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伝えたい言葉

 失敗ってのは取り返せる物と取り返しが付かない物が有る。しくじったって気が付いた時には全部終わってたなんて事もザラだ。俺の両親が白神家の連中に居場所を知られちまった事みたいにな。


「こりゃ随分と分厚いな。おらっ!」


 ゲルダと俺を分断した氷壁に拳を叩きつければ一部が砕けてヒビが広がるが向こうにまで貫通する程じゃない。殴った感触からして何十発かぶち込んだ程度じゃ無理だな。なら、火で溶かせば良いだけだ。


「……その前に邪魔な奴をどうにかしねぇとな。おい、テメェが俺をご指名なんだろうが。隠れてないで姿見せろや、糞餓鬼が」


 札を取り出し、炎を放つ準備を整えながらも上に続く階段の方を向けば柱の陰からゲルダと同じ年頃のチビが姿を現した。此奴がさっきの声の主で、この氷壁を創り出した奴か。……妙な臭いがすんな。


 鼻を動かし漂ってきた異臭を分析する。魔族特有の鼻が曲がりそうな悪臭とは別の、それでも不愉快な臭い。れがりあさんも加齢臭の上に何日も風呂に入れなかったら臭くなったが、こりゃ何か妙な術の影響だ。にしても……似てる。


「ねぇ。僕の顔をジッと見てどうしたのさ?」


「……生意気そうだって思っただけだ。会いたかったぜ、ネルガル。ぶん殴って泣かす為にな」


 余裕のつもりなのか俺が近寄っているのに離れもせず笑っている餓鬼の目元は何度も抱いた女によく似ていた。彼奴が裏切り苦しめたと言ってた大切な家族。だが、どんだけ大切に想っていても此奴はイーチャを生け贄にして何かの儀式をやりやがった。その巻き添えで何人か死んでる。


 問い掛けの返答は言葉じゃなくて攻撃。足元から伸びる逆向きの氷柱を回し蹴りで砕き、そのままの勢いでネルガルに迫る。容赦する気は無ぇ。何発かぶん殴って躾てやらねぇとな。


「歯ぁ食いしばれ」


 振り抜いた拳はネルガルの横面へと吸い込まれる様に向かい、咄嗟に動きを止めて後ろに向かってグレイプニルを振るえば俺の背中に向かって飛来した氷柱を打ち砕いた。


「わ! 凄いね、お兄さん!」


「空気の流れでバレバレなんだよ、糞餓鬼が。今度からは風の魔法でも併用するんだな。……テメェに次は無いけどよ」


「いや? 今後の参考にさせて貰うから……もう死んでよ」


 ネルガルの顔から表情が消え、地面が盛り上がる。床を覆う氷の一部が盛り上がり、氷の鮫が飛び出した。避けても床に吸い込まれる様に消え、再び床から現れる。此奴、さっきから無詠唱で魔法を使ってやがる上に魔力が高い。間違い無く英雄候補だったんだろうよ。


 高い魔力に無詠唱で放つ魔法の間隔も短く、間違い無しに天才に分類されるんだろうよ。でも、駄目だ。鍛えた奴も力を伸ばすのに重点を置きすぎているが、付けた力を自在に操る為の実戦経験が浅いんだよ。


 俺の動きが止まったのを好機だと思ったのか複数の鮫が周囲から飛び出して襲って来る。読めてるんだよ、馬鹿。鮫を壁にする事で生じた死角を狙って投げた札。後は鮫に触れた瞬間に一直線に進む貫通性の電撃で体が痺れて終わりだ。


「甘いんだよ、ドチビ」


 札が鮫に振れ、勝利を確信して笑みが浮かぶ。直後に放たれた電撃は目標の身体駆け巡り膝を付かせた。


「ぐっ!?」


 但し、電撃を喰らったのは俺だ。俺の放った電撃は氷の鮫を砕きながら貫通してネルガルに迫った。だが、そこで邪魔が入る。アンノウンの奴に圧倒されたっつうザハクだ。割り込んで電撃を翼膜で受け止めたかと思った瞬間、俺に向かって数倍の速度で跳ね返って来やがった。ちっ! 避けたと思ったんだが掠った左腕が痺れてやがる。


「ケケケケケ! 俺様が居ないと駄目だなとテメーは」


「はいはい、そーだね。見事に避けられたザハク」


「避けられてねぇよ! ちゃんと掠ってるだろ!」


 生意気な事だぜ。敵を前にお喋りなんざ馬鹿のやる事だろうによ。矢っ張り実践が足りない才能に頼っただけの餓鬼みてぇだな。随分と仕込まれたみたいだが、こりゃ技術の取得ばっかで同等以上との戦いはそんなにしてないと見た。


 それが目の前の奴の才能故の難しさなのか、それとも教育方針で他を重要視したのかは知らねえが俺としては好都合だ。俺の周囲を囲むのは話しながら出したんだろう黒雲。バチバチ放電する音が聞こえ、一斉に俺に向かって雷が放たれる。



「やったぜ!」


「……そういうのをプラグって呼ぶんだってリリィが言ってたよ。彼奴の知識を口に出したくはないけどさ……ほら」


 電撃が四方から迫って俺に触れる寸前、その全てが鎖に絡め取られる。元々が魔法の浸透率の高いミスリル製の鎖は電撃を全て吸収し、それを留めていた。本当だったら俺の手にまで流れて来たんだろうが、勇者の仲間として受けた試練によってグレイプニルも強化されている。俺の意志で吸収した魔法を留め、そして……。


「これでも喰らっとけや!」


 叫び声と共に腕を振るえば電撃を留めたままグレイプニルの刃がネルガルへと向かって行く。ザハクが咄嗟に前に飛び出して翼で防ごうとするが……甘いんだよ。同じ手が連続で通用すると思ったか。その甘さのツケは直ぐに払う事になる。


「ケケケケケ! 馬鹿が!」


「ザハク! さっさと離れて!」


 ネルガルは気が付いたのか咄嗟に跳んで障壁を張るが、ザハクが動く寸前に切っ先はザハクの翼に届く寸前で真下に向かい、内部の電撃を一気に吐き出す。さっきは点の攻撃を防がれたが次は面だ。案の定ザハクは防ぎきれず電撃を浴び、体から煙を出しながらフラフラと飛んでいる。


「……あれを浴びて動けるとか結構な化け物だな。アンノウンの野郎が強過ぎるから、楽に倒されたからって見誤ったぜ」


 さてと、此処からが本番だ。出来るならさっきので動けなくなってくれりゃあ良かったんだがな。グレイプニルを引き戻し、ネルガルとザハクを両方とも視界に入れる。今の所は俺が優勢だが、さっきので確実に……。




「テメェエエエエエエエエエエエエッ! 殺す! グチャグチャの挽き肉にして殺してやる!」


「……これだからドラゴンは困るよ。落ち着けって言っても無駄なんだから」


 ほら、ザハクがぶち切れた。叫び声だけで部屋全体が揺れ、小さなドラゴンだってのに巨大になった錯覚を覚える。怒ったドラゴン位面倒な敵は居ないってのに憂鬱だぜ。反対にネルガルの方は冷静だし余計に厄介だし……挑発しとくか。


「おい、ネルガル。テメェ、イーチャの事が随分と憎いらしいがよ……実は違うだろ? 俺が発見した時、弱ってたが生きてたぜ」


「あの儀式を見たんじゃないの? 憎んでるよ、誰よりもね。姉さんのせいで村は……」


「本当に憎い相手なら損得考えずぶっ殺しちまうもんだ。それが五体満足で目玉も潰さず鼻もそぎ落とさず……随分と優しいな。本当は嫌いになれねぇんだろ。無事で良かったって喜んで、抱き付いて甘えたいんだろ?」


 俺の言葉にネルガルは確実に反応している。んじゃ、サポート役の冷静さをさっさと失わせるか。……それとは関係無しに教えといてやんねぇとな。








「男のツンデレに価値なんざ無ぇんだよ、糞餓鬼が!」


 ……うん? 何処からか声が聞こえた気がする。お前が言うな、って……。








アンノウンのコメント  君が居うなって ほら、皆もご一緒に

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