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狼とパンダと女神の冒険 上

ついに総合600突破! 記念に絵を発注しようかな

 とある少年の夢を見た。大好きだった祖父から聞かされた冒険談の英雄に憧れ、英雄を夢見て旅立った先で出会った奇妙な存在、そして迎えた命の危機から救ってくれた少女。ロリコンと後ろ指を差されながらも彼は夢を追い続けた。奇妙な存在から貰ったのは舞台の上では脇役ですらない存在の服、居ないものとして扱われる役割。


 でも、彼の人生において彼は主役であり、世界を巻き込む大きな動乱の中心に彼が居る事になる。それを理解して干渉したのがその奇妙な存在なのだ。


 とある女の夢を見た。とある国の名門貴族のご令嬢。優秀な弟と共に祖国を支え続けると幼い頃から思っていた。そんな彼女の趣味はポエム。後に黒歴史になる名前と内容で書かれたノートは行方不明。誰かが捨てたと思った彼女は忘れ去り、成長の末に革命軍のトップになった。無意味で無価値な戦争の継続を推し進める暗君を打倒し、国を守ると彼女は決めた。そんなある日の昼下がり、戦場に響くは奇妙な歌。彼女が捨てた黒歴史、それが歌になって轟いた。やがて革命を成し遂げた彼女だが、最愛の弟は王家に付いて行方や知れず。


 そして過ぎた幾星霜、弟がひょっこり見付かる。少しばかり変になり、彼を見付けた奇妙な存在が要求した報酬も奇妙奇天烈な物だった。尚、後に判明するのだが、彼を見付けて連れ戻した奇妙な存在こそ黒歴史ポエムを歌にして流した犯人であり、弟を姉萌えの魔法少女オタクした存在である。彼女からすれば正直言って消し飛ばしたい相手であるが、弟を見付けた対価としてその存在の配下になるのであった。





「・・・・・・いや、何をやっているのだ、貴様は」


 宙に浮かぶ椅子にもたれ掛かって目を閉じていた私は呆れ混じりの声と共に瞼を開く。魔法と神罰を司る女神ソリュロの名前は伊達ではない。並の神では最早僅かでも調べる事が不可能な程に力を増した存在の情報さえ容易に得られる。今も夢見の術で関係する者共の情報を得た所だ。


「……ふぁ」


 私がその言葉を向けた相手、我が弟子であるキリュウはアンノウンと名付け、私は黙示録の獣(アポカリプスビースト)と呼ぶ存在は地べたに寝転がって欠伸をし、その背を黒子がマッサージしている。


 そう、その黒子を含む者達が私が呆れた存在であり、こうして調査に出向いた理由だ。


「え? 普通に異世界に行ったり、未来の僕が送り込んだ子達に頼んで戦争を止めて貰っただけだよ? ちゃんとマスターが報告書を出したのに読んでないの、ロリ婆ぁ」


「誰がロリ婆ぁだ、誰が! そもそも、異世界の存在を気軽に召喚する方がおかしいと言っているんだ!」


「出来るんだから仕方無いじゃん」


 私の叫びにも何処吹く風、この馬鹿者は呑気な態度で受け流す。ミリアス様は爆笑していたが私は危険視して聞き取り調査に来たというのに肝心の主であるキリュウの馬鹿は出掛けていて不在。心配している私が馬鹿に思えて来たぞ。


「……それでキリュウの奴は何処に行ったのだったか?」


「一度言ったのに……はぁ。なんかね、昔の知り合いの子孫が面倒な事になってるとかで様子を見に行ってるよ。介入するのは良くないけれど、魔族の関わりがないか調べるんだってさ。ボスは港でモンスター退治。天気鰻の影響で何時もより数が減ったから町の住人を休ませたいんだってさ。ソリュロが来るって聞いたから安心してたよ」


 相変わらず甘い奴だと呆れつつも弟子の甘さが少し嬉しい。人から神に近い人へと変わった事で内面も変化したが、それでも根っ子の部分は変わらない。可愛い弟子だ、少し安心したよ。シルヴィアは変わったが……弟子の影響で起きた変化が私には好ましかった。


「まあ、問題されたら私が何とかしておくさ」


「孫に甘いお祖母ちゃんみたいだよね、ソリュロって」


「誰がお祖母ちゃんだ、誰が。私は未婚だぞ」


「永久の?」


 ……一度馬鹿弟子とは話し合う必要が有るらしい。使い魔の躾はちゃんとしろと此奴を創った時に言った筈だが、どうも師匠の言い付けをちゃんと聞いていなかった様だからな。って言うか本当にどんな躾をしているんだ、彼奴は!? 


「これは本格的に師匠の偉大さを教えてやらねばな」


「本当に偉大なら教えなくても伝わるんじゃない?」


 あの馬鹿には本当にしっかり言ってやらねば! っと言うか、呼び捨てとか私の事を馬鹿にしているだろう、このアホは。これでも神の中では最上位に入るのだぞ、私は。


「……まあ、良いさ。お前には何を言っても無駄だからな。それよりも頼まれた仕事に集中しよう。世界の命運を背負う少女の修行の手助けのな」


「背負わせている、でしょ? マスターの時もだけれど、勇者選別のシステムの改修はどうなっているのさ?」


「……耳の痛い話だ。安心しろ、今度は私が行う。人の子に苦難を押しつける以上は最低限の仕事はこなすさ。そうでなくては神の存在価値が無い」


 時々思うのだが黙示録の獣(アポカリプスビースト)はふざけた性格を演じているのかもな。まあ、良いさ。何だかんだ言っても大勢の神以上にゲルダを気にかけているのが此奴だ。悪戯が過ぎる事が多いが、身内と認定した相手を守ろうとする部分は私も認めている。


 此処で会話を続けても煽られるだけなので目の前の光景に集中する。ダサラシフドから少し歩いた場所に存在する巨大な湖。町の水源となる川にも通じており、面積は下手な大都市よりも広い。そんな場所でゲルダが水面を跳ねながら戦っていた。



 オス湖、ダサラシフドの水源の一つではあるが、深い森等たどり着くまでの道程がやや困難な事と他の湖と生息する淡水魚が同じな事から住民が足を運ばない場所だ。深い水底が見える程に透明なのだが背の高い水草が水面近く迄伸びているので水中の様子は分かり難い。その水草をかき分け、巨大な蟹のハサミが突き出した。黄土色に錆色の斑点を持つ巨大なそれは水面に降り立とうとする獲物を捕らえるべく閉じられるが空振りに終わる。水面に現れた青い魔法陣に弾かれ再び宙に舞い上がったからだ。


「地印、離脱にも引き剥がすにも便利な能力だな。まだまだ不慣れではあるが移動にも有用か。……だが、欠点も有る」


 獲物を取り逃がした事に苛立ったのかハサミの主が姿を現す。横幅が寝そべった子供程の大きさになる巨大な蟹であり、口から勢い良く半透明の泡を吹き出す。飛沫が浮いていた水草に触れるなり溶かす事から強力な酸性を持っているのだろう。直ぐに記憶と照合して名を思い出す。アシッドキャンサーだ。


 並の人間が触れれば忽ち肉が溶け出し、やがて骨まで達するであろう泡を前にしてゲルダに臆した様子は見られない。……その事に胸が痛んだ。たった十歳の子供が凶悪なモンスターに臆さず立ち向かえる様になってしまった、それが辛い。


(……は! 何を今更。そうやって自分を責める事で良心の呵責を緩める気か? 私はちゃんと悲しんでいます、とな。目を逸らすな、向き合え。あれが私達の罪の姿だ)


 横に振り払ったブルースレイヴが泡を弾き飛ばし、レッドキャリバーの切っ先が突き出される。本来なら届かない距離だが、今は赤いオーラの刃におおわれている。本来よりも伸びた間合い、その切っ先が更に伸びて鋼鉄に匹敵する硬度の甲羅を易々と貫いた。力尽きて沈んで行くアシッドキャンサー。ゲルダも重力に引かれて水面へと向かい、再び水面に出現させた地印の反発によって陸へと戻って来た。


「どうですか、ソリュロ様!」


「ああ、強くなったな。武については管轄外の私にもお前の技量が伝わって来たぞ」


「えへへへ。賢者様と女神様に教えて貰っていますから」


 私の誉め言葉に素直に喜ぶゲルダの姿は年相応だ。私も見た目は同じ位だが、気が付けば頭を撫でてやっていた。少し驚いた様子のゲルダだが嫌がりもせずに受け入れてくれている。矢張り子供は可愛いな。


「言っておくがキリュウもシルヴィアに鍛えられていたがお前程ではなかったぞ。魔法の才能は奴が上だが、お前の方が武の才能があるし、素直な良い子だ」


 これは紛れもない私の本心。私は人間が好きだが人には関わりを持たない様にしている。私は神罰を司る女神だ。人は神を恐れ敬うが、その恐れの大部分を占めるのが神罰を司る神の役目。故に人の子は他の神よりも私を恐れる。だが、ゲルダは私の名を知っても怖がらず接してくれるそれが堪らなく嬉しかった。


「あの馬鹿弟子が私に出会った時に何と言ったと思う? 『見た目は子供ですが実際はかなりのご高齢ですし、子供扱いと老人扱いのどちらが良いですか?』だぞ!? 一切の悪意無く、寧ろ気を使って言ったのだから尚更質が悪いわ!」


「でも賢者様はソリュロ様を尊敬していますよ」


「……まあ、な」


 それは私にも伝わっている。偶に私をロリ婆ぁだの言ってはいるが、尊敬しているのは間違い無い。他者から言われるのは少し気恥ずかしく感じた時、水中から何かが出て来ようとしていた。ブクブクと水面で弾ける泡、ゲルダは武器を構えるが私はそれを手で制する。


「まあ、待て。あの魔力の刃……魔包剣だったか? 地印等の能力と併用は出来ん上に無駄に注いでいるから燃費も悪い。此処は私が手本を見せてやろう」


 懐からペンを取り出して魔力を纏わせる。ゲルダの魔力の刃が揺らめく炎ならば私のは氷。密度も安定性も段違いだ。そして水草の間から顔を見せようとした存在に対してペンを振り上げる。


「覚悟!」


「まあ、待ちなって」


「へぶっ!?」


 だが、踏み込んだ瞬間に背後から足を払われた私は転び、受け身も取れずに顔面を地面に打ち付ける。幸いな事に水辺で湿っていたのか泥状になっていたから痛くは無いが……。


「何をするんだ、アンノウン!」


 私の足を払ったパンダを摘まんで持ち上げながら操っている馬鹿者を睨む。少々魔法で威圧感を強めるも堪えた様子が見られないのが腹立たしい。シルヴィアに叱って貰うのは負けた気がするから何か嫌だ。


「何って足払い。もー! 孫に良い所を見せたいお祖母ちゃんみたいな気持ちは別に良いけれどさ、実際高齢だし」


「神は不老不死だ。生きた年月など関係無い!」


「そんな事よりも……ほら」

 

 パンダが湖を指せば出て来た者と目があった。翡翠色の瞳に青白い髪が濡れて張り付いている体は人間の物だが、腰から下は桃色の魚。人魚の少女が少し驚いた様子で此方を見ていた。


「なんか変なのが居る!」


「言われてるよ、ソリュロ」


「貴様の事だ、馬鹿者! ……何か用か?」


 ゲルダの方を見ればワクワクした様子で人魚を見ているし、絵本でしか知らない存在に出会えたのを素直に喜んで居るのだろうな。私は一歩前に出て問い掛けると人魚は蟹のハサミを重そうに両手で持ち上げながら差し出して来た。


「えっとね、此奴を倒してくれたの貴女達でしょ? この湖ね、陸に上がる時に便利だったけれど海から湖に住み着いたアシッドキャンサーに困っていたんだ。それでね、族長が倒した人が居れば感謝の宴を開くから連れて来なさいって言ってたの。案内するから着いて来てくれる?」


「……成る程な。それで湖の底に住処に繋がる水中洞窟でも有るのか?」


「うん! 途中に海竜の縄張りが有るからモンスターが近寄らない場所に住んでいるの。でね、宴にはご馳走を出すから是非来て欲しいな」


 本来は海に住むモンスターだが、淡水にも適応出来るからか川を遡るケースが有ると聞いてはいたが本当だったか。人魚の少女は素直出少し頭が足りない印象を私に与えた。何も知らないのか、もしくは……。


「ゲルダ、お前はどうしたい?」


 顔を見れば行きたいのが丸分かりだが一応訊ね、同時に頭の中に直接話しかける。私の事は本名ではなく偽名、リュロと呼べ、とな。


「安直!」


「言ってみたいです、リュロさ……ん」


「じゃあ決まりだね! えっとね、じゃあ水の中でも息が出来る様に泡を出すから水に入って来て!」


「いや、構わん。お前の魔力では頭を包むのが精一杯だろう? 濡れるのは勘弁なんでな……ほら、行こうゲルダ」


 幸いな事に様を付けそうになった事を疑問に思われた様子は見られない。パンダを放り出してゲルダに手を差し出せば緊張した様子で私の手を取り、水の中に足を踏み入れれば私達を光の膜が包み込んで濡れない。


「あっ! その変な動物は連れて来ないでね。なんか怖いから皆がビックリしちゃうもん」


「だそうだ。悪いが留守番……は可哀想だからこれを通して様子を見ていろ。シルが港のモンスター退治の手伝いを終えてゲルダの特訓の手伝いに来たら伝言を頼んだぞ」


「……むぅ」

 

 足下に放り投げたパンダを引き寄せて頭に乗せる。これと目と耳を共有出来るが一緒に来たかったのか本体は少し不満そうだ。未だ中身が子供だから仕方が無いが、これから行く場所が行く場所だからな。彼奴は連れて行けん。そうして先導する人魚の娘の後を追って歩き出した私達だが、肝心な事を訊いていなかった。


「おい、お前の名前はなんだ? 私はリュロ、こっちはゲルダだ」


「私? 私はシャーリーだよ。あの変なのは?」


「誰が変なのだよ、誰が!」


「お前だ、お前。此奴は……アンノウンと呼んでやれ」


 私の頭の上で飛び跳ねながら憤慨するパンダの重量は着地の度に急激に変化する。鬱陶しいので捕まえてゲルダに手渡しながら名を教えてやった。


「変な名前ー!」


 ……うむ。連れて来て良かったかも知れんな。偶には馬鹿にされる者の気持ちを味わえば良い。私達が進むと水草は左右に分かれて道を作り、シャーリーは凄い凄いと喜んでいる。やがて湖の中央の少し前迄辿り着いた時、屈めば何とか通れそうな大きさの穴が現れた。


「此処だよ、此処! それにしても強いんだね、リュロって! ゲルダもアシッドキャンサーを倒しちゃうんだから驚いちゃった」


「そうか。私達が強いのがそんなに嬉しいか」


「リュロさん?」


 私の呟きが聞こえたのか不思議そうにするゲルダに笑って誤魔化し、暗い道で頭をぶつけては大変だと洞窟内に明かりを灯す。シャーリーが更に凄い凄いと大騒ぎして私達の周りを泳いでいた。


「矢っ張り綺麗だなあ。絵本で読んだ通りだわ」


「そうか、そんなに人魚に会いたかったのだな」


「ええ! だから凄く嬉しいわ。人魚さんと会えただけじゃなくって宴に招待して貰えるだなんて」


「招待と言うか、私達がある意味主役……いや、言うまい。それよりもシャーリー。宴の準備とて有るだろう? 私達は洞窟の出た先で待っているから先に知らせに行ったらどうだ?」


「そだね! リュロって頭も良いんだ。ますます嬉しいな。じゃあ、行ってくるから絶対に逃げないでね!」


 流石は人魚なだけあって人など到底及ばぬ速度で泳いで洞窟の内部を進むシャーリーの姿を見送った私は少し馬鹿馬鹿しく思えて来た。


「あれが演技だったら大した物だな……」


「そんな事よりも宴って何が出るのかな? ソリュロは何が出ると思う?」


「まあ、ご馳走を出す気だろうさ。滅多に手に入らぬな。……肩入れは良くないが、まあ別の用事が有るから仕方有るまい」


 我ながら損な性分だと思いつつもゲルダの方を見れば私の様子に少し不安そうだ。


「ああ、悪い。本当に悪いな。大丈夫だから安心してくれ……」


 我ながら気の利いた事も言えず、謝るだけの自分が嫌に思えた……。



「……ん? キリュウの奴が何やらメッセージを送って来たな」


 今は話せないが相談したい事がある時に文章を相手の頭に送る魔法が有るのだが、キリュウから至急相談したい事が有ると送られて来た。


「……乙女ゲームのでの悪役令嬢の断罪シーンのテンプレみたいなのが起きているけどどうすれば? いや、意味が分からん」


 恐らくは奴の記憶から再現したゲームの事だろうが、私はRPGしかやらんからな。創作物関連の神が無駄に拘っているから面白いんだ。戦略を無視して高レベルでボスを叩きのめすのが最高だ。


「そうは思わんか、ゲルダ?」


「いや、急に言われても意味が分からないわ。そんな事よりも先に行かないんですか? ほら、出迎えが居たら待たせるのも悪いですし」


 あれ? 最初の方は敬語じゃなかった気がするが……私は気のせいだとする事にした。でないと頭のネジが外れた連中と同類に思われた気がしたから……。


 

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