第12話【片目の姫、 赤き瞳】(後編1)
ついにレッド・アイズのアジトに侵入したイージス達は、 敵の罠に掛かり、 アイ達とはぐれてしまう。そして今、 アイ達は危機的状況に晒されていた。
「……ぐっ……」
「つ、 強い……」
ウルヴェラ達はボロボロになっていた。それに対してアイの兄は平然と立っている。
また、 アイもバルゴンに対して苦戦していた。
「ハハハハハハッ、 どうしたぁ、 六に私に近付けていないようだが? 」
「ッ……クッソ! 」
(何て魔法の連射力……これじゃ近付けない……こうなったら! )
するとアイの持っている短剣が青く燃え始めた。
「ほぉ……それがお前の必殺技か……」
「行くぞ、 強化魔法……身体能力向上、 剛刃斬撃、 超高速化! ! 」
そしてアイは物凄い速さでバルゴンに向かっていく、 アイが通った跡には青い炎が残る。
「食らえ、 剣技……蒼炎爆裂斬! ! ! 」
青い炎は激しく燃え上がり、 アイの短剣がバルゴンに突き刺さる。刺さった箇所に青い炎で爆発を起こしアイはそれと同時に刺さった箇所からバルゴンを上に向かって斬り上げた。
しかし……
「フフフフ……それで終わりかね? 」
「なっ! ? 」
バルゴンから吹き出す青い炎は徐々に消え、 斬られた体も再生していく。
「残念だったなぁ、 私は不死身なのだよ……お前がいた頃はまだ不老不死の研究しか成功していなかったが、 やっとここまでこぎ着けたのだ! 」
「そんな……不死身……だと……! 」
するとアイの横から兄が襲い掛かる。
アイは避けきれず大剣に当たって吹っ飛ばされてしまった。
「うぐっ……油断した……骨をやっちまったか……? 」
「クイーン! 」
倒れ込むアイ、 その目の前に兄が迫ってきた。
「うぅっ……兄……さん……」
「ハハハ、 これで終わりだ! 」
兄がアイに大剣を振りかざしたその時……
「聖神剣! ! ! 」
振り下ろされそうになった兄の大剣を聖神剣が飛んできて受け止めた。
「な、 何だ! ? 」
「あの剣は……! 」
聖神剣が飛んできたの奥の通路から現れたのは
「ふぅ……何とか間に合ったみたいだな」
「だ、 大丈夫ですか? 皆さん! 」
「全く……イージス様に手間を掛けさせるなんて……やはり人間は愚かな者ばかりね」
イージス達だ。
「い、 イージス、 皆! 」
「ははっ……遅いよ……バカ……」
バルゴンは狼狽えた。
「な、 何なんだ貴様らは! こいつら以外の人物なんていなかったはずだぞ! 」
まぁ超隠密魔法を使ってたし……ミーナも含めて転移魔法に対する耐性も付けてたしな……てか皆にも付与してればこんなことにならなかったんじゃ……はぁ……俺って本当に何で肝心な事は思い付かないんだろう……馬鹿だなぁ……まぁそれはともかくとして……
聖神剣が兄の大剣を弾き返した。
それを見てイージスはアイの元に駆け寄り、 抱き上げる。
「大丈夫か、 アイ……」
「えっ……う、 うん……///」
アイ少し照れた。
そしてイージスはバルゴンを睨み付ける。イージスからは物凄い殺気が放たれる……
するとバルゴンは慌てて別の通路から逃げた。
「お前は奴等を止めろ! 」
バルゴンは兄に指示を出し、 そのまま逃げ去った。
「待て! ! 」
ザヴァラムがバルゴンを追おうとするとイージスは止めた。
「大丈夫だラム、 もう奴は逃げられない……」
実はこの時、 イージスは既にベルムント国王に通信魔法で事態を伝え、 十二天星騎士団を要請していたのだ。
……………………
アジトの外にて……
「はぁ……はぁ……何なのだあいつは……戦っていたら確実に殺られていた気がする……だが私はまだ……」
「そこまでだ、 レッド・アイズのボス、 バルゴン! ! 」
アジトの入り口の周りで十二天星騎士団が囲うように待ち伏せしていた。
「なっ……! ? 」
「黙って降参すればこちらも手荒な真似はしない、 大人しく来てもらおう」
周りは転移魔法を封印する結界も既に貼られており、 バルゴンの逃げ道は塞がれていた。
「そんな……こんな所で……」
そしてバルゴンは捕まった。
……………………
一方、 イージスはアイの兄と戦っていた。
ザヴァラムとミーナは怪我をしたアイ達を手当てしている。
この人がアイのお兄さん……でも既に死んでいるようだ……どうする……アイの目の前でお兄さんを……
イージスはアイの兄を倒すか迷っていた……死んでいるとはいえ、 妹の目の前で兄を傷付けてもいいのか……イージスは思うように攻撃ができなかった……
「何故イージスは攻撃しない? 」
「きっとイージス様はアイのことを気遣っているのね……優しいお方だ」
「でもこのままだと拉致が空かないよ! 」
「イージス……」
その時、 アイはイージスの言葉を思い出した。
『人ってのはいつかは必ず死んでしまう……だが人は死ぬ時には生きる者達に希望を残していく。例え誰かに殺されてもだ……少なくとも俺はそうやって死んでしまった人達は、 仇打ちを望んでいるとは思わない……』
(そうだ……兄さんはきっと私達に終わらせて欲しいと望んでいるはずだ……)
「イージス、 私のことは気にするな! 」
アイは叫んだ、 治ったばかりのあばら骨が響いて痛かった……しかしアイは力強く叫んだ。
「だ、 だかアイ……」
「もういいんだ……兄さんもそう望んでいるはずだ……」
イージスは何も言わずうなずき、 背中の剣を抜いた。
アイもお兄さんも終わらせて欲しいと望んでいる……だが、 せめてもの情けで……俺にこの技を使わせてくれ……
そしてイージスは瞬間移動で兄の背後に回り込み……
「……剣技……無斬……」
イージスは兄の前にとんでもない速さで通り抜けた。すると兄の体は灰のように散っていった。
この技は俺が開発した中で最も慈悲深い技だ……既に死んでいるけども、 この技は相手に痛みを与えずに殺すことができる……そして死体も残さない……
「……どうか、 安らかに……」
イージスは剣をしまう。
「……ありがとう……イージス……これで兄さんは成仏できるよ……」
「……そうか……」
そしてイージス達はアジトから脱出した。
外ではルスヴェラートの兵士達が待機しており、 アイ達はすぐに保護された。
イージス達は事情聴取され、 その後王城に呼び出された。
城にやって来たイージス達は、 玉座の間でベルムント国王に感謝された。
「今回のレッド・アイズの件は感謝してもしきれませんぞ、 イージス殿! 」
「いえいえ、 そんな……」
「我が国に最新の魔法兵器を提供して下さっただけでなく、 我が国で問題となっていたレッド・アイズをも滅ぼして下さるとは……流石は邪神軍を滅ぼした英雄ですな! 」
まぁ同盟国だし……戦力を提供するのは当たり前だもんな……それにレッド・アイズを潰したのは俺の意志だし……
「何かお礼をしたいのですが……イージス殿達は何かお望みのものはありますかな? 」
「……何かを求めては本当の人助けにはなりません、 なので俺は結構です」
イージスは丁重に断った。
そしてザヴァラムも
「イージス様の望みは私の望み……イージス様が望まないのであれば私も望みはありません」
ミーナは
「あの、 二人とも断っておいて何なんですけども……その……新しい魔法の杖が欲しくて……」
そうか……ミーナはずっとあの杖だもんな……変えなくちゃとは思っていたが丁度良かったな。
「うむ、 承知した。では今すぐ用意しよう」
ベルムント国王がそう言うと国王の隣に立っていた執事が新しい杖を持ってきた。
あの杖は……鑑定……
『オリハルコンと世界樹の杖、 品質が高く中々手に入らない魔法武器の一つ、 使う者の魔法の威力を倍増させてくれる。』
……マジか……
「これで良ければ受け取って欲しい、 どうかね? 」
「わぁ……凄く軽い……それに凄い魔力を感じます! 」
ミーナは大いに喜んだ。
「ふぉっふぉっふぉっ、 喜んで頂けて嬉しいですぞ」
「ありがとうございます! 」
「良かったな、 ミーナ」
「はい! 」
そしてイージス達は玉座の間から退出し、 アイ達がいる治療所に向かった。
一応ラムとミーナで応急処置はしたらしいけど……アイ達、 大丈夫かな?
治療所に着くとそこにはベッドで横になっているアイ達がいた。
「大丈夫か、 皆? 」
「あぁ、 イージスか……私は大丈夫だ」
「俺も」
「僕も変わりはないよ」
「そうか、 良かった」
一番奥のベッドでアイは布団に潜って寝ていた。
……一番重症だったもんな……それにお兄さんの事もあったし……今はそっとしておいてやろう。
「じゃあ、 俺達はここで失礼するよ」
「あぁ、 色々とありがとうな」
「回復したら飯おごってやるからよ」
「ははっ、 楽しみにしてるよ」
イージス達が治療所から出ていこうとしたその時
「ま、 待ってくれ! 」
アイが突然起き上がった。
「イージス、 お前と……話がしたい……ザヴァラムとミーナには悪いんだが……いいか? 」
「ラム、 ミーナ、 悪いが先に外に出ててくれ」
「イージス様がそうおっしゃるのであれば……」
「分かりました、 では待ってますね」
そしてザヴァラムとミーナは外に出ていった。
「……それで、 話って? 」
「その……」
後編2へ続く……




