第3話【普通の冒険者とは】
……さて、 今日から本格的に冒険者活動を始めるとするか。朝から大変だった……
何かザヴァラムが俺にくっ付いて寝てたし、 しかも何故か裸だったし……
宿屋にお金を出してくれたのはありがたいんだけど……少し直して欲しい所があるなぁ……
そんなことを考えながらイージスはザヴァラムと一緒にギルドへ向かった。
「そういえばザヴァラムって冒険者階級とかあるのか? 」
「いえ、 私はずっとガイン様の側にいたので……」
「じゃあついでにザヴァラムも冒険者登録しよう」
「はい! 」
ザヴァラムがこれから一緒に行動するにはザヴァラムも冒険者にならないとな。
あとザヴァラムって少し呼びづらいな……そうだ!
「なぁザヴァラム、 君の名前は少し呼びづらいからこれからはラムって呼んでもいいかな? 」
「えっ、 は、 はい! 嬉しいです! 」
ん? 嬉しいのか?
今まで愛称で呼ばれたことも無かったザヴァラムにとって、 それはとても嬉しかったのだ。
まぁ喜んでくれてるならいいか。
そんなこんなしていたらギルドに着いた
早速イージスはザヴァラムを冒険者登録した。
ラムの階級は金か……多分俺のせいでダイヤに上がれなかったんだな……悪いことしちゃったかなぁ……
「階級付けなんて人間の考えることはよく解りかねますが、 これでイージス様と一緒にいられるなら私は文句はありません」
あぁ……世間知らずだから別に気にならないのか……
「……よし、 早速クエストを受注しようか」
イージス達は掲示板の前に立った。
掲示板には様々なクエストが貼られている。
確か……受付の人が言うには下に貼ってあるのは初心者用のクエストばかりなんだよな……ならまずは下に貼ってあるクエストからだな。
するとザヴァラムは勝手に上の方に貼ってあるクエストを手に取った。
「イージス様、 これはいかがでしょう! 」
それは明らかに危険そうな依頼だった。
それを見たイージスは慌てる。
「お、 おい勝手に取るなって! 」
ぽっと出の冒険者がいきなり上級のクエストを受注したらまた変に騒ぎになる……手遅れかもしれないけど今はなるべく目立たないようにしたい……
そう考えていたイージスは上の方に貼ってあったクエストを戻し、 初心者用のクエストを受付に持っていった。
すると受付の人は
「申し訳ありません、 このクエストは四人以上のパーティでないと受注できないんです」
このクエストは最低でも四人のパーティでないと受注ができなかったのだ。
こればかりは決まりだからどうしようもないか……
「えぇ、 じゃあ仕方ない、 他のを……」
イージスが他のクエストを選ぼうとしたその時
「ちょっと待ってくれ、 俺達も一緒に連れて行ってくれないか? 」
「ん? 」
声をかけてきたのは四人の冒険者達だった。見たところ階級は青水晶等級と翡翠等級であった。
レベルは……50辺りか……まぁそれが普通なんだろうけど……
「皆さんも行きたいんですか? 」
「あぁ、 あんた、 昨日冒険者になったばかりなのにダイヤ等級で登録された噂の冒険者だろ、 確かイージスとか? 」
もう噂になってるのか……まぁ当然か……一番強い人が業界の人間に知られない訳がないもんなぁ……
「是非ともダイヤ等級の強さをこの目で見てみたいの! 」
「お願いします! 」
どうしよう、 まぁ一緒に来たいって言うなら……それにクエストもそんなに危険性が無いだろうし……いいか、 丁度人数が少なかったから。
他の依頼を選ぶのも面倒だと感じていたイージスはとりあえず彼らと共にクエストを受注する事にした。
「分かりました、 一緒に行きましょう。皆さんの名前は……」
「俺はベルタ、 職業は剣士だ」
「俺様はディールだ、 職業は大剣士だ! 」
「私はミーナです、 治癒魔導師です」
「私はフローナ、 職業は弓士よ」
ベルタさんにディールさんにミーナさん、 そしてフローナさんか……バランスがいいパーティだ。
「俺は自己紹介の必要は無いみたいですね」
「私はザヴァラムです。ラムとでも呼んで下さい。職業は覇竜戦士です」
「よろしく! 」
イージスは四人をパーティに加え、 再びクエストを受注した。
クエストの内容は至って普通である。最近ケルナ村の周りで暴れ回っているゴブリンの集団がいるから冒険者に来て欲しい、 というものである。
イージス達は早速その村に向かった。
村に向かっている道中、 イージス達は会話をしていた。
「ねぇ、 イージスってどうして今まで冒険者にならなかったの? 」
「あ、 それ俺も気になってた」
「ダイヤ等級の強さならもっと早く現れてもおかしくなかったはず……何故なんだ? 」
何故って言われてもなぁ……転生してから15年間ずっと戦っていたなんて言ったって信じてもらえないだろうしなぁ……
「まぁ……ずっと森で修行を……」
「何故嘘を付くので─ムググッ……」
イージスは本当のことを言おうとしたザヴァラムの口を慌てて塞いだ。
「言うな……いいな? 」
イージスは小声で言った。
ただでさえ素性の知れない冒険者なんだし、 変に噂が作られるような事態は避けないと……
彼に止められたザヴァラムは小さく頷く。
「へぇ、 森で修行を……一体どんな修行を? 」
「いや、 まぁ……色々です……」
とは言えかなり無理のある嘘だけど大丈夫か?
「そうなんだ、 私達も頑張らないとね! 」
どうにかなった……
すると次に四人はザヴァラムに質問してきた。
「ねぇ、 ザヴァラムさんってイージス様とどんな関係なの? 」
……余計なことは言うなよ、 ラム……
「……ただのパーティ仲間です」
よく言ったラム!
「えぇ、 てっきり俺は恋人か何かだと思ってたよ! 」
そんな関係じゃない! ……まだ……多分これからもならない……はず……
ザヴァラムがイージスをじっと見てる。
何、 何だその目……ラム……! ?
「こらこらベルタ、 失礼だぞ」
「ははっ、 冗談冗談! 」
「ごめんね、 ベルタはいつもこうだから」
「いえ、 大丈夫です」
何か後でややこしいことになりそうで怖いんだけど……
イージスは不安を抱えながらもベルタ達を見て少し羨ましいと思った。
いいよなぁ……いつかこんなワイワイしたパーティメンバーが欲しいもんだよ……
するとディールがイージスとザヴァラムに言った
「なぁイージス、 ザヴァラム、 冒険者と会話をするときはあまり敬語はやめた方がいい。他の冒険者から舐められる可能性があるからな」
そうなんだ。
「そうなんですか、 ありがとうございます……じゃなかった、 ありがとう」
「じゃあ私も敬語は控えるわ。イージス様には使いますが」
そんなことをしている内に村に着いた。
イージス達は村長の所に話しに行った。
「この度は依頼を聞いて下さりありがとうございます。 私はこの村の村長、 ダルムと申します。 早速ですが皆様には北の森にいるゴブリンを倒してきて欲しいのです」
「了解! 」
そしてイージス達は森の中へ入っていった。
うぉぉぉぉぉ! ファンタジー世界の森って何気に初めて入る! 邪神軍の時は別として……
……と、 本題を忘れちゃいけない。ゴブリンはどこにいるんだろう。狭域探知……
(スキル、 狭域探知が発動します。)
狭域探知魔法は広範囲探知魔法に比べ探知のできる範囲は狭くなるがより精密な探知が可能となる魔法である。
……見つけた! 俺から見て10時の方向、 少し開けた場所に50体いる。
「ゴブリンを見つけた、 こっちだ」
「えっ! ? 」
「凄いな、 一瞬で……」
イージスは探知した方向に向かった、 するとそこにはゴブリンの集団がいた。
ゴブリンだけじゃない……あのデカイのは……鑑定スキル。
(スキル、 鑑定が発動します。)
『オーガ、 気性が荒く度々人間を襲う亜人族。ゴブリンと行動していることが多い。』
オーガか……俺とラムは大丈夫そうだけど……
イージスはベルタ達と作戦会議をした。
数分後……
「……よし、 これでいこう! 」
そしてイージス達はバラけ、 集団を囲うように移動した。
俺とラムはオーガが集中している場所を襲撃、 ベルタ達はゴブリン達の処理だ。
「……よし、 行くぞ! 」
イージスが茂みから飛び出すと同時にベルタ達も続いて飛び出した。
「ギャッ! ? 」
ゴブリン達は慌てている。その隙にベルタ達が倒していく。
「グォォォォ! ! 」
「お前の相手はこっちだ、 邪神剣! 」
イージスは邪神剣を飛ばし次々とオーガをバラバラに切り裂いていく。
「私もお手伝いします、 イージス様! 」
そう言うとザヴァラムは両手に大剣を出し、 物凄い速さでオーガ達を倒していく。
凄いなラムは、 あんな大きな剣を片手ずつ持って軽々と……流石はドラゴンだな……
「オーガは片付いた、 あとはゴブリン達だけだ! 」
「えっ、 もう! ? 」
「ははっ、 やっぱりダイヤ等級と金等級は違うな! 」
「わ、 私もサポートします! 」
そしてあっという間にゴブリンの集団は全滅した。
するとベルタ達はゴブリンとオーガの体の一部を切り取り始める。
「何をしてるんだ? 」
「ん? 何って、 討伐の証拠品を回収してるんだよ」
「知らないの? これをギルドに提出すれば報酬額が上がるんだよ」
そうなんだ、 知らなかった……じゃあ俺も……
イージスもゴブリン達の体の一部を切り取ろうとしたとき、 イージスは何かの気配を感じた。
「むっ……? 」
何だろう……ゴブリンやオーガとは比べ物にならないくらい強い気配だ。でも大した相手ではないかな? 一応念のため、 狭域探知……
(スキル、 狭域探知が発動します。)
……これは! ベルタ達が危ないかもしれないな……
イージスが見つけたのは……
「皆、 近くにドラゴンがいる……」
「えぇっ! ? 」
「ドラゴンって……まずいじゃない! 」
「早いところここから離れよう! 」
イージス達がその場から離れようとしたとき、 イージスはある考えが過った。
待てよ……今はラムがいるからベルタ達を守れるよな……俺だけでちょっと倒してくるか……
「ラム、 皆を頼めるか? 」
「はい、 承知致しました」
「イージスさん、 もしかして戦うの? 」
「大丈夫か? 」
「大丈夫だ、 ちょっと行ってくるからから皆はここにいてくれ」
そう言ってイージスはドラゴンのいる所に向かって行った。
……いた! 結構デカイな。
するとドラゴンはこちらに気付いた。しかし何故だか襲って来ようとしてこない、 それどころか体を震わせ怯えている様子だ。
あれ、 どうした?
イージスはドラゴンのステータスを見た。
このドラゴンのレベルは……120か……桁がそもそも違うからなぁ……だから怯えてたのか……
まぁいいか、 さっさと倒してベルタ達の所に戻ろう。
イージスは攻撃魔法を発動させようとしたその時
(まっ、 待って下さい! 降参します、 何もしませんから許してぇ! )
ドラゴンが喋り出した。
えぇー! ?
「話せたのかよ! 」
(いえ、 正確にはテレパシーのスキルを使っています。)
テレパシーのスキル、 俺も使えるのかな?
(はい、 主様はスキル、 念話を使えます。)
そうなんだ、 話せない状況なら役に立つな。
それはともかく、 このドラゴン……どうしたものか……敵意も無い相手を殺してしまうのはちょっと……
イージスは考える。
……そうだ、 このドラゴンを仲間にできないかな?
「なぁ君、 俺達の仲間にならないか? 」
(えっ、 はい、 喜んで! )
意外とあっさりなってくれたな。
ドラゴンって言うとやっぱりラムと同じような姿になれるのかな?
「そういえば君、 名前は? 」
(名前はありません、 野生の魔物は皆名前が無いのです。)
そうなんだ……じゃあ名前を付けてあげないとな。
「じゃあ俺が名前を決めるよ。そうだな……」
見た目はエメラルドみたいな色をしているから……
「エメでどうだ? 」
すごく適当になっちゃったけどいいかな?
(エメ……エメ! はい、 嬉しいです! 私はこれからはエメと名乗ります! )
「じゃあその姿じゃ移動も大変だから人の姿とかになれる? 」
(すいません……私、 人の姿になれないんです。)
えぇー! ? どうしよう、 これじゃ移動するとき絶対邪魔になっちゃうよ……
と、 とりあえず皆の所に連れて戻るか……
「じゃあ仕方ない、 一旦俺に付いてきて」
(はい。)
イージスはエメを連れてベルタ達の所に戻った。
ベルタ達はエメを見て最初は驚いたものの、 イージスが事情を説明するとすぐに仲良くなった。
良かった……皆優しい人達で。
それにしてもどうしてエメはドラゴンなのにラムと一緒じゃないんだろう?
イージスはラムに聞いた。
「ラム、 エメって君と何か違うのか? 」
「はい、 私達龍人族は上位、 または超位竜が集まった、 いわゆるドラゴンの貴族のようなものなんです。エメの場合だと中位竜なので人の姿になれないのです」
「今更だけどこの流れだとラムもドラゴンになれるんだよね? 」
「はい、 龍人族は皆そうです」
そうなのか……参ったなぁ、 これじゃさっきも言ったように移動が……
イージスが困っているとザヴァラムはあることを提案した。
「イージス様、 エメの移動でお困りであればエメを置いておくための拠点を建設してみては? 」
拠点、 そうだ拠点! それさえあればエメを置いていけるしいつでもどこでも召喚ができる!
……と言ってもなぁ、 拠点の場所なんてどこにも……
その時、 イージスの頭の中で死域 オベロニクスが過った。
あったわ……
「それじゃあ後で建設しに行こうか」
「はい」
「イージスー! ラムー! はやくはやくー! 」
ベルタ達が先に進んでイージス達を待っている。
どうするか……エメを連れてきたら村がパニックになっちゃうよなぁ……エメには悪いがここで待っててもらおうか。
「エメ、 悪いが……」
(分かってますよ、 私はここで待ってますから。)
物分かりが早くて助かる。
「よし……行くか、 ラム! 」
「はい! 」
そしてイージス達はクエストを達成し、 村に戻るのだった。
続く……