第12話【片目の姫、 赤き瞳】(前編1)
ルスヴェラート王国との同盟を結んで翌日、 イージスは冒険者としての次の目標を立てていた。
「ふーん……なるほど……」
イージスはベルムント国王から貰った地図を見ていた。
こうして見ると色々な街があるんだな……カロスナから北の方角にあるのがルスヴェラート王国の首都、 ヒュエルか……ここに国王が住む城があるんだよな。
「よし、 ここに行ってみよう」
正直もうカロスナだとクエストが少ないんだよなぁ……もっと大きな街に行って沢山のクエストをこなしたい。
そしてイージスはミーナのところに行き、 次の目的地について話した。
「ヒュエルですか……かなり遠いですね……」
「それなら大丈夫だ、 俺が転移魔法を使えばあっという間だよ」
「……確かにそうですね。それじゃあ早速行きましょう! 」
「そうだな、 ラム! 」
イージスはザヴァラムを呼んだ。
「はい、 イージス様、 いかがなさいましたか? 」
「今から首都ヒュエルに向かう、 一緒に行こう」
「はっ! 」
そしてイージス達は転移魔法で首都ヒュエルに向かった。
ヒュエルに着くとそこはカロスナよりも活気に溢れた大きな街であった。
「うぉぉ~凄いなぁ! 」
「早速ギルドに行きましょう」
イージス達はヒュエルのギルドに向かった。ギルドにはカロスナにいた冒険者よりも強い冒険者達が集まっていた。
カロスナにいた冒険者達はレベル20~30代……ここにいる冒険者達は皆40~50代だな……これはクエストの難易度も期待できるぞ。
そういえば俺達は別の街で冒険者になったが……ここでは冒険者の登録とかって必要ないのかな?
イージス達は受付の人のところに行った。
「あの、 すいません……」
「はい」
「俺達、 カロスナから来た冒険者なんですけど……別の街に来た場合ってそのままクエストを受注できるんですか? 」
「はい、 別の街から来た冒険者の方ですね。ここに来るのが初めての場合は冒険者の名簿登録をして頂きます」
「では早速お願いします」
「はい、 ではこの水晶に手をかざして下さい」
イージスは水晶に手をかざした。すると水晶にイージスのクエスト経歴や職業、 パーティ仲間等の情報が表示された。
すると受付の人は驚愕した。
「こ、 こんな凄い経歴……そして先程から気になっていましたがそのペンダント……まさか貴方は……! 」
「はい、 そうです……そのまさかです……」
「す……少しお待ち下さい! 」
そう言うと受付の人が奥の部屋に走っていった。
あれ、 何かデジャヴだな……
しばらくすると受付の人が戻ってきた。受付の人の手にはダイヤ等級のペンダントと黒曜等級のペンダント、 そして何かのエンブレムを三つ持っていた。
「あの……これは? 」
「お待たせしました。イージス様達の経歴により、 そこのお二人様の階級を昇格させて頂きました! 」
『えぇっ! ? 』
マジかよ、 階級ってそうやって上がるの! ? てことはラムはダイヤ等級に、 ミーナは黒曜等級の冒険者になったということか……また何か凄いことになってきちまったな……
「それとイージス様達にはこれを……」
と、 受付の人はイージスに謎のエンブレムを渡してきた。
「これは? 」
「これはイージス様方にのみ渡すように言われました、 聖剣の証です。これを持っていれば通常冒険者では立ち入りを禁止されるようなダンジョンに立ち入る事を許可されます」
なるほど……つまり普通の人間や冒険者は入ることのできない場所に入ることができる訳だな?
これを作ったのはきっとベルムント国王だな……そしてパーティメンバーのことについて話したのはアリアスだ。だから人数分が用意されているんだ。
「なるほど、 ありがとうございます」
イージスは聖剣の証を服の右腕に着け、 ザヴァラムとミーナは右胸に着けた。
「何かカッコいいですね! 」
「そうだな! 」
するとイージス達の後ろから誰かが話しかけてきた。
「なぁ、 あんたらもしかして噂の冒険者達か? 」
「ん? 」
話しかけてきたのは一人の少女だった。燃えるような赤い髪をしており、 汚れた黒いマントを纏い、 左目には眼帯を着けていた。
冒険者か? ……ダイヤのペンダントを……こんな少女が……
少女は話を続ける。
「突然済まない、 私はドラゴンキラーというパーティに所属しているクイーンズ・アイという者だ。職業はドラゴンハンターだ」
「俺はイージスだ」
「私はザヴァラム」
「私はミーナと言います」
アイはイージス達をまじまじと見る。
……この子のレベルはいくつなんだろう? ……能力透視……
(スキル、 能力透視が発動します。)
レベルは……152か……いや、 まぁ強いんだよ、 強いんだけど……守護者達を見てるから……
「へぇ……イージスとザヴァラムからは物凄い力を感じるよ……ミーナからはとんでもない程の運気を感じる」
と、 アイは言った。
まぁそりゃレベル1000以上と900代だからな……
するとアイはイージス達にこんな話を持ちかけてきた。
「なぁあんたら、 私達と一緒にクエストに行かないか? 」
「え、 別にいいけど……何に行くんだ? 」
「まぁその前にちょっとついてきな、 仲間を紹介するから。詳しい話はその後だ」
そしてイージス達はアイについていった。アイはギルドの二階に上がり、 部屋の前で止まった。
「ここだ」
そう言うとアイは扉を開けた。部屋の中には二人の男と一人の女性がソファーに座っていた。
レベルは……クイーンズ・アイよりも低いが皆90代……そして階級は皆金等級だ。
すると女性がアイに話しかけた。
「おぉ、 クイーン、 いいやつ見つかったかい? 」
「あぁ、 かなりの凄腕だ。私と同じダイヤ等級の冒険者だよ。しかも二人! 」
すると二人の男達は
「そいつはスゲェ! ! 」
「ダイヤ等級なんて滅多に見ないのに……」
そして三人は自己紹介を始めた。
「紹介するよ、 こいつらが私の仲間だ」
「よろしく、 私はウルヴェラ、 職業はバーサーカーだ」
「俺はケルム、 職業はアサシンだ」
「僕はフェリア、 職業はアークウィザードだよ」
へぇ、 皆職業が普通の冒険者よりも格上だな。このパーティって結構強かったりするのか……俺達の感覚がおかしいから分からない……
イージスがそんなことを考えていると
「なぁ、 そういえばあんたらの職業は? 」
アイが質問してきた。
「俺は覇王だ」
「私は覇竜戦士よ」
「私は治癒魔導師です」
するとアイは
「ふーん……聞いたことのない職業だ……」
多分この世界で俺とラムみたいな職業を持っているやつはいないんだろうなぁ……
「まっ、 それはいいとして、 早速今からやるクエストについて会議しよう」
そしてイージス達はアイ達と一緒に会議を始めた。
「さて、 肝心のクエスト内容だが……実はこれがまた凄いものでな……」
「勿体ぶらないで教えてくれよぉ! 」
「まぁ慌てるなウルヴェラ、 近頃ヒュエル周辺にて不審な人間達が多々目撃されててな……その人間がもしかするとあの組織の人間の可能性が高いんだ」
何だろう、 あの組織って……この世界には魔王軍や邪神軍の他にも悪の組織が存在するって聞いたことはあるけど……
アイは説明を続ける。
「私がやることは二つ、 一つはその人間が本当にあの組織かどうかを調べること、 二つはもしその人間があの組織の人間だったならすぐにアジトを調べあげ、 潰すことだ」
「ごめん、 あの組織って一体何なんだ? 」
イージスが質問する。
「そうか、 イージス達は知らないのか……あの組織ってのは……私達が長年探し続けている悪の組織……レッド・アイズという黒魔術集団だ」
レッド・アイズ……そんな組織があったのか……一体どんな人間がいるんだ、 そして何故クイーンズ・アイ達はずっと探し続けているんだ?
「そのレッド・アイズの人間はどんな特徴を持っているんだ? 」
「奴等は黒いローブを纏っているんだ。魔導師と戦闘兵の役職に分かれていて、 その中でも戦闘兵は特徴的で……ローブの下にはまるで生きているかのような不気味な鎧を身に付けているんだ」
……ん? 生きているかのような不気味な鎧……どこかで見たことあるような……………………まさか……!
そう、 イージスは一度……レッド・アイズの人間に会ったことがあるのだ。その人物こそが……
「……ナーヴィ……だったのか……? 」
イージスは小声で呟いた。
「ん? 何か言ったか? 」
「あぁいや、 何でも……それより何故クイーンズ・アイ達はその組織を探しているんだ? 」
「アイでいいぞ……そうだな、 探している理由はな……仇打ち、 かな……」
仇打ち……誰かその組織に殺されたのか?
アイは話を続ける。
「実は私……元はレッド・アイズの人間だったんだ……」
えぇっ! ? アイってレッド・アイズの人間だったのかよ! でも何故辞めたんだ?
「私はあの組織にいて思ったんだ……これは私が望んでいることではないってな……だから今はもう辞めたんだ。だが……奴等は裏切った私を許さなかった……」
「……」
アイは険しい顔になった。
「奴等は……私の兄さんを殺したんだ……! 」
お兄さんか……なるほど、 そういうことだったのか……そんなことがあれば誰でもそうなるよな……俺でもアイみたいになっただろう。
アイは目に涙を浮かべながら語った。
「私達の両親は……魔法研究の実験で命を落としたんだ……だから兄さんは私にとって唯一の大切な存在だったんだ……兄さんと私はいい仕事に就けなくて、 それでレッド・アイズに入ったんだ……兄さんは一生懸命に稼いでいたんだ……悪いことをしているのは分かってたんだ……でも、 生きるためだった……そんな私の大切な兄さんを……奴等は……奴等は……! ! 」
「イージス、 済まないがこの話はこの辺で……」
ウルヴェラがアイをなだめながら言った。
「あぁ、 ごめんな……」
強者というのは必ずその力を代償に、 何かを失う……俺は一体何を失うのだろう……もしくはすでに失っているのに気付いていないだけなのかもしれない……まぁそれはともかく、 アイには悪いことしてしまったな……
しばらくしてアイは気を取り直す。
「済まない、 取り乱した……とにかく、 私達が今からやることはその組織を調べ、 潰すことだ」
「その為にもイージス……君らにも協力してもらえるか? 」
俺のやるべきこと……それは人々を守ることだ……この組織を潰さないとまたあの時のベルタ達や今のアイのような人達が増える……このクエスト……断る理由なんて無い……
「あぁ……是非とも協力させてくれ」
そしてイージス達はドラゴンキラーのパーティと協力することにした。
作戦開始は明日の夜だ……場所はヒュエルの南、 そこでよく目撃情報があるらしい。
その日の夜、 イージス達は宿で明日の作戦に備えていた。
「……寝れない……」
イージスはベッドから起き上がった。
……外で気分転換でもしよう……
イージスはアイのことで気になっていた。
「アイはもう寝ているのだろうか……」
イージスは外に出て呟いた。
すると屋根の上にアイがいるのが見えた。
「あれ、 アイじゃないか」
イージスは屋根に登った。
前編2へ続く……




