第12話【片目の姫、 赤き瞳】(前編2)
「……はぁ……」
屋根に乗っているアイは夜空を見ながらため息をついた。
「アイ……」
「うぉっ! イージスか……」
屋根に登ってきたイージスはアイの隣に座った。
「……どうした、 寝れないのか? 」
「あぁ、 兄さんのことが頭から離れなくてな……」
やっぱり気にしてるのか……
「アイ、 済まない……君のことも知らずに……」
「いいんだ、 知らなかったんだし……それに会って協力してくれるからには全てを話そうと思っていたから……」
……気まずい、 非常に気まずい! あぁ~誰かこの状況を何とかしてくれぇ~~~! !
……いや、 違うだろイージス! 話しかけたのは自分なんだ、 そしてアイをこんなにしたのも紛れもなく自分なんだ、 自分で何とかしないと!
するとアイが喋りだした。
「……なぁイージス……お前には……大切な誰かっているのか? 」
「大切な誰か……そうだな、 沢山いるよ……」
「そうか……ならイージス、 もしもお前にとって大切な誰かが……何者かに殺された時、 お前ならどうする? 」
俺ならか……
イージスは考える。
もし……守護者達が皆、 誰かに殺されたとしたら……ミーナが殺されたら……俺はどうするだろう……仇打ちをする? それとも生きる希望を失って自殺する? それとも……
「……分からないな……でも……」
「でも? 」
「例え仇打ちをしても……失った人達の命は戻ってくることはない……だからきっと俺は……その失った人達のためではなく、 これから生きる人達のためにその原因を潰すだろうな……ははっ、 これじゃ仇打ちと同じか……」
イージスは頭を掻きながら言った。
「……いや、 イージスはやっぱり凄いよ」
「どこが? 」
「イージスは私とは違う、 例え大切な誰かが殺されてもお前は殺したやつを恨んだりしない……どうすればそんな考え方ができるんだ? 」
どうすれば……単に考えれば恨んでも仕方ないからだけど……でもそれよりももっと深い何かがあると思う……
「そうだな……その人が望んでないからかな? 」
「……どういうことだ? 」
「人ってのはいつかは必ず死んでしまう……だが人は死ぬ時には生きる者達に希望を残していく。例え誰かに殺されてもだ……少なくとも俺はそうやって死んでしまった人達は、 仇打ちを望んでいるとは思わない……それは憎しみの連鎖を作り出し、 辛く、 悲しいことだから……だから俺は仇打ちという形ではなく、 これから生きる人達を守るために敵を倒すのかもしれないな」
イージスはアイの目を見ながら語った。
……はぁ~~~何言ってんだ俺~~~! ! 自分で何言ってるのか分かんなくなったぁ~~~! 恥ずかしい! ! !
イージスがそんなことを考えているとアイは微笑みながら
「そうか……兄さんももしかしたら私に生きて欲しかったから死んだのかもな……」
そう言うとアイは立ち上がった。
「止めだ止めだ仇打ちなんて、 私はイージスと同じように、 これから生きる人達のために敵を倒すとするよ! 」
……そうか、 アイはずっと悩んでいたのか……本当に憎しみに任せてあの組織を潰してもいいのか……お兄さんはアイに何を思って死んだのか……それが分からずにずっと悩んでいたのか……
「そうだな、 それがいい……」
「悪いな夜遅くに付き合ってもらって。私はもう寝るとするよ、 おやすみ」
「あぁ、 おやすみ……」
「……メルシャだ……」
「ん? 」
「私の名前……組織の連中以外に教えたやつはお前が初めてだ……お前は兄さんの次に信頼できる、 だから教えておくよ…………あいつらには言うなよ? 」
アイは少し照れくさそうに言った。
「……あぁ、 分かった……じゃあいつも通りアイって呼ばせてもらうよ」
「あぁ……」
そしてアイは屋根から降りて宿に戻っていった。
……アイ……君が人を殺す意味を考えるには……まだ幼すぎる。俺も同じだ……だから中途半端な答えしか出せなかった……だが、 それが君にとって救いとなるなら……
「はぁ……にしてもアイは凄いなぁ……あんなに幼いのに……あんな難しい事を考えられるなんて……」
イージスは立ち上がって屋根から降りた。そして空を見上げた。
「……綺麗な月だなぁ……」
そう呟いてイージスは宿に戻った。
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レッド・アイズのアジトにて……
「どうだ、 例の小娘は引っ掛かったか? 」
黒いローブを纏った男が仲間らしき人物に話す。
「はい、 明日にはここに襲撃してくるかと……」
「そうか……フフフフ……もうすぐ会えるぞ……お前の兄さんに……フフフフフフ……」
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翌日の夜、 イージス達はヒュエル南部の外で目撃情報があった森の中でそれぞれのパーティに分かれて待ち伏せしていた。
イージスのパーティにて……
アイが言うには奴等は必ず一日一回、 夜中にここを通るらしい……そして奴等の仲間が来たところをバレないように追跡する。アジトを見つけたところで一気に奇襲を仕掛ける……という作戦だが……本当に来るのか? かれこれ二時間は待ってるぞ?
イージスは不安になりながらも木の上で監視する。
一方、 ドラゴンキラーの方は……
(奴等は必ず来る……絶対に……! )
アイ達は茂みの中で監視していた。
「なぁ、 本当に来るのか? 」
ウルヴェラが小声でアイに聞く。
「来る……絶対に……」
そしてその時が来た。
森の奥から黒いローブを纏った謎の人物が現れた。その人物はアイ達の目の前で立ち止まり、 辺りを見渡している。
しばらくすると謎の人物はまた来た道を戻っていった。
「見つけた、 奴等の仲間だ……! 」
アイはイージス達に合図を送り、 その人物を追跡した。
やっぱりあのローブ……ナーヴィと同じローブだ……
イージス達は木の上から静かに追跡していく。
超隠密魔法を使っているから俺達の存在には気付かれていないはずだ……ただアイ達はどうだろうか……それに何か妙だ……あまりにも順調過ぎる……もしかしたら……
イージスは嫌な予感がしていた。
そしてしばらく追跡をしていると謎の人物はある洞窟の中へ入っていった。
謎の人物が見えなくなったところでイージス達は洞窟の入り口の前に出てきた。
「……ここか……」
「行こう」
イージス達は洞窟の中へ入っていった。しばらく進んでいくと行き止まりにぶつかった。
「何だと、 奴はどこに行った! 」
「落ち着いてアイ……これはただの壁じゃない……」
「何だって! ? 」
するとイージスは壁を擦って、 色々探った。
探知ではこの先に反応があるんだ……きっとこの壁に仕掛けが……
「……あった、 これだ! 」
イージスは壁に小さな穴を見つけた。それは指一本入る位の穴だった。
そしてイージスはその穴に指を入れた。すると壁は二つに割れ、 その先に通路が現れた。
「凄いなイージス……こんな仕掛けを見抜くなんて……」
ケルムは感心した。
「よし、 進むぞ……」
イージス達は通路を進んでいった。
……おかしい、 あまりにも何も無さすぎる……罠とかあってもおかしくないはずなのに……まるで俺達を誘っているかのように……
イージスの嫌な予感は的中した。
進んでいた通路の地面に魔方陣が突然現れ、 アイ達のパーティだけどこかへ転送されてしまった。
「まずい、 やっぱり最初から狙われていたのか! 」
「イージスさん、 どうすれば! ? 」
大丈夫だ探知にはアイ達の反応がある……これは……下の階層か?
「とにかく、 どこかに下へ繋がっている通路があるはずだ、 それを探すぞ! 」
「はっ! 」
「分かりました! 」
……………………
「うっ……ここは……」
「大丈夫か、 クイーン! 」
「怪我はないか、 アイちゃん! 」
「その呼び方止めろ……ケルム」
アイ達は謎の部屋に転送されていた。
(暗くて何も見えない……暗視スキルが使えないのか……)
するとどこからか声が聞こえてきた。
「フフフフフ……フハハハハハハ……よく来たなぁ……メルシャ……いや、 今はダイヤ等級冒険者様のクイーンズ・アイか……? 」
その声はアイが最もよく知る人物の声であった。
「なっ、 この声は……どこだ、 出てこい! ! 」
すると部屋が一気に明るくなった。そしてそこにいたのは黒いローブを纏ったあの男だった。
「お前……やっと見つけたぞ……バルゴン! ! 」
「おやおやぁ? これはこれは……随分と強くなったんだなぁメルシャ……お仲間さんまで連れて……」
「その名前で呼んでいいのは兄さんとイージスだけだ! 」
アイは激怒した。
「イージス? ……まぁいい、 それでどうするのかねぇ? 私を殺しに来たのだろう? 」
(まさか……これも私達を誘き寄せるために……! )
その時、 アイは初めて自分が騙されていたのに気が付いた。
(何てことだ……私は無我夢中で奴の作戦にまんまと引っ掛かったのか……)
アイは怒りで我を失った。
「っ……クソがぁぁぁあああ! ! 」
アイがバルゴンに短剣で襲い掛かろうとした時、 突然目の前にもう一人の黒いローブを纏った男が現れ、 アイの攻撃を大きな剣で受け止めた。
「なっ……! 」
その男はアイを弾き飛ばした。
「フフフ……感動の再開といこうか……」
「何! ? 」
すると謎の男はローブを脱いだ。正体は……
「そんな……兄さん……? 」
そう、 アイの兄だったのだ。しかし兄の目に生気は無く、 ただ操られているかのようだった。体には不気味な鎧を纏っており、 とてつもない邪気を放っていた。
アイはショックでその場でへたりこんでしまった。
するとウルヴェラ達が前に出て武器を構えた。
「クイーン、 しっかりしな! 」
「アイちゃん、 ここは俺達に……! 」
「リーダーはあのバルゴンっていう男を相手してください! 」
「……皆……」
「安心しな、 あんたの兄さんは必ず成仏させてやるからよ! 」
ウルヴェラがアイを励ます。
そしてアイは立ち上がり、 武器を構えた。
(そうだ、 いつまでもへたりこんでちゃ駄目だ……これから生きる人達のためにも、 私はあいつを倒さなくちゃいけないんだ! )
「……行くぞ、 お前ら! 」
そしてアイ達はバルゴンとアイの兄に攻撃を仕掛ける。
……………………
一方、 イージス達は……
「オラオラ邪魔だぁどけどけぇ! ! ! 」
次々と襲い掛かろうとする魔物や組織の人間達をとんでもない速さで倒していく。
ミーナもイージスに教えてもらった攻撃系魔法でサポートしていく。
「アイ達の反応が近くなっている、 もう少しだ! 」
「はい! 」
イージス達は急いでアイ達の元に向かっていった。
無事でいてくれよ……皆……!
後編1へ続く……




