賢者がパンダに任せた理由
そもそも、どうしてアンノウンをガンドルさんへの手紙の配達人にするだなんて事になったのか、それを説明するには数日前まで遡らなければならないわ。攫われて来た人達が強制労働させられている砦や城は数多く有るらしいけれど、どうも魔族にとっての本命らしき場所。そこから逃げ出して来たというトゥロさんや小さな子達に話を聞いて、そこから場所を割り出そうとしたのだけれど、ちょっとした問題が起こったの。
「え? 話を聞き出せない?」
「ええ、どうも本命だけあって環境も一層過酷らしく、話の途中でパニック状態に陥ってしまいましてね。私、強制的に言う事を聞かせる洗脳や記憶を無理に読むのは苦手じゃないんですが、トラウマに引っ掛かる事の場合は恐怖が変な風に蘇る可能性が有りまして……」
「確かにそれはちょっと不味いわよね。でも、賢者様には無理でもソリュロ様なら! ……でも、駄目よね。あくまでも勇者一行の行動で功績を稼がないと封印が遅れるし、そうしたら今後も後手後手に回っちゃうわ。……でも、方法は有るのよね?」
「おや、鋭いですね。ええ、私には無理ですが、心を癒す魔法を得意とする知人……いえ、仲間が居るのですよ」
賢者様は何だかんだ言っても私を子供扱いするし、汚い部分を極力見せないように行動しているわ。だから手が無いのなら私に黙って行動したのでしょうけれど、今回はわざわざ話した。つまり少し手間が掛かるけれど方法が有るって事に私は安心する。だって私を守る為に賢者様が重荷を背負ったら意味が無いものね。
「仲間? いや、まさかあの人っすか!? 大聖者ガンドルっすよね!」
「レリックさん、随分と嬉しそうね」
「有ったり前だろ! だってガンドルだぜ、ガンドル! 若者で構成された勇者一行の中で唯一の大人で、仲間の諫め役だったって生きる伝説じゃねぇか。不老長寿ならぬ遅老長寿の理由だって語られてねぇしよ!」
「そ、そう。私はちょっと叱られるシーンが苦手だから読み飛ばしてたし、戦いの描写はどうしても賢者様や女神様が中心だから特に興味は引かれなかったわね」
「はっ! そういう裏方こそ大切なんだよ。まあ、お子様には早い話か」
「そうね。だって私ったら十一歳だもの」
話に入って来たレリックさんはどうもガンドルさんのファンらしいわね。でも、忘れていないかしら? だって初代勇者で二代目以降を導いた賢者様が目の前にいる嫁と娘とペットが関われば即座にポンコツになっちゃう人なのよ?
「常に冷静で心穏やか。正に聖人に相応しい方らしいじゃねぇか。会えると思ったら興奮して来たな。普段は高い山の上の神殿で忙しく働いてるそうだし、大司教の地位に就いてるんだもんな!」
「……そうですね。彼、忙しいんですよね。でも、会わないと駄目かぁ……。いえ、仲間ですし会うのは大いに結構なのですが……ちょっと気が重い。かと言ってシルヴィアを間に挟むのも無理ですしね。彼女、今回の旅ではシルという名の戦士の役柄ですし、それなりの地位の彼に会いに行っても都合を作って貰えるかどうか……」
「……あぁ」
私は賢者様の言葉で察する。レリックさんは未だ慣れていないから首を傾げているけれど、私はそんな彼の背中にそっと手を当てる。
「レリックさん、覚えておいたら良いわ。賢者様達だって人間なの。伝説で脚色された姿じゃなくて、有りの儘の姿を受け入れるべきよ。……そっちの方が楽だもの」
「お、おう……」
「まあ、直ぐに分かるわよ」
正直言って十一歳の女の子が二十にもなる男の人に向かって何を言ってるんだって感じだけれど、まあ、全部賢者様が悪いって事で我慢して貰うしかないわね。
「そうだ! アンノウンに手紙を渡して貰いましょう! そうすれば再会するなり説教だの流れで拳骨になったりとかしないでしょうし」
「え? 賢者様、お説教が嫌だから会いに行きたくなかったの?」
「……いや、だってガンドルの話って長いですし、拳骨だって痛いんですよ。だから間に他のを挟めば会うなり本題に入れるかなと。では、思い立ったが吉日って事で早速アンノウンに渡して貰う手紙を書きますね」
「……そうね」
うん、もしかしたら大聖者ガンドルさんは普通の人かも知れないわ。他の仲間が卑劣王子だったり人とは感覚が違う女神様だったり、私以上に苦労してたでしょうね。……賢者様、怒られたら良いと思うからアンノウンを指名するのは止めないわ。絶対怒られるもの。どんな躾をしているんだって。
「お、おい……」
「止めたら駄目よ、レリックさん」
「でもよ……」
「駄目」
レリックさんは流石に止めるべきと思ったのか私に目配せしたから速攻で首を横に振る。その結果、アンノウンが操るパンダを目にしたガンドルさんは主をアホ認定して、その後に色々あって結局賢者様がガンドルさんに直ぐに会う事になっちゃった。
「も~! マスターったらあんな髭と仲良くしちゃってさ!」
それで再会を祝しての飲み会が始まったのだけれど、お使い先で黒子さんと活躍したらしいアンノウンはご機嫌斜め。今は子猫サイズになって私の膝に乗っているんだけれど、イシュリア様の同類扱いされた事が余程ショックだったのか拗ねちゃってるし、矢っ張り子供なのよね、この子。まあ、気持ちは分かるわ。流石に酷いって女神様までアンノウンを庇っていたし……。
「……女神様ってイシュリア様の実の妹よね? って言うかイシュリア様だって愛と豊穣の女神の筈よね? どうしてこんな事に」
「それ、どっちの意味?」
「立場とか関係を無視してボロクソに言われてる事と、言われても仕方が無い事を女神がやらかしている事の二つよ」
「そっか! にしてもマスターったら、そんなんだから小説のタイトルが『初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる』で主役に予定だったのに、途中から『羊飼いな私が変わった武器を手に勇者として世界を救う物語 ~助けてくれる賢者様も実は勇者だったらしいです~』になってゲルちゃんに主役の座を割と早い段階で奪われるんだよ」
「……いや、そういう事は言わないの」
「投稿サイトによってはタイトル変更無いから? それともメタネタだから?」
「だから止めなさい。……意味は全然分からないけれど、止めろって私の中の何かが言っているのよ」
ええ、本当に分からないわ。それにしても随分と盛り上がってるし、少し寝て待ちましょうか……。
イシュリアのコメント いや、貴女まで酷くないかしら!?
こっちも宜しくお願いします
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伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべくヘッポコ魔法使いと塔を登る




