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友を思う

 元々が素人の寄せ集めに造らせた城。だから所々不備があるし、それを理由に粛正を行って来た……のだけれど。


「真っ昼間からお盛んねぇ。あの部屋からなら声が辺りに漏れるって知っているでしょうに、特殊なプレイかしら?」


 私こと蜃 幻楽(しん げんらく)はベッドに横たわりながら聞こえて来る情事の際の声に耳を傾ける。厳つい見た目の色黒の巨漢って私だけれど、基本的にやる事が無いのでこうしてゴロゴロするだけよ。だって基本的に私の役目は幻術で侵入者の妨害と逃げ出した子の捕縛をする事。実働部隊として飛び回るのは美風ちゃん、飛鳥ちゃん、ブリューちゃんの三人だもの。いえ、三人だものと言う方が正しいわね。


「あの時、リリィ様が命令なんかしなかったらこんな事にはならなかったのにねぇ……」


 あの日、飛鳥ちゃんが死んでから美風ちゃんは毎日のようにウェイロンを求めて抱かれていたわ。


「ウェイロン、もっと! 私を、アナスタシアを好きならもっと愛して!」


「恥じらいが一切無いわね、あの子。ちょっと前まで抱かれたら暫くは丸分かりな位に恥ずかしがってたのに。あんな大声じゃ外にも響くんじゃないかしら?」


 空調を通して響く声は美風の物。でも、名乗っている声は別人の物で、口調どころかイントネーションまで別人の物へと変わっている。ああ、普段の態度も変わったわね。ちょっと前までは気弱で少しドジな感じだったのに、今じゃ強気でハキハキ喋るんだもの。まるで今名乗っているアナスタシアって名前の怨敵みたいにね。


「他人の恋路に口を出すのは野暮だけれど、心配よねぇ。まるっきり駄目な相手に惚れちゃってるし、身内からも不満を持たれるわよ」


 私は厳つい見た目をしてはいるけど、これでも面倒見は良い方だって思っているわ。だから心配でたまらず、天井を見上げながら呟いた。だってそうじゃないの。ウェイロンもアナスタシアも先代勇者の仲間なのよ? 只でさえアナスタシアにお胸以外は似ちゃってるのに、その上態度も名前もアナスタシアだなんて。


「リリィ様も何を考えているのかしらん? なぁんにも考えず、私達を困らせたいってだけかも知れないけれど、魔王様が止めてくれたら良いのに。命令されれば即座にウェイロンを殺しに行くわよ、私なら」


 フッと紫煙を吐き出して城全体を軽い幻術で包む。外じゃ勇者一行への嫌がらせの嵐が吹き荒れているし聞こえないでしょうけれど、中で作業している連中には聞こえちゃうもの。急に自分の声さえ聞こえなくしてあげたから混乱しているでしょうが、ミスしたらそれを理由に殺されるんだから頑張りなさいよ?


 ……ああ、それにしても今回の魔王様は変だわ。幾ら何でも最上級魔族の二人……いえ、リリィ様に好き勝手させて自分は姿も見せないんだから。一度だけ誕生なさった時に拝見した限りじゃ気の強そうな美女だったけど、私の見込み違いだったかしらね?


「……また聞こえた。一体どれだけ盛ってるのかしら? 片方死人だから子種だって死んでるでしょうに。アナスタシアもアナスタ……っ!」


 自然と口からこぼれ落ちた言葉に私はハッと気が付き両手で自分の頬を強く叩く。今、私は自然と美風をアナスタシアって呼んでいたわ。幾ら本人がその名前を名乗っても、仇敵の名で仲間を呼ぶだなんて嫌だから受け流していたのに。その理由は一つだけ心当たる。気が付けば私はベッドに拳を叩きつけて破壊していた。


「やぁってくれるじゃないのよぉ! あの初恋拗らせ根暗陰険男、完全に喧嘩売ってるわね。……そっちがその気なら別に良いわ。後でリリィ様に叱られようが相手してあげる」


 口の中を漂う紫煙をゆっくりと吐き出す。薄く薄く、どれだけ感覚が鋭くても気が付かない程に時間を掛け、城全体に幻術が広がっていった。私って幻術が使えなければ上級魔族には数えられない程度の戦闘力しか持ってないわ。精々が中級魔族の上の中。


「……勇者の仲間だろうが何だろうが、私の土俵に引きずり込んでやるわ」


 亀の歩みより遅く、ゆっくりと世界が書き換えられる。別段何かを付け足す程ではなく、逆に何も変えない。私が何をしても、何もしていないように誤認させる。当然だけれど大規模な事をしたりドタドタと踏み込んだらウェイロンに感づかれるわ。


「この程度なら貴方でも分からないでしょう? どれだけ強くても不意打ちに耐えられるかしらね」


 指先に現れる小さな小さな冷気の球体。でも、これは私の魔力を凝縮した物。それを通気口を通し、周囲に存在を溶け込ますように……。




「凍りなさい。永遠にね」


 美風の体に夢中になり獣欲を露わにするウェイロンの背中に向かって冷気が音もなく迫り、一瞬で芯まで凍らせる。どんな能力を持っていても考える事すら出来なかったら意味がないものね。





「……さてと。先生に頼まれた通りに始末が終わったし報告に行こうかな。随分と盛ってるから嫌だけどさ。保護者の情事とか見たくないよ」


 城全体に幻術を展開、離れた場所から先生を氷漬けにしようとしていたマッチョオカマを凍らせ、粉々に砕く。最期まで自分がお得意の幻術を使われてると思うと笑えるよね。


「……ザハク、早く帰って来ないかなぁ」


 老化の窓から外を見れば嵐だし、日向ぼっこで昼寝って選択は取れないのが面倒だ。ああ、暇なら遊びに来いってリリィが言ってたっけ?


「是非来てくれよ、ネルガル君。君を男にしてあげよう」


 ……うん。思い出しても寒気がして来たぞ。ゾワリとした物を自分の体を抱きしめて耐え、先生の部屋に向かう。扉から声が漏れてるし、少し変な臭いまでして気分が悪くなりそうだ。


「先生、未だ終わらないの? ……聞こえちゃいないか」


 ドアを開いて声を掛けても先生と美風……いや、アナスタシアは互いに夢中だ。あれだけベタ惚れだった美風は兎も角、先生までどれだけ夢中なのさ。まあ、理由は分かるけれど、一つしか感想が出て来ない。



「……気持ち悪い。全然理解不能だよ」


 美風がアナスタシア? 本人や周囲がそんな認識をして、中身まで先生の記憶通りになったとしても所詮は別物だろうにね。


「……代用品が模造品になっただけじゃないじゃ」


 窓の外から遠くを見ればドラコクラーケンがバラバラにされていた。こりゃ勇者の到着も後少しか。





「面白そうだし相手をしてあげようか。魔人となった僕と怪物になった彼女でさ」


 勇者がどんな顔をするのか楽しみだね。……アビャクを倒した奴は必ず殺してやる。

アンノウンのコメント  友だちかぁ 僕って友だちが……


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