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大熊猫と黒子の事件簿 ~六美童 密室っぽい殺人事件~ ⑧

ここまで来たら目指せ評価1000! 気合い入れて書きます 感想での応援をお待ちしています! ちょっとだけでも全然違いますので!

 どす黒い電撃が全てを薙ぎ倒しながら突き進む中、私は妹達が一斉に覆い被さる姿を見ながら自我を持った時の事を思い出していた。


 私はリリム。バーバラ・リリム。偉大なる母、レリル・リリスの娘。自分がどの様な存在なのか、目覚める前に既に自覚していた私は同時に自らの美しさを確信していた。私の母は美しいのだろうが、自分は更に美しい至高の美貌の持ち主なのだと。


「初めまして。それともハッピーバースデーかしら? 私の可愛い(リリム)。私がお母様よ」


 その確信はお母様を一目見た瞬間に過信だと知らされた。息を飲む美しさ。同性であり娘である私でさえも情欲を掻き立てられる淫靡さ。この世で最も淫らな美貌の持ち主に私は親子の情と主従の忠義、そして禁断の恋心を抱いた。


「ほら、貴女の妹よ。面倒を見てあげてね、お姉ちゃん」


「はっ!」


「ふふふ。親子ですもの、畏まった言葉遣いは止して欲しいわ」


「は、はい! 分かりました、お母様」


 私の後から生まれた妹達。皆、私と同じくお母様に複雑な禁断の想いを抱いたのは一目で分かった。母の愛を分割し、共に過ごし向けられる意識さえも等分する関係。本来ならば憎いとさえ思うのでしょうが、お母様が愛せと言うのなら愛しましょう。だから全員私の可愛い妹達。何人かが勇者の仲間や英雄候補達に滅せられた時はお母様と共に涙を流した。


「……少し危険なお仕事だし、危なくなったら逃げて良いのよ?」


 お母様が私達に向ける親子の情は本物。だから今回の任務である初代勇者キリュウと共に世界を救った英雄の一人、大司教ガンドルの抹殺を命じる時のお顔は心配で堪らない、そんな感じだったわ。でも、逃げれば直属の上司であるお母様の立場が悪くなる。部下を路傍の石ころとさえ思っていないリリィ・メフィストフェレスなどより下に見られて堪るものか。……この日、私達姉妹は初めてお母様の言葉に逆らう事を決意する。全員一致、一切迷う素振りさえ誰も見せなかった。


 お母様が仲良くしろと言ったから仲良くして愛しただけの相手だったのに、何時の間にか本物の愛に変わっていたのね。恥ずかしくてくすぐったくって少し変な感じで……嬉しかった。お母様の言葉に逆らう事を決めたのが切っ掛けで分かったのに本当に変な感じ。


「皆、決死の覚悟で挑むし、任務を達成するのが前提だけれど……これが終わったら姉妹全員でお茶会でも開きましょう」


 実はこれが自分の意志で姉妹全員でした初めての約束。本当は死んでしまった妹も一緒が良くて、顔を思い出すと胸が締め付けられる。だから私は守り抜く。愛する可愛い妹達を絶対に……。



 私は神には祈らない。姿も声も知らない魔王様にも願わない。でも、叶う事ならば母娘で共に過ごす未来を。少しでも明るい明日を私は掴




「お姉様、本当に良いの?」


「あら、だって丸ごと洗脳で済ませば齟齬が出るもの。多少流れが不自然でも大勢の前で埋葬される必要が有るのよ」


 雲から頭が突き出る程に高い高い山の上、其処に私達の獲物が存在する。詳しい経緯は不明だけれども本来のドワーフの寿命を越えた長寿な上に年齢の割に老けていないらしい。それでもあくまで年齢に対してで、最高神ミリアスを祀る神殿の責任者としても、世界を救った現存する英雄という意味でも人々の希望。……だからこそ消す事には意義がある。


 だから私達は先ずは山の麓の街の住民の精気を少しずつ吸い取り始めた。症状としては寝不足からの慢性的な疲労感程度。夢の中に入り、老若男女問わずに愛してあげて少しずつ少しずつ弱らせて行った。異変を感じ取られない程度にちょっとずつ。そうして疲れから判断力を鈍らせた所で全体に洗脳を使って領主の一族の所に妾と息子として潜入した。


 一人息子は洗脳が効き辛い体質だったけれど、一人だけ認識している事実が違っても奇異な物を見る目で見られるのは彼だけ。後は腹違いの兄達が殺されて行く事件を演出し、不安と猜疑心に付け込んで彼を犯人に仕立て上げ、暴徒となった民衆に殺させる。後は洗脳を解除して元は人気者だった彼を追い詰めて殺した事への絶望によって私達を強化。でも、その後で神殿に殴り込むのには不安があったし、お母様もそれで逃げろと言っていたの。


 だから事件を憂いて慰問に訪れると知った時は好機だと思った。獲物がわざわざ罠に飛び込んでくれるんだもの。暴動をその時に起こさせ、混乱に乗じて不意打ちを行う。……その筈だったのに。


 全部狂った。予定が全部狂わされた。妹達から報告を受けていた詳細は不明だけれど領主の家にとって重要らしい客人。妹達と合流する為に張っていた人払いの結界の中に平然と入り込み、私達は今正に其奴に終わらされようとしている。


 黒い雷は全てを飲み込む。お母様の力で誕生した私達の放った姉妹だからこそ放てる合体魔法も、大切な妹達も、そして私自身も。でも、私は終わってはいない。



「姉さん、逃げて……」


「後はお願い」


「約束破ってごめん。でも、姉ちゃんには……」


 雷が迫った瞬間、妹達は逃げるでも自らを守る為に防ごうとするでもなく、私に覆い被さった。雷に向けた背中にのみ残った魔力を収束させて、自分は一切の防御もなく雷に全身を滅ぼされる。私も意識が飛びそうになる激痛を感じ、それでも意識は手放さない。いいえ、手放す訳には行かなかった。だって、最期に笑いながら後を託した妹達の顔と声を消え去る瞬間まで意識の中に留めなくてはならないから……。


「でも……」


 妹達は死んだ。光の粒子になって死骸すら残らず消えて行く。それが死んだ魔族の宿命。私もまた、長くは保たない状態よ。即死しなかっただけで全身ズタボロ。焼き焦がされ炭化さえしている私には誰も美しさなんて感じてくれないわ。こんな姿、例え失望されないとしてもお母様には見せられない。土煙の中、一分も残っていない余命を理解した私の選択肢は一つだけ……。



「最後くらいは醜く足掻いてやろうじゃない。これは嫌がらせよ。一人でも多く道連れにしてやる」


 これは最後に残された意地。美しくなくなったなら、みっともない最後を迎えてやるわ。でも、僅かな矜持、偉大なるレリル・リリスの娘として、妹達のお姉ちゃんとしての誇りが途切れそうな声が途切れるのを許さない。行動は醜くても、ちょっと位は見栄を張らせて貰うわ。


 僅かに残った魔力を集め、ボロボロの体を浮かせて人通りの多い通りに向かって飛ぶ。既に視界も定まらなくても、曲がりなりにも数年過ごした街。壁にぶつかり、落下しそうになりながらも向かえば洗脳が急に解けて混乱する声が殆ど聞こえない耳に届く。この位置からじゃ精々が三人程度が関の山だけれど……。


「あの世の道行きに付き合って……」


 闇の中に沈んだ視界に一瞬光が届く。この場所、あの光の位置からして光ったのは山頂。神殿がこの位置からでも、今の私でも視認可能な光を放ったと理解した瞬間、私は消え去った。きっと英雄候補なら見えたのでしょうね。今の私には分かる筈もないのだけれど、一本の光の矢が神殿から放たれ、私を貫くと同時に全身を光が包み込むのを。



 常人では認識不可能な僅かな時間の出来事。結局何かを最後に成す事も無く、お母様の願いを破った私はこの世から消え去った。



 ほんの僅かな瞬間、思い浮かべた顔は……。


アンノウンのコメント  まあ、親は大切だよね。ちょっと共感してあげるよ

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