第4話【仲間の死、闇の存在】
「この度は本当にありがとうございました。お陰で村も安全になりました」
「いえいえ、 これも仕事ですから」
村に戻ったイージス達は村長からお礼を言われた。
「今夜は宴ですな! 」
「おおっ、 丁度酒を飲みたかったんだ! 」
「もう、 ディールったら……」
『あはははは! 』
やっぱり仲間がいると楽しいよなぁ……
イージスは染々そう思うのだった。
その夜、 村はイージス達に感謝を込めて宴を始めた。
酒なんてもう何年飲んでないんだろう、 めちゃくちゃうまい!
「そーら飲め飲めぇ! 」
「ガハハハハッ、 早く食べないと俺様が全部食べちまうぞぉ! 」
『ワイワイガヤガヤ』
イージス達はとても楽しい時間を過ごした。
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「……ふふっ、 いい実験台、 みーつけた……」
村から離れた所にある木の上から何者かが村を覗いていた。
「おい、 今回はあくまでも触媒を拐ってくることだ……あまり死体を増やさないでくれ」
後ろからもう一人の何者かが話しかけてきた。
「分かってるわよぉ……あの小娘を拐えばいいんでしょぉ? 」
「よぉし……それでいい、 俺は先に待っている……後で会おう」
そう言うともう一人の何者かは消えた。
「大丈夫よ、 ヘマはしないわ……私は元黒曜等級の帝国代表暗殺者だもの……」
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一方その頃、 宴の真っ最中の村では。
「おじいちゃん、 私次の料理持ってくるね」
「おぉ~頼む」
村長の娘、 シルフィが宴用の料理を取りに行った。
……………………
「すいませーん、 追加の料理お願いしまーす! 」
「あっ、 済まねぇシルフィちゃん……材料を倉庫から持ってきてくれねぇか? 」
「はーい! 」
シルフィが倉庫に入ったその時、 何者かが後ろからシルフィを襲い、 連れ去った。
そして数分後……
「シルフィちゃん遅いなぁ……何かあったのか? 」
料理人が倉庫を見に行った。しかしそこにシルフィの姿はどこにもない。
「シルフィちゃん! シルフィちゃん! ! どこだシルフィちゃん! ! ! 」
シルフィの返事も当然しない。
「……こりゃ大変だぁ! 」
料理人は急いで村長に知らせる。
それを聞いた村長はあまりにものショックで倒れてしまった。
「村長、 しっかり! 」
「な、 何ということじゃ……シルフィが……」
するとベルタ達が
「ダルム村長、 俺達に任せて下さい! 今からシルフィさんを探しに行ってきます! 」
「し、 しかしこんな暗い中じゃ……」
「大丈夫ですって、 何てったってここにダイヤ等級と金等級の冒険者がいるんですから! 」
完全に俺達を宛にしてるな……まぁいいんだけど……それよりも森の中からシルフィさんらしき人間の気配を薄く感じるし、 早く探し出そう。
イージスは探す前からシルフィの居場所を大体把握していた。
「それではお願いします……どうかシルフィをお願いします」
「了解! 」
そしてイージス達は再び森の中へ入っていった。
さて、 狭域探知……
(スキル、 狭域探知が発動します。)
……見つけた。でも妙だな……シルフィさん以外にもう一人の反応があるぞ?
すると突然辺りに霧が出てきた。
「な、 何だ! ? 」
「イージスさん! 」
ベルタ達の姿が見えなくなりイージスとラムはベルタ達と離れ離れになってしまった。
これは……転移魔法……それも上位の……一体誰が?
…………………………
一方、 ベルタ達は
「まずいぞ、 イージスと離れてしまった! 」
「どうすればいいの! ? 」
イージス達と離れてパニックになっているベルタ達に、 何者かが迫ってきた。
「何だ、 人影が見える」
出てきたのはローブを深く被った女だった。
「だ、 誰だ! まさかお前がシルフィさんを! 」
ベルタ達は武器を構えた。
すると女は突然笑い始めた。
「フフフフ……あっはははは! 」
「何だ、 何がおかしい! 」
「フフフ、 ごめんなさーい、 あまりにも弱すぎてつい笑っちゃったわ……」
女が挑発する。
「何だと! 」
「あなた達が言った通り、 私があの小娘を拐ったのよ。勿論返すつもりはないわ……さて、 そこからどうするのかなぁ? 」
「くっ、 貴様ぁ! ! 」
…………………………
「ベルター! フローナー! 」
声の届かない場所にいるのか。広範囲探知……
(スキル、 広範囲探知が発動します。)
……見つけた……けど、 何か様子がおかしい! 生体反応が感じられない、 まさか……!
超強化魔法、 身体能力!
「行くぞ、 ラム! 」
「はい! 」
イージス達は急いで探知した場所へ向かった。
頼む、 頼む頼む……生きててくれ!
しかしその願いも虚しく、 その場所には変わり果てたベルタとディール、 そしてフローナの姿があった。
(死亡してから一定時間が経過しています。 蘇生不可能です)
駄目か……それよりもミーナがいない、 狭域探知!
(スキル、 狭域探知が発動します。)
……いた、 すぐそばの木の陰から気配がする。 隠蔽魔法が掛けられている。
「ミーナ、 俺だ、 イージスだ! 」
すると木の陰から青い瞳をした薄緑の髪の少女が出てきた。
ミーナである。
「イー……ジスさん、 ザヴァ……ラム……さん……」
「もう大丈夫だ」
「う……うぅ……うぇぇぇぇ~! 」
ミーナは泣き出してしまった。
「皆……皆……殺されちゃった……私を守ろうとして、 最後に……ベルタが……」
なるほど……隠蔽魔法はベルタが……パーティメンバーの中で一番戦闘に向いていないミーナを……全員で……
「私のせいで、 私の……いつも自分から何かできずにいて……それで……うぁぁぁぁ~! 」
またミーナは泣き出してしまった。
今この場所でこの状況はまずい、 落ち着かせないと……
精神操作魔法……
イージスは魔法でミーナを落ち着かせた。
「落ち着いたか? 」
「グズッ……はい、 ありがとうございます……」
するとイージスはさっきとは別の気配を感じた。
……あっちか……強い気配を感じる。
「……ラム……」
「はい」
「……ミーナを頼めるか? 」
「……! ……はい」
ザヴァラムも気配を感じ取った。
イージスはラムとミーナと一旦別れ、 気配のする方へ歩いていった。
イージスが向かった先にはローブを深く被った女と気絶しているシルフィがいた。
「あれぇ? 今度はまた別の冒険者ねぇ、 転移魔法に掛からなかったのかなぁ? 」
転移魔法……ということは奴がベルタ達を……!
あの時、 イージスとザヴァラムが転移魔法でベルタ達と一緒に転移しなかったのは常に二人は魔法や物理攻撃を弾くスキルを発動していたからである。その為その女にはイージスとザヴァラムの存在を確認できなかったのだ。
「お前がベルタ達を殺したのか! 」
「やだ怖ーい、 ふふっ、 まぁその通りなんだけどね」
「何故殺した……」
「何故って、 私達の計画の邪魔になりそうだったからよ」
私……達? つまりその計画とやらにはあいつだけが関わっている訳じゃない……
すると女は
「うーん、 そろそろ時間だしなぁ……遊ぶのはまた今度にしましょ」
「……シルフィさんをどうする気だ」
「それは教えられないわよぉ……まぁ強いて言うなら実験台かなぁ? 」
実験台? 何をするつもりだ? シルフィさんに一体何があるんだ?
分からない……相手の考えが……仕方ない、 思考透視……
(スキル、 思考透視が発動します。)
女の考えていることが見える。
(この小娘を触媒に使ってカロスナ街にアンデットの軍勢をけしかける。これはまだ序章、 その内世界をも支配する程の勢力を集める。この計画はその第一歩……)
そんなことを……シルフィさんはアンデットを生み出す為の触媒か!
「それじゃあねー、 また会ったら遊びましょうねぇ」
この計画には他にも関わっている奴がいる……今ここであの女を殺しても他の仲間が計画を実行する。それどころかこの国を滅ぼすまで進めてしまう可能性がある。
今回は見逃すしかないのか……畜生……!
「ふーん……あなた、 中々強い気配を感じるわ。遊べる時が楽しみねぇ……」
そう言い残し女はシルフィを抱え暗闇に消えていった。
「……戻ろう……」
イージスはラムとミーナの所に戻った。
「イージス様、 敵は……」
「今回は見逃した、 カロスナにアンデットの軍勢をけしかける計画を企んでいるらしい、 それも一人だけで計画している訳じゃない……だから見逃した」
「そうですか……」
「そんな計画……早く街の皆に知らせないと! 」
「そうだな」
イージス達は森を出てケルナ村の皆に事情を説明した。
「何と……シルフィがそんなことに……」
「イージス様、 どうかシルフィとカロスナ街を助けに行って下さい! 」
「……当然だ、 ラム、 ミーナ、 行こう! 」
「はい! 」
「行きましょう! 」
ミーナは強い娘だ……大切な仲間達が目の前で殺されたってのにもう立ち直っている……ミーナ、 君は弱くなんかない……
イージスはそう思うのだった。
そしてイージス達は村を出て急いで街に向かった。
向かっている途中、 エメがイージス達の所に飛んできた。
(イージス様ぁー! 私を忘れないで下さーい! )
あ……完全に忘れてた……
「すまん、 でも今は緊急事態なんだ! 」
(緊急事態! ? )
「後で話す! 」
そしてイージス達は街に着き、 街の護衛兵士に今までの経緯を説明した。
イージス達の話はダイヤ等級だったというお陰もあり難なく信じてもらえた。エメについては敵意が無いことを話したら何とか受け入れてもらえた。
そしてすぐに街に避難勧告を出され、 街の周りに護衛が配備された。
恐らく計画の実行は翌日、 もしくは二日後……絶対に奴等のアジトを見つけて潰さないと……そしてシルフィさんも……
その翌日の夜……
街の外に出て監視をしていた兵士からアンデットの目撃情報が出た。
それを聞いたイージス達は戦いの準備を始める。
「ミーナ、 危なくなったら無理をしなくていいからな」
「はい、 イージスさん達も気を付けて」
ミーナは怪我をした兵士の治療役として街の中に残った。
イージス、 ザヴァラム、 エメは街の外に出てその時を待っている。
そして……
「……ッ、 来る……! 」
暗闇の向こうから大量のアンデット達が現れた。
イージスは背中にある剣を抜いた。それと同時に邪神剣も鞘から抜け、 戦闘態勢に入った。
ザヴァラムも両手に大剣を出し、 構えた。
(私は街の防衛をします、 お二人共、 ご武運を! )
「……始めるぞ……! 」
続く……