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大熊猫と黒子の事件簿 ~六美童 密室っぽい殺人事件~  ②

「居たかっ!?」


「いや、何処かに隠れたみたいだ。あの黒子衣装を脱がれたら見付けられないぞ。糞っ! マヨッツ様が何者かに殺されたのに少女を狙う不審者まで……」


 あれから何とか包囲網を脱出した僕とアンノウン様は街の人達から隠れていたんだけれど、領主の息子が殺されたからか警戒が生半可じゃない。今はアンノウン様の提案で被害者が殺された場所である屋敷の橙色の屋根の上に布を被って隠れていた。言われるがままに屋根に飛び移り、パンダの口から出した布を被って聞き耳を立てているけれど、どうやら僕が犯人だとは思われていないらしい。


「あの黒子が犯人じゃ……いや、あんな変質者丸出しの姿で街を出歩く奴な筈がないか」


「舞台の上なら兎も角、街中でアレはヤバいだろ。あんなのに密室殺人事件なんて起こせるかよ」


 ……どうやら複雑なトリックを使って密室を作り出した知能犯と変質者である僕を結びつけはしないので安心だけれど、傷付くなぁ……。いや、性的嗜好が普通ではないとは理解しているけれど、街中でパンダのヌイグルミを乗せたフラミンゴを連れた黒子な上に幼い女の子が好みってだけで変質者扱いをされるだなんて、されるよね! 僕だって逆の立場だったらしていた。その事に気が付くと途端に落ち込んで、布が少し湿っている上にお昼に食べたニラレバの臭いがする気がして来た。


 えっと、ヌイグルミの口から出したんだし、本物の口の中から出したんじゃないから変だよね? うん、気のせいだ。絶対気のせいに決まっている。現実逃避で自分を落ち着かせる僕だけれど、流石に貴族の長男が殺されたと有っては面子にも関わるのか結構な兵士の姿を見かけるし、これからどう動くべきか困ってしまう。


「ねぇ、黒子君。今回は僕のせいでゴメンね」


 ……え? 今、アンノウン様が謝ったっ!? 絶対に有り得ない筈の事態に僕は混乱を来す。だって僕の知るアンノウン様だったら兎に角遊ぶ事と悪戯が大好きで、謝る時も誠意が見られない。でも、僕の目の前のアンノウン様はしおらしい声で謝っていて、意気消沈しているのは間違い無い。まさか偽物かとも思ったけれど、これまで行った無茶苦茶な行動は僕が知るアンノウン様と同じで……いや、違う。


 この世界とは全く違う世界、それも未来で少し前の僕と出会ったのは今の幼いアンノウン様じゃないんだ。パンダ型の建物から伸びた舌に絡め取られてアンノウン様の下で働き、この黒子衣装の姿をした高性能な装備を貰って運命の相手とも出会った僕。でも、僕を狙ったのは偶然目に付いたから選んだんじゃなくて、幼い頃から知っていたんだな。……正直、卵が先か鶏が先かの問題に発展しそうだけれど、僕の目の前に居るのが幼い子供だって忘れてはいけない。悪戯だってするけれど、ちゃんと自分から謝れる子なんだ。……これがどうしてああなったんだろう?



「いやさ、地の文を読むってネタの為に君に視点を任せたけれど、読者からすれば此奴の設定必要なのかってレベルの立ち位置だし、ちょっと悪かったかなって。無理させちゃってゴメンよ」


 あっ、はい。アンノウン様は昔からアンノウン様でしたね。幼い心が歪む何か壮絶な過去が有ったとかでなくて良かったです。


「僕だって異世界に色々行くらしいし、未来の事は未来の僕から殆ど聞かされてないけれど、多分友達を失ったり世界を創造して神みたいに扱われたりするとは匂わしてたよ? まあ、ゲルちゃんが主人公の物語には一切関係無いんだけどね。そんな事よりも屋敷に入ろうか。今は事件現場に誰も居ないし、君の右手の辺りの屋根が外れて現場の屋根裏に入れる隠し窓になっているからさ」


 密室殺人じゃなかったのっ!? 


「え? いや、転移魔法はマスターは当然として人間の中でも上位の魔法使いじゃなければ使えないから、外から入れない部屋で起きた事件を密室殺人だと思われたんだろうけどさ。因みに家人でさえ知らない隠し通路が衣装鏡を外せば出入りが出来て、壁の四隅を叩けば扉の横の壁のどんでん返しのロックが解除されるよ。外から叩けば再びロックが可能なのさ」


 本当に密室殺人でもなくて、普通の殺人事件だったのか。実は不謹慎だとは思っても推理小説みたいな展開にワクワクしていた僕が居た。同時に現実で人が死んでいるのにって自己嫌悪する僕も……。


「?」


 あれ? アンノウン様が知っているのは今更だし、どうせ魔法なり、鳥トンさん達が既に古い資料でも漁って調べたんだろうけれど、犯人が知っていたのは何故なんだろう? 僕は屋根を外して屋根裏に入りながらそれを気にする。埃が溜まっているし、少なくても此処から出入りはしていないと判断した僕は手に持った布に目をやる。橙色の屋根の上で身を隠すのに使った布は蛍光ピンクのパンダ柄だった。どうして発見されなかったのか、そんなのアンノウン様だからに決まっているよね……。



「着眼点が良いよね、君は。その通り、犯人は予め知っていたんだよ、密室っぽい殺人事件に使用した隠し通路とかの事を! そして多分これからも起きるだろうね。密室っぽい殺人事件がさ!」


 ……っぽい殺人事件。いや、駄目だ。人が死んでいるんだし、貴族の子息が殺されただなんて大勢の人に影響が出る。気を抜いちゃ駄目なんだ、力が抜けるけれども。アンノウン様が事件が今後も起きるって口にする根拠は分からない。けれど、何だかんだ言ってもアンノウン様は身内には優しい。胃には優しくないけれど。


「まあ、ちょっとしたヒントをあげようか。実は屋敷は随分と昔に建築された物で、二代目勇者が当時の領主に泊めて貰った時にも使われたんだ。じゃあ、これ以上長男に何か起きない為にも頑張って、お手紙をガンダス君に受け取って貰えるようにしようか! ……所でガンダス君のあだ名って何が良いと思う?」


 さあ、僕は人をあだ名で呼ばないから分かりません。……分からないと言えば別にキグルミの誰かに普通の格好で手紙を届けて貰えば良かったんじゃ? ……それにしても長男にこれ以上、か。全く知らない人の死んだ後の心配をするだなんてアンノウン様は優しいな。


 僕がそんな風に感心する中、パンダから聞こえたのは少し困った様子のアンノウン様の声だった。





「いや、それが今は他の子を動かせないんだ。ボスからのお仕置きがダメージを残してて、パンダを動かす為のエネルギーだってギリギリだし、さっきビームを撃ったから相当拙い。今回は僕の支援は気にしないで」


 あっ、成る程。グレー兎さんに知られたら今がチャンス、殺るなら今ってなりそうですね。鳥トンさんとか絶対嬉々として知らせるし、他のキグルミさん達の洗脳にもそれなりの力が必要だったっけ?


「?」


 それにしても何かが変だ。今のアンノウン様にはハッキリとはしないけれど違和感があった。






「また六美童が殺されたぞー!」


 そして事件は加速する。聞こえで来たのは今から起きる大きな事件の前触れだった……。


 


アンノウンのコメント  お尻が割れたよ、幾つにも……

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