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思わぬ出会いと白熱のオークション

ブックマーク増えて来ました 評価もきました 感想も 嬉しいです

 この世界には多くの謎が残っている。失われた技術、滅びた文明、魔族という存在が百年という長い様で短い年月を挟んで出現するのだから仕方が無いのかも知れない。


 神も最終的には魔族を滅ぼして下さっていたと言っても、価値観の違いから年単位の一休みを取って行動が遅れたと遺跡に残された記録によって判明した程ですからね。


 だからこそ我々考古学者が記録を漁り、遺跡を巡り、失われた文字を解読して古代の記録を呼び起こす。そんな私にとって女神シルヴィア様の直属の部下であり、少なくとも二百年前から存在している賢者様との出会いは正に神のお導きに思えたのですが……。


「うーん、私は無色の世界で魔法の研究をしている事が多いですし、勇者の手助けも求められた時のみでしたからね。六色世界で何が起きたのか詳細は知らないのですよ」


 色々と疑問をぶつけた結果がこの返事。……分かる、凄く分かる。私も研究が楽しくて熱中した結果、世間で何が起きているか知らず話題に入れなかった身ですし、何度もデートを忘れてしまって破局した身。ですが、研究者にとって最重要視すべきは研究だとの持論を曲げる気は皆無ですし、僅かなりとも答えて貰えた事が有ったので良しとしましょう。


 今、その事で非常に困った事になったとしても……。


「えっと、もう一度言って頂けますか? オークション用の金板(きんばん)が何枚ですって?」


「はい、全部で二十枚となります。オークション後に余った物は七割の値段で下取りとなりますが、如何しますか?」


 今日は目当ての品であるナスの涙が出品されるとの情報が流れたオークション当日、現在位置はオークションに使う入札用の板、レートが低い順から銅、銀、金の三種を換金する場所。年に一度の大規模なオークションでは現金ではなくてこのシステムを使うと聞いてましたけど、まさか全財産で金板二十枚ギリギリとは思っても見なかった。


 チラリと横に書いている注意書を見る。主催者は審査を通った出品者の品を競売に掛け、その売り上げから手数料として何%かを徴収。収益は公共事業に使われる他、余った板は購入時よりも低い金額で引き取るとの事。主に使った対象が書いてある。……これ、文句を言いにくい奴だ。そして、肝心な事が一つ。




「き…金板五千枚!?」


 参考資料として過去の競売の結果が張り出されているのを見た私は目を疑う。歴代最高価格で競り落とされた初代勇者の日記帳、一冊がエイシャル王国に残っている以外は魔族との戦いで焼失したとされる幻の品の価格に絶望した。


「こ…こんなの絶対に無理だ。前の目玉の価格がこれでは……」


「……いえ、これは極端な値段ですよ。普段は目玉商品でも金板五百枚前後です。ほら、これが前回の競売価格のリストです」


 な…何だ、良かった。いや、良くないな。親が結構な資産家で自由に研究を続ける事が出来た私の全財産でさえ二十枚。同じ考古学者が競り落とせば助手に知ってて貰える可能性も有りますが、大体が収集癖の大金持ち。宝である事にのみ価値を見出して歴史そのものには無頓着な事が似たケースとして何度も有った。


「仕方無い。競り落とせる物を競り落とすとしましょうか」


 ……所でその日記帳を競り落とした人を教えて貰えませんかね? 三百年前の勇者の旅路など研究資料として最高なのですが。


「オークションは仮面で顔を隠し、知人と会っても知らない振りをする事になっています。購入者に関してはお答えられません」


 頼んではみたけれど、受付嬢は営業スマイルで穏やかな口調、だけど目が笑っていない。あっ、ゴネたら後ろの方で待機している屈強な方々に追い出されますね。


「……ですよね~」


 まあ、歴史的遺物が何度も出品されますし、ナスの涙を一目見るだけでも……。



「はぁ……」


 色々とポジティブに考えてはみたけれど、タンドゥールの謎を解き明かすチャンスを逃すかと思うと気が滅入る。万が一の可能性として貸して貰えるかも知れないが、匿名性が高いのなら競り落とした方を尾行して直談判を……。




「ちょっと其処の兄ちゃん。アンタだ、アンタ。兄ちゃん、考古学者かい?」


 トボトボと歩きオークション開始時刻まで何処で時間を潰そうかと思っていた時、不意に声を掛けられる。スーツ姿でオールバックに細目の小男。もしかして金板を買い取ったのを見て奪う気で近寄って来たのかと、持っている物が物だけに警戒したのですが武器を取り出す素振りも見られない。いや、油断は禁物か……。


「……だとしたら?」


 ジリジリと後退し、何時でも駆けて逃げ出せる準備を整える。そんな風に警戒しているのが伝わったらしく彼は苦笑しながらも懐から書類を取り出す。あれは出品者の証明の……。



「……ナスの涙」


「!?」


 男が呟いたキーワードに反応し、体が固まる。目を凝らして見れば証明書に書いている出品物の特徴が明記され、名称はナスの涙と伝わっている宝石細工と書かれている。まさか、彼が出品者なのかっ!? しかし、だとしても私に近寄って来た理由が分からない……。



「そう警戒するなって。俺は代々受け継いだ宝をやむなく出品する事にしたんだが、どうも価値も分かっていない好事家が競り落とす気だって分かってな。……家宝だ、そんな奴に渡したくねぇ」


 これから予想される流れは剰りにも都合が良すぎる内容だった。だが、それでも構わないのが私みたいな研究者なのだから。




「預けていたのを偽物とすり替えて来た。アンタ、換金所での会話を聞いた限りじゃ随分と熱心な学者みたいだ。……頼む! 一緒に遺跡で謎を解き明かしてくれ。先祖が夢見たロマンを追いかけたいんだ!」


 差し出された手を取らないという選択肢は私には存在しない。一切の迷い無く彼の手を取って頷いた。本来ならばオークションへの出品が決まっていた品を持ち出すなど悪い事だ。だが、それでも私は失われた歴史を解き明かしたいんだ。



「私はシフド・フービ。宜しくお願いします」


「俺はジェフリー・バジリスク。既に準備は出来ている。ったく、直ぐに考古学者が見つかったから無駄にならなくて助かったぜ」


 この時、彼の目が怪しく光るも知識欲と好奇心で眩んだ私の目では気付く事が出来なかった……。





「あ…兄ィ。其奴が探していた学者なのか?」


 街の外に二人で向かい、仲間だという男に出会った時には騙されているのではと疑いを持った。いや、赤毛モヒカンに袖無しの服の大男、どう見ても頭が足りないチンピラだ。大丈夫なのだろうか? 古代遺跡には罠が多いのに、変なのを連れて行ったら……。


「おうさ! 熱心な先生でよ、是非とも協力させて欲しいってよ! おっと、先生の名前はシフド・フービだ。お前も挨拶しな」


「オイラはチョーサー・コカトリス。中……何でもないぞ! じゃあ頼むぜ、シーフード・ビーフ先生!」


「シフド・ビーフですけど……」


 うん、少なくてもチョーサーの方に誰かを騙す頭は無いですね。まあ、力仕事担当でしょう。それに……。


「凄いですね。こんなモンスターを従えるなんて」


「まあ、俺は何処かのノロマ女とは違うんだ」


 思わず息を飲んで見上げた先には巨大な鳥のモンスターが待機している。家畜を何頭も掴んで運べそうな力強い鳥の名を私は知っている。ロックバード、魔王を裏切った下級魔族を餌にした記録を持つ凶暴な鳥モンスターだ。


 これならあの場所に空から行ける。複雑に入り組んだ洞窟と止まない砂嵐に囲まれた遺跡に、タンドゥールの深層へと向かう入り口に……。




「シフドさん、居ませんね。まあ、居ても知らない振りがマナーですから」


 拝啓、本物の私、既に亡くなって居るでしょうが如何お過ごしでしょうか? コピーの私は未だ生きています。いやはや、人間とはノリで行動する物ではないと痛感していますよ。神の半数以上はその場のノリで行動しますけど。


 まあ、それは兎も角として彼からはナスの涙に関する情報を得ましたし、縁があったからとお世話をしましたが元から今日までとの話。よく調べずに後から歴代の落札額を知って参加を辞退する人も居ますし、わざわざ探知魔法を調べる迄も無いでしょう。


 ……おや? 少し離れた場所で既に大量のお酒を飲んでいる少しマナーの悪い集団ですが、何処かで見た気がしますね。……あっ。


「……キリュウ、知り合いに会っても知らない振りがマナーだぞ」


 どうやらシルヴィアも気が付いていたのか視線を向けない様にしている。まあ、恥ずかしいですからね、知り合いだと思われるのは。結構騒いでいるのに警備員が注意にすら行かないのは能力を無駄使いした結果でしょう。ゲルダさんには絶対に気付かれない様にしなくては……。


「……賢者様、私は何も見聞きしていませんよ」


 何も言っていないのにそんな事を口にするとは、つまり先程の会話で気が付いたのでしょう。シルヴィア同様に彼女も目を逸らす中、突如明かりが消えてステージをスポットライトが照らす。其処に居たのは二人のバニーガールでした。


「はーい! 間もなく年に一度のヤクゼン大オークションを開始しまーす! 司会進行は僕、キュロットと」


「私、ニオンが担当させて頂きます」


 オレンジ色をしたショートヘアーの少し童顔な赤いバニースーツと金髪ロールの大人びた黒のバニースーツ、活発な印象と落ち着いた印象の正反対な二人ですが共通して胸が大きい。会場の男性陣、特に先程の集団が大いに盛り上がった。……あれ? 一番盛り上がっている方ってイエロアで最も信仰されている砂と風の……私は何も見なかった。



「良いぞー! もっと脱げー!」


「君達の愛を競り落としたいぜー!」


 響く歓声鳴る口笛、反対に女性陣の反応は一部を除いて冷たい。熱い視線を二人に送っている女性も居るのは見なかった事にしましょう。趣味嗜好はそれぞれだ。そして面白そうだからと同行したシルヴィアと社会勉強にと連れて来たゲルダさんはどうしているかと言うと……。


「見ろ、ゲルダ。あれがバニーガールだ」


「へー」


「初代勇者が熱く語った事で広まったらしい」


「へー」


 痛い! 冷たい視線が非常に痛い! 仕方無いじゃないですか、当時の私はそんな年頃だったんです。既にシルヴィアに惚れていたとしても、女性の色気に興味を向けても不思議じゃなかったんですよ。……反省していますから勘弁して欲しいです。


 今頃になって女性の中に男一人が居る大変さを感じるとは思いませんでした。……お酒での飲んで自分を誤魔化しましょう。さて、何を飲みましょうかね。




「続いての商品は此方! タンドゥール遺跡から発見された警備用と思われるゴーレム! 何度か出品されましたが歴代でも上位の状態の良さです!」


 機能を停止したサンドローズゴーレムが運ばれ、金一枚から競りが始まる。うーん、今回は特に見るべき物は有りませんね。一度私の暗号文字で書いた日記が出品された時は焦りましたけど、危険な品は無い様子。一度商品が置かれている倉庫に探知魔法を使っても大きな反応は一つだけ有りましたけどタンドゥールとは無関係でしょうしね。


「えっと、帰りに食べたい物は有りますか?」


「この街で一番高級な店のフルコース」


「あと、本屋で何冊か本を」


「……はい」


 今重要なのは二人の機嫌を直す事。来るんじゃ無かったと後悔しつつ、必要な予約をどう取ろうか悩む間もオークションは進む。この手の物には偽物が多い為かナスの涙が出て来たのは最後の商品の一個前だった。それでも温存される位の価値は期待されているのでしょうが。


「残す所二個! 先ずはタンドゥールの秘宝とされ、全てを手にするのに必要な鍵として伝わるナスの涙!」


「形状は文献に酷似しており、内包する力も凄まじい。信憑性は高いと思われます!」


 出て来たのは赤い水晶の様な球体に金と銀の色をした金属が網目状に張り付いて宙に浮いている物。溢れ出す魔力に会場の多くの人が息を飲む。……但し、バニーガール相手に大騒ぎしていた団体と私達は特に反応する事は有りませんでした。古代の春画やら裸婦像に金板数百枚単位での競り合いをしていた彼らの様子にライバルが減ったと思ったのか他の方々の顔に歓喜の色が浮かびますが……偽物なんですよね、アレって。


 魔力は漏れ出しているのではなくて表面だけの見せ掛けですし、それ程古い素材を使ってもいない。恐らくはそこそこの腕の魔法使いが作ったのでしょうが、何の為に来たのかと思ってしまいますよ。


「金二百枚!」


「金二百と銀三百!」


「金三百!」


 それなりの資産家の財産が金二十枚程ですし、魔族の影響でイエロアは未だに結構酷い状況にも関わらず大層な金額が動く動く。さて、どうせ金持ちの自己満足で終わるので放置しますが、問題は最後の商品。神の世界の物の気配を関知していますし、最終的に金六百五十で落札されたナスの涙が偽物な以上は最も重要案件です。さて、どんな物が出て来るのか……。




「いよいよ最後の商品! これは凄いよ!」


「私も一目見ただけで心を奪われて……」


 出て来たのは布を被されて隠されてはいるが神の気配を隠しきれない何か。騒いでいた方々も真剣な眼差しになる所は流石だと思います。さて、一般人も只ならぬ雰囲気を感じる中、布が取り払われる。光り輝く……下着が現れた。


 ……はい?


「今回の最終商品は此方! 愛と戦の女神イシュリア様より一晩の愛を受けた男性が目を覚ました時、ベッドにこれが残っていたそうだよ!」


「偽物か本物か……見たら分かりますよね?」


 これは疑う人は居ないでしょう。物理的に光っている訳でもないのに眩しく見える下着、更に無駄に神々しいなど人の手では作り出せません。真横からシルヴィアが机に突っ伏す音が聞こえて来ます。まあ、実の姉が何時もの男漁りの末に脱いだまま忘れた下着がオークションに出されたとなっては……。


「……レストランはゲルダと二人で行ってくれ。私は一時帰還して姉様に会いたくなった。



「金三千!」


「いや、四千五百!」


「金六千でどうだ! イシュリアのブラジャー!!」


「おい、金を合わせて競り落とすぞ。俺はショーツだ」


 ……拝啓、地球で既に死んでいるであろうオリジナルの私。こんな時、私はどんな声を掛ければ良いのでしょうか? 私とは三百年程の交流が有る方々が小姑の下着に莫大な値を付ける中、妻に何を言えば分からない私には賢者の名は相応しくないのかも知れません。


「……」


 あっ、ゲルダさんが彼らを道端のゴミを見る目で見ています。この子、本当に逞しくなりました。喜ぶべきなのか、それを感じる理由に悲しむべきなのか。誰か教えて下さい。




「それにしても凄い金額が動いて驚きだわ。特に最高価格のナスの涙って宝石細工があんなになるなんて」


「考古学の重要な資料ですからね。シフドさんも狙って来た訳ですし、他にも同業者らしき方が数人来ていましたよ」


 オークションの帰り道、ラサに頼んで予約したレストランに向かう道中でオークションの話題が始まる。下着については……うん、忘れましょう。ゲルダさんも無かった事にしていますし。


 しかし、明らかに格の違う資産家が多かったのを見ると抽選の枠組みに幾らかグループ分けが有りそうですね。その上であれだけの数が参加出来たのは大いなる力を無駄に発揮するという日常茶飯事が起きたのでしょう、あの集団によって。



「なあ、今の会話が聞こえたけど、もしかして考古学者のシフドって言わなかった?」


「おや、これはサラさん。お仕事中ですか?」


 不意に背後から声が掛かり、振り向けば私を取り調べたサラさんだ。ゲルダさんが私の知り合いかと思って肯定すると慌てた様子で詰め寄って来ますし、普通の知り合いではなさそうだ。


「彼奴、私に会いに来たと言っていなかった? もしくはそれっぽい事……」


「いえ? オークションに参加するとか、調べたい遺跡が有るとかしか言っていませんでした」


「……そう。時間を取らせて悪かったわね」


 サラさんは肩を落とし、明らかに落胆した様子。うーん、これはもしかして……。


「痴情のもつれって奴かしら? 賢者様はどう思う?」


「さて、どうでしょう。貴女がおませさんなのは分かりましたよ」


「もう! 言い方には気を付けて欲しいわ! 意地悪よ、意地悪!」


 おや、どうも気に入らなかったのか頬を膨らませて栗鼠の様だ。こんな所は子供らしくて安心するのですよね。そうこうしている内にレストランが見えて来ました。では、入る前にする事が有りましたね。


「ゲルダさん、こんな店にはドレスコードが有ります。ですので……」


 指を鳴らせば私達の服が一瞬でタキシードと純白のドレスへと変わる。ついでに幾つかアクセサリーも付けてあげれば、普段は田舎者丸出しのゲルダさんが何処かのお嬢様にしか見えませんよ。


「馬子にも……いえ、失礼ですね」


「……何か知らないけど凄く失礼な事を言われた気がするわ」


「気のせいですよ。では、行きましょう」


 賢者としての営業スマイルで誤魔化し、ゲルダさんを伴ってレストランへと入る。受付に話し掛ければ直ぐに予約の確認が終わった……のですが。




「三名でご予約の方ですね? お連れの方は既に個室でお待ちですよ」


 ……私、シルヴィアがアンノウンを連れて一時帰宅したので二名しか予約していないのですがね。個室に案内されるらしいですが、一体誰が待っているのやら……。



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