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 ポレール中将を倒したネイアとダーリッチは、テントから脱出する前に、逃走のための準備をする。

 その際には、高官の残していった貴重品を頂戴することも忘れない。

 どうせ、そのままにしていても、サーキ党の有象無象に略奪されるのだ。

 テントには、二人以外残っていないので、止める者はだれもいない。

 ネイアとカジロークは、バックパックに、貴金属やサイズの近い衣類、食料等を詰め込む。手にはライフル、腰にはサーベルを装備する。

「うぐおおおおおおお」

「ぐががああああ」

 濁音を叫びながら、唾液を口元から垂らした元は王国兵であったろうゾンビが、テントに侵入してくる。

 おそらく、テントに漂う死臭を嗅ぎつけてきたのだろう。

「まだ品定めをしたいのですが……そろそろ潮時ですわね」

「私が支援するから、カジは先に逃げて!」

「カジって、慣れ慣れしいですわね」

「戦友なんだから、細かいことは気にしない。さあ、はやく」

 ゾンビが侵入してきた逆側の出口に向けて、カジロークはライフルを杖代わりにして歩き出す。ポレール戦で負傷した足が、まだ痛むのだ。

「ポレールに比べたら、雑魚ばかりよっ」

 ネイアは近い順に、ヘッドショットでゾンビを倒していく。

 軍学校で教練を受けただけの下手な射撃であるが、幸いテントには弾倉がいくらでも散乱しており、銃弾には困らない。

(落ち着いて、ネイア。距離は十分にあるわ)

 ネイアは自分にそう言い聞かせながら、カジロークが脱出するための時間稼ぎをする。幸い、先ほどのポレール中将は例外だったようで、普通の王国兵のゾンビは、動きが遅く、知性は感じられない。ただ、腐臭と生命体に反応して行動しているようだ。

「これでも食べてなさい!」

 ネイアは転がっていた腕、おそらくポレール中将に殺された文官の誰かの腕、をゾンビに向けて投げる。

 すると、ゾンビたちは、餌に群がる家畜のように腕に集まった。

「今のうちに逃げるわよ」

 ネイアはカジロークの肩を支え、テントから脱出した。

 

 ネイアが観察するところ、サーキ党のゾンビは二種類いる。

 一つは、ポレール中将のようにゾンビに噛まれてゾンビ化した者。

もう一つは、何らかの方法により、一時的にゾンビ化している人間だ。後者のゾンビを、仮称としてゾンビもどきとしよう。

 ゾンビもどきは、一時的にゾンビ化するだけで、しばらくすると人間に戻る。

 ネイアたちが、逃走している最中に何度か、サーキ党の兵をやり過ごしたが、彼らは先ほどとは違い、普通の人間に戻っていた。

 ところが、ゾンビもどきに噛まれた人間は、ゾンビになるようだ。

 サーキ党の部隊の周囲を、ゾンビ化した王国兵がうつろな目で囲み、肉壁の役を果たしている。彼らはサーキ党の指揮官の命令に従っている様子だ。

 王国軍の生き残り部隊が、サーキ党の部隊に攻撃を仕掛けたのを、ネイアは偶然目撃したが、王国兵ゾンビが肉壁となって、攻撃をすべて受け止め、逆に生き残り部隊がゾンビにやられてゾンビ化していた。

(こんな人外に勝てるわけがありませんわ)

 既に、ネイアたちがやってきた王都方面に続く主な街道はサーキ党の手に落ちている。オーブラカの住民は、王国の腐敗に不満を覚えている者も多く、サーキ党勝利の報を聞くや、王国や貴族の代官を処刑して、サーキ党に味方しているのだ。

 戦場にいたネイアたちがどうしてそれを知っているのかといえば、残党狩りの地元の自警団があちこちにうろついているからだ。土地勘のある自警団の警戒網を抜けて、王都方面に脱出するのは難しい。

 草むらに隠れて自警団をやり過ごしていたネイアたちが、竹槍の先にくくりつけられた生首に気づく。

「見て、カジ。あれ、財務補佐官だよね」

「まあ、財務局のナンバー3とは、大物ですの。まあ、不正に不正を重ねていましたから当然の報いかと。それも一族の権力をバックにした、根回しも何もない、雑な不正。あれだけ露骨だと、王国民の恨みを買って当然ですわ。今回の遠征に同行したのも、戦利品を横領するためだともっぱらの噂で。ただ、上層部は自らの不正追及を避けるために、彼を弾よけに使っていたようでもありましたけど……」

 カジロークは普段はお嬢様然としているが、没落後に自分の実力で這い上がってきただけに、根底の部分では、甘ちゃんではなくドライである。財務補佐官の死を当然という様子で観察している。

「ただ彼は、不正は多かったですけど、財務処理に関して有能であったのも事実ですわ。彼が死んでしまったことで、財務局の職員は今年の予算編成で胃に穴が空くのではありませんの?」

 世の中、悪と善で二分できるものでもない。財務補佐官のように、不正は多いが仕事に関してはすこぶる有能な人物が、衰退しつつある王国を支えているのも、また一つの側面だ。

 彼のような、各部門の高官に顔が利き、安定して職務に取り組める権力基盤を持ち、財務処理に秀でた人物が次に出てくるのは、いつになるのだろう。

「ともかく彼と同じ運命は避けなければ」

「では、どういたしますの?主要な街道が封鎖されている以上、王都方面へ続く、けもの道でも探しますか?」

「灯台もと暗しというでしょう」

 ネイアは、悪い笑みを浮かべる。


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