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聞こえた声

評価930突破 文字数110万突破!

「糞っ! どんだけ入り組んでるんだよ、この城は! 住むのに不便が過ぎるだろ、馬鹿が!」


 魔族が放つ強烈な悪臭を頼りに場内を進む私とレリックさんだけれど、これで何度目かの行き止まり。壁の天井付近に僅かに開いた穴から臭いが漂って来ていたわ。それに誘われて通路を選んで今に至る。あーもー! レリックさんじゃないけれど悪態だって付きたくなるわ。


「あれ? この壁、ヒビが……来る!」


「キシャアアアアアアア!!」


 目の前の壁にヒビが入り、無数の大蛇が鎌首をもたげながら襲い掛かって来た。一匹一匹の大きさは口を最大まで広げれば小さな子供を丸呑みに出来そうな程。それが壁や天井を削りながら密集して迫っている。でも、只何匹もが密集しているんじゃないわ。尻尾の方を目で追えば広い通路に中心に巨大な目玉を持つミチミチに詰まった袋状の物体に繋がっていたの。


「ゴーゴンキンチャク!?」


 そう。アレは私が勇者継承の儀で戦ったモンスター。でも、あの時よりもずっと大きいし、強い。魔包剣で縦に切り裂いた蛇の頭は直ぐにくっつき、胴での凪払いを防げば腕にビリビリとした痺れが走る。あの時の私とは比べ物にならない程に強くなっているのにこれって事は…着ぐるみ。


『『キングゴーゴンキンチャク』ゴーゴンキンチャク種の上位種。強烈な毒液と再生能力を持ち、他のモンスターでさえ補食して体力を回復させる。胴体の目玉が弱点』


「上位種! 多分キングとか付いてるから凄く強い!」


「……単純だなぁ、テメェ。まあ、大体そうだけどよ。覚えておきな。偉そうな名前のモンスターは大抵強い。見た目に騙されるなよ?」


「そうなの? レリックさんって物知りなのね」


 本当は賢者様から既に習ってるんだけれど、此処は得意そうに教えてくれているレリックさんの顔を立てるのがレディだから黙っておきましょう。それに余計なお喋りをしている余裕はくれないもの。


「シャァアアアアアアアアッ!」


 キングゴーゴンキンチャクの蛇の内、三匹が私達に向けて毒液を吐き掛け、残りが天井や床や壁を貫いた。レリックさんがグレイプニルを振り回して毒液を弾き飛ばせば飛び散った場所が煙を上げて溶けて、続けざまに壁や床が盛り上がって蛇の頭が飛び出して来る。


「もう! 後先考えずに壊して!」


 そこら中が穴だらけだし、こんなんじゃ雨風を防げやしないわ。床だって穴に足を突っ込みそうだし、住むに不便じゃないの。


「敵の住処だ、気にすんな! どっちみち終わったら俺達がぶっ壊すんだからよ!」


「あっ、それもそうね」


 蛇は縦に切り裂いても断面が直ぐにくっついた。なら、次はと頭を切り飛ばせば胴体がのたうち回って動きを止める。やった!


「レリックさん! 全部私が切り落とすから……わっ!?」


 気配を感じて咄嗟に構えれば切り落とした蛇の頭が跳ねて飛び掛かって来ていた。断面は肉が盛り上がって塞がり、ボールみたいに跳ねて私に向かって来る。でも、私がまた弾き飛ばす前に横合いから伸びたレリックさんの手が掴み取った。


「油断すんな、アホ! 強いって言っただろ!」


 レリックさんは蛇の頭をキングゴーゴンキンチャクに投げるけれど、間に割って入った他の蛇の胴体に遮られる。……ちょっと面倒ね。正直言って侮っていたわ。レリックさんが助けてくれたから良いけれど、余計な消耗をするところだったもの。


「ごめんなさい。助かったわ、ありがとう」


「……次から気を付ければそれで良い。おい、いい加減面倒だ。俺達は魔族の相手を任されたんだぜ? なら、こんな所で足止め食らっていたら……シルヴィア様に何を言われるやら……」


「未熟だって言って修行がハードになるわね。……アンノウンからも何か言われそう。確実に腹が立つ内容を」


 女神様が修行を過酷にすると言い渡す姿を想像して二人揃って身震いし、アンノウンが得意そうに飛び出したのに手間取った事を笑って来る姿を思い浮かべてイラッとする。


「さっさと終わらせるわよ。レリックさん、蛇をお願い」


「まあ、俺の方が適任だしな。本体は譲ってやるからさっさと決めろ。ノロマなら俺が本体も貰うからな」


「……手合わせで私に負けた癖に」


「上等だ! これが終わったら今度こそ俺が勝つ!」


「シャァアアアアアアアアアアアッ!」


 無視をするなとばかりに迫る蛇達。爬虫類の癖に妙に頭が良いわね。でも、それが命取り。頭が良くなった事で怒る事が増えて、今こうして短絡的な行動に出てるのだから。真下から迫るグレイプニルの切っ先が一匹の胴体を貫き、そのまま貫通して次々に蛇に向かって行く。当然再生するけれど、再生する肉が鎖を食い込ませるだけ。再生能力が強いのが仇となったのね。


「動くな、雑魚が」


 最後の一匹の胴体を貫いたグレイプニルはそのまま伸び続け、全ての蛇に何重にも巻き付いて縛り上げた。締め付けは蛇の得意技なのに皮肉な話だわ。キングゴーゴンキンチャクの本体の目玉はギョロリと動き蛇を引き戻そうとするけれどレリックさんが足を踏ん張ってそれを許さない。


「さっさとやれ」


「言われなくても!」


 ブルースレイヴとレッドキャリバーを交差する様に振り抜き切り裂く。本体が死ぬと同時に蛇も息絶えて動かなくなる。レリックさん、肉が締まってるからグレイプニルを引き抜くのが大変そうね。


「レリックさん、オマケが来たわよ。えっと、ダツヴァだったかしら?


「鬱陶しい!」


 一撃で倒せる相手だし、別に体力的には大丈夫な相手だけれど、流石に精神的に疲れて来たわね……。うわぁ、鳥の羽が散らばった上に穴から見える外壁がデコボコだわ。


「このお城、本当に居住性なんて考えてないわね。さっきも廊下の床が抜けていたし、壁にだって穴が開いてて……あら?」


 ふと気が付く。そうよ。簡単な話だったじゃない。建物の中が複雑で迷うなら、迷わない様にすれば良いだけなのよ。


「ねぇ、レリックさん。私、良い考えが有るのだけれど」


「奇遇だな。俺もだ。この鬱陶しい城の内部を進み易くするアイデアなら有るぜ」


 あらら、流石ね。子供の頃から色々と荒事に関わって来たって聞いたけれど、私みたいな思い付きと違って何か良い案でも有るのかしら? 最近は冤罪みたいなのも含めてレリックさんに落胆する私だけれど、この時は敬意を表したわ。


「「壁をぶち破る!」」



 ……えっと、これはレリックさんが私程度って思うべきなのか、それとも私がレリックさんに追い付けているって思うべきなのかしら? 私とレリックさんは同時に同じ言葉を発していたの。ちょっと乱暴で力業ね。でも、何となく案が合致するのは嬉しいわ。目の前の壁を一気に跳ぶ。互いの蹴りによって分厚い壁が砕けて大きな穴が開くのは直ぐ後だった。




「……うわぁ。見事に脳味噌筋肉な行動だよ。まあ、別に良いさ。ちょっと付き合ってよ。勇者に用事があるって子が居るんだ。お兄さんの方は……僕と遊んで欲しいな」


 突如聞こえた少年の声。それと同時に目の前の景色が切り替わった……。






「ねぇ、どんな気持ち? 威勢良く飛び出したのに呆気なく罠にはまるってどんな気持ち? プップ~!」


 ついでにアンノウンの声も聞こえた。いや、話し掛ける手間を助けるのに使いなさいよ。

アンノウンのコメント  プップ~! アッハッハッハッハ! ウヒヒヒヒヒヒ!


もう片方の連載も宜しくお願いします

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