大熊猫と黒子の事件簿 ~六美童 密室っぽい殺人事件~ ③
ギャグ重視に戻ったらブクマ増えた やっふー!
「お客様、どうぞごゆるりとお寛ぎ下さい」
あっ、はい。何かすみません。いや、本当に騙すみたいと言うか、本当に騙していて……。今、僕の目の前には貴族が食べるようなご馳走が並んでいるし、美女揃いのメイドさん達が甲斐甲斐しく給仕までしてくれていた。僕が今居るのは六美童の父親、つまり街の領主であるグンカー家の本邸で、僕は客人としてご飯を貰っていた。うん、こんな不審者に食事を出すとか普通じゃないよね。そうなんだけれど、僕の隣でテーブルの上に立ってスープを一気飲みしているパンダが普通じゃないからさ。……パンダなのに笹を食べないんだ。
「だってヌイグルミだし、本物のパンダじゃないんだから食べないよ。笹ってエネルギー効率が悪いって前に言わなかった?」
そう言われれば前に言われた気もする。アンノウン様と一緒に居ると驚きの連続だから豆知識的な事は印象に残らずに消えてしまうんだ。今こうやって豪華な食事を食べられているのもその一環。理由は胸に付けたネームプレートだった。
他の人のキグルミをそうである様に僕の黒子衣装も装着したまま飲み食いが出来る。偶に布の隙間からフォークやコップを口に運ぶけれど、本来は顔を隠す布を通り抜けて一切汚さないんだ。……偶に臭いのキツい物が付着して中で悪臭が充満するってキグルミの一人がこぼしていたけれど、豆知識的な事だから忘れちゃったよ。
僕がこんな状況になる少し前、新たな犠牲者が出た事でオットロは街中随分と騒がしくなっていた。今度の犠牲者は緑の屋根の屋敷に住む五男のナットゥ。聞いた話じゃ最初の被害者のマヨッツは少し影がある感じで、ナットゥは少し子供っぽくて年上に甘えるのが好きな……何と言うかあざとい感じだったらしい。
「何か死んだ子の悪口を言ってる人がチラホラ居るよね。六美童のそれぞれにファンクラブみたいなのが有るけれど、ファン同士の対立とか面倒だよ。その点パンダは圧倒的だけどさ」
人によってはライオンや象の方が好きだと思うけれど口にはしない。どうせ心を読まれているから伝わっているだろうけれど。僕は今、床下に隠された地下通路から部屋の様子を伺っている。部屋の換気口に繋がった管から中の会話を聞き、マジックミラーになった鏡の裏に仕込まれた幾つもの鏡を経由して地下通路の鏡に部屋の様子が映し出されるのを見ている。
「合わせ鏡って不吉らしいよね。まあ、死者の魂は死神のディスハちゃん達が管理しているし、悪魔ってモロに魔族だけどさ。そんな事よりもカレーが食べたい」
確かに僕もお腹が減って来た。元の世界では塔の探索をしている時に携帯食を持参していたけれど、今は持っていないし、逃げる為に走り回ったから尚更だ。
「詳しい設定は『この黒子は変態ですか? いいえ、変態紳士です』を参照してね」
……相変わらず意味が不明な発言をする方だな。だけれど僕は知っている。アンノウン様は僕が想像もしない事を知っているって。ああ、それにしても意味不明と言えば被害者の死に方だ。
一人目の長男タラマは縛られた上で毒虫に噛まれて死んでいたらしい。二人目のナットゥは部屋に本来置いていなかった猫足のバスタブの中で溺れ死んだとか。口の中に薬が残っていなければ事故死と判断されていたかも。ただ、事件の両方で壁に数字が刻まれていなければ二件目は詳しく調べられずに終わっていただろうから犯人が意図して残した可能性も有るけれど……。
「……」
正直言って回りくどい。犯人はどうして今回みたいな殺し方をしたのだろう。特に二件目は事故に見せかけられたのに犯行声明らしい数字まで残して。グンカー家に何か因縁があって、どれを示唆しているとか? 悩んでも僕には分からない。結局、僕は考えるよりも動く方が得意らしい。なら、すべき事は一つだけだ。
「行くの?」
はい!
「そっか。小さな女の子の着替えを覗きに行くんだね」
は……違いますよ? 流れで何を言っているんですかっ!? ああ、本当にお腹が減って来た。黒子衣装を脱いで何処かのお店に入ろうかと思ったけれど、今の僕は一文無しだ。
空腹は強く意識した事で増して行く。押さえたお腹がグーグー鳴って胃が少し痛くなった。ただ、普通に胃痛の可能性も有るけれど。
「……仕方無いなあ。一応温存しておいた力を使ってあげるよ。その代わり、戦いになったらパンダビームれないからね?」
そんな風に言いながら差し出して来たネームプレートを受け取る。プレートにはこう書かれていたんだ。
グンカー家の超絶大切で重要なお客様(名称不明)、ってね。こんなので通じるのかなぁ……。
「こ、これはようこそいらっしゃいました! 何処の何方かは分かりませんが、重要なお客様を精一杯おもてなしさせて頂きます!」
通じちゃったっ!? そして洗脳が雑っ!? ……まあ、別に良いや。アンノウン様と一緒に居れば何時もの事だものね。そんな事よりもお腹が減ったよ。
「こうして今に至るんだけれど、この屋敷の中も殺伐としているよね。本妻が住む屋敷内でさえ派閥に分かれた使用人達が居るんだから」
……そう。六人それぞれにファンが居るのは別に構わない。言うなれば、どの息子を跡継ぎに据えるべきかって派閥みたいな物だから。でも、その争いが本当に政戦になりつつあるんだ。殺された二人のファンは四人の誰かが犯人だと騒ぎ、生きている四人の周囲も隙あらば罪を被せたいと狙っている。……魅力的な若君達に熱狂しているだけの筈がどうしてこうなったんだろう?
「どうぞこの部屋でお寛ぎ下さいませ。では、何か用が有れば此方のベルを」
食事の後、大切な客人だけれど詳細は一切不明な僕に屋敷の主人一家が会いに来る事は無く、そのまま客間に通された。二人どころか五人が寝転がっても余裕の有るベッドの他にも高価そうな調度品が並んでいる。……アンノウン様が暴れないようにしないと!
うん、流石に洗脳っぽい事をしてお世話になったのに、屋敷の物を壊したら申し訳無いよね。何とか宥め賺して大人しくさせようとしたんだけれど、既にベッドに飛び込んで跳ね回っていた。……遅かったな。
パンダが跳ねる度にベッドは有り得ないレベルで表面が陥没して、更に天井にぶつかってベッドにダイブしているから天井も酷い有様だ。アンノウン様、いい加減にして下さいよ。……先に言いますけれど、いい加減な態度でダイブしろって意味じゃ無いですからね? 言っておかないと絶対そうするので言わせて貰います。
「やっふー! フカフカなベッドだーい! ……まあ、普段使ってるベッドやこのパンダの方が数倍フカフカなんだけれどね」
もう修復が不可能なレベルまでベッドを破壊した後で漸くアンノウン様は僕の頭の上にパンダをよじ登らせ、一枚の紙を差し出した。
「実はこの街には歌が有るんだけれど……見立て殺人って知ってるかい?」
「!」
当然知っている。歌に準えて事件が起きて行くって奴だ。密室っぽい殺人なんかじゃ盛り上がりに欠けるけれど、これは不謹慎ながらワクワクして来たぞ。僕は紙を手に取って書かれた歌詞に目をやった。
『恋はメロリン、あなたの眼差しシューティングソーダ 私のハートはメロリンパッフェ とろけとろけてチョコフォンデュ
とまらない このDO☆KI☆DO☆KI 届けたい このTO☆KI☆ME☆KI(繰り返し)
だけど嫌な予感が落雷エクレア パリパリ弾けて お口でとろける 蕩けちゃう
恋を阻む障害はポポロン投げつけて追い払うの 恋のライバルはスパイス 刺激が涙をさそうの
豆板醤にキムチに塩辛 嫌いなあの子は胃痛にな~れ
私の愛はスーパー激甘 砂糖にクリーム、餡子にハチミツ。恋の痛みは歯に響く
恋はメロリン、あなたの眼差しシューティングソーダ 私のハートはメロリンパッフェ とろけとろけてチョコフォンデュ』
「あっ、間違っちゃった。こっちはグレちゃんの黒歴史ポエム『メロリンパッフェ』の全文だった。ほら、君が一部しか知らないのに思わず吹き出した奴だよ」
……これ、僕がグレー兎さんに狙われる奴じゃないのかな?
アンノウンのコメント 黒子君がメインの塔探求? まあ、需要次第かな 後思いつき
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