表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

225/251

大熊猫と黒子の事件簿 ~六美童 密室っぽい殺人事件~ ⑥

 僕が屋敷に戻ってアンノウン様に事の経緯を報告しに行くと、どうやら少しは回復したのかパンダが動いていた。でも、本調子には程遠いのか動きがぎこちない。辿々しい動きで僕の腕をよじ登って頭まで移動する姿は可愛らしくもあり、思わず手助けをするのを忘れてしまう。何度か落ちそうになりながらも頭の上に乗った時には一安心したよ。


「じゃあ何をやらかしたのか教えてくれるかい? 取り敢えず何人の小さい女の子のスカートを覗いた?」


 覗いていませんよっ!? 雷の勢いで身を竦ませてしゃがんだ子のスカートの中が見えただけで不可抗力です! 僕は必死に自己弁護をする。アンノウン様はどうも僕を変態扱いしたいみたいだけれど、幾ら恩があってもそうはいかない。僕は小さい女の子が好みなだけで、真っ当で正常なんだから。


 さて、話が逸れたから戻そう。何せ事態が事態だ。僕だけじゃなくアンノウン様の知恵も……アンノウン様のマスターの知恵も借りたい。


「言い直すだなんて酷いね、君。大熊猫流奥義その四・速攻責任転嫁を使ってタラ君への被害の責任を魔族に押し付けたのは評価してあげるけどね。ボーナス査定にプラスしておくよ」


「……」


  ボーナス。その言葉に期待が膨れ上がって同時に不安が過ぎる。去年の冬、僕は二種類のボーナスの中から好きな方を選ぶように言われたんだ。


「片方はそれなりのお金。もう片方は小さくて可愛い女の子達と添い寝する権利だよ。因みに怪我とかさせないなら何をしても良いし……服は着ていない」


 この二つを提示されて後者を選ばない男が居るだろうか? 否! 居る筈が無い! 僕は躊躇無く添い寝の権利を選択したよ。意中の相手はいるけれど相思相愛には未だ遠い。それにこれってアンノウン様の厚意だし、どうせだったらね……。


 そんな風に欲望に負けた日の夜、僕は服を着ていない子猫や子犬に囲まれてベッドに入った。凄く可愛かったから一匹残らず 撫で回したよ。……嘘は言っていない。全部メスだったし、何一つ嘘じゃなかったけれども……。


 あっ、駄目だ。今年のボーナスも不安しか感じない。


「じゃあ、今年のボーナスはお金と可愛い女の子達とのお風呂だけれど、どっちが良い?」


 お金で! ……どうせ犬や猫とお風呂に入るんでしょう?


「違うよ? カピパラだよ? それとハムスター」


「矢っ張り可愛いけれどもっ!?」


 平然と言い切るアンノウン様を目にして疲れが一気に襲い掛かる。今日は早く寝る事にしよう。きっと明日から事態は大きく動くだろうから体を休めないと。僕は黒子衣装のままベッドに倒れ込む。未だ寝るには早い時間だけれど、夕食まで一眠り……。



「君って奴は本当に主人公体質なんだね。こんな厄介で強力な魔法を憶えるだなんてさ。あはははは! どんな厄介事が待ってるんだろうね。世界の存亡に関わったりして! そんな君だから勧誘したんだけどさ」


 ……夢を見た。僕が魔法を得た時の光景を僕の視点で見聞きしているけれど体は動かせない。そのまま僕の口が動き、鑑定の結果をアンノウン様は随分と楽しそうに不吉な事と一緒に言っていた。


「名付けるなら『憤怒の雷(ラースボルト)』。君の怒りによって紅い雷が黒く染まり、威力と操作難易度を格段に上昇させるピーキーな魔法さ! 下手したら自分も周囲も傷付けるから、誰かを守る為の戦いでは慎重に使ってね」


 実際、この怒りが魔法の威力と制御難易度に関係するって性質は本当に厄介だった。時に味方を巻き込んで自己嫌悪に陥り、時に周囲まで壊してしまい建物の崩落に巻き込まれた事も。アンノウン様が珍しく真面目に助言するだけの事はあったと言えるだろうね。今は咄嗟に怒りを抑える特訓をしているけれど、まだまだ足りない。守りたい相手を守る為には全然足りないんだ……。


「……」


 目が覚めたけれど夕食の時間までは少し余裕が有る時間帯だ。未だダメージが残っているのか再び反応が無くなったパンダに視線を向け、ちょっと散歩に行くとメモを書き残して外に出る。雑踏の中を歩く最中に聞こえた噂だとタラマさんが他の兄弟を狙っているだの、ロリコンの黒子が街中に潜んでいるから子供だけで居させては駄目だとかが聞こえて来た。


「……」


 どうやらネームプレートの力によって捜索中の不審者だとは認識されていないらしい。それは一安心だけれど、何処に行っても聞こえて来る噂話が鬱陶しくて不愉快だ。人混みが無くて静かな場所に行きたいと願った僕はとある場所を思い付いた。確かさっきの路地裏に向かう道から行けば近かった筈。来た道を引き返し、途中で親子で歩く可愛い女の子に視線を奪われながらも辿り着いた場所。そこは墓地だ。


「……ふぅ」


 誰も居ない事を確かめて一息付く。その辺の木に背中をもたれ掛からせて周囲を眺めれば静かな風景が広がっている。実の所、僕は墓地の雰囲気が嫌いじゃない。亡くなった人への労りと想い、そして人が確かに生きていたのだという証を感じさせる場所だからだ。この時間帯、夕食前だからか連続密室っぽい見立て殺人が起きているからか墓参りをしている人の姿は一切無く、風が止めば静寂が広がっていた。


 見知らぬ人達に祈りながら墓地を歩く。花やお菓子、玩具とかのお供え物を眺めて歩き、一際立派で大きな墓の前で立ち止まった。墓石に刻まれたのは昨日亡くなったばかりのマヨッツの名前。ファンのお供え物らしき物が積み重ねられて……いや、幾ら何でも早過ぎる。


 葬儀だって行われていないし、父親が戻るまで魔法でも何でも使って死体を保存しておくのが普通じゃないのかっ!? 僕の中で違和感が膨れ上がった瞬間、僕の足元が吹き飛ぶ。咄嗟にバックステップで退避すれば目に入ったのは周囲を巻き込んで吹き飛んだ墓と、棺の中から伸びた細い腕。蓋を内側から外し、立ち上がったのは納められているマヨッツとは似ても似付かない人物、性別すら違う相手だった。


「!?」


「あら、人払いをしたのに誰か居るわね。屋敷の重要なきゃくじんみたいだけれど……始末しましょうか。良いわね、皆?」


 現れたのは露出度の高い服装の女の人。ハイグレっぽい白の衣装にスリットや穴があって殆ど裸と変わらない。そんな彼女は僕を見て不思議そうな顔をした後で殺気を向けて来る。先程まで確かに誰も居なかった場所から向けられた物を合わせて総数は十。


「!?」


 その姿を見た時、僕は驚くしか出来なかった。だって、死んだ筈の人も合わせてタラマさん以外の六美童とその母親が姿を現したのだから。



「彼には私達の魅了が通じないみたいだし、全員で片付けるわよ。老いた英雄の相手をする前の前哨戦。偉大なるお母様の名を汚さぬ為にも全力で行きなさい、私の可愛い妹達っ!」


 マヨッツだった彼女の言葉と共に六美童と母親達は姿を変える。……いや、正体を現したんだ。淫靡な空気を漂わせる美女達へと。


「……」


 成る程、謎は全て解けた。全部彼女達の、魔族の仕業だったんだ。さっき口にした魅了って言葉のお陰で街の人達の異常な言葉の理由が分かった。だから、もう大丈夫。きっと彼女達を倒せば全部解決だ。僕が前哨戦? いやいや、違うさ。僕が君達が最後に戦う相手。前座じゃなくって最終決戦だ!


「!」


 ナイフを抜き、何時でも動ける構えを取る。不思議な程に不安は感じなかった。




 でも、一言言わせて欲しい。……どうして十代前半位の子が居ないのっ!? ……これで魅了が通じないとか言われてもね。それだけが不満だよ。いや、居たら手も足も出ずに魅了されていたかも知れないけどさ……。




アンノウンのコメント  一応謎が解けたから解決編で間違い無い!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ