失言連発 主にパンダが
前回修正!
「……ねぇ、ふと思ったのですけれど賢者様だって二十代前半の見た目なのにオジさん呼ばわりされていましたよね。あの位の子だったら普通なのかしら?」
洞窟に向かう途中、ちょっと疑問に思った事を口にする。だって私が小さい子達と同じ年齢の時は、賢者様やレリックさんと同じ年頃の人をオジさんオバさん呼ばわりしなかったもの。特に気にせずに口をついて出たその言葉、だけれどレリックさんは何故かショックを受けていたわ。
「えっと、レリックさんも二十だし、オジさん扱いの方が……?」
「するな! 絶対すんな! 俺は未だ若い! 数年経とうがお兄さんのままだ!」
「あっ、そっちだったのね」
大人扱いして貰いたかったとか、そっちだと思ったのだけれど逆だったのね。二十歳でオジさん扱い……私もたった九年後にオバさん呼ばわりされたらショックよね。……どうも今日はレリックさんに失礼な事ばかり言っているわ。
「あの、レリックさん。さっきの事もだけれど、傷付ける事ばかり言ってごめんなさいね。悪気は無いのよ」
「わーってるよ。テメェがそんな奴じゃないって事はな。それに年齢は兎も角、餓鬼への対応は俺が悪かったんだから謝るな。あの時はあれで正解だし、互いに苦手な事を補えば良い。それがかぞ……仲間ってもんだ」
私の謝罪にレリックさんは気にしなくても良いと言う代わりに頭をガシガシと乱暴に撫でて来た。頭がガクガク動かされるし、照れ隠しにしても少しは手加減して欲しいわ。……所で仲間って言い損ねて、かぞ、とか言い掛けたけれど、家族とでも言い間違えそうになったのかしら?
家族と仲間じゃ全然違うけれど、仲間を家族みたいだって思っていたなら間違うかしら? 前も私にお兄ちゃんと演技で呼ばれた時に嬉しそうだったし。レリックさんが家族なら間違い無くお兄ちゃんだけれど……。
「少し楽しそうね。色々と大変そうでもあるけれど」
「急にどうしたんだ?」
「いえ、気にしないで。レリックさんが本当のお兄ちゃんで一緒に暮らしていたら楽しそうだって思っただけよ」
「……そうか。お前はそう思うのか」
「あら? レリックさん?」
思ったよりもシリアスな反応ね。くだらねぇ、とか照れ隠しに言うとか程度かと思ったのだけれど、一体どうしたのかしら? ……もしかして実の妹に嫌われていたりするのだったら悪い事を言ったわ。でも、確かめるのは正解でも不正解でも無理ね。……この空気、どうしましょう。
「「……」」
互いにそれ以上は何を喋って良いのか分からないけれど沈黙が重いから何か話したい。でも、互いの言葉が被ったら余計に空気が重くなって話辛くなりそうだし。
「ねぇ、マスター。マスターはオジさん呼ばわり大丈夫? ショックだったらパンダビーム乱射でキグルミを量産しちゃうよ」
矢張りこんな時こそアンノウンよね。何故か気まずい空気が流れたとしても一切読まずに陽気に喋る。流石はくうきよめないじゃなくて、空気を察した上で全力で読まない自称マスコット。嫌な空気が消え去ったわ。
「あはは……。私、三百越えている上に成人した子持ちですよ? 今更オジさんと呼ばれても気にしませんって。それと小さい子達に悪戯したら駄目ですからね」
「はーい」
あくまでも穏やかに言い聞かせる賢者様は大人よね。実際、人の感覚で長い時間を生きているのだもの。偶に変な一面を覗かせるけれど、基本的には立派な方だわ。
「……まあ、シルヴィアをオバさん呼ばわりされたら少しは怒るでしょうね」
あっ、この声は本気ね。あの子達、本当に運が良かったわ。……所で賢者様ったら気が付いているのかしら? 二十代前半で見た目が止まっている自分がオジさん呼ばわりされる事を否定していないって。レリックさんは二十だし、未だ気付いていないなら大丈夫ね。ほら、ログハウスの屋根が木の隙間から見えて来たし、もう年齢に関わる話題は誰もしないでしょう。
「ねぇ、レリッ君はマスターが不老不死になったのが二十二、三歳位だって知ってたっけ?」
だけれど、口にするわよね。アンノウンだったら口にするに決まっているわよね。今しか言うタイミングがないもの。レリックさんは未だ気が付いていないのか普通に考えているわ。今からどんな目に遭うか予想もしないで。
此処で止めても不自然だし、もう遅いわね。
「まあ、初代勇者が魔王を倒したのがその位だって本に乗ってるからな。不老不死になったのも世界を救った後なんだろ? 少しは興味有るけど面倒そうだぜ。大体、不老不死目当てに勇者に群がって神に媚び売ろうって連中が出ない為に正体だって隠して行動してるんだろ? 俺には無理だな」
「うん、そうだね。所でマスターは自分がオジさん呼ばわりされる見た目年齢だって事を否定しなかったけれど、レリッ君が今のマスターと同じ位の年齢になるまで三年かぁ」
「……おい、ゲルダ。世界を救ったら神様達から若返りの魔法とか教えて貰えると思うか?」
あっ、気が付いちゃった。遠い目で空を見ながらの呟き。小さな子供の悪意無い一言が此処までの事になるだなんて。
「不老不死と同じ理由で駄目じゃないかしら? まあ、分からないけれど」
賢者様じゃなくて私に質問する時点で答えをあやふやなままにしていたいのでしょうね。未だ二十歳なのにオジさん呼びを気にしなくちゃいけないなんて……。将来早い内に……いいえ、これ以上は駄目よ。
「レリッ君って悩み過ぎだし、将来若い内に禿げそうだよね!」
……言うと思ったわ。寧ろアンノウンへのストレスの影響が大きそうね……。
「ま、まあ、禿程度だったら賢者様なら簡単に……」
「俺が禿げる前提で話すのは勘弁してくれや……」
私ったら思わず失礼な事を言っちゃたわね。今日は本当に反省しなくちゃ……っ!? 一歩前に踏み出した瞬間、濃厚な血の香りが漂って来た。ほんの一歩前までは何も感じなかったのに、今は腐った大人数の血が入った風呂桶に顔を近付けたみたいな濃厚な香りが手で鼻を塞いでも隙間から入って来て気持ちが悪い……。
「……これを使っとけ」
「え?」
レリックさんも元々普通の人より鼻が利くらしい上に儀式を受けた事で嗅覚が上がっているから顔色が少し悪かったけれど、彼から受け取った布を顔に巻いた私は平気になった。この布の力かしら?
「あの、レリックさんの分は……」
「俺は平気だ。寧ろ半分狼の獣人が混じってるテメェの方がヤベェだろが。餓鬼なんだから無理せずに使っとけ」
気分が悪そうにしながらもレリックさんは先に進んで行く。……今日は失礼な事ばっかり言ったのに。本当にお兄ちゃんみたいだわ。
「ねぇ、マスター。僕がこの血の香りをどうにかした方が良いよね? って言うかどうにかする! 臭いもん!」
……いや、さっさとしなさいよ。レリックさんが何だか居たたまれないって顔しているじゃないの!
アンノウンのコメント 僕? 何時もの事だよね!




