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慢心

 空中を自由自在に泳ぎ回りながらデミ・バハムートが尻尾を振るう。鞭の様にしなりながら向かって来たのをレッドキャリバーで迎え撃とうとしたけれど、刃が触れるより前に毒液滴る先端だけが曲がって真横から襲い掛かって来た。


「わわっ!?」


 頬すれすれを先端が通り過ぎ、毒液が数滴飛び散る。咄嗟に頭を下げて麦わら帽子の鍔で防いだけれど、魔包剣の刃でも尻尾は断ち切れず半分まで進んだ所で止まって振り抜かれた。


 か、固い! 今までの敵だったら結構簡単に斬れていたのに! あーもー! 弱い順に敵を出して後から強くなるのは物語だけにして欲しいわ! 最初から強いなら強いで困るけども! 理不尽? 相手は本能で人間を襲うのだし、その程度別に良いじゃない。


「あはぁ! あはあはあはあはあはぁあああ!」


 私が未熟なのか相手が特別頑丈なのかは分からないけど、このままじゃ武器を奪われるか、柄を握ったまま壁や床に叩き付けられる。咄嗟にブルースレイヴを叩き付けて地印の力で反発すると同時にレッドキャリバーを小さくして尻尾から抜き取る。反発の力で下がる私の目の前を尻尾が通り過ぎ、壁を粉々に砕いた。


「逃ぃげぇちゃ嫌ぁ~! もっと遊びぃまぁしょ~うぅうううううう! きゃははははは!」


「ああ、もう! 本当にやり辛い相手だわ!」


 額のカイの顔が不気味に笑い、尻尾の傷は見る見る内に癒えて行くし、私の目的は生け捕りだから余計に厄介に感じたわ。今まで人の姿をした魔族と何度も戦って、心が通じ合う事も有ると知って、悪い人間とも戦って来た私には戦う事自体に迷いは無いわ。


 その上、救えるかどうか分からない相手に殺さない程度の手加減をしながら戦うのは心が折れそうだっただろうけど、賢者様に頼めば良いし、もしもの時はソリュロ様に駄々を捏ねましょうか。


「なぁんでお母ぁさぁんを助けてぇくれなぁかったのぉ?」


「……そうね。私が弱かったから助けられなかったのだわ。だから私は強くなる! せめて目の前の人は救いたいから!」


 投げ掛けられた問いはこれから私が向けられる物。そして今まで出会いの有無に関わらず向けられたであろう物。そうね。私じゃ魔族の被害全てを防げないわ。子供なんかが勇者だったからって思う人も居るでしょうね。


「だから絶対にこの城を壊して、連れ去られて来た人達も貴女も救ってみせる! 勇者が私じゃなかったら、なんて誰にも言わせないんだから!」


 私を攪乱する様に上下左右に激しく動くデミ・バハムートの位置を目ではなくて鼻で追う。お母さんから受け継いだ狼の獣人の嗅覚に困る時もあった。でも、こうして肝心な時に私を助けてくれる。これがなかったらもっと危なかった時が沢山有ったわ。


「……お母さん、有り難う」


 死んだ後でも私を守ってくれて居るみたいで凄く嬉しいわ。カイのお母さんだって子供を守りたい一心だった。本当に親って尊いわ。


「こぉれぇぁなぁらぁ避けられない~!」


 ギチギチと音を立てながらデミ・バハムートの尻尾の先が変形し、八本位になったかと思うとバラバラの動きで私に迫る。両手の武器で弾き、防ぎ、脚を動かし続けて避ける。ちょっと面倒だけれど数が増えたからか一本一本は軽いし動きだって単調。


「避け~るなぁあああああ!」


 怒りの声を上げ尻尾を更に激しく動かすデミ・バハムート。でも動きは更に単調になって避けるのは簡単よ。だって私も速く動けば良いだけだもの。ほら、変に動かすから何本か絡まった。その上、何度も地面に突き刺しながら向かって来たのが途中で止まったし伸びるにも限界があるのね。……もう分かっちゃった。


「避けるわよ。避けなかったら痛いじゃない。……そして私も痛くするけれどごめんなさいね?」


 無茶を言うわね。私だって同じ事を言うだろうけど今は無視して反論するなり、向かって来た一本に蹴りを叩き込む。堪えようとしたけれどそのまま他の尻尾に当たって動きを止め、一本を掴むと氷の壁を踏み砕きながら駆け上がる。


「はっ!」


 尻尾を持ったまま氷壁を蹴って飛び出せば全体にに大きくヒビが入って欠片が床に落ちて行った。でも向こうに繋がる穴は開きそうにないし、かなり分厚いわ。この壁、かなりの腕の魔法使いの仕業ね。


「まあ、レリックさんなら大丈夫ね。小さな女の子が相手なら危ないかも知れないけれど」


 どっちの意味かは敢えて明言せずに呟き、手に持った尻尾を他のに引っかけると巻き付けながら降り、解かれる前に蔦で固定する。さっき全身動きを止めた拘束だもの。そう簡単には解けないし、デミ・バハムートは口を開いて噛み切ろうと迫るけれどさせる気も無い。


「一本の剣の一撃で切り裂けないなら何度も喰らわせれば良いし、一撃で決めたいなら……二本どうかしら!」


 我ながら女神様に思考が似ている気がするけれど、あの方って武神だから問題無いわよね? 至高の肉体と技が有ってこそとは思うんだけれど。二本を組み合わしデュアルセイバーに戻すと左右の柄を持って踏み込む。左右の刃が尻尾に食い込んでそのまま閉じて尻尾を断ち切った。


「痛ぁいいいいいいいっ!」


「ごめんなさいね! 今からもっと痛くするわ! 天印発動!」


 拘束していた尻尾を切断した事で自由の身になったデミ・バハムートだけれど痛みによって空中でのたうち回って悲鳴を上げる。その声は当然だけれどカイの物で、本当に嫌な相手だと思わされる。


「……完全に嫌がらせだわ。ぶん殴ってやらなくちゃ気が済まないわね」


カイをわざわざ攫ってカースキマイラに取り込んだのも、私が勇者なのに母親を救えなかったのを教えたのも、こうして戦っているだけで辛く感じる様に設定したのも全部嫌がらせに決まっている! リリィ・メフィストフェレスのお遊び半分の策略だって確信している! されるがままの自分に腹立ちながらデミ・バハムートの尻尾の残った部分に刻んだ魔法陣で引き寄せ、デュアルセイバーを真下に向けて大きく振り被った。


「フルスイング……ホームラン!」


「あぁああああああっ!?」


 前に賢者様が口にしていた謎だけれど何となく気に入った掛け声(女神様には鍛錬中にふざけるなって怒られていた)と共に振り上げ、デミ・バハムートを打ち上げる。肉と骨が軋む音と同時に真上に飛んで行ったデミ・バハムートは天井に激突、そのまま砕けた天井の一部と共に落ちて来た。


「未だ動くの? 決まったと思ったのに……」


「終わぁらなぁい。敵を討つまでぇ終わぁらないぃいい」


「随分タフね。頭を叩き続ければ多分……」


 力は強くても狂った精神じゃそれを使いこなせず、私も此処に来るまでの旅で成長した。だから生まれた余裕。だけど実際は余裕じゃなくて油断と呼ぶべき物だったの。言葉の途中で口を大きく開けるデミ・バハムート。その口の中にビッシリと生えた鋭利な歯が正面に居た私に向かって飛んで来た。


「ぐっ!」


 広範囲に広がっているから横にも縦にも逃げられない。咄嗟にデュアルセイバーを構えて陰に隠れた私の肌を歯が切り裂いて行く。当たらなかった物は後ろの壁に突き刺さって勢いで粉砕させ、痛みに歯を食いしばって耐えていると漸く止まった。肌に無数に出来た裂傷や突き刺さった歯。毒でも持っていたのか焼け付く様な痛みに叫びたくなるけれど、既にデミ・バハムートの口の中には新しい歯が生え揃っていた。



「こぉ~れでぇ終わり~」


「こんな、こんな所で……」


 デミ・バハムートの顔と額のカイの顔が同時にニタァと笑い、再び無数の歯が私に向かって放たれる。










「こんな所で……ぶっつけ本番で例のアレを試すだなんて」



アンノウンのコメント  油断からのピンチとかボスが怒るね あ~あ~

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