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山羊と大熊猫の嘆き

十一章開幕! 応援お待ちしています  感想もとむ!


1069000 が前回までのおおよそ 次の章になるのは117000位かな?

「……これは何と言えば良いのやら」


 薄暗く広い部屋の中、未だに体の大部分が炭化した状態のリリィを乗せた人力車を引くビリワックは巨大な球体の前で冷や汗を流す。薄紫色で表面がイボイボした球体は時折怪しく光り、内部でうずくまった少女の影が透けて見える。


 発せられるのは並みの上級魔族を超越した力。心臓と同じく脈動する球体に触れながらビリワックは主に視線を送る。何を言うか、そして自分が何をさせられるのか既に察していた。


「素晴らしいだろ? 今まで魔族で何度か試したけれど、最終的に人間を使うのが一番だったよ。もうさ……私の配下に中級と下級は必要無いし、任務を受けていない待機中のは処分して来てくれたまえ。文句は無いよね?」


「……主の(メェ)とあらば異論等有りません」


 そんな彼の内心を察してかリリィは無事な方の手を口元に当てながら微笑む。幼いながらも美しい顔に浮かべた笑みは蠱惑的で、ビリワックの苦悩も見抜いているのだろう。異議を悟られぬ為に背中を向けて歯を食いしばる彼の背に向ける瞳は楽しそうだった。


「おや、何か言いたい事が有るのなら言いたまえ。私と君の仲だろう」


「い、いえっ! 本当に何も有りませんので後ほど全員処分しておきます。……そ、それよりもアビャクが何者かに殺されたらしいですが一体何者でしょうか。試作品とはいえ、かなりの強さだった筈ですが……」


「ああ、どうせ神か賢者かにでも処分されたんじゃないかい。どうでも良いよ。そんな事よりもネルガル君が早く完成しないかが楽しみだね。……あの言葉を言って貰えれば彼は私の物になる。ふふふ、先ずは幻影で誤魔化さなくても良いように体を治さないと」


「では、リリィ様が療養に専念出来るように仕事は引き続き私にお任せ下さい」


 可憐な容姿とは裏腹に醜悪で残酷な一面を隠しもしないリリィは打って変わって恋する乙女と妖艶さが入り混じった顔となる。その言葉にビリワックは安堵の溜め息を内心で吐いていた。リリィを今まで以上に仕事から遠ざければ見えて来る希望は有る。夜闇の中に僅かに光るか弱い残り火だが、それでも彼は縋り付いた。


(今なら書類を誤魔化し、緊急の指示を下せば犠牲は最小限で済む。それでも同胞を殺さねばならいけれど……せめて苦しめる事無く安らかに……)


 歴代で最もん同族から恐れられ嫌悪されるリリィ・メフィストフェレスの部下として動いて来たビリワック・ゴートマン。彼もまた嫌悪の対象だが、リリィはその苦悩を知っている。それが彼女の娯楽だと知っているが故にビリワックは従うのだ。自らの苦悩を楽しんでいる内は最後の一線を越えないからと。



「ああ、仕事を丸投げする前に最後のチェックだけしておくよ。今直ぐ書類を持って来てくれるかい。なるべく急いでね」


「……御意」


 リリィは笑う。この世の全てを嘲笑う。絶望を振りまき、僅かな希望でさえも楽しげに掛け消す。それは敵味方を問わずに……。




「……うーん。まさかマスターからの手紙を受け取る以前に誰からの手紙かすら聞いて貰えないだなんてどうしてだろう?」


 此処はブリエルで最も標高が高いオットロ山の麓にあるオットロという街。雲を突き抜けるオットロ山の麓にあって、山頂近くに建てられたオットロ神殿の出張所みたいなのが有るんだけれど、そういうのってなんて言うんだろう?


 まあ、そんな事は放っておいて、今重要なのは珍しく落ち込んだ様子でうなだれるアンノウン様……が操るパンダのヌイグルミ。何故かフラミンゴの背中に乗っているんだけれど、そのフラミンゴはさっきから僕の足を執拗に踏み続けていたんだ。パンダを乗せたフラミンゴを連れた黒子だなんて街の人達の注目の的だろうけれど遠巻きに警戒されるだけで興味を引かれた子供が近付く事すらない。


「こらっ! 近寄ったら駄目ですよ、お嬢様!」


 あっ、僕の好みの十歳前の女の子が近寄ろうとしたけれど使用人らしいお婆さんに叱られて止められちゃった。……ちぇ。ちょっと遊んだりしてあげるだけで変な事はしないのに。僕は精々お馬さんになったり肩車をしてあげて太股に挟まれたいだけ……どうやら邪念に飲まれていたらしい。首を左右に振って邪念を追い出していると今度はフラミンゴが踏む足を右足から左足に変更して来た。もう右足が麻痺して来たから別に良いんだけれど、アンノウン様は何で落ち込んでいるんだろう? ……それと僕を呼びだした理由を知りたい。


「……」


 だけれど僕は黒子、演劇において裏方に徹し、存在しない者として扱われるから喋らない。いや、喋っちゃいけない。もし喋ってしまった場合恐ろしい罰を受けるんだ。


 餃子、焼き肉、キムチ鍋。青椒肉絲に麻婆豆腐。こんな風にお米が美味しく感じるオカズをお米無しで食べなくちゃいけない。パンは可だけれど、パンじゃないんだ、パンじゃ。今日で罰は最後。皆がカツ丼を食べる中、僕だけカツの卵綴じを食べる。想像しただけでゾッとするし、だから僕じゃ喋らない。だけど、普段からお世話になっている(胃痛の種にもなっている)アンノウン様の悩みだし、今のアンノウン様は僕が知るアンノウン様の幼い頃。だから気になるんだけれど喋れない。


「マスターが言うには急に頭の中に語りかけるのは悪いし、だからといってアポを取らずに訪問するのも悪いから手紙を出すんだけれど、手紙だけ転移させるのも気が咎めるから僕が持って行く事になったんだ。ほら、僕の本体って怖いじゃない? それで威圧感の無い姿で届けに行くにしても少しは格好付けなくちゃマスターに悪い気がしてさ」


「……」


 成る程、と思う。僕が知っているアンノウン様はその場のノリだけで面白可笑しく過ごす傍迷惑なのに凄い力を持った方だけれど、幼い頃は随分と考えて行動していたらしい。つまりは今後あんなのになって行くし、今も大概と言えば大概だけれど。


「だからパンダを操ってフラミンゴに乗って行ったのにアホを見る目で見て来るし、その場のノリで考えたショートコント1000連発をやったのに和んでくれずに追い返されたんだよ。酷いよね!」


「……」


 酷いのはアンノウン様の発想だと思うけれど喋れないのでツッコミを入れられない。ボケに反応出来ないのが此処までもどかしいだなんて僕は今まで知らなかった……。





「だから街で起きた殺人事件を解決して手柄を手土産にもう一度行くよ! あっ、それと地の文を読むから喋らなくても伝わるから!」


 そこはせめて心を読むと言って欲しかった。どうやらアンノウン様は既に僕の知っているアンノウン様らしい……。

アンノウンのコメント  僕が主役だ ちょっとだけ!

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