来候。」と申す。日向曰く。「有難きことなり。然れど我は命惜しきことなし。ただ信長をば生かしておくこと許すまじき。」と。果心曰く。「汝の申すやふ。まことなるかな。汝本能寺にて信長を討たば織田の天下滅びなむ。代わりに羽柴筑前天下を治め候なり。」と 日向曰く。「此れ面白きことかな信長が次に天下を治めしは羽柴筑前守なるや。」と。果心曰く。「げに候。然れど筑前の天下長く治まらずして筑前の代にて滅び候。」と。日向問ふ。「筑前守滅び候てのち誰が天下を治め候なりや。」と。果心曰く。「三河守天下治め候なり。」と。「此れまこと面白きなり。我信長を討ちてのち三河守殿天下を治め候や。然れば我が信長を討つは三河守殿の天下を取り候先駆けなるや。」と。果心曰く。「げに候ても汝や汝の係累が命多く亡くなり候。汝思ひ改め候て老ノ坂を引き返し候や。」と。日向曰く。「まこと有難き言葉なり。」と。その話聞きて斎藤内蔵助横槍にて果心を討たむとせむ。内蔵助曰く。「此れ戯れ言を言いて我等を阻み候か。果心居士といへばかつて松永弾正に仕えし者に候。さては弾正の恨みを晴らしに出で候や。」と。果心此れを聞きて曰く。「我弾正の遺恨此れなく候。ただ汝等の命惜し候なり。」と。内蔵助答へずして槍を突きつけ候なり。然れば果心彼の妖しき香の煙出だし候。内蔵助その煙を嗅ぐや気を失い候て、果心は陰に隠れ候。内蔵助気を取り直して日向に言ふやふ。「これ奴原が信長に密告し候やも知れず候。急ぎ信長を討つべしや。」と。日向此れを聞きて「げに候。」とてはや兵を進めたるやと。

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