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その選択に謝意を

久々に感想来ました!

 私は別に戦士じゃないけれど……って、少し前の私ならば思ったのでしょうね。嵐の中、上空から此方を睨む彼女と視線が交わった時、私の体は震えた。こっちは人数も多いし賢者様だって直ぐ側に居るのに向かって来る姿に心臓が普段よりも速く脈打った。


 恐怖による物? いいえ、違うわ。武者震いと高揚感。だって私は戦士だもの。大勢の敵と真正面から戦って打ち勝って来た。だから私は戦士だと自覚する。だって、そうじゃないと今までの苦労も敵の誇りも否定する事になるじゃない。


「……どうしますか? このまま結界で海に弾き落とした後、上から力を加えて溺れさせる事も、アンノウンのパンダビームでキグルミにして無力化する事も可能ですが?」


「地印解放!」


 賢者様ったら冗談がお好きね。私がどうするかなんて、同じ勇者だった人なら分かるのに。だって賢者様も私と同じで戦士じゃなかったのが戦士になったんじゃない。きっと私をからかったのね。ちょっと不満だから返事をせずに飛び出した。ブルースレイヴの反発の力で上へ上へと向かい、私が通る分だけ開けられた結界の穴を潜ってブリューと正面から対峙する。


「私はゲルダ・ネフィル! 貴女を倒して先に進む勇者よ! この三度目で決着ね!」


「……感謝する」


 そのお礼は勝負に乗った事への物なのだろうと思うわ。無表情だった顔に僅かな笑みを浮かべながらブリューは両手の爪を左右から振るう。彼女と戦うのはこれで三度目。


 一回目は彼女の能力に翻弄されてしまった。


 二回目は仲間二人と襲って来て、私が優勢だったけれど途中で野暮な邪魔が入って終わった。


 そして三回目。左右から襲い掛かる爪に対して私はブルースレイヴに魔包剣を発動しての突きで真っ向から迎え撃つ。リーチの差から先に攻撃が届くのは私。でも、切っ先が届く瞬間にブリューは例の能力を発動した。


「私の勝ち……」


 相手の攻撃を極僅かな時間だけ無効化する上に短時間のインターバルを置いて連続使用が可能な接近戦では破格の力。このまま私の一撃はすり抜け、攻撃を放った姿勢から切り替える前にブリューの爪が私に届く。


「いえ、買ったのは私よ。地印……解放!」


 切っ先が触れる寸前、ブルースレイヴは小さな鋏サイズへと変わる。当然ブリューには届かず、能力だけが発動した。左右から迫る爪に対し、私はブルースレイヴと私の間に魔法陣を発動する。反発によって私の手からブルースレイヴは離れ、逆に私は後ろへと飛ばされた。前方に進んでいたのに急に後ろに飛んだから揺さぶられた感じが気持ち悪いかった。


「……魔包剣」


 飛んだブルースレイヴの切っ先が今度こそブリューに触れた瞬間、魔力の刃が纏わりついて腹に突き刺さり、そのまま突き抜けた。空中で力無く腕を垂れさせるブリュー。天印を発動させてブルースレイヴを回収すると彼女は光の粒子になって消えていた。


「……お願い。リリィを倒して……」


 絞り出すような声で弱々しい呟き、そのままブリューは完全に浄化されて消え去る。……ええ、分かっているわ。本当は仲間の筈の貴女にそんな事を言わせるような奴は私が絶対に倒すんだから……。


 魔族は浄化されれば原則として消える。魔王だけは次の魔族に記憶を受け継がせる双だけれど、基本的には終わりだわ。生まれ変わりもしない。でも、もしも神様でさえ知らないだけで転生するのなら、あの仲が良さそうな仲間と再び友達になって欲しい。そんな風に願ったわ……。


「でも先ずは……必ず皆助けて見せる!」


 こうして高く飛び上がれば嵐の向こうに目的地がうっすら見えてた。七割程度完成した大きな城で微かに嵐の中で働かされる人達の姿が見えた。賢者様が居る以上は嫌がらせとしては中途半端な嵐だけれど、こうして巻き添えを受けている人達を見れば挑発としては十分ね。……良いじゃない。その喧嘩、買ったわ。


「絶対に容赦しない。全力で叩き潰してあげる」


 強風に煽られながら落ちる中、私は静かに呟く。右手を船に伸ばせばグレイプニルが私の腕に絡み付き、船へと引き寄せた。


「ったく、無茶しやがって。もう少し安全に戦えよ。着地とか考えてなかっただろが」


 そのまま私をキャッチしたレリックさんは小言を言って来るけれど心外だわ。その場のテンションに身を任せたのは否定しないけれど、ちゃんと倒した後も考えての行動だったのに。


「あら、考えていたわよ? ちゃんとレリックさんが引き戻してくれたじゃない」


「だったら先に言えよ、先に……」


 あれ? 余計に呆れられたわね。所で今の私ってレリックさんにお姫様抱っこをされている状態だけれど何時までしている気なのかしら? さっさと降ろして欲しいし、それにしても……。


「レリックさんにお姫様抱っこされても全然恥ずかしくも嬉しくもないわね。女神様が賢者様にされてるから何か感じると思ったのだけれど」


「嬉しくないのは俺もだ。テメェみたいな餓鬼を抱っこして嬉しい変態と一緒にすんな。俺はロリコンじゃないんだからな。……俺はロリコンじゃないからな、マジで」


「二度も言う辺り、本当に気にしているのね、ロリコン扱いされるのを」


「……同情の眼差しは止めろ。余計に傷付く……」


 私を降ろしながら呟くレリックさんの顔は悲しそうだった。確かに私と一緒に過ごした期間だけでもロリコン扱いを何度もされたもの。ラッキースケベや女性にだらしがないせいで余計に変な目で見られているのね。……そんな風に同情したのだけれど、レリックさんは余計にショックだったみたい。


「男心って難しいわね、アンノウン」


「そりゃ十一歳のゲルちゃんには難しいよ」


「……アンノウンがマトモな事を言ったっ!? 槍でも降るんじゃないのかしら!?」


「いや、僕も偶~には真面目に受け答えするよ、多分きっともしかして」


「自分の事なのに随分とあやふやなのね。……アンノウンらしいけれど」


「だね! ……それはそうと番人っぽいのがお出ましだよ」


 海がせり上がり、その存在は姿を現す。珊瑚みたいに色鮮やかな鱗を持つ海龍。鋭い爪と牙を剥き出しにして、その山脈を思わせる巨躯で私達を見下ろす。うなり声は上げない。威嚇などせず今にでも襲って来る意思を爛々と輝く瞳に宿し、イカを思わせる下半身の触手が森の木々みたいに海から突き出された。


『『ドラゴクラーケン』海に生息するモンスターの頂点に君臨する種族。高い知性と頭だけになってもやがて全身を復元する程の生命力、他の海のモンスターとは隔絶した戦闘力を持ち、神の怒りの具現化だと信仰対象にさえなっている』


 解析で分かったのは僅かな情報。だけれども少しだけの情報でもドラゴクラーケンの強さが伝わって来たわ。恐らくは今まで戦った敵と比べても数段上。更に海上戦となれば苦戦は必死でしょうね……。



「……はっ! 上等だ。やってやるぜ!」


「そうね! 相手にとって不足無しだわ!」


 ちょっとの強がりを込めた啖呵と共に私とレリックさんは構え、相手を迎え撃つ準備を整える。でも、私達やドラゴクラーケンが動くよりも先に女神様が斧を振り上げ船から飛び出していた。


「準備運動には丁度良いな!」


 その斧が振り下ろされた瞬間、嵐が吹き飛んで海が文字通りに割れた。生じた衝撃波は一瞬でドラゴクラーケンを引き裂いて粉々にして海の藻屑に変えてしまったわ。斧の一振りで天候を変え、海を割り、上級魔族すら凌駕するモンスターを粉砕する。これが武を司る女神シルヴィアの力なのね……。



「……なあ。シルヴィア様って力を封印してんじゃなかったのか?」


「神様のする事だから何か不備が有ったんじゃないかしら? それか封印されてあれなのかも」


 唖然とする私達だけれど、とある考えは一致していたわ。もし封印に不備があったとして、その理由が何なのか……。





「「多分イシュリア様の仕業ね(だな)」」



アンノウンのコメント  ボスはあんなモンじゃないよ? 僕のボスだもん


こっちも宜しくお願いします


https://ncode.syosetu.com/n3226go/


伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべくヘッポコ魔法使いと塔を登る



挿絵(By みてみん)


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