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戦う理由

Twitter見てたらブクマ四桁とか結構見るし凄いなって思う


私も総合四桁目指してます

 鼻の中を刺す様な刺激臭は腐敗臭と混ざって嫌でも涙が出てしまう。

 空調設備なんか無くて風通しが悪い密室じゃ臭いが籠もって困ってしまうわ。


「おい、目を逸らすなよ? ちゃんと向き合え」


 ……でも、辛いのはそれだけじゃない。


 レリックさんの発した厳しい言葉の通り、私は涙で視界が悪くなるのを理由にして見たくない物から目を逸らしていたの。

 転移した先で相対する巨大なエイのモンスターの額にあるのは間違い無く人の顔で、咄嗟に行ってしまった鑑定魔法が正体を嫌でも告げて来たわ。


『『デミ・バハムート』魔族ではなく人を宿主にしたカースキマイラ。空中を自在に泳ぎ、猛毒の刺を持つ尻尾や無限に生え替わる鋭利な歯で戦う。宿主の記憶を持っているが、精神は完全に別物であり、最後に抱いた憎悪のままに暴れる』


「あの子は……」


 私は取り込まれた子の事を知っている。

 

 直接見た顔じゃないけれど、似た顔の人を知っている私には誰か分かったの。

 良心の呵責に苦しみながらも誘拐された子供を救う為に私を襲い、最後には私が勇者だと知って信じて託して欲しいって言った直後にみすみす死なせてしまった人によく似ていた。


「ゆうしゃ、ゆうしゃ、ゆうしゃさぁ~ん! どぅしておかぁさんをみっすてたの~?」


 デミ・バハムートがゆっくりと口を開け、聞こえて来たのは怪物ではなくって女の子の声。

 でも、明らかに正気じゃなくて、完全に狂ってしまった人の声。

 私は助けるって言ったのに守れなくって、目の前でお母さんを死なせてしまった事を彼女が守りたかった相手から責められている。

 反論も言い訳もしないし、出来ないし、何をすべきかだけは分かっているわ。


「いた、いた、いた、いた、いっただきまぁ~す!」


 私達を敵……いえ、餌と認識して大きな口を広げながら向かって来るデミ・バハムートだけれど、地下の壁の至る所から伸びた蔦が体中に絡み付いて動きを封じる。

 賢者様曰く、無詠唱で魔法を発動出来ない場合、(そもそも可能な方が珍しいんだけれど)、決め手になるのはどれだけ速く詠唱を唱えられるからしいわ。

 お腹のポケット越しに魔本に振れ、小声で素早く詠唱を終えた魔法は見事に相手に認識される事無く発動して効果を発揮する。


 でも、多分長くは保たないわね。

 デミ・バハムートの体の表面にはヤスリを思わせるウロコがビッシリ生えて、抜け出そうともがく事で蔦を削って行ってるし、此処で下手に手を出せば拘束を解く手伝いになりそうだから、出来て準備を整える位かしら?


「レリックさん、彼女がカイよ」


 だから敢えて口にしておきましょう。

 レリックさんに教えるのと同時に自分に言い聞かせ、誰を相手にするのか心に刻む為に……。


「成る程な。自分の娘の為に守られる訳がない約束を信じてお前を殺そうとした奴の娘らしい発言だぜ。甘やかされて育った餓鬼と思ったが、勝手な理想を押しつけて、違ったら憎むんだからよ。……おい、迷うなよ? 逆恨みに付き合う義理は無ぇし、名前も知らない何時か何処かで救えなかった奴は山程居るんだぜ」


 カイを酷く貶すレリックさんは一見すれば自分が気に入らないから怒ってる風にも見えるし、普段の言葉からして自分でそう振る舞ってるんじゃないかしら?

 でも、私は優しさから、私への気遣いからだって知っているわ。


「ふふふ。レリックさんったら優しいわね。でも、もう少し言葉を選んだ方が良いんじゃ無いかしら? じゃないと誤解されちゃうわよ」


 遠くの悲鳴は聞こえないし、見えもしない程に距離が離れていれば手を伸ばされても掴めないなんて子供でも分かる理屈よ。

 でも、人は勇者に理想を求めるし、奇跡なんて起こして当然で全ての人を救ってこそだって勘違いしているし、私だってしていたわ。

 それが傲慢だって分かっていても私は自分を責めたし、今でも責めたい気分だけれど、今の私が感じているのは自責の念じゃなくて別の物。


 希望、それを感じているの。


「分かっているわよ。ちゃんと倒す。……でも、殺さないからレリックさんも手加減してね?」


「あっ? ……あー、はいはい。テメェも大概他力本願で結構だ。チビなんだから、そうやって仲間に頼れ。俺も可能な限りは力になってやるよ。こんな風にな」


 戦う事に迷いがないと言えば嘘になるけれど、別に戦いたくないからって迷いながら相手をする気だって無いわ。

 私が抱く希望は、勇者って存在に人々が抱く物と似ている様で少し違う、相手の事をちゃんと知った上での信頼に基づく物なのよ。

 賢者様……もしくはアンノウンだったら、目の前の怪物になってしまった少女を救える可能性が有ると私は思い、レリックさんも最初は怪訝そうだったけど直ぐに私の考えを察したのか頷いてくれた。


「ほら、戦う前にこれを貼っとけ。完全に消したら臭いで感知が出来なくなるけど、こんな酷く臭い中じゃ戦うのは辛いだろ」


 相変わらずのぶっきらぼうな態度で優しさを隠しながらレリックさんが私の胸にお札を張り付ければ涙が出る程に酷かった臭いが薄らいで行ったわ。

 それと同時に蔦が切れてデミ・バハムートが自由になったけれど、今度は魔法を警戒してか直ぐには襲って来ずに周囲を旋回するばかり。

 


「これは私達を餌でなく敵と認識した証拠よね。……所で胸に触るのはどうかと思うわ?」


「はっ! いもう……芋臭い貧乳娘の胸に何も感じないから安心しろ。じゃあ、どうでも良い事は忘れて敵に集中しろ」


「……まあ、変な事を考えている様子も無かったから今は忘れましょうか。うん、今は……」


 じゃあ、覚悟を決めた事だし戦いましょうか。



 デュアルセイバーをレッドキャリバーとブルースレイヴへと分割し、空中を自在に泳ぐデミ・バハムートへと意識を向ければ軽減された臭いが居場所を教えてくれて死角に居ても居場所が手に取るように分かる。

 これなら十分戦えるし、気絶させる程度に抑える手加減だって出来そうね。

 相手を倒す為じゃなく、救う為に戦うだなんて少し変な気分だけれど、偶には良いんじゃ無いかしら。


 レリックさんと一緒なら何もかも可能だって、そんな錯覚さえして来たわ。

 


「ねぇ、その子だけじゃなくて僕とも遊んでよ。……お兄さんの方にしようっと」


 その時、楽しそうな少年の声が聞こえ、私とレリックさんを分厚い氷の壁が隔てた……。

アンノウンのコメント  ただいま僕は取り込み中


応援待っています


もう片方の連載中作品も!

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