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決意を新たに……

総合評価490突破 そして五章 まさか此処まで来るとは読者さんのおかげ


500目指して頑張ろう 目指せランキング入り  記念にイラスト発注しようかな

賢者ことキリュウが勇者として六色世界を旅した時、驚かされる事が沢山有った。


「え? エルフって森に住んでいる華奢な種族じゃないのですか?」


 例えばファンタジー作品で頻繁に登場するエルフと言えば金髪で尖った耳を持つ森の住民であり、選民主義の傲慢だったり魔法が得意だったりするのだが、エルフについての話題で食い違いが起こり、全然違う種族だと知らされた彼は驚いていた。


「妙な事を言うわね。正直言って全然別の種族よ、それ。仕方が無いから私が色々教えてあげる。シルヴィアちゃんは神様だからこっちの世界には疎いしね」


 そんな彼に六色世界の常識や文化、種族に関する知識を教えたのが勇者の仲間に選ばれた三人の内で最初に仲間になったメンバーであり、後に世界各地に学校を作ったナターシャであった。旅の資金を着服したり、金を稼ぐ為に危険を招くなど初代勇者の物語においてはトラブルメーカーの役を担う彼女だが、物語によってはキリュウに恋心を抱いていた、そんな風に描かれている。


 キリュウ自身もシルヴィアと出会わなければ彼女に恋をしていたと語る程には絆が深かった彼女だが、世界を救った後は孤児院の院長として過ごすのだが、独身のままで生涯を終えたと記録されている。彼女がキリュウにどの様な想いを抱いていたのか、それは神すらも知りはしなかった。


 そんな風にファンタジー作品では大抵で共通する設定と実際の異世界との違い等に驚かされたキリュウであったのだが、彼の知識と符合する種族も居ないではない。その種族の名はドワーフ。最後の仲間の種族であり、グリエーンでは珍しい緑の少ない岩山地帯に住む手先の器用な者達だ。


「おーい! そろそろ休憩の時間だぞ。飯だ、飯-!」


 岩山に掘られた人工的な洞窟内部こそがドワーフの街であり、今は鉱石を運ぶのにキリュウが伝えた朧気な記憶から苦難の末に再現されたトロッコが使われている。特にその手のマニアでもない高校生が詳しい知識を持っている方が妙な話であり、そんなあやふやな知識から完成させた当時のドワーフ達の職人魂を賞賛すべきだろう。


 そのトロッコが行き着く先の一つ、鍛冶場では炉の中で火が煌々と燃え上がって凄まじい熱気を放ち、職人達は玉の様な汗を滲ませながら黙々と作業を進める。食事の準備が出来た事を知らせる鐘が鳴ったのは丁度一段落着く頃合いであった。


「ふぃ~、今日中には完成するな」


「にしてもモンスター共が活発化して武器の需要が増したのは良いが酒の値段まで高騰したのは困ったものだな」


 ずんぐりむっくりとした体型に濃い髭面、ドワーフと聞いて大抵思い浮かべるであろう姿の者達が手を止めて汗を拭う。髭を濃くするのがドワーフの普通なのか個人個人の顔付きは判明し辛いが髭を三つ編みにしたりアフロみたいにして膨らませる等で個性を出している。


「親方ー! その辺で……って、聞こえていないか」


 そんな中でも一際個性的な姿をしている者が集中の極地に居るのか周りの声も音も一切耳に入っていない様子で鎚を振るっていた。声を掛けたドワーフも彼女が聞こえていないのを分かっているのか一言だけ声を掛けて食事に向かう。


 彼女……そう、親方と呼ばれたのは一般的なドワーフのイメージとは違った女だった。紫の髪に手拭いを巻き、上はサラシを巻いただけ。背だけはドワーフの特徴である低身長であり、髪と同じ紫の薔薇の眼帯を右目に装着した。


 彼女の年の頃は十代半ば、別にドワーフの中では男社会でもない鍛冶屋の世界だが若い女性が親方と呼ばれるのには違和感が有るだろう。但し、彼女が完成させた武具の出来映えを目にするまでの話ではあるが。


「……うっし」


 鍛え上げた武器を満足げに見詰める彼女は美しかった。それこそ人間離れしている程に……。




「……う~ん、もう朝……だけれど少し早いわね」


 昨日の激戦から一晩経って、私はベッドで目を覚ます。温泉で戦いの傷や疲れは癒えたからか倦怠感は無いし爽やかな目覚めだと言えるわね。何時の間にか撥ね除けていた掛け布団を戻し、着崩して前面が全開になったパジャマ姿を鏡で見る。相変わらずの平原が広がっていた。そして髪の毛も相変わらずの凄い癖毛。全く手入れされていない庭の雑草みたいだった。


「二度寝……は少し勿体無い気がするわ。だって風が気持ち良いし、爽やかな朝だもの」


 今日は修行はお休みだと女神様に言われているし、何時もなら二度寝を決め込む所だけれど今日はそんな気分になれなかったわ。開け放した窓から入って来る風は心地良く、うっすらと明るくなって朝日が射し込むのも時間の問題の森を遠目見ながら伸びをする。


「少し散歩にでも……」


 窓から景色を眺めるべく近付けば外からティアさんの声が聞こえて来る。よく耳を澄ませばリンさんの声もして、挨拶しようと思った私は窓から顔を出して二人の姿を見たわ。


「二人共、爽やかな朝……ね……」


「お姉様、どうか罵って下さい。それで私は今日一日幸せで過ごせるわ」


「嫌、面倒」


「そんな事を言わずに一言だけ、一言だけで良いからっ!」


 挨拶の途中で私は言葉を失う。朝の修行をする予定だったのかティアさんの手元には木製のトンファーが置かれていて、足元にはリンさんが縋り着いていたの。鬱陶しいのか手で顔を押して引き剥がそうとするティアさんにリンさんは必死で抱き付いて離れない。微妙な空気になりそうだから私に気が付かないのは幸いで、遂にティアさんが根負けしたのか肩を落としたわ。


「……罵ったら帰る?」


「勿論」


「じゃあ、イシュリア様が向けられた罵りを……リンは本当に役に立たない。まだ野良犬の方が道端の残飯処理の役に立つし、平身低頭して野良犬に人の役に立つ方法を習えば?」


「……ふぁあ。有り難う御座います。じゃあ、下着も換えたいので今は一旦帰ります」


「出来れば二度と来ないで欲しい……」


 凄く興奮した様子で去るリンさんに凄く困った顔を向けるティアさん。朝から大変だと思った私は声を掛けずに窓をゆっくりと閉めた。


「未だ起きるには早いし二度寝しましょう。未だ寝ていられるって最高の贅沢だわ」


 私は何も見聞きしていないし、眠いので寝る。だって寝ていられる時間なのに起きるだなんて勿体無い真似は私には出来ないもの。散歩? ……お昼にでもすれば良いわ。お布団は賢者様の魔法で冷える事無く暖かいし、普段は寝ている時間なので私は直ぐに睡魔に襲われる。きっと二度寝する前に見た物なんて全部忘れるわ、絶対にね。


「お休みなさい……」


 瞬く間に瞼が重くなって意識が遠ざかる。次に私が起きたのは朝日が完全に顔を出して朝ご飯の香りが漂って来た頃、自分のお腹が鳴る音で目覚めるだなんて少し恥ずかしかったわね。





「え? 今日は雨が降るの? 雲一つ無い快晴なのに」


 食卓の前に集まり、カリカリに焼いたベーコンと両面焼きの目玉焼きを乗せたトーストを食べていた私は賢者様から告げられた事に驚いて手を止める。今日は雨だから出掛けない方が良いって言われても空はあんなに青いのに不思議な話ね。私がビックリしていると賢者様は笑いながら教えてくれたわ。


「説明が足りませんでしたね。いや、言い方が悪かったのでしょうか? 雨が降るのではなく、雨を降らすが正しかった。午後から雨を降らすので外出するなら傘を忘れないで下さいね」


「それは分かったけれど、どうして降らすのかしら? 別に水不足ではないわよね?]


「虫退治ですよ、虫退治。ああ、少し面白いかも知れませんし、見に行ったらどうですか? 行くならティアも行ってあげなさい。何が起きるかは……お楽しみで」


「分かった。父が言うなら絶対面白い。私、行きたい」


(今日は家でゴロゴロして過ごす予定だったのだけど、言い出せないわね)


 人差し指を唇に当てて微笑む賢者様の得意そうな姿に言い出し辛くなる。ティアさんも楽しみにして目を輝かせているし、仕方無いから行く事にするわ。虹が見られるかも知れないしね。


「所で賢者様はどう過ごすのかしら?」


「朝の内は各集落に連絡をしておいて、昼は雨を降らしながらシルヴィアと語り合おうかと」


「おや、語り合いだけで良いのか?」


 賢者様の隣に座る女神様は彼の耳元に顔を近付けて息を吹きかける。多分……絶対に語り合うだけじゃ終わらないし、出掛けた方が良さそうね。


「そうですね……それ以上でも良いですよ?」


「そうか、実に楽しみだ、ふふふふふ」


 散歩が楽しみね。とても一日中出掛けずにゴロゴロだなんてしていられそうにないもの。ティアさんが教えてくれた場所に再び行くのも良いし、他の絶景場所まで足を運ぶのも楽しそう。手に手を取って見つめ合う二人を視界から外しながら私は散歩の計画を練っていた。……この後、あんな大変な目に遭うだなんて想像すらせずに。




 午後になり、事前にイエロア各地にされた通告によって洗濯物が取り込まれた頃に小雨が降り出した。だけれど地面に触れるなり吸い込まれて水溜まりはおろか泥濘さえ出来ない森の中を私は歩いていた。


「あら、鳥さんだわ」


「晩御飯に使う?」


「いえ、要らないわ……」


 途中、巣で身を寄せ合う鳥の親子の姿を見かけたり、ゲコゲコと蛙が一斉に鳴き出すのに耳を澄ませながら森の中を進む。今日は走らずゆっくり歩いて一時間位経った頃、目的地が見えて来た。


「わあっ! 凄いわ凄いわ」


「うん、お勧めの場所」


 突き出した岩場から見下ろせば轟々と音を立てて水煙を上げる大瀑布が目に入る。この辺りの川の水が一挙に集まった滝壺では巨大な影が見えたのだけれど、ティアさんが言うには滝壺の主だけれど大人しい気性なので子供が釣りをしても襲ったりはしないらしいの。随分と長生きらしくて賢者様が旅をしていた時には既に滝壺に住んでいたらしいわ。


「主が居るから変なモンスターが増え過ぎない。何かあったら滝を昇って向かって行くから。……正直言ってイシュリア様より役に立つ」


「あの方も散々な評価ね。私は最近助けて貰ったばかりだけれど……もう、折角の散歩なのに」


 普通の雨じゃないからか漂う臭いがかき消されずに感じ取れた。向こうは鼻がそれほど良くないのか分からないから隠れているつもりみたいだけれど、見事な足運びと気配遮断だし、臭いが無ければ気が付かなかったかもと思えるわ。


 二足歩行の有袋類、前足の拳だけ皮が異様に分厚くてゴツゴツしていてグローブでも填めているみたい。ピョンピョンと跳ねながら右ジャブと左ストレートを繰り返しながら威嚇するけれど、お腹から顔を出した子供も似た動きなのは可愛らしい。子供を連れているし、少しだけ戦うのに抵抗があったわ。


『『無頼(ブライ)カン』非常に凶暴なカンガルー。優れた格闘技術を持っており、お腹の袋から顔を見せた子供の振りをした部分でも攻撃を仕掛ける。基本的に袋を持つ雄が外で狩りをし、袋を持たない雌は巣で子供を育てる』


 どうやら問題無いと悟った私の顔に向かって突き出されたジャブを避けると賺さずストレートが飛んで来る。真下からアッパーで弾いて蹴りを放てばバックステップで避けられた。


「うん、強いわね」


「ゲルダ、私がそっちも倒す?」


 襲って来たのは計四匹。既に三匹はティアさんの足元に転がっているし、最後の一匹を任せるのも長引かせるのも少し悔しい。だから私は首を横に振って前に出た。カウンター狙いで構える無頼カンは私のパンチに反応して身を捻りフックを繰り出す……その前に私の拳が無頼カンの胸を捉えて身を浮かせる。


「優れた技術って言っても大した事無いのね。……私の基準が武の女神だからそう見えるのだろうけれど」


 悶絶して動きが止まった無頼カンを見ながら呟き、そのまま回し蹴りを背中に叩き込めば岩場から飛び出して滝壺に向かって行く。ティアさんも転がった三匹を蹴り落とせば四匹揃って落ちていくのだけれど、突然水面から巨影が飛び出して塗った滝壺の主が姿を見せる。腕の代わりにヒレを持つ翡翠色の鱗をした優しい瞳の水竜だったわ。


「綺麗……」


 思わず見取れて呟いた私の目の前で水竜は無頼カン達を丸呑みにして再び滝壺に戻って行く。その際、此方を一瞬だけ見ると尻尾を振って何かを飛ばして来たわ。キャッチすれば翡翠色の分厚い鱗。手の平位の大きさなのにズッシリと重さを感じる鱗の表面はスベスベで宝石みたいに輝いていたわ。


「ゲルダ、運が良い。滝壺の主、偶にこうして何かくれる。魚とか海老とか。でも鱗を貰ったのはゲルダしか聞いた事がない」


「へぇ。じゃあ、今日は素敵な日になりそうね」


 取り敢えず鱗をお腹のポケットに入れて滝壺の主に手を振る。特に反応が無かったけれど暫く手を振った後で暫く滝を眺めていた。


「……所で父はどうして雨を降らしている?」


「さあ? 私も詳しくは聞いていないから分からないわね。確か、一部が膨れ上がっている木を見ていれば分かる、だったかしら? ……ちょっと探してみようかしら」


「うん、そうする」


 此処に来る途中もティアさんが勧める場所に向かって色々と綺麗な景色を見て楽しんだから忘れ掛けていたけれど、確か賢者様が面白いって言っていたし、少しだけ期待して向かって見ましょうか。



「これは酷いわね……」


 私達が賢者様に教えられて向かった先、其処には今直ぐにでも死んでしまいそうな、既に死んでそうな木が集まった場所だったわ。どれも弱り切って一部が腐った色になっていて、近くには内部を食い散らかされて空洞になった倒木がちらほら転がっている。


「父、これの何が楽しいのだろう?」


「賢者様の言う事だし、何かは有るわよね?」


「うん、父はネーミングセンス以外は信用出来る」


「あっ、ティアさんも賢者様のネーミングセンスが酷いって思っているのね」


 デュアルセイバーに賢者様が提案した名前、アメリカンレインボー鋏を思い出しながら私は木の膨らんだ場所に触れる。薄い皮が内側から押し出されているみたいな感触に違和感を覚えた時、その皮が突然破れる。見れば周囲の木も同じく内側から皮が弾け飛び、大量の蝗の死骸が飛び出して来た。


「……大丈夫?」


「大丈夫じゃないわ。……うぅ、服の隙間から入って来た」


 至近距離から蝗の死骸を浴びた私は避ける事なんて不可能で、死骸の山からティアさんが引っ張り出してくれるなり必死で死骸を払い除ける。周囲に幾つも積み上がった蝗の死骸の山。中から食い荒らされたのが弱り切った理由なのねと思い、ちゃんと説明しなかった事をティアさんに怒って貰おうと決める。あの人には絶対そっちの方が効果があるもの。


「あれ? 地面から音が……」


 服の中に入り込んだ死骸を取り出そうとした時だった。地面が少し揺れて何かが地中から出る音が聞こえる。モンスターかと思った私の目の前に出て来たのは木の根っ子。死骸を吐き出した木が根っ子を動かして地面から這い出ると根の中心を吐き出した死骸の山に向ける。その場所にも大きな穴が開いていて、凄い吸引力で死骸を吸い込んで地面に戻ったわ。そう、元の場所に戻っただけでなく、元の生命力溢れる木に戻っていたの。


「賢者様が言っていたのはこれの事ね。少しビックリしたけれど、流石に言っていただけあるわ。蝗害がシャナの仕業って分かったから手出し出来たのだろうけれど……」


「ゲルダ、どうかした?」


「ええ、ちょっと。この光景ってグリエーンの各地で起きているのねって思ったの。多分私みたいに虫を浴びた人が居るでしょうね。それと、シャナにこれ以上好き勝手はさせられないわ」


 一度彼女を撃退した功績で私は更に強くなったけれど、シャナ・アバドンがどうやって挑んで来るかが分からない以上は油断出来ない。それにクレタ・ミノタウロスに、一度手も足も出なかった彼女に勝てるかどうかは分からない。


「まあ、勝つしか道はないのだけれど。……うん、やってやるわっ!」


 気合いを入れてデュアルセイバーを振り上げる。雨粒を弾きながら青い刃が光っているみたいに見えた。





「……あれ? レッドキャリバーが……折れてる?」


 力強く振り上げた瞬間に折れたらしくレッドキャリバーが根元から折れて地面に転がっている。私は決意を新たにして出航するなり座礁してしまったのよ……。

モンスター図鑑 ⑪ サボテンワーム


超巨大な虫型モンスター。頭部に生えている花以外は地中に埋まり、花を踏まれたら反応して出て来る。全身が緑で棘だらけであり、水分を多く蓄えるので数年単位で水を飲まない

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらずネーミングセンスが独特ですねw
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