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 オーブラカと呼ばれる城塞都市がある。オーブラカの周囲には平野が広がり、その平野まわりを山岳が囲っている。

 古来より、交通の要所であり、近くに大河あることから農業と工業も盛んだ。と軍学校で習ったのをネイアは思い出す。

 サーキ党は、この都市を本拠地にしている。

 結党当初の主要メンバーであった商人たちは既に粛正され、現在は、ガモンと名乗る野良祈祷師あがりの男が党首になっているらしい。

 ネイアの耳にも、ガモンは不思議な力を使うと、うわさが入ってくるが、その内容も天気を変えたやら、死人を生き返らせなどと、うさんくさい。

 王国としては、連戦連勝で、なんとかまとまっているサーキ党を一度破ってしまえば、所詮は烏合の衆なので一気に弱体化するだろうと読んでいる。

 大貴族たちが悪戦苦戦しているサーキ党を王国軍が鎮圧すれば、王権強化にもつながるだろうという目論見も見え隠れする。

(とりあえず、私が助かれば、王家と貴族どちらが主導権を握っても問題ではないわ)

 ネイアは、連日の作業である来賓のためのティータイムの準備を整えると、貴賓席のテントへ向かう。

 テントに入ると従軍している大貴族や高官たちが、ここ数日、戦線で動きがなくて飽き飽きしている。

「毎日、同じ紅茶で飲み飽きたよ。ネイア嬢」

「申し訳ありません、内務次官様。戦地では、紅茶を手に入れるのもやっとで」

「ああ、いいんだ。君の責任ではない、我々高官の無策の責任だ。いかに、我が王国が表面上は豊かに見えても、内情は、ずたずたなのさ。紅茶の数種類も揃えることも出来ないほどに貧弱な輸送網しか持っていないということだ。この反乱が終われば、道路網の整備は必須だな。まあ、反中央集権派の大貴族が反対するだろうが」

 内務次官は、日頃どれだけ貴族との調整で頭を悩ませているのだろうか、年の割に薄い髪の毛に手をかざす。

「まあ、ネイア嬢のような、かよわい女性が前線にでることも、今後あるまい。今日限りでサーキ党も終わりだ。所詮は、イナゴのようなものだよ。私の観察するところでは行く土地の財産を収奪するだけで持続可能な組織にはなっていない。一度、手痛い敗戦で求心力を失えば、それで終わりだ。規模の大きい賊に過ぎんよ。はあ……鎮圧後の復興費用のことは考えたくないね。悪いね、愚痴ってしまって」

 貴賓席のテントでは、反乱鎮圧後の話題ばかりが飛び交っている。貴族と官僚たちが、鎮圧後の利権の配分をめぐって談義を繰り返しているのだ。

 まあ、無理もないと、ネイアは思う。

 今回の、討伐隊の編成は、普段は内輪揉めばかりしている宮廷が、利害を超え一致団結して編成した軍だ。潤沢な予算に、派閥を超えた将校の能力主義での人事。鎮圧後処理のために文官たちが従軍しているのも、今回の討伐の余裕の表れだろう。



 


 オーブラカに到着して、三日目。遂に戦線が動き出した。

 都市から、サーキ党の軍が出てきたのだ。報告では、その数およそ三千。

 賊として考えれば、大規模なのだろうが、軍隊として考えれば、それほど大きな規模ではない。そのうえ、民衆の寄せ集めの練度の低い部隊だ。

 対する王国軍は一万五千。サーキ党の五倍の規模だ。補給も充実し、練度も高い。王国軍の精鋭を引き連れている。

 総大将は、ポレール中将。

 若くして盗賊討伐で大功を挙げ、軍組織の改革についての論文も発表し、高く評価されるなど、文字通り文武両道の将軍である。将来の元帥候補と呼ばれ、王の信任も厚い。

 王国軍では彼以上に優れた将軍はいないと言われている。

 ポレール中将は、将軍としてだけでなく個人的武力にも優れ、「怪力」というレアスキルを持っている。シンプルゆえに小細工のない強さがある。盗賊討伐の際には、賊の親玉を一騎打ちで討ち取った武勇伝もあるほどだ。

 ポレール中将は、前進してきたサーキ党を半包囲で囲むかたちで布陣する。

 左右と中央の部隊からの同時攻撃で、敵を一気に崩壊させる作戦だ。わざと敵の後方は空けておき、敗走しやすい様にしている。

 並の将軍なら、欲が出て敵の完全包囲からの殲滅を狙うが、ポレールは敵に敗北の記憶を刻みコ込み、自軍の被害を最小限に抑えるという作戦目標からぶれない。彼の堅実さ、指揮官としての優秀さを現わしている。

「全軍、攻撃開始!敵の逃げ道は空けておけよ!」

 ポレールの指示と共に、王国軍が攻撃をしかける。騎馬隊の馬蹄が鳴り響き、歩兵たちの雄叫びが聞こえる。

 攻撃が始まって、一時間ほど経過した。王国軍は休みなくサーキ党に攻撃を加えているが、敵は一向に動揺する様子はない。

 狂信的な敵と、ポレールは事前に聞いていたが、いくら精神がタフでも、肉体には物理的な限界があるはずだ。

「おかしい。なぜ崩れない……」

「ポレール中将!敵が隊形を錐形に変えつつあります」

 副官がポレールのもとへ血相を変えて駆け寄る。

 現在、想定以上の敵の抗戦により、王国軍の包囲網は薄く広く広がってしまった。一点に戦力を集中して反撃されると危険だ。

「錐形にだと……正面突破する気か!怪力のスキルを持つ私が出て、雑兵どもを食い止める!」

 ポレールは武器を取る。凄腕の戦士ばかりを集めた側近を集合させ、指揮所から飛び出した。

「これで、我が王国軍は勝ったな……」

 副官は、ポレールのたくましい背中を見ながら、安堵するように呟いた。


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