第5話【覇者は死なない】
謎の女の計画を阻止するべく、 イージス達はアンデット達の発生源を探していた。
“ズバババババババッ! ! ! ”
邪神剣と動きを合わせながらイージスはアンデットの大群を次々と切り裂いていく。
“ズバァァァッ! ! ! ”
ザヴァラムも両手の大剣を振り回しアンデット達を一気に切り裂いていく。
……これじゃキリがない、 やっぱり発生源を潰さないと……でもさっきから探知スキルが反応しない……ラムもやってるみたいだけど反応はしていないみたいだな……これはかなり強力な隠蔽魔法だぞ。
イージスが発生源を見つけられずにいると
(新しいスキル、 超探知を習得しました。発動します。)
超探知? 何か凄そうなスキルだけど。謎の声さんが作ったのかな……ん?
すると今まで反応しなかったアンデットの発生源の場所が探知できた。
すげぇ、 隠蔽魔法を破って探知できるようになったぞ! これで場所が分かった、 早く行って潰さないと!
「ラム、 場所が分かったぞ! 」
「本当ですか! 」
「行くぞ! 」
イージス達はアンデット達を倒しながら発生源の場所に向かった。
着くとそこには廃墟があった。中からシルフィの気配も感じる。しかし廃墟の前にあの女ともう一人、 謎の男が立っていた。
「見つけたぞ! 」
「あっれぇーまた一人増えてなーい? 私一度に二人相手するのはちょっと厳しいかもぉ」
三人殺しておいてよく言う……
「ゾームぅ、 一人頼める? 」
「任せておけ」
相手は一対一で戦うつもりだ。
どうする、 隠蔽魔法を使っていたのはきっとあの男だ。恐らく普通の冒険者よりもかなり強い……ラムでも勝てるか?
イージスはザヴァラムを見た。ザヴァラムは静かにうなずいた。
よし、 ラムを信じよう。
「ラム、 あの男を頼む。俺はあの女をやる……」
「承知致しました」
「なーにごちゃごちゃ言ってんの? こっちは早く遊びたくてたまらないんだけど」
「待たせたな……なぁ、 場所を変えないか? 俺とお前だけで戦おうじゃないか」
「ふふっ、 いいわよぉ。じゃあまた後でねぇ」
イージスと女は別の場所に移った。
そこは廃墟からは結構離れた場所である。
イージスは剣を構える。
「やだぁ、 ちょっとおしゃべりくらいしようかと思ってたのにぃ」
「必要ない、 来い……! 」
「あっ、 ちなみに私の名前、 ナーヴィね。まぁこれから死ぬから関係ないか……」
覚えたくはないが覚えておこう。
するとナーヴィはローブを取り、 着ている装備を顕にした。
何だあの装備……まるで生きているような気配を感じる。
「さぁて、 ショータイムとでもいきましょうか……! 」
そう言うとナーヴィは猛スピードでイージスに向かってきた。
それに邪神剣が反応し、 防御した。
「チッ、 邪魔な剣ね……」
「悪いがお前は俺に一ミリもダメージを与えられないだろう」
「舐めたこと言ってくれるじゃない……いいのかなぁ、 本気出しちゃって? 」
これは仇打ちでもある……あんなにいい人達がこんな女に殺された。しかもこの女は殺害を楽しんでいるグズ野郎だ。
最恐の絶望を味わせてやる……
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一方、 ザヴァラムは
「お前、 かなり強いな……」
「当たり前でしょう、 私は龍人族なんだから」
「龍人族か……お前を使えばより強い軍勢ができるかもしれない、 生け捕りにしてやろう」
「やれるものならやってみなさい」
ザヴァラムは構えずに棒立ちする。
それを見てゾームは攻撃を仕掛ける。
「闇の炎よ……! 」
“ゴォォォォッ! ! ”
辺り一面が黒い炎で焼かれた。
しかし……
「……これで終わり? 」
「なっ……! 」
ザヴァラムは平然とそこに立っていた。体に傷ひとつ付いていなかった。
「馬鹿な! この炎は龍をも焼き尽くす上位魔法だぞ! 」
「はぁ……あなたって本当に愚かな人間ね、 一つ教えてあげるわ、 その黒炎は龍をも焼き尽くすと言っているけど……それは中位龍にしか効果を発揮しない」
そう言いながらザヴァラムは両手に持っていた大剣を捨てた。
「何だと、 お前は上位龍とでも言うのか! 」
「少し正解で、 ほとんど間違ってるわ。 私は普通の龍人族ではない、 世界最強の龍人族と言われる種族、 覇龍族よ……そして私はその中でも最強にして最恐の龍人と言われている龍……」
するとザヴァラムの周りで燃えている黒炎が彼女の周りに集まり、 彼女の体を覆った。そして段々と炎の大きさは廃墟よりも大きくなり、 一気に炎が散開した。
その中から現れたのは……
『覇王龍、 ザヴァラムだ……! 』
その体は黒い鱗を纏い、 その目は赤い月のように赤い、 巨大な二足歩行型の龍だった。
「な、 何だ……と」
ゾームはその場を動けなかった、 恐怖で足がすくんだ。
『イージス様から聞いた、 お前達は世界を支配しようとしているとな……身の程を知れ! 』
「ヒィィ! 」
『それに世界を支配するのはお前達ではない、 魔王軍でもない……真に世界を支配するのは……我ら、 邪神軍だ……! 』
その時、 ゾームは初めて自分のしたことに後悔した。邪神軍に手を出そうとしたこと、 そして相手が世界最強にして最恐の覇王龍、 ザヴァラムだったということ。彼は希望を失った。
『そろそろ終わりにしてやろう。イージス様を待たせてはいけない……』
そう言うとザヴァラムは大きな口を開け、 そこから大量の黒い炎を吐き出した。
ゾームは成す術無く跡形もなく消し炭となってしまった。
ザヴァラムは人の姿に戻った。
「……ふん、 ハエにも集られないゴミ以下の人間が」
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少し時間を遡る……
イージスとナーヴィが戦っている時
「……来い! 」
「フフフフ……強化魔法、 身体能力向上、 脚力強化、 剛腕……」
そしてナーヴィはイージスに襲いかかる。
イージスは棒立ちして何もしてこない。ナーヴィの持っている短剣はイージスの胸に刺さろうとした、 しかし邪神剣が防ぐ。
それに対してイージスは
「防御はしなくていい、 邪神剣……」
そう言うと邪神剣は大人しくなった。
「自分から防御を捨てるなんて、 あなた馬鹿なのぉ? 」
「お前に防御は必要ない」
イージスは挑発している。
「なんならお望み通り殺してやるよぉ! 」
ナーヴィはそう言うと短剣をイージスの胸に突き刺した。すると短剣から黒い炎が溢れ出てきた。
……珍しい武器だ、 武器が魔法を展開するなんて邪神軍の武器には無かったな……
「これで終わりだと思わないでよぉ~! 」
ナーヴィは二本目の短剣を取り出し、 今度はイージスの目に突き刺した。短剣からは黒い稲妻が出てきた。
「あっははははははぁ~! 」
……しかし、 イージスは動ずることもなくナーヴィの体を捕らえた。そう、 イージスにはダメージが無かったのだ。
イージスは体に短剣が刺さったまま話し出した。
「悪いな、 その威力じゃ全然痛くも痒くもないんだ」
「な、 何で! ? 」
「答えはスキルだよ。スキル、 不死身だ。そして……」
(スキル、 覇神の加護が発動しました。魔法攻撃を無効化しました。)
そう、 覇神の加護である。イージスは覇神の加護の効果を前もって理解していた。
覇神の加護は自分に対する敵意、 危機を感知すると発動する。
効果は様々、 魔法攻撃や呪い、 状態異常を吸収したり無効化したり、 はたまたどんな物理攻撃も反射する、 更に反射した攻撃は受けた威力の倍にして返すことも可能なのである。
効果はそれだけではない、 覇神の加護は発動時、 自身の能力値を倍増させるのだ。
まぁ俺の場合だと基礎能力が生物の域を超えているから最後の効果はあまり関係なさそうだけど。
「俺しか持たない最強のスキルさ……」
「何を言って……」
「さて、 そろそろ遊びは終わりにしようか」
そう言うとイージスは体に刺さった短剣を抜き、 ナーヴィの顔を鷲掴みにし、 その手から黒いオーラが滲み出てきた。
するとナーヴィは突然苦しみだした。
「うぎゃぁぁぁああぁ! や、 やめ……やめろぉぉおぉ! 」
「この魔法は今まで殺してきた命の重さに比例して苦痛が大きくなるんだ。今お前が体感している苦痛は……今まで殺してきた人達全ての苦痛だ! 」
みるみるとナーヴィの体に黒いオーラが包み込んでゆく。
「お願い……やめでぇぇぇええぇ! ! 」
「お前はそう言ってきた人達に、 何をしてきた? 」
「うっ……」
「これが報いだ……! 」
深淵呪詛魔法……罪と罰……
そしてナーヴィの体はドロドロに溶けて無くなってしまった。
……これで終わったのか……いや、 殺された人達の命は決して戻ってこない……だがこれで少しは報われただろう……
「ベルタ……ディール……フローナ……皆の無念、 果たしたよ」
そしてイージスはザヴァラムの所に戻った。
合流した二人は廃墟の中に入った。そこには何かしらの器具を付けられたシルフィがいた。
「シルフィさん! 」
これは……洗脳系の魔法にアンデットを生み出すための魔法具……早く解放しないと。
回復魔法、 洗脳解除……破壊魔法、 アイテムブレイク……
シルフィの洗脳は解け、 魔法具も破壊された。
………………
カロスナにて……
「まずい、 このままだと突破される! 」
(イージス様ぁ! )
街にアンデット達が入りそうになったその時、 アンデット達は突然消滅した。
「き、 消えたぞ! 」
「助かった……」
「やったんですね……イージスさん……」
街は間一髪で救われたのだった。
……………
一方イージス達は気絶したシルフィを運び、 街へ戻った。
「あとはシルフィさんをケルナ村に送るだけだな」
「それは私にお任せを」
「おう、 悪いな」
(イージス様ぁ~! )
エメが街でイージス達を出迎えた。エメの側にはミーナもいた。
「シルフィさんは無事だったんですね。良かったぁ……」
「後のことはラムがやってくれる。今日は休もう」
「そうですね、 私お腹空いちゃいましたよぉ! 」
その夜、 イージス達は酒場で食事をした。街からはイージス達を英雄だと言われ、 周りの人達から沢山のお礼を貰った。
食事中、 イージスはミーナにある話をしてきた。
「……なぁ、 ミーナはこれからどうするんだ? 」
「そう……ですね……行く宛てが無いです……どこかで農家でもしますかね……はは……」
ミーナはこれからもっと強くなれる、 今ここで冒険者を辞めてしまえば彼女は成長できない気がする……
それに……このまま彼女と別れたら……何だか……いけない気がする……
俺が言わなくては……
「なぁ、 その……良ければだけど……俺達でパーティを組まないか? 」
「へ……? 」
「あぁやっぱりいいよ、 嫌だよね? 」
「そ、 そんなことありません! 私、 嬉しいです、 イージスさんと一緒に冒険してみたいです! 」
ミーナ……
「じゃあ、 これからもよろしくってことかな? 」
「はい、 よろしくお願いします! 」
イージスは新しい仲間を手に入れた。 それは誰よりも弱く、 誰よりも優しい……癒しの魔術師だった。
……………………
(イージス様……まだかなぁ……)
「まぁそう言うなドラゴン」
街の外で兵士と一緒に寂しそうに待つエメであった。
続く……